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第三章 第ニ部 助け手の秘密
17 希望の種
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「もしかしたら、あの香もじゃない?」
シャンタルがトーヤにそう言い、
「そうなのか?」
トーヤがその言葉を合わせてもう一度尋ねる。
『その通りです』
見えない誰かの声が認めた。
『時がありません。今日はまず、トーヤがこちらに戻ってきたことについて話をいたしましょう』
「今日はってことは、今日だけじゃ終わらねえってことか?」
『その通りです』
柔らかい声に合わせて光が揺れる。
トーヤ以外のみなが、さっきまで一人騒いていたベルまで口を閉じ、その光に視線を合わせる。
一体どこから声がしているものか。
『それほどにわたくしの力は弱まっているのです』
「まあなんでもいいや、急ぐってのなら始めてくれ」
分かったというようにまた光が柔らかく瞬いた。
『今から千年前のこと、一度この世は変わる時を迎えておりました。ですが、それは叶わず、眠りに落ちることになりました』
トーヤはマユリアが語った千年前の託宣を思い出していた。
すると声が、それに応えるように託宣を歌った。
『黒のシャンタルは託宣をよく行い国を潤す』
『だがその力の強さ故に聖なる湖に沈まなければならない』
『黒のシャンタルを救えるのは助け手だけ』
『助け手は黒のシャンタルを救い世界をも救うだろう』
『だが黒のシャンタルが心を開かぬ時には助け手はそれを見捨てる』
『黒のシャンタルは永遠に湖の底で眠り世界もまた眠りの中に落ちるだろう』
今ここにいる者でトーヤと共にこれを聞いたのはミーヤとダルだけだ。
託宣に出てくる本人は聞いてはいたが、その時には自分の意思などなく、よそごとのようにマユリアとラーラ様の中から見ていただけ。そして他の者たちは突然の託宣にうろたえるばかり。
「そういやそんなこと言ってたよな、俺がこいつを助けなかったら、この世界は眠るって。それが千年前にもあったってことなのか」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「おっ、出たよ出たよ、お得意のやつ」
トーヤが茶化すようにそう言うと、また光が揺れた。
「そんじゃま、それは置いといてだな、俺がこっちに来たことってのの話でもしてもらおうか。俺も自分のことだし気になるからな」
『来たのではなく戻ったのです』
「それな」
トーヤが気に入らなさそうに顔をしかめる。
「ずうっと引っかかってるんだよ、それが。俺をここに呼んだ意味は何だ、一体何のために『助け手』なんてもんにした、そう聞いたら違う、っつったよな」
『おまえがここに来たのはおまえの意思です』
「それだよ」
トーヤが厳しい顔で誰かに向かって言う。
「あんたは俺とルークがここに戻ってきたって言うが、俺はここに来たのは嵐に流されたあの時が初めてだ。そう言ったが、なんかはぐらかされたみたいになって結局教えてもらえないまんまになっちまった。それを今日は教えてもらえるんだな」
『ええ、その通りです』
「おっ、はっきり返事したな」
トーヤは本気で驚いた。
これまでの3回の面談でこれほどはっきりと答えたことはなかった気がする。
「じゃあ始めてもらおうか。俺もちょっと黙って聞くことにするからさ」
トーヤは見えない床の上にあぐらをかいて座り、じっくりと聞く体勢をとった。
「ト、トーヤ」
誰もが言葉を発せない状態の中、ベルがトーヤに声をかけた。
「なんだ、って聞いてやりたいとこだがな、御大が時間がないっつーてるから、とりあえずおまえも黙って聞いとけ。他のやつらもな。俺は俺がここに来た意味をやっと聞けるところだ、黙って聞いててくれ」
そう言ってベルを黙らせ、他の者にも黙って聞くように頼むと、
「さて、始めてくれ」
あらためて見えない誰かにそう言った。
光が震え声が流れ始めた。
『二千年前、神が神の世界に戻る時、人の世界に残ったわたくしはこの神域を閉じました。それがこの神域を平和に守ることができる方法である、そう考えたからです』
『考えた通り、千年の間神域の平和は守られました。ですが千年前の出来事のため、世界は眠りの中に落ち、時が止まった結果、神域の空気は清らかに淀んでしまった』
『今から半世紀ほど前のこと、神域に風を呼ぶ必要を感じ、わたくしはこの地に咲くはずの命の種を世界へまくことにいたしました』
『その種が神域の外で芽を出し、この地へ戻りたい、その思いで戻る力でこの神域に風を吹かせるためでした。そのために残り少ない力を振り絞り、一握りの砂ほどの命の種を外の世界へと旅立たせたのです』
『その結果、2粒の種がこちらに向かって戻ってくるのを感じました。時を同じくして同じ船に乗ったトーヤとルークがその種です』
『ほぼ同時期に芽吹き、花を咲かせたトーヤとルークでしたが、1粒には最後の障壁を乗り越えることは叶わず、トーヤ1人だけがやっとこの地にたどり着いてくれたのです』
『わたくしは種をまいた時にほぼ力を失い、眠るに近い状態にありましたが、遠くから近づく命の輝きを感じ、喜びの中でその時を待っていました』
『そして助け手となったトーヤが目を覚ました時から、新しく時は動きだしたのです』
『ですが、それに抗う力が、今はわたくしより強くなった力が、それを留め、再びこの神域を眠りにつかせようとしているのです』
シャンタルがトーヤにそう言い、
「そうなのか?」
トーヤがその言葉を合わせてもう一度尋ねる。
『その通りです』
見えない誰かの声が認めた。
『時がありません。今日はまず、トーヤがこちらに戻ってきたことについて話をいたしましょう』
「今日はってことは、今日だけじゃ終わらねえってことか?」
『その通りです』
柔らかい声に合わせて光が揺れる。
トーヤ以外のみなが、さっきまで一人騒いていたベルまで口を閉じ、その光に視線を合わせる。
一体どこから声がしているものか。
『それほどにわたくしの力は弱まっているのです』
「まあなんでもいいや、急ぐってのなら始めてくれ」
分かったというようにまた光が柔らかく瞬いた。
『今から千年前のこと、一度この世は変わる時を迎えておりました。ですが、それは叶わず、眠りに落ちることになりました』
トーヤはマユリアが語った千年前の託宣を思い出していた。
すると声が、それに応えるように託宣を歌った。
『黒のシャンタルは託宣をよく行い国を潤す』
『だがその力の強さ故に聖なる湖に沈まなければならない』
『黒のシャンタルを救えるのは助け手だけ』
『助け手は黒のシャンタルを救い世界をも救うだろう』
『だが黒のシャンタルが心を開かぬ時には助け手はそれを見捨てる』
『黒のシャンタルは永遠に湖の底で眠り世界もまた眠りの中に落ちるだろう』
今ここにいる者でトーヤと共にこれを聞いたのはミーヤとダルだけだ。
託宣に出てくる本人は聞いてはいたが、その時には自分の意思などなく、よそごとのようにマユリアとラーラ様の中から見ていただけ。そして他の者たちは突然の託宣にうろたえるばかり。
「そういやそんなこと言ってたよな、俺がこいつを助けなかったら、この世界は眠るって。それが千年前にもあったってことなのか」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「おっ、出たよ出たよ、お得意のやつ」
トーヤが茶化すようにそう言うと、また光が揺れた。
「そんじゃま、それは置いといてだな、俺がこっちに来たことってのの話でもしてもらおうか。俺も自分のことだし気になるからな」
『来たのではなく戻ったのです』
「それな」
トーヤが気に入らなさそうに顔をしかめる。
「ずうっと引っかかってるんだよ、それが。俺をここに呼んだ意味は何だ、一体何のために『助け手』なんてもんにした、そう聞いたら違う、っつったよな」
『おまえがここに来たのはおまえの意思です』
「それだよ」
トーヤが厳しい顔で誰かに向かって言う。
「あんたは俺とルークがここに戻ってきたって言うが、俺はここに来たのは嵐に流されたあの時が初めてだ。そう言ったが、なんかはぐらかされたみたいになって結局教えてもらえないまんまになっちまった。それを今日は教えてもらえるんだな」
『ええ、その通りです』
「おっ、はっきり返事したな」
トーヤは本気で驚いた。
これまでの3回の面談でこれほどはっきりと答えたことはなかった気がする。
「じゃあ始めてもらおうか。俺もちょっと黙って聞くことにするからさ」
トーヤは見えない床の上にあぐらをかいて座り、じっくりと聞く体勢をとった。
「ト、トーヤ」
誰もが言葉を発せない状態の中、ベルがトーヤに声をかけた。
「なんだ、って聞いてやりたいとこだがな、御大が時間がないっつーてるから、とりあえずおまえも黙って聞いとけ。他のやつらもな。俺は俺がここに来た意味をやっと聞けるところだ、黙って聞いててくれ」
そう言ってベルを黙らせ、他の者にも黙って聞くように頼むと、
「さて、始めてくれ」
あらためて見えない誰かにそう言った。
光が震え声が流れ始めた。
『二千年前、神が神の世界に戻る時、人の世界に残ったわたくしはこの神域を閉じました。それがこの神域を平和に守ることができる方法である、そう考えたからです』
『考えた通り、千年の間神域の平和は守られました。ですが千年前の出来事のため、世界は眠りの中に落ち、時が止まった結果、神域の空気は清らかに淀んでしまった』
『今から半世紀ほど前のこと、神域に風を呼ぶ必要を感じ、わたくしはこの地に咲くはずの命の種を世界へまくことにいたしました』
『その種が神域の外で芽を出し、この地へ戻りたい、その思いで戻る力でこの神域に風を吹かせるためでした。そのために残り少ない力を振り絞り、一握りの砂ほどの命の種を外の世界へと旅立たせたのです』
『その結果、2粒の種がこちらに向かって戻ってくるのを感じました。時を同じくして同じ船に乗ったトーヤとルークがその種です』
『ほぼ同時期に芽吹き、花を咲かせたトーヤとルークでしたが、1粒には最後の障壁を乗り越えることは叶わず、トーヤ1人だけがやっとこの地にたどり着いてくれたのです』
『わたくしは種をまいた時にほぼ力を失い、眠るに近い状態にありましたが、遠くから近づく命の輝きを感じ、喜びの中でその時を待っていました』
『そして助け手となったトーヤが目を覚ました時から、新しく時は動きだしたのです』
『ですが、それに抗う力が、今はわたくしより強くなった力が、それを留め、再びこの神域を眠りにつかせようとしているのです』
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