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第三章 第ニ部 助け手の秘密
20 シャンタリオ
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「なんだって?」
トーヤは、その単語がまるで特別なものでもあるように、ゆっくりと聞き返した。
「シャンタリオだよ、トーヤも聞いたことはあんだろ?」
「ああ、まあな」
確かに名前だけは聞いたことがある。
慈悲の女神シャンタルを奉じている国だとか、女神がずっと長いこと生きて国を治めてるだとか、嘘か本当か分からないような話をちらちらと聞いたことがあるにはある。だが、そのどれもがおとぎ話のようで真実味がなく、どうせ眉唾、ちょっと行ったことある奴らが適当なことを言ってるんだろう、ぐらいの気持ちで聞き流していた。今までは特に興味を持ったこともなかった。
それが、さっき、なぜだかやたらと気になった。
ティクスはシャンタリオという単語にトーヤが反応したことに気を良くしたようだ。
「な、トーヤも気になるだろ? そこに行く船が出るって話なんだ。一応海賊船だけど、あっちの陶芸品とかを買い付けて戻ってくるのも目的だってんだ。だから、俺、乗ってみようかなと思って」
ティクスは焼き物職人だった。
そもそもが自分が志してのことではなく、単に父親が雇われの焼き物職人で、自然に父親について同じ工房に入った、それだけのことだったらしい。
父親は特にこれと言って特別の腕はなく、無難に、職業として、雇われの職人としては及第点、そのぐらいの職人だそうだ。
ティクスは父親よりは才能があるのか、根気のある地道な性格が幸いしたのか、そこそこ親方に見込まれている職人のようだった。父親も息子が自分を追い越して、いつか自分の工房でも持ってくれるのではないか、と期待しているともトーヤはティクス本人から聞いた。
元が大人しく地道な職人であるティクスを、先輩のそこそこの職人が妬み、ある時、町中で嫌がらせを受けているところを、そんな気はなかったのだが、たまたま通りがかったトーヤが助ける形になってしまい、それ以来なつかれ、トーヤが故郷にいるのを見つけると寄ってくる関係となったというわけだ。
「俺、そんな遠い国にって思う気持ちもあるんだけど、シャンタリオの焼き物見てみたいってのと、その船の船長が『死神』を連れてきたら連れてってやってもいい、そう言うんで、そんでトーヤと一緒だったら心強いし……なあ、だめかな?」
ティクスはネズミのようにおどおどと、トーヤにそう話した。
トーヤの心の中に不思議な衝動が湧き上がっていた。
――そこに行ってみたい――
不思議な懐かしさを感じると同時に、なぜだか無性にそんな気持ちになり、心がざわざわするのを感じた。
「へえ……」
だが、トーヤはそんな心の内を顔には出さず、相変わらずめんどくさそうな表情でティクスをちらっと見て、
「なーんでそんな遠い国までわざわざ行かなきゃいけねえんだよ、俺がさ」
と、その気がなさそうに答えた。
「だって、トーヤは傭兵として一流だし、強いし、そんでかっこいいしさ」
と、ティクスは憧れるようにトーヤに言う。
成り行きとはいえ助ける形になった時、あまり大きくもないトーヤが自分よりはるかに大きいティクスの先輩職人や、一緒になっていやがらせをしていた仲間をいとも簡単にふっとばしたところから、ティクスはすっかりトーヤに心酔してしまった。そしてその後でトーヤがそこそこ名のしれた傭兵であること、「死神」という通り名があることなどを知り、舎弟のようにくっついて回るようになったというわけだ。
「あのなあ、俺さまが強くてかっこいいってのは認めるけどよ、そうじゃなくて、なんでそんな遠くまでわざわざ行かねえといかねえのかって聞いてんだよ」
「うん、それなんだけどな」
ティクスの話をまとめると、話の始まりはたまたま聞いた話からだという。
ティクスはその日、出来上がった焼き物を港まで届けに行った。その先で、その焼物がシャンタリオまで届けられるという話を聞いたのだ。
「俺が作った焼き物がそんなに遠くまで行くのかと考えたらさ、なんだか居ても立っても居られないような気がして、そんで行ってみたいなあって言ったんだよ、そしたら相手がな、もう少ししたらあっち行く船知ってるって教えてくれたんだよ。それがその船なんだ」
それで話を聞きに行ったところ、なんと、それは海賊船であると分かった。だが、トーヤも知っているが、それはあまり大したことのない海賊船だ。商船がちょろっと途中で似たような船にちょっかいを出し、積み荷を増やす、その程度の船だ。
これまでにトーヤも何度かそういう船に乗ったことがある。真面目に商売をしているディレンの船とは違い少々荒っぽいことをする船なので、トーヤがそういう船に乗ると聞き、ディレンはいい顔をしなかったものだ。
面白半分、そしてそこそこ手取りがよかったことと、戦場よりはゆるい感じで暴れられること、それに何より半分はそうしてディレンに当てつけてやりたい、そういう気持ちがあったこともなんとなく自覚していた。
だが、そういうゆるい船とは言いながら、それほど遠くの国まで行くという話はあまり聞いたことはなかったし、何よりティクスは堅気の職人だ、そんな素人を乗せるというのがなんとなく気にいらないと思った。
