206 / 488
第三章 第三部 政争の裏側
20 正体
しおりを挟む
「ミーヤ様……」
「ごめんなさい」
困ったような顔のアーダに、ミーヤはただそう言って頭を下げる。
侍女は嘘をつくことを禁じられている。そのことはもちろんアーダも理解している。
「ミーヤ様、分かりました、頭を上げてください」
「ごめんなさい」
アーダの言葉にミーヤはただその言葉を繰り返すだけだ。
思えば八年前、マユリアやキリエも同じような気持ちだったのだろう。
「きっとあの時もみなさん、こういう感じだったんだろうなあ」
ミーヤと同じことをダルも感じたのだろう。
「言えないことがいっぱいあるんだ、でも言えることもあると思う。この中で当時のことを知っているのは俺とミーヤだけだろ? でもミーヤは侍女で、言えないこともたくさんあるから、だから、俺が知ってて言えることはできるだけ2人に伝えるよ。それでいいかな」
ダルの精一杯の誠意だ。
「まず、アーダさんが言った通り、エリス様は男性だよ」
「ダル隊長はエリス様をご存知なのですか?」
「うん、ごめんね、知ってる。俺だけじゃなくてリルも知ってる。あちらも俺とリルのことをよく知ってる」
「そうなのですね」
「うん」
「すまない、俺も知ってる」
ディレンもハリオの方を向いて言う。
「俺はずっと以前に会ったことがあってな、それで船に乗る時にその人じゃないかとは思っていたが、ずっと女だと思ってた。船の上で初めて男だと知って驚いた」
「以前にって、そんな前から知ってたんですか?」
「ああ」
ハリオの質問にディレンが答える。
「何年前かは今ちょっと言えないんだが、あいつが、トーヤが一緒にいるところに会ってな、その時はチラッと見ただけだったんだが、ああやって素性を隠してるのを見て、おそらくその人だろうなと思ってた」
「そうだったんですか」
「けどな、なかなかそれを認めやがらなかったんだよ、トーヤのやつが。それでちょっとばかり話がこじれてな、もうちょっとでアランに殺されるところだった」
「ええっ!」
ディレンがふざけたように言う内容にハリオが声を上げ、アーダも思わず息を飲む。
「まあ、その時にエリス様が自分から正体を明かしてくれたもんで、そんで事なきを得て、こいつらに協力することにしたんだ」
「あの」
アーダがディレンに話しかける。
「トーヤ様とベル、それからエリス様と一緒にまだ何名かいらっしゃいましたよね、その方たちのこともご存知なのでしょうか?」
「ああ、あの人たちのことは俺は知らんな」
「俺も知らないです」
「えっと……」
ダルがどう言ったものかと少し考えていると、
「私はよく知る方たちです」
とミーヤが言い、
「でもどこの方か、それは言ってもいいのかどうかまだ分かりません。ですからこれ以上のことは言えません」
と、続けた。
「ダルさんも知ってる方たちなんですか?」
「うん、ああ、まあ一応」
ハリオの質問にダルがちょっと歯切れ悪くそう言うが、ハリオもアーダもそれはミーヤと同じ理由であろうと思ってくれたようだった。
「ミーヤさんがご存知、ということは、この国の人、ということになりますよね」
「はい」
続けてミーヤがそう答えた。
「じゃあ、トーヤさんたちが今どこにいるか、ミーヤさんやダルさんはもう分かってるってことですか?」
「はい」
「よかった」
ハリオがほおっと息をついたので、ミーヤもダルも少し驚いた。
「いや、俺も船の中からずっと一緒させてもらってた方たちですからね、どこにいるか分かってるなら、そんでいいです。元気でいるなら。ホッとしました」
「あの、私もです」
アーダも続ける
「あの方たちは今は安心なところにいる、そう思っていいのですよね?」
「うん、それは保証するよ」
ダルがにこやかに答え、アーダが心底からホッとした顔になった。
「ベルとはお友達になったと思っています。きっと、ずっと私を騙していると思って心苦しく思っていたのでしょうね」
