188 / 488
第三章 第三部 政争の裏側
2 配分
しおりを挟む
「…………」
「…………」
ここはダルが訪ねているリルの部屋だ。
2人とも八年前のことに関わっていて事情を知っていること、当時を知らない者が一緒にいないことなどからだろうか、比較的おだやかに元の状態に戻ったことを受け入れていた。さすがにすぐに言葉は出なかったようだが。
「やっぱり私、ダルと結婚しておけばよかった……」
「へ!?」
リルの言葉にダルがしゃっくりでも出たかのように驚く。
「な、な、な、なんでさ!」
「だって、こんな、なんて言っていいのか分からないけど多分重大なこと、自分の夫に話せないのよ? ダルと一緒になってたらいつでも話せたじゃない」
「な、なんだよそれ」
そう言いながらダルがホッとする。
仮にも一度はリルから求愛されてそれを断った身だけあって、ちょっとばかり構えてしまっても仕方のないことだろう。
「この場のことはこの場にいる者だけってことは、誰にも言うなってことよね」
「ああ、そうなるかな」
「誰がいた?」
「えっと、トーヤの方はうちの家族だろ、そんでベルとシャンタル」
「ってことはダルはご家族には話せるのよね」
なんとなくリルが恨めしそうに言う。
「いや、だってさ、今の俺の家族ってアミと子どもたちじゃない。そっちには話せないんだぜ?」
「あ、そうか、確かにそうね」
少しリルが気持ちを収めたようでダルがまたホッとする。
「ミーヤと一緒にいた若い方がハリオさんって方よね」
「ああ、ディレン船長のとこのハリオさんだよ」
実際にリルはハリオには会ってはいないので初顔合わせとなる。あの空間で、実際に直に会ったわけでもないのに会ったというのはなんとも不思議ではあったが。
「ちょっと冷静に話をしましょう」
リルがうーん、と難しい顔で目を閉じて言う。
「あの声は誰?」
「いや、俺にも分からない」
「トーヤが話しかけたら返事をしてた、ってことは、トーヤは知ってるのよ。というか、会ったこと? あの状態が会うってことか分からないけど、一応そうしておくわね。会ったことがあるみたいだったわ」
「うん」
「そしてフェイとこの子、アベル、アベルでいいわね。そう、アベルが光ってああなった」
「うん」
「ということは、次もまた光ったらああなる可能性があるわ」
「うん」
「うまくできてるわね」
「何が?」
「配分よ」
「配分?」
「そう」
リルはそう言ってじっと手の上の「アベル」と命名された木彫りの青い鳥を見る。
「私は今動けないじゃない? だからアベルと一緒にいるの」
「ああ」
「ダルはミーヤのところへ行けるでしょ。その時にはフェイがいる」
「そうだね」
「トーヤたちはダルの家にいる。きっと何かフェイやアベルみたいな何かがあるのよ」
「うん」
「あの声がまたみんなを集めようと思った時にうまく全員を集められるようになってるのよね」
リルは今は何があっても宮へは入れない。
ミーヤたちは今は宮から出られない。
トーヤたちはカースから動けない。
ダルだけは宮とリルのいるオーサ商会を行き来できる。
「今度はいつ光るのかしら、アベル。その時にはまた何か秘密を知ることになるのよね、きっと」
ダルもリルと一緒にアベルをじっと見つめた。
不思議な出来事があったのは昼過ぎだったが、夕方になってやっとトーヤがダルの部屋から出てきた。
「おいおい、大丈夫かよ、まだなんか顔色よくないぜ……」
ベルがトーヤを見て心配そうに言う。
「いや、大丈夫だ。いつものことだ。共鳴の後はこういうことになる」
「共鳴!」
聞いてはいた。トーヤから聞いてはいた。
「ってことは、おれたちもあれ、共鳴なのか?」
「分からん。分からんが、少なくとも俺のはそうみたいだな」
トーヤが忌々しそうに言う。かなりつらそうだ。
「もうちょい休んでたらどうだ?」
「いや、そうもいかん。やらんとあかんこともあるしな」
「やらんとあかんこと?」
「ああ、マユリアに会いに行かねえとな」
「え!」
「言われただろうが、会ってこいって」
「え、でも、でも」
確かにあの不思議な声はトーヤにマユリアに会いに行けと言っていた。
「大丈夫だ、方法は2つある」
「2つ?」
「ああ、けど1つは使えねえ」
「あ……」
言われてベルもその方法に思い当たる。
「ああ、それだ。けど、それでいくとキリエさんにばれる」
ラデルの工房から「お父上」として宮へ入る方法は使えない。
「そんじゃもう1つは?」
「決まってるだろうが」
トーヤがつらそうな中でもニヤリといたずらっぽく笑って見せる。
「強行突破だよ」
結局はその方法しかないのだ。
あの洞窟を通って聖なる森を抜け、奥宮へ入る。
「それしかないからな」
「おれも行くよ」
「だめだ」
トーヤがベルにきっぱりと言う。
「おまえはシャンタルと一緒にここで待ってろ。なあに、俺一人の方が小回りが聞くから大丈夫だ。マユリアに会って何が起こるのか分からんが、とにかく行って話を進めなきゃな。そうしたらまたあいつがみんなを集めて話の続きをするつもりだろうさ。だが今はこんな調子で無理だからな。明日だ、明日になったら行動に移す」
ベルは心配そうにトーヤを見つめるが、確かにそれしかないのが分かるので何も言えない。
シャンタルはそんな2人の会話をいつものように黙ってみつめていた。
「…………」