トーヤは、その単語がまるで特別なものでもあるように、ゆっくりと聞き返した。
「シャンタリオだよ、トーヤも聞いたことはあんだろ?」
「ああ、まあな」
確かに名前だけは聞いたことがある。
慈悲の女神シャンタルを奉じている国だとか、女神がずっと長いこと生きて国を治めてるだとか、嘘か本当か分からないような話をちらちらと聞いたことがあるにはある。だが、そのどれもがおとぎ話のようで真実味がなく、どうせ眉唾、ちょっと行ったことある奴らが適当なことを言ってるんだろう、ぐらいの気持ちで聞き流していた。今までは特に興味を持ったこともなかった。
それが、さっき、なぜだかやたらと気になった。
ティクスはシャンタリオという単語にトーヤが反応したことに気を良くしたようだ。
「な、トーヤも気になるだろ? そこに行く船が出るって話なんだ。一応海賊船だけど、あっちの陶芸品とかを買い付けて戻ってくるのも目的だってんだ。だから、俺、乗ってみようかなと思って」
ティクスは焼き物職人だった。
そもそもが自分が志してのことではなく、単に父親が雇われの焼き物職人で、自然に父親について同じ工房に入った、それだけのことだったらしい。
父親は特にこれと言って特別の腕はなく、無難に、職業として、雇われの職人としては及第点、そのぐらいの職人だそうだ。
ティクスは父親よりは才能があるのか、根気のある地道な性格が幸いしたのか、そこそこ親方に見込まれている職人のようだった。父親も息子が自分を追い越して、いつか自分の工房でも持ってくれるのではないか、と期待しているともトーヤはティクス本人から聞いた。
元が大人しく地道な職人であるティクスを、先輩のそこそこの職人が妬み、ある時、町中で嫌がらせを受けているところを、そんな気はなかったのだが、たまたま通りがかったトーヤが助ける形になってしまい、それ以来なつかれ、トーヤが故郷にいるのを見つけると寄ってくる関係となったというわけだ。
「俺、そんな遠い国にって思う気持ちもあるんだけど、シャンタリオの焼き物見てみたいってのと、その船の船長が『死神』を連れてきたら連れてってやってもいい、そう言うんで、そんでトーヤと一緒だったら心強いし……なあ、だめかな?」
ティクスはネズミのようにおどおどと、トーヤにそう話した。
トーヤの心の中に不思議な衝動が湧き上がっていた。
――そこに行ってみたい――
不思議な懐かしさを感じると同時に、なぜだか無性にそんな気持ちになり、心がざわざわするのを感じた。
「へえ……」
だが、トーヤはそんな心の内を顔には出さず、相変わらずめんどくさそうな表情でティクスをちらっと見て、
「なーんでそんな遠い国までわざわざ行かなきゃいけねえんだよ、俺がさ」
と、その気がなさそうに答えた。
「だって、トーヤは傭兵として一流だし、強いし、そんでかっこいいしさ」
と、ティクスは憧れるようにトーヤに言う。
成り行きとはいえ助ける形になった時、あまり大きくもないトーヤが自分よりはるかに大きいティクスの先輩職人や、一緒になっていやがらせをしていた仲間をいとも簡単にふっとばしたところから、ティクスはすっかりトーヤに心酔してしまった。そしてその後でトーヤがそこそこ名のしれた傭兵であること、「死神」という通り名があることなどを知り、舎弟のようにくっついて回るようになったというわけだ。
「あのなあ、俺さまが強くてかっこいいってのは認めるけどよ、そうじゃなくて、なんでそんな遠くまでわざわざ行かねえといかねえのかって聞いてんだよ」
「うん、それなんだけどな」
ティクスの話をまとめると、話の始まりはたまたま聞いた話からだという。
ティクスはその日、出来上がった焼き物を港まで届けに行った。その先で、その焼物がシャンタリオまで届けられるという話を聞いたのだ。
「俺が作った焼き物がそんなに遠くまで行くのかと考えたらさ、なんだか居ても立っても居られないような気がして、そんで行ってみたいなあって言ったんだよ、そしたら相手がな、もう少ししたらあっち行く船知ってるって教えてくれたんだよ。それがその船なんだ」
それで話を聞きに行ったところ、なんと、それは海賊船であると分かった。だが、トーヤも知っているが、それはあまり大したことのない海賊船だ。商船がちょろっと途中で似たような船にちょっかいを出し、積み荷を増やす、その程度の船だ。
これまでにトーヤも何度かそういう船に乗ったことがある。真面目に商売をしているディレンの船とは違い少々荒っぽいことをする船なので、トーヤがそういう船に乗ると聞き、ディレンはいい顔をしなかったものだ。
面白半分、そしてそこそこ手取りがよかったことと、戦場よりはゆるい感じで暴れられること、それに何より半分はそうしてディレンに当てつけてやりたい、そういう気持ちがあったこともなんとなく自覚していた。
だが、そういうゆるい船とは言いながら、それほど遠くの国まで行くという話はあまり聞いたことはなかったし、何よりティクスは堅気の職人だ、そんな素人を乗せるというのがなんとなく気にいらないと思った。
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