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第三章 第三部 政争の裏側
15 別口
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「しかし、ほんとに具体的なことは何も話せてないよなあ」
アランも申し訳なさそうにアーダとハリオに謝るが、どうしようもないことであった。
「でもミーヤさんと船長とアランにも話せることがそれぐらいしかないってことなんですよね」
「まあ、結局のところはな」
「それにしても、なんでキリエさんやルギ隊長は呼ばれなかったんだか」
「それなんですよね、その代わりになんで俺とアーダさんが」
男3人がああでもない、こうでもないと話をするのを聞きながら、ミーヤにはもう一つの心配があった。
不審者がもしかしたらトーヤなのでは、と思ったのだ。
あの時、光はトーヤにマユリアに会って話を聞いてこいと言っていた。
(ということは、その可能性もあるのだわ……)
トーヤのことだ、きっとうまくやったはず、見つかったりはしていないはずだ、そう自分に言い聞かせる。
(それに、もしもトーヤなら、キリエ様がきっと何かを知らせてくれるはず)
とは思うのだが、何しろ「あの空間」にキリエは呼ばれていない。また違う不安が心に浮かぶ。
(もしかして、この先はキリエ様と道を違えるようなことになる、そんな意味なのでは)
ミーヤはもうキリエと違う道を行くなどと想像をしたくもなかった。
あの八年前の出来事で、まるで家族のように親しみを感じ、大切な人になっている侍女頭と敵対するなど、あってはならない。
(いえ、あるはずがないわ)
そんな自分の物思いにふけっていると、
「あのミーヤ様」
「え?」
いきなり誰かに声をかけられて驚いた。
「あの」
「あ、ごめんなさい」
アーダであった。
「あの、もしかして、不審者がトーヤ様ではないかと心配なさっているのではないでしょうか」
アーダに心の一部を見透かされたようでドキリとする。
「いや、それはないでしょう」
ミーヤが何か答えるより先にアランが反応する。
「この話は王宮から来たって言ってませんでした?」
「あ、はい、確かに」
そう、宮からのお達しは、
「王宮に不審者が入り込んだかも知れない。念のために宮も封鎖する」
というものであった。
「トーヤが王宮に入り込むとは考えにくいです。何しろ王宮の勝手が分かりませんからね。あの声に従って宮に入るつもりなら、こっちの方が色々と心当たりがあるでしょう」
アランがややぼかした言い方をする。トーヤが宮のことを調べ尽くしているとは、アーダとハリオには今のところ言いにくい。
「そうなのですね」
「はい、ですから別口ですね」
「別口……」
聞いて、あらためてアーダが身震いをする。
「どうしてこんな、今までなかったようなことが続くのでしょう……」
アーダにしてみれば「エリス様」の担当になった時からそんなことの連続なのだ、思わずそう言ってしまうのも当然だろう。
「いつまで続くのでしょう……」
思わず泣きそうな顔になるが、誰も答えてやることができない。
「とりあえずは、やれることをやるしかないと思いますよ」
ディレンがゆっくりとそう声をかけ、落ち着いた声を聞いて、アーダがやっと少しだけ力を抜いたように見えた。
船長という役職のせいか、親のような年齢のためか、それともその人柄だろうか、なんとなく心丈夫な気持ちになったのだろう。
「やれることと言えば、できるだけ1人にはならないことと言われてんですが、ミーヤさん、夜はあっちの部屋に戻るんですよね」
「ええ」
「アーダさんが1人になってしまうと思うんですが、それはなんとかなりませんか」
言われてまたアーダがビクリとする。
あの空間に飛ばされたのが一昨日のことだ。その夜も昨夜も、アーダはなんとか気持ちにフタをして自分の部屋で1人で過ごしていたが、その上に謎の不審者の問題が起こり、完全に怯えてしまっている。今の状態のアーダを一人きりにするのは少し心配だとアランは判断したようだ。
本来ならばミーヤとアーダで一組のはずだが、ミーヤはセルマの係も兼任しているので、夜はセルマがいるあの部屋に戻ることになっている。必然、アーダはこの部屋の担当になった時に与えられた個室で過ごすことになる。もしも本当に不審者が現れる可能性があるのならば、それも危険だと思われた。
「あの、ありがとうございます」
アーダも言われて初めて気がついたようで、アランに礼を言う。
「いえ、こればっかりは俺らではなんともならないもんで」
確かに仮にも侍女たる者が、男3人と一緒に過ごすというわけにはいかないだろう。
「少し伺ってまいります」
ミーヤがそう言って席をはずし、今日の客室係に話を聞きに行った。
宮では、いつ誰がどう客になるのか分からない。それで常に客室係の当番が決まっている。
話を聞いてきたところ、運よく今日の当番の1人がアーダと同期で、もう1人もミーヤとアーダが共によく見知った顔であった。
「問題が落ち着くまで、アーダ様は客室係と夜は共に過ごすということになりました」
そう聞いて全員がホッとする。
その点だけを考えるなら、本当に不審者がトーヤであった方がアーダももう少し安心できたのかも知れないが、おそらくは本当に別口なのだろう。今起きている問題と関係があるのかないのかは分からないが、用心にこしたことはない。