アーダが目を閉じ、胸の前で手を組んで柔らかな表情になった。
「あの、それは本当にすみませんでした」
アランがそう言って申し訳なさそうに頭を下げた。
「それは、本当に言ってました。自分がアーダさんを騙していることがつらい、利用しているのがつらいって。それ、分かってくれて俺はうれしいです」
「そんなこと、ベルだって決して私を苦しめよう、そう思ってやったことではないでしょうに……」
アランはアーダの気遣いがうれしかった。
「あの、うれしいです」
素直にその気持ちを告げる。
「あいつ、俺たちと一緒にずっと戦場暮らししてたもんで、そんで、友達っていなくて、だから、アーダさんと親しくなれたこと、本当に喜んでました。そんで、それだけにもうつらくてたまらない、そう言ったらトーヤがあいつに言ったんです」
アーダが黙ってアランの言葉を聞く。
「トーヤがベルに、素性を嘘ついてるなら全部嘘か、おまえがアーダさんと仲良くなりたいって気持ちまで嘘じゃないだろう、だったら本気で仲良くすりゃいいじゃねえか、そう言ったもんで、あいつ、やっと気持ちを落ち着かせてアーダさんと色々話せてたんです。本当にすみません、嘘ついてて。だけど、あいつの気持ちだけはどうか分かってやってください」
そう言ってアランはもう一度アーダに頭を下げた。
「ごめんなさい」
困ったような顔のアーダに、ミーヤはただそう言って頭を下げる。
侍女は嘘をつくことを禁じられている。そのことはもちろんアーダも理解している。
「ミーヤ様、分かりました、頭を上げてください」
「ごめんなさい」
アーダの言葉にミーヤはただその言葉を繰り返すだけだ。
思えば八年前、マユリアやキリエも同じような気持ちだったのだろう。
「きっとあの時もみなさん、こういう感じだったんだろうなあ」
ミーヤと同じことをダルも感じたのだろう。
「言えないことがいっぱいあるんだ、でも言えることもあると思う。この中で当時のことを知っているのは俺とミーヤだけだろ? でもミーヤは侍女で、言えないこともたくさんあるから、だから、俺が知ってて言えることはできるだけ2人に伝えるよ。それでいいかな」
ダルの精一杯の誠意だ。
「まず、アーダさんが言った通り、エリス様は男性だよ」
「ダル隊長はエリス様をご存知なのですか?」
「うん、ごめんね、知ってる。俺だけじゃなくてリルも知ってる。あちらも俺とリルのことをよく知ってる」
「そうなのですね」
「うん」
「すまない、俺も知ってる」
ディレンもハリオの方を向いて言う。
「俺はずっと以前に会ったことがあってな、それで船に乗る時にその人じゃないかとは思っていたが、ずっと女だと思ってた。船の上で初めて男だと知って驚いた」
「以前にって、そんな前から知ってたんですか?」
「ああ」
ハリオの質問にディレンが答える。
「何年前かは今ちょっと言えないんだが、あいつが、トーヤが一緒にいるところに会ってな、その時はチラッと見ただけだったんだが、ああやって素性を隠してるのを見て、おそらくその人だろうなと思ってた」
「そうだったんですか」
「けどな、なかなかそれを認めやがらなかったんだよ、トーヤのやつが。それでちょっとばかり話がこじれてな、もうちょっとでアランに殺されるところだった」
「ええっ!」
ディレンがふざけたように言う内容にハリオが声を上げ、アーダも思わず息を飲む。
「まあ、その時にエリス様が自分から正体を明かしてくれたもんで、そんで事なきを得て、こいつらに協力することにしたんだ」
「あの」
アーダがディレンに話しかける。
「トーヤ様とベル、それからエリス様と一緒にまだ何名かいらっしゃいましたよね、その方たちのこともご存知なのでしょうか?」
「ああ、あの人たちのことは俺は知らんな」
「俺も知らないです」
「えっと……」
ダルがどう言ったものかと少し考えていると、
「私はよく知る方たちです」
とミーヤが言い、
「でもどこの方か、それは言ってもいいのかどうかまだ分かりません。ですからこれ以上のことは言えません」
