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第三章 第三部 政争の裏側

20 正体

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「ミーヤ様……」
「ごめんなさい」

 困ったような顔のアーダに、ミーヤはただそう言って頭を下げる。

 侍女は嘘をつくことを禁じられている。そのことはもちろんアーダも理解している。
 
「ミーヤ様、分かりました、頭を上げてください」
「ごめんなさい」

 アーダの言葉にミーヤはただその言葉を繰り返すだけだ。

 思えば八年前、マユリアやキリエも同じような気持ちだったのだろう。

「きっとあの時もみなさん、こういう感じだったんだろうなあ」

 ミーヤと同じことをダルも感じたのだろう。

「言えないことがいっぱいあるんだ、でも言えることもあると思う。この中で当時のことを知っているのは俺とミーヤだけだろ? でもミーヤは侍女で、言えないこともたくさんあるから、だから、俺が知ってて言えることはできるだけ2人に伝えるよ。それでいいかな」

 ダルの精一杯の誠意だ。

「まず、アーダさんが言った通り、エリス様は男性だよ」
「ダル隊長はエリス様をご存知なのですか?」
「うん、ごめんね、知ってる。俺だけじゃなくてリルも知ってる。あちらも俺とリルのことをよく知ってる」
「そうなのですね」
「うん」
「すまない、俺も知ってる」

 ディレンもハリオの方を向いて言う。

「俺はずっと以前に会ったことがあってな、それで船に乗る時にその人じゃないかとは思っていたが、ずっと女だと思ってた。船の上で初めて男だと知って驚いた」
「以前にって、そんな前から知ってたんですか?」
「ああ」

 ハリオの質問にディレンが答える。

「何年前かは今ちょっと言えないんだが、あいつが、トーヤが一緒にいるところに会ってな、その時はチラッと見ただけだったんだが、ああやって素性を隠してるのを見て、おそらくその人だろうなと思ってた」
「そうだったんですか」
「けどな、なかなかそれを認めやがらなかったんだよ、トーヤのやつが。それでちょっとばかり話がこじれてな、もうちょっとでアランに殺されるところだった」
「ええっ!」

 ディレンがふざけたように言う内容にハリオが声を上げ、アーダも思わず息を飲む。

「まあ、その時にエリス様が自分から正体を明かしてくれたもんで、そんで事なきを得て、こいつらに協力することにしたんだ」
「あの」

 アーダがディレンに話しかける。

「トーヤ様とベル、それからエリス様と一緒にまだ何名かいらっしゃいましたよね、その方たちのこともご存知なのでしょうか?」
「ああ、あの人たちのことは俺は知らんな」
「俺も知らないです」
「えっと……」

 ダルがどう言ったものかと少し考えていると、

「私はよく知る方たちです」

 とミーヤが言い、

「でもどこの方か、それは言ってもいいのかどうかまだ分かりません。ですからこれ以上のことは言えません」

 と、続けた。

「ダルさんも知ってる方たちなんですか?」
「うん、ああ、まあ一応」

 ハリオの質問にダルがちょっと歯切れ悪くそう言うが、ハリオもアーダもそれはミーヤと同じ理由であろうと思ってくれたようだった。

「ミーヤさんがご存知、ということは、この国の人、ということになりますよね」
「はい」
 
 続けてミーヤがそう答えた。

「じゃあ、トーヤさんたちが今どこにいるか、ミーヤさんやダルさんはもう分かってるってことですか?」
「はい」
「よかった」

 ハリオがほおっと息をついたので、ミーヤもダルも少し驚いた。

「いや、俺も船の中からずっと一緒させてもらってた方たちですからね、どこにいるか分かってるなら、そんでいいです。元気でいるなら。ホッとしました」
「あの、私もです」

 アーダも続ける

「あの方たちは今は安心なところにいる、そう思っていいのですよね?」
「うん、それは保証するよ」

 ダルがにこやかに答え、アーダが心底からホッとした顔になった。

「ベルとはお友達になったと思っています。きっと、ずっと私を騙していると思って心苦しく思っていたのでしょうね」

 アーダが目を閉じ、胸の前で手を組んで柔らかな表情になった。

「あの、それは本当にすみませんでした」

 アランがそう言って申し訳なさそうに頭を下げた。

「それは、本当に言ってました。自分がアーダさんを騙していることがつらい、利用しているのがつらいって。それ、分かってくれて俺はうれしいです」
「そんなこと、ベルだって決して私を苦しめよう、そう思ってやったことではないでしょうに……」

 アランはアーダの気遣いがうれしかった。

「あの、うれしいです」

 素直にその気持ちを告げる。

「あいつ、俺たちと一緒にずっと戦場暮らししてたもんで、そんで、友達っていなくて、だから、アーダさんと親しくなれたこと、本当に喜んでました。そんで、それだけにもうつらくてたまらない、そう言ったらトーヤがあいつに言ったんです」

 アーダが黙ってアランの言葉を聞く。

「トーヤがベルに、素性を嘘ついてるなら全部嘘か、おまえがアーダさんと仲良くなりたいって気持ちまで嘘じゃないだろう、だったら本気で仲良くすりゃいいじゃねえか、そう言ったもんで、あいつ、やっと気持ちを落ち着かせてアーダさんと色々話せてたんです。本当にすみません、嘘ついてて。だけど、あいつの気持ちだけはどうか分かってやってください」

 そう言ってアランはもう一度アーダに頭を下げた。
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