アランも申し訳なさそうにアーダとハリオに謝るが、どうしようもないことであった。
「でもミーヤさんと船長とアランにも話せることがそれぐらいしかないってことなんですよね」
「まあ、結局のところはな」
「それにしても、なんでキリエさんやルギ隊長は呼ばれなかったんだか」
「それなんですよね、その代わりになんで俺とアーダさんが」
男3人がああでもない、こうでもないと話をするのを聞きながら、ミーヤにはもう一つの心配があった。
不審者がもしかしたらトーヤなのでは、と思ったのだ。
あの時、光はトーヤにマユリアに会って話を聞いてこいと言っていた。
(ということは、その可能性もあるのだわ……)
トーヤのことだ、きっとうまくやったはず、見つかったりはしていないはずだ、そう自分に言い聞かせる。
(それに、もしもトーヤなら、キリエ様がきっと何かを知らせてくれるはず)
とは思うのだが、何しろ「あの空間」にキリエは呼ばれていない。また違う不安が心に浮かぶ。
(もしかして、この先はキリエ様と道を違えるようなことになる、そんな意味なのでは)
ミーヤはもうキリエと違う道を行くなどと想像をしたくもなかった。
あの八年前の出来事で、まるで家族のように親しみを感じ、大切な人になっている侍女頭と敵対するなど、あってはならない。
(いえ、あるはずがないわ)
そんな自分の物思いにふけっていると、
「あのミーヤ様」
「え?」
いきなり誰かに声をかけられて驚いた。
「あの」
「あ、ごめんなさい」
アーダであった。
「あの、もしかして、不審者がトーヤ様ではないかと心配なさっているのではないでしょうか」
アーダに心の一部を見透かされたようでドキリとする。
「いや、それはないでしょう」
ミーヤが何か答えるより先にアランが反応する。
「この話は王宮から来たって言ってませんでした?」
「あ、はい、確かに」
そう、宮からのお達しは、
「王宮に不審者が入り込んだかも知れない。念のために宮も封鎖する」
というものであった。
「トーヤが王宮に入り込むとは考えにくいです。何しろ王宮の勝手が分かりませんからね。あの声に従って宮に入るつもりなら、こっちの方が色々と心当たりがあるでしょう」
アランがややぼかした言い方をする。トーヤが宮のことを調べ尽くしているとは、アーダとハリオには今のところ言いにくい。
「そうなのですね」
「はい、ですから別口ですね」
「別口……」
聞いて、あらためてアーダが身震いをする。
「どうしてこんな、今までなかったようなことが続くのでしょう……」
アーダにしてみれば「エリス様」の担当になった時からそんなことの連続なのだ、思わずそう言ってしまうのも当然だろう。
「いつまで続くのでしょう……」
思わず泣きそうな顔になるが、誰も答えてやることができない。
「とりあえずは、やれることをやるしかないと思いますよ」
ディレンがゆっくりとそう声をかけ、落ち着いた声を聞いて、アーダがやっと少しだけ力を抜いたように見えた。
船長という役職のせいか、親のような年齢のためか、それともその人柄だろうか、なんとなく心丈夫な気持ちになったのだろう。
「やれることと言えば、できるだけ1人にはならないことと言われてんですが、ミーヤさん、夜はあっちの部屋に戻るんですよね」
「ええ」
「アーダさんが1人になってしまうと思うんですが、それはなんとかなりませんか」
言われてまたアーダがビクリとする。
あの空間に飛ばされたのが一昨日のことだ。その夜も昨夜も、アーダはなんとか気持ちにフタをして自分の部屋で1人で過ごしていたが、その上に謎の不審者の問題が起こり、完全に怯えてしまっている。今の状態のアーダを一人きりにするのは少し心配だとアランは判断したようだ。
本来ならばミーヤとアーダで一組のはずだが、ミーヤはセルマの係も兼任しているので、夜はセルマがいるあの部屋に戻ることになっている。必然、アーダはこの部屋の担当になった時に与えられた個室で過ごすことになる。もしも本当に不審者が現れる可能性があるのならば、それも危険だと思われた。
「あの、ありがとうございます」
アーダも言われて初めて気がついたようで、アランに礼を言う。
「いえ、こればっかりは俺らではなんともならないもんで」
確かに仮にも侍女たる者が、男3人と一緒に過ごすというわけにはいかないだろう。
「少し伺ってまいります」
ミーヤがそう言って席をはずし、今日の客室係に話を聞きに行った。
宮では、いつ誰がどう客になるのか分からない。それで常に客室係の当番が決まっている。
話を聞いてきたところ、運よく今日の当番の1人がアーダと同期で、もう1人もミーヤとアーダが共によく見知った顔であった。
「問題が落ち着くまで、アーダ様は客室係と夜は共に過ごすということになりました」
そう聞いて全員がホッとする。
その点だけを考えるなら、本当に不審者がトーヤであった方がアーダももう少し安心できたのかも知れないが、おそらくは本当に別口なのだろう。今起きている問題と関係があるのかないのかは分からないが、用心にこしたことはない。
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