ここはダルが訪ねているリルの部屋だ。
2人とも八年前のことに関わっていて事情を知っていること、当時を知らない者が一緒にいないことなどからだろうか、比較的おだやかに元の状態に戻ったことを受け入れていた。さすがにすぐに言葉は出なかったようだが。
「やっぱり私、ダルと結婚しておけばよかった……」
「へ!?」
リルの言葉にダルがしゃっくりでも出たかのように驚く。
「な、な、な、なんでさ!」
「だって、こんな、なんて言っていいのか分からないけど多分重大なこと、自分の夫に話せないのよ? ダルと一緒になってたらいつでも話せたじゃない」
「な、なんだよそれ」
そう言いながらダルがホッとする。
仮にも一度はリルから求愛されてそれを断った身だけあって、ちょっとばかり構えてしまっても仕方のないことだろう。
「この場のことはこの場にいる者だけってことは、誰にも言うなってことよね」
「ああ、そうなるかな」
「誰がいた?」
「えっと、トーヤの方はうちの家族だろ、そんでベルとシャンタル」
「ってことはダルはご家族には話せるのよね」
なんとなくリルが恨めしそうに言う。
「いや、だってさ、今の俺の家族ってアミと子どもたちじゃない。そっちには話せないんだぜ?」
「あ、そうか、確かにそうね」
少しリルが気持ちを収めたようでダルがまたホッとする。
「ミーヤと一緒にいた若い方がハリオさんって方よね」
「ああ、ディレン船長のとこのハリオさんだよ」
実際にリルはハリオには会ってはいないので初顔合わせとなる。あの空間で、実際に直に会ったわけでもないのに会ったというのはなんとも不思議ではあったが。
「ちょっと冷静に話をしましょう」
リルがうーん、と難しい顔で目を閉じて言う。
「あの声は誰?」
「いや、俺にも分からない」
「トーヤが話しかけたら返事をしてた、ってことは、トーヤは知ってるのよ。というか、会ったこと? あの状態が会うってことか分からないけど、一応そうしておくわね。会ったことがあるみたいだったわ」
「うん」
「そしてフェイとこの子、アベル、アベルでいいわね。そう、アベルが光ってああなった」
「うん」
「ということは、次もまた光ったらああなる可能性があるわ」
「うん」
「うまくできてるわね」
「何が?」
「配分よ」
「配分?」
「そう」
リルはそう言ってじっと手の上の「アベル」と命名された木彫りの青い鳥を見る。
「私は今動けないじゃない? だからアベルと一緒にいるの」
「ああ」
「ダルはミーヤのところへ行けるでしょ。その時にはフェイがいる」
「そうだね」
「トーヤたちはダルの家にいる。きっと何かフェイやアベルみたいな何かがあるのよ」
「うん」
「あの声がまたみんなを集めようと思った時にうまく全員を集められるようになってるのよね」
リルは今は何があっても宮へは入れない。
ミーヤたちは今は宮から出られない。
トーヤたちはカースから動けない。
ダルだけは宮とリルのいるオーサ商会を行き来できる。
「今度はいつ光るのかしら、アベル。その時にはまた何か秘密を知ることになるのよね、きっと」
ダルもリルと一緒にアベルをじっと見つめた。
不思議な出来事があったのは昼過ぎだったが、夕方になってやっとトーヤがダルの部屋から出てきた。
「おいおい、大丈夫かよ、まだなんか顔色よくないぜ……」
ベルがトーヤを見て心配そうに言う。
「いや、大丈夫だ。いつものことだ。共鳴の後はこういうことになる」
「共鳴!」
聞いてはいた。トーヤから聞いてはいた。
「ってことは、おれたちもあれ、共鳴なのか?」
「分からん。分からんが、少なくとも俺のはそうみたいだな」
トーヤが忌々しそうに言う。かなりつらそうだ。
「もうちょい休んでたらどうだ?」
「いや、そうもいかん。やらんとあかんこともあるしな」
「やらんとあかんこと?」
「ああ、マユリアに会いに行かねえとな」
「え!」
「言われただろうが、会ってこいって」
「え、でも、でも」
確かにあの不思議な声はトーヤにマユリアに会いに行けと言っていた。
「大丈夫だ、方法は2つある」
「2つ?」
「ああ、けど1つは使えねえ」
「あ……」
言われてベルもその方法に思い当たる。
「ああ、それだ。けど、それでいくとキリエさんにばれる」
ラデルの工房から「お父上」として宮へ入る方法は使えない。
「そんじゃもう1つは?」
「決まってるだろうが」
トーヤがつらそうな中でもニヤリといたずらっぽく笑って見せる。
「強行突破だよ」
結局はその方法しかないのだ。
あの洞窟を通って聖なる森を抜け、奥宮へ入る。
「それしかないからな」
「おれも行くよ」
「だめだ」
トーヤがベルにきっぱりと言う。
「おまえはシャンタルと一緒にここで待ってろ。なあに、俺一人の方が小回りが聞くから大丈夫だ。マユリアに会って何が起こるのか分からんが、とにかく行って話を進めなきゃな。そうしたらまたあいつがみんなを集めて話の続きをするつもりだろうさ。だが今はこんな調子で無理だからな。明日だ、明日になったら行動に移す」
ベルは心配そうにトーヤを見つめるが、確かにそれしかないのが分かるので何も言えない。
シャンタルはそんな2人の会話をいつものように黙ってみつめていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる