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第三章 第三部 政争の裏側
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「…………」
「…………」
ここはダルが訪ねているリルの部屋だ。
2人とも八年前のことに関わっていて事情を知っていること、当時を知らない者が一緒にいないことなどからだろうか、比較的おだやかに元の状態に戻ったことを受け入れていた。さすがにすぐに言葉は出なかったようだが。
「やっぱり私、ダルと結婚しておけばよかった……」
「へ!?」
リルの言葉にダルがしゃっくりでも出たかのように驚く。
「な、な、な、なんでさ!」
「だって、こんな、なんて言っていいのか分からないけど多分重大なこと、自分の夫に話せないのよ? ダルと一緒になってたらいつでも話せたじゃない」
「な、なんだよそれ」
そう言いながらダルがホッとする。
仮にも一度はリルから求愛されてそれを断った身だけあって、ちょっとばかり構えてしまっても仕方のないことだろう。
「この場のことはこの場にいる者だけってことは、誰にも言うなってことよね」
「ああ、そうなるかな」
「誰がいた?」
「えっと、トーヤの方はうちの家族だろ、そんでベルとシャンタル」
「ってことはダルはご家族には話せるのよね」
なんとなくリルが恨めしそうに言う。
「いや、だってさ、今の俺の家族ってアミと子どもたちじゃない。そっちには話せないんだぜ?」
「あ、そうか、確かにそうね」
少しリルが気持ちを収めたようでダルがまたホッとする。
「ミーヤと一緒にいた若い方がハリオさんって方よね」
「ああ、ディレン船長のとこのハリオさんだよ」
実際にリルはハリオには会ってはいないので初顔合わせとなる。あの空間で、実際に直に会ったわけでもないのに会ったというのはなんとも不思議ではあったが。
「ちょっと冷静に話をしましょう」
リルがうーん、と難しい顔で目を閉じて言う。
「あの声は誰?」
「いや、俺にも分からない」
「トーヤが話しかけたら返事をしてた、ってことは、トーヤは知ってるのよ。というか、会ったこと? あの状態が会うってことか分からないけど、一応そうしておくわね。会ったことがあるみたいだったわ」
「うん」
「そしてフェイとこの子、アベル、アベルでいいわね。そう、アベルが光ってああなった」
「うん」
「ということは、次もまた光ったらああなる可能性があるわ」
「うん」
「うまくできてるわね」
「何が?」
「配分よ」
「配分?」
「そう」
リルはそう言ってじっと手の上の「アベル」と命名された木彫りの青い鳥を見る。
「私は今動けないじゃない? だからアベルと一緒にいるの」
「ああ」
「ダルはミーヤのところへ行けるでしょ。その時にはフェイがいる」
「そうだね」
「トーヤたちはダルの家にいる。きっと何かフェイやアベルみたいな何かがあるのよ」
「うん」
「あの声がまたみんなを集めようと思った時にうまく全員を集められるようになってるのよね」
リルは今は何があっても宮へは入れない。
ミーヤたちは今は宮から出られない。
トーヤたちはカースから動けない。
ダルだけは宮とリルのいるオーサ商会を行き来できる。
「今度はいつ光るのかしら、アベル。その時にはまた何か秘密を知ることになるのよね、きっと」
ダルもリルと一緒にアベルをじっと見つめた。
不思議な出来事があったのは昼過ぎだったが、夕方になってやっとトーヤがダルの部屋から出てきた。
「おいおい、大丈夫かよ、まだなんか顔色よくないぜ……」
ベルがトーヤを見て心配そうに言う。
「いや、大丈夫だ。いつものことだ。共鳴の後はこういうことになる」
「共鳴!」
聞いてはいた。トーヤから聞いてはいた。
「ってことは、おれたちもあれ、共鳴なのか?」
「分からん。分からんが、少なくとも俺のはそうみたいだな」
トーヤが忌々しそうに言う。かなりつらそうだ。
「もうちょい休んでたらどうだ?」
「いや、そうもいかん。やらんとあかんこともあるしな」
「やらんとあかんこと?」
「ああ、マユリアに会いに行かねえとな」
「え!」
「言われただろうが、会ってこいって」
「え、でも、でも」
確かにあの不思議な声はトーヤにマユリアに会いに行けと言っていた。
「大丈夫だ、方法は2つある」
「2つ?」
「ああ、けど1つは使えねえ」
「あ……」
言われてベルもその方法に思い当たる。
「ああ、それだ。けど、それでいくとキリエさんにばれる」
ラデルの工房から「お父上」として宮へ入る方法は使えない。
「そんじゃもう1つは?」
「決まってるだろうが」
トーヤがつらそうな中でもニヤリといたずらっぽく笑って見せる。
「強行突破だよ」
結局はその方法しかないのだ。
あの洞窟を通って聖なる森を抜け、奥宮へ入る。
「それしかないからな」
「おれも行くよ」
「だめだ」
トーヤがベルにきっぱりと言う。
「おまえはシャンタルと一緒にここで待ってろ。なあに、俺一人の方が小回りが聞くから大丈夫だ。マユリアに会って何が起こるのか分からんが、とにかく行って話を進めなきゃな。そうしたらまたあいつがみんなを集めて話の続きをするつもりだろうさ。だが今はこんな調子で無理だからな。明日だ、明日になったら行動に移す」
ベルは心配そうにトーヤを見つめるが、確かにそれしかないのが分かるので何も言えない。