と、続けた。
「ダルさんも知ってる方たちなんですか?」
「うん、ああ、まあ一応」
ハリオの質問にダルがちょっと歯切れ悪くそう言うが、ハリオもアーダもそれはミーヤと同じ理由であろうと思ってくれたようだった。
「ミーヤさんがご存知、ということは、この国の人、ということになりますよね」
「はい」
続けてミーヤがそう答えた。
「じゃあ、トーヤさんたちが今どこにいるか、ミーヤさんやダルさんはもう分かってるってことですか?」
「はい」
「よかった」
ハリオがほおっと息をついたので、ミーヤもダルも少し驚いた。
「いや、俺も船の中からずっと一緒させてもらってた方たちですからね、どこにいるか分かってるなら、そんでいいです。元気でいるなら。ホッとしました」
「あの、私もです」
アーダも続ける
「あの方たちは今は安心なところにいる、そう思っていいのですよね?」
「うん、それは保証するよ」
ダルがにこやかに答え、アーダが心底からホッとした顔になった。
「ベルとはお友達になったと思っています。きっと、ずっと私を騙していると思って心苦しく思っていたのでしょうね」
アーダが目を閉じ、胸の前で手を組んで柔らかな表情になった。
「あの、それは本当にすみませんでした」
アランがそう言って申し訳なさそうに頭を下げた。
「それは、本当に言ってました。自分がアーダさんを騙していることがつらい、利用しているのがつらいって。それ、分かってくれて俺はうれしいです」
「そんなこと、ベルだって決して私を苦しめよう、そう思ってやったことではないでしょうに……」
アランはアーダの気遣いがうれしかった。
「あの、うれしいです」
素直にその気持ちを告げる。
「あいつ、俺たちと一緒にずっと戦場暮らししてたもんで、そんで、友達っていなくて、だから、アーダさんと親しくなれたこと、本当に喜んでました。そんで、それだけにもうつらくてたまらない、そう言ったらトーヤがあいつに言ったんです」
アーダが黙ってアランの言葉を聞く。
「トーヤがベルに、素性を嘘ついてるなら全部嘘か、おまえがアーダさんと仲良くなりたいって気持ちまで嘘じゃないだろう、だったら本気で仲良くすりゃいいじゃねえか、そう言ったもんで、あいつ、やっと気持ちを落ち着かせてアーダさんと色々話せてたんです。本当にすみません、嘘ついてて。だけど、あいつの気持ちだけはどうか分かってやってください」
そう言ってアランはもう一度アーダに頭を下げた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ハイスペな車と廃番勇者の少年との気長な旅をするメガネのおっさん
夕刻の灯
ファンタジー
ある日…神は、こう神託を人々に伝えました。
『勇者によって、平和になったこの世界には、勇者はもう必要ありません。なので、勇者が産まれる事はないでしょう…』
その神託から時が流れた。
勇者が産まれるはずが無い世界の片隅に
1人の少年が勇者の称号を持って産まれた。
そこからこの世界の歯車があちらこちらで狂い回り始める。
買ったばかりの新車の車を事故らせた。
アラサーのメガネのおっさん
崖下に落ちた〜‼︎
っと思ったら、異世界の森の中でした。
買ったばかりの新車の車は、いろんな意味で
ハイスペな車に変わってました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
風ノ旅人
東 村長
ファンタジー
風の神の寵愛『風の加護』を持った少年『ソラ』は、突然家から居なくなってしまった母の『フーシャ』を探しに旅に出る。文化も暮らす種族も違う、色んな国々を巡り、個性的な人達との『出会いと別れ』を繰り返して、世界を旅していく——
これは、主人公である『ソラ』の旅路を記す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる