182 / 488
第三章 第ニ部 助け手の秘密
17 希望の種
しおりを挟む
「もしかしたら、あの香もじゃない?」
シャンタルがトーヤにそう言い、
「そうなのか?」
トーヤがその言葉を合わせてもう一度尋ねる。
『その通りです』
見えない誰かの声が認めた。
『時がありません。今日はまず、トーヤがこちらに戻ってきたことについて話をいたしましょう』
「今日はってことは、今日だけじゃ終わらねえってことか?」
『その通りです』
柔らかい声に合わせて光が揺れる。
トーヤ以外のみなが、さっきまで一人騒いていたベルまで口を閉じ、その光に視線を合わせる。
一体どこから声がしているものか。
『それほどにわたくしの力は弱まっているのです』
「まあなんでもいいや、急ぐってのなら始めてくれ」
分かったというようにまた光が柔らかく瞬いた。
『今から千年前のこと、一度この世は変わる時を迎えておりました。ですが、それは叶わず、眠りに落ちることになりました』
トーヤはマユリアが語った千年前の託宣を思い出していた。
すると声が、それに応えるように託宣を歌った。
『黒のシャンタルは託宣をよく行い国を潤す』
『だがその力の強さ故に聖なる湖に沈まなければならない』
『黒のシャンタルを救えるのは助け手だけ』
『助け手は黒のシャンタルを救い世界をも救うだろう』
『だが黒のシャンタルが心を開かぬ時には助け手はそれを見捨てる』
『黒のシャンタルは永遠に湖の底で眠り世界もまた眠りの中に落ちるだろう』
今ここにいる者でトーヤと共にこれを聞いたのはミーヤとダルだけだ。
託宣に出てくる本人は聞いてはいたが、その時には自分の意思などなく、よそごとのようにマユリアとラーラ様の中から見ていただけ。そして他の者たちは突然の託宣にうろたえるばかり。
「そういやそんなこと言ってたよな、俺がこいつを助けなかったら、この世界は眠るって。それが千年前にもあったってことなのか」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「おっ、出たよ出たよ、お得意のやつ」
トーヤが茶化すようにそう言うと、また光が揺れた。
「そんじゃま、それは置いといてだな、俺がこっちに来たことってのの話でもしてもらおうか。俺も自分のことだし気になるからな」
『来たのではなく戻ったのです』
「それな」
トーヤが気に入らなさそうに顔をしかめる。
「ずうっと引っかかってるんだよ、それが。俺をここに呼んだ意味は何だ、一体何のために『助け手』なんてもんにした、そう聞いたら違う、っつったよな」
『おまえがここに来たのはおまえの意思です』
「それだよ」
トーヤが厳しい顔で誰かに向かって言う。
「あんたは俺とルークがここに戻ってきたって言うが、俺はここに来たのは嵐に流されたあの時が初めてだ。そう言ったが、なんかはぐらかされたみたいになって結局教えてもらえないまんまになっちまった。それを今日は教えてもらえるんだな」
『ええ、その通りです』
「おっ、はっきり返事したな」
トーヤは本気で驚いた。
これまでの3回の面談でこれほどはっきりと答えたことはなかった気がする。
「じゃあ始めてもらおうか。俺もちょっと黙って聞くことにするからさ」
トーヤは見えない床の上にあぐらをかいて座り、じっくりと聞く体勢をとった。
「ト、トーヤ」
誰もが言葉を発せない状態の中、ベルがトーヤに声をかけた。
「なんだ、って聞いてやりたいとこだがな、御大が時間がないっつーてるから、とりあえずおまえも黙って聞いとけ。他のやつらもな。俺は俺がここに来た意味をやっと聞けるところだ、黙って聞いててくれ」
そう言ってベルを黙らせ、他の者にも黙って聞くように頼むと、
「さて、始めてくれ」
あらためて見えない誰かにそう言った。
光が震え声が流れ始めた。
『二千年前、神が神の世界に戻る時、人の世界に残ったわたくしはこの神域を閉じました。それがこの神域を平和に守ることができる方法である、そう考えたからです』
『考えた通り、千年の間神域の平和は守られました。ですが千年前の出来事のため、世界は眠りの中に落ち、時が止まった結果、神域の空気は清らかに淀んでしまった』
『今から半世紀ほど前のこと、神域に風を呼ぶ必要を感じ、わたくしはこの地に咲くはずの命の種を世界へまくことにいたしました』
『その種が神域の外で芽を出し、この地へ戻りたい、その思いで戻る力でこの神域に風を吹かせるためでした。そのために残り少ない力を振り絞り、一握りの砂ほどの命の種を外の世界へと旅立たせたのです』
『その結果、2粒の種がこちらに向かって戻ってくるのを感じました。時を同じくして同じ船に乗ったトーヤとルークがその種です』
『ほぼ同時期に芽吹き、花を咲かせたトーヤとルークでしたが、1粒には最後の障壁を乗り越えることは叶わず、トーヤ1人だけがやっとこの地にたどり着いてくれたのです』
『わたくしは種をまいた時にほぼ力を失い、眠るに近い状態にありましたが、遠くから近づく命の輝きを感じ、喜びの中でその時を待っていました』
『そして助け手となったトーヤが目を覚ました時から、新しく時は動きだしたのです』
『ですが、それに抗う力が、今はわたくしより強くなった力が、それを留め、再びこの神域を眠りにつかせようとしているのです』
シャンタルがトーヤにそう言い、
「そうなのか?」
トーヤがその言葉を合わせてもう一度尋ねる。
『その通りです』
見えない誰かの声が認めた。
『時がありません。今日はまず、トーヤがこちらに戻ってきたことについて話をいたしましょう』
「今日はってことは、今日だけじゃ終わらねえってことか?」
『その通りです』
柔らかい声に合わせて光が揺れる。
トーヤ以外のみなが、さっきまで一人騒いていたベルまで口を閉じ、その光に視線を合わせる。
一体どこから声がしているものか。
『それほどにわたくしの力は弱まっているのです』
「まあなんでもいいや、急ぐってのなら始めてくれ」
分かったというようにまた光が柔らかく瞬いた。
『今から千年前のこと、一度この世は変わる時を迎えておりました。ですが、それは叶わず、眠りに落ちることになりました』
トーヤはマユリアが語った千年前の託宣を思い出していた。
すると声が、それに応えるように託宣を歌った。
『黒のシャンタルは託宣をよく行い国を潤す』
『だがその力の強さ故に聖なる湖に沈まなければならない』
『黒のシャンタルを救えるのは助け手だけ』
『助け手は黒のシャンタルを救い世界をも救うだろう』
『だが黒のシャンタルが心を開かぬ時には助け手はそれを見捨てる』
『黒のシャンタルは永遠に湖の底で眠り世界もまた眠りの中に落ちるだろう』
今ここにいる者でトーヤと共にこれを聞いたのはミーヤとダルだけだ。
託宣に出てくる本人は聞いてはいたが、その時には自分の意思などなく、よそごとのようにマユリアとラーラ様の中から見ていただけ。そして他の者たちは突然の託宣にうろたえるばかり。
「そういやそんなこと言ってたよな、俺がこいつを助けなかったら、この世界は眠るって。それが千年前にもあったってことなのか」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「おっ、出たよ出たよ、お得意のやつ」
トーヤが茶化すようにそう言うと、また光が揺れた。
「そんじゃま、それは置いといてだな、俺がこっちに来たことってのの話でもしてもらおうか。俺も自分のことだし気になるからな」
『来たのではなく戻ったのです』
「それな」
トーヤが気に入らなさそうに顔をしかめる。
「ずうっと引っかかってるんだよ、それが。俺をここに呼んだ意味は何だ、一体何のために『助け手』なんてもんにした、そう聞いたら違う、っつったよな」
『おまえがここに来たのはおまえの意思です』
「それだよ」
トーヤが厳しい顔で誰かに向かって言う。
「あんたは俺とルークがここに戻ってきたって言うが、俺はここに来たのは嵐に流されたあの時が初めてだ。そう言ったが、なんかはぐらかされたみたいになって結局教えてもらえないまんまになっちまった。それを今日は教えてもらえるんだな」
『ええ、その通りです』
「おっ、はっきり返事したな」
トーヤは本気で驚いた。
これまでの3回の面談でこれほどはっきりと答えたことはなかった気がする。
「じゃあ始めてもらおうか。俺もちょっと黙って聞くことにするからさ」
トーヤは見えない床の上にあぐらをかいて座り、じっくりと聞く体勢をとった。
「ト、トーヤ」
誰もが言葉を発せない状態の中、ベルがトーヤに声をかけた。
「なんだ、って聞いてやりたいとこだがな、御大が時間がないっつーてるから、とりあえずおまえも黙って聞いとけ。他のやつらもな。俺は俺がここに来た意味をやっと聞けるところだ、黙って聞いててくれ」
そう言ってベルを黙らせ、他の者にも黙って聞くように頼むと、
「さて、始めてくれ」
あらためて見えない誰かにそう言った。
光が震え声が流れ始めた。
『二千年前、神が神の世界に戻る時、人の世界に残ったわたくしはこの神域を閉じました。それがこの神域を平和に守ることができる方法である、そう考えたからです』
『考えた通り、千年の間神域の平和は守られました。ですが千年前の出来事のため、世界は眠りの中に落ち、時が止まった結果、神域の空気は清らかに淀んでしまった』
『今から半世紀ほど前のこと、神域に風を呼ぶ必要を感じ、わたくしはこの地に咲くはずの命の種を世界へまくことにいたしました』
『その種が神域の外で芽を出し、この地へ戻りたい、その思いで戻る力でこの神域に風を吹かせるためでした。そのために残り少ない力を振り絞り、一握りの砂ほどの命の種を外の世界へと旅立たせたのです』
『その結果、2粒の種がこちらに向かって戻ってくるのを感じました。時を同じくして同じ船に乗ったトーヤとルークがその種です』
『ほぼ同時期に芽吹き、花を咲かせたトーヤとルークでしたが、1粒には最後の障壁を乗り越えることは叶わず、トーヤ1人だけがやっとこの地にたどり着いてくれたのです』
『わたくしは種をまいた時にほぼ力を失い、眠るに近い状態にありましたが、遠くから近づく命の輝きを感じ、喜びの中でその時を待っていました』
『そして助け手となったトーヤが目を覚ました時から、新しく時は動きだしたのです』
『