シャンタルはそんな2人の会話をいつものように黙ってみつめていた。
「…………」
ここはダルが訪ねているリルの部屋だ。
2人とも八年前のことに関わっていて事情を知っていること、当時を知らない者が一緒にいないことなどからだろうか、比較的おだやかに元の状態に戻ったことを受け入れていた。さすがにすぐに言葉は出なかったようだが。
「やっぱり私、ダルと結婚しておけばよかった……」
「へ!?」
リルの言葉にダルがしゃっくりでも出たかのように驚く。
「な、な、な、なんでさ!」
「だって、こんな、なんて言っていいのか分からないけど多分重大なこと、自分の夫に話せないのよ? ダルと一緒になってたらいつでも話せたじゃない」
「な、なんだよそれ」
そう言いながらダルがホッとする。
仮にも一度はリルから求愛されてそれを断った身だけあって、ちょっとばかり構えてしまっても仕方のないことだろう。
「この場のことはこの場にいる者だけってことは、誰にも言うなってことよね」
「ああ、そうなるかな」
「誰がいた?」
「えっと、トーヤの方はうちの家族だろ、そんでベルとシャンタル」
「ってことはダルはご家族には話せるのよね」
なんとなくリルが恨めしそうに言う。
「いや、だってさ、今の俺の家族ってアミと子どもたちじゃない。そっちには話せないんだぜ?」
「あ、そうか、確かにそうね」
少しリルが気持ちを収めたようでダルがまたホッとする。
「ミーヤと一緒にいた若い方がハリオさんって方よね」
「ああ、ディレン船長のとこのハリオさんだよ」
実際にリルはハリオには会ってはいないので初顔合わせとなる。あの空間で、実際に直に会ったわけでもないのに会ったというのはなんとも不思議ではあったが。
「ちょっと冷静に話をしましょう」
リルがうーん、と難しい顔で目を閉じて言う。
「あの声は誰?」
「いや、俺にも分からない」
「トーヤが話しかけたら返事をしてた、ってことは、トーヤは知ってるのよ。というか、会ったこと? あの状態が会うってことか分からないけど、一応そうしておくわね。会ったことがあるみたいだったわ」
「うん」
「そしてフェイとこの子、アベル、アベルでいいわね。そう、アベルが光ってああなった」
「うん」
「ということは、次もまた光ったらああなる可能性があるわ」
「うん」
「うまくできてるわね」
「何が?」
「配分よ」
「配分?」
「そう」
リルはそう言ってじっと手の上の「アベル」と命名された木彫りの青い鳥を見る。
「私は今動けないじゃない? だからアベルと一緒にいるの」
「ああ」
「ダルはミーヤのところへ行けるでしょ。その時にはフェイがいる」
「そうだね」
「トーヤたちはダルの家にいる。きっと何かフェイやアベルみたいな何かがあるのよ」
「うん」
「あの声がまたみんなを集めようと思った時にうまく全員を集められるようになってるのよね」
リルは今は何があっても宮へは入れない。
ミーヤたちは今は宮から出られない。
トーヤたちはカースから動けない。
ダルだけは宮とリルのいるオーサ商会を行き来できる。
「今度はいつ光るのかしら、アベル。その時にはまた何か秘密を知ることになるのよね、きっと」
ダルもリルと一緒にアベルをじっと見つめた。
不思議な出来事があったのは昼過ぎだったが、夕方になってやっとトーヤがダルの部屋から出てきた。
「おいおい、大丈夫かよ、まだなんか顔色よくないぜ……」
ベルがトーヤを見て心配そうに言う。
「いや、大丈夫だ。いつものことだ。共鳴の後はこういうことになる」
「共鳴!」
聞いてはいた。トーヤから聞いてはいた。
「ってことは、おれたちもあれ、共鳴なのか?」
「分からん。分からんが、少なくとも俺のはそうみたいだな」
トーヤが忌々しそうに言う。かなりつらそうだ。
「もうちょい休んでたらどうだ?」
「いや、そうもいかん。やらんとあかんこともあるしな」
「やらんとあかんこと?」
「ああ、マユリアに会いに行かねえとな」
「え!」
「言われただろうが、会ってこいって」
「え、でも、でも」
確かにあの不思議な声はトーヤにマユリアに会いに行けと言っていた。
「大丈夫だ、方法は2つある」
「2つ?」
「ああ、けど1つは使えねえ」
「あ……」
言われてベルもその方法に思い当たる。
「ああ、それだ。けど、それでいくとキリエさんにばれる」
ラデルの工房から「お父上」として宮へ入る方法は使えない。
「そんじゃもう1つは?」
「決まってるだろうが」
トーヤがつらそうな中でもニヤリといたずらっぽく笑って見せる。
「強行突破だよ」
結局はその方法しかないのだ。
あの洞窟を通って聖なる森を抜け、奥宮へ入る。
「それしかないからな」
「おれも行くよ」
「だめだ」
トーヤがベルにきっぱりと言う。
「おまえはシャンタルと一緒にここで待ってろ。なあに、俺一人の方が小回りが聞くから大丈夫だ。マユリアに会って何が起こるのか分からんが、とにかく行って話を進めなきゃな。そうしたらまたあいつがみんなを集めて話の続きをするつもりだろうさ。だが今はこんな調子で無理だからな。明日だ、明日になったら行動に移す」
ベルは心配そうにトーヤを見つめるが、確かにそれしかないのが分かるので何も言えない。
シャンタルはそんな2人の会話をいつものように黙ってみつめていた。
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