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第三章 第三部 政争の裏側
14 納得
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「しばらく宮からは出ないようにとのお達しですが、一体何があったのでしょう」
キリエの使いの侍女の後ろ姿を見送り、アーダが小さく震えるようにミーヤに聞いてきた。
「ええ、不審者が入り込んだとのことですが、一体どこに誰が」
「怖いです」
気の毒に、アーダはあのことがあって以来、小さな物音がしても、またあそこに飛ばされるのではないかと怯えるようになっている。ちょっとばかり神経過敏になっているようだが、それも当然のことと言えるだろう。
あのことがあった後、少し落ち着いてから事情を知るミーヤとアランとディレンで、話しても大丈夫だろうことだけは話すことにした。
八年前、トーヤがこの国のために「あること」をしてくれたこと、それはマユリアや先代の頼みであり命であったこと、キリエやルギもそのことを知っていること、そして次の交代までには戻ってくると約束をしてアルディナへ戻ったこと、などだ。
「話すについて、何をどんだけ話すかちょっとミーヤさんと話したいと思うんだけど」
アランがそう提案し、
「俺とアランが知ってることはほぼ同じだ。だからアランがミーヤさんと話して決めてくれ。俺は、こいつらが心配だからここに一緒にいるから」
ディレンがそう言って、ミーヤとアランが2人で話を詰めることとなった。
今アランたちが滞在している部屋には応接と個室が3つある。主用の主寝室、その部屋の隣に侍女などが滞在する部屋が2つ並んでつながっている。「エリス様」が滞在している時はエリス様、侍女のベル、そして護衛のトーヤとアランが順番に入っていたが、今は主寝室にディレン、次にハリオ、そしてアランがそれぞれ個室として入っている。
「俺の部屋に行きましょうか」
「はい、お二人のことをどうぞよろしくお願いいたします」
ミーヤが丁寧にディレンに頭を下げ、アランと一緒に一番廊下側の部屋へと入っていった。
これは、少し不安定になっているハリオとアーダに年長のディレンが付いてくれたことと、もう一つ、そんなことはなかろうと思うが、不安のあまり、2人が話が気になってそっと聞きに行ったりしないように見張りも兼ねていると思われた。何しろ聞かれては困ることがてんこ盛りの過去の出来事だ、気をつけるにこしたことはない。
ディレンが残ると提案した時、アランはなんとなくそのことに気づいたが、ミーヤは純粋にディレンが親切心から2人に付いてくれるのだと受け取っていた。
(本当に善良な人なんだよなあ)
アランは扉を閉じ、ミーヤと2人きりになることに、なんとなく後ろめたさを感じながらそう思っていた。そうしてできるだけ手早く話をして、今の段階で話すことを決めたのだが、その結果が上記のようなことだけだったもので、
「それだけ?」
ハリオがきょとんとしてそう言う。
「結局のところそのぐらいしか話せなくて、すみません」
アランがそう言って頭を下げるが、ハリオもアーダも今ひとつ納得できたという表情ではない。
「ただ」
ミーヤがアランの言葉を継ぐ。
「あのようなことは、あの時だけではなく、少なくとももう一度あるだろうということ、それはアランと意見が一致いたしました。ディレン船長はどうお思いでしょう」
「ああ、俺もそう思ってる。そしたらまた話せることも増えるだろう」
この言葉にハリオとアーダがピクリと動いたのが分かった。
「あの、つまり、またあの、なんだか分からない場所に飛ばされる、ってことですか?」
「ああ、おそらくな」
ディレンがハリオにそう答える。アーダは何も言えないまま顔色を青くしている。握りしめた手が小刻みに震えている。
「アーダ様」
ミーヤが柔らかく声をかけた。
「大丈夫です、あの声は決して悪いものではありません。それに、その時には必ず私たちも一緒です」
「そうなんでしょうか」
アーダは何かがあって自分一人があの空間に飛ばされるのではないか、そのことを心底から恐れているようだった。
「ええ、大丈夫です。この間あの声もそうおっしゃっていましたし、それに不思議なことがあります」
「あ、あれ以上に不思議なことですか?」
「ええ」
ミーヤはアーダに柔らかく微笑む。
「お話した通り、八年前にはキリエ様やルギ隊長も関わっておられました。それが、今はいらっしゃらなかった」
言われてアーダは初めて気がついたようだった。
「きっと、あの時とは何かが違うのです。お二人にはきっと何か役割があるのだと思います」
「そんな……」
アーダもハリオもどう受け止めていいのか分からないようだった。
「今はまだ、何がどうなっているのか私にも全く分かりません。ですがおそらく、今のことはまだキリエ様にもルギ隊長にも知られてはいけないのだと思います。ですから」
ミーヤはもう一度できるだけ柔らかく微笑むと、そっとアーダの手を取った。
「いつものように、キリエ様とルギ隊長に知られぬように平静に動いてください。きっと、お二人の今のお役目の一つはそれだと思います。お願いいたします」
アーダはミーヤにそう言われ、取られた手を見て、やっと小さくこくんとうなずいた。
与えられた役目を知り、やっとなんとか自分のなすべきことだと納得をさせたという感じではあったが。
キリエの使いの侍女の後ろ姿を見送り、アーダが小さく震えるようにミーヤに聞いてきた。
「ええ、不審者が入り込んだとのことですが、一体どこに誰が」
「怖いです」
気の毒に、アーダはあのことがあって以来、小さな物音がしても、またあそこに飛ばされるのではないかと怯えるようになっている。ちょっとばかり神経過敏になっているようだが、それも当然のことと言えるだろう。
あのことがあった後、少し落ち着いてから事情を知るミーヤとアランとディレンで、話しても大丈夫だろうことだけは話すことにした。
八年前、トーヤがこの国のために「あること」をしてくれたこと、それはマユリアや先代の頼みであり命であったこと、キリエやルギもそのことを知っていること、そして次の交代までには戻ってくると約束をしてアルディナへ戻ったこと、などだ。
「話すについて、何をどんだけ話すかちょっとミーヤさんと話したいと思うんだけど」
アランがそう提案し、
「俺とアランが知ってることはほぼ同じだ。だからアランがミーヤさんと話して決めてくれ。俺は、こいつらが心配だからここに一緒にいるから」
ディレンがそう言って、ミーヤとアランが2人で話を詰めることとなった。
今アランたちが滞在している部屋には応接と個室が3つある。主用の主寝室、その部屋の隣に侍女などが滞在する部屋が2つ並んでつながっている。「エリス様」が滞在している時はエリス様、侍女のベル、そして護衛のトーヤとアランが順番に入っていたが、今は主寝室にディレン、次にハリオ、そしてアランがそれぞれ個室として入っている。
「俺の部屋に行きましょうか」
「はい、お二人のことをどうぞよろしくお願いいたします」
ミーヤが丁寧にディレンに頭を下げ、アランと一緒に一番廊下側の部屋へと入っていった。
これは、少し不安定になっているハリオとアーダに年長のディレンが付いてくれたことと、もう一つ、そんなことはなかろうと思うが、不安のあまり、2人が話が気になってそっと聞きに行ったりしないように見張りも兼ねていると思われた。何しろ聞かれては困ることがてんこ盛りの過去の出来事だ、気をつけるにこしたことはない。
ディレンが残ると提案した時、アランはなんとなくそのことに気づいたが、ミーヤは純粋にディレンが親切心から2人に付いてくれるのだと受け取っていた。
(本当に善良な人なんだよなあ)
アランは扉を閉じ、ミーヤと2人きりになることに、なんとなく後ろめたさを感じながらそう思っていた。そうしてできるだけ手早く話をして、今の段階で話すことを決めたのだが、その結果が上記のようなことだけだったもので、
「それだけ?」
ハリオがきょとんとしてそう言う。
「結局のところそのぐらいしか話せなくて、すみません」
アランがそう言って頭を下げるが、ハリオもアーダも今ひとつ納得できたという表情ではない。
「ただ」
ミーヤがアランの言葉を継ぐ。
「あのようなことは、あの時だけではなく、少なくとももう一度あるだろうということ、それはアランと意見が一致いたしました。ディレン船長はどうお思いでしょう」
「ああ、俺もそう思ってる。そしたらまた話せることも増えるだろう」
この言葉にハリオとアーダがピクリと動いたのが分かった。
「あの、つまり、またあの、なんだか分からない場所に飛ばされる、ってことですか?」
「ああ、おそらくな」
ディレンがハリオにそう答える。アーダは何も言えないまま顔色を青くしている。握りしめた手が小刻みに震えている。
「アーダ様」
ミーヤが柔らかく声をかけた。
「大丈夫です、あの声は決して悪いものではありません。それに、その時には必ず私たちも一緒です」
「そうなんでしょうか」
アーダは何かがあって自分一人があの空間に飛ばされるのではないか、そのことを心底から恐れているようだった。
「ええ、大丈夫です。この間あの声もそうおっしゃっていましたし、それに不思議なことがあります」
「あ、あれ以上に不思議なことですか?」
「ええ」
ミーヤはアーダに柔らかく微笑む。
「お話した通り、八年前にはキリエ様やルギ隊長も関わっておられました。それが、今はいらっしゃらなかった」
言われてアーダは初めて気がついたようだった。
「きっと、あの時とは何かが違うのです。お二人にはきっと何か役割があるのだと思います」
「そんな……」
アーダもハリオもどう受け止めていいのか分からないようだった。
「今はまだ、何がどうなっているのか私にも全く分かりません。ですがおそらく、今のことはまだキリエ様にもルギ隊長にも知られてはいけないのだと思います。ですから」
ミーヤはもう一度できるだけ柔らかく微笑むと、そっとアーダの手を取った。
「いつものように、キリエ様とルギ隊長に知られぬように平静に動いてください。きっと、お二人の今のお役目の一つはそれだと思います。お願いいたします」
アーダはミーヤにそう言われ、取られた手を見て、やっと小さくこくんとうなずいた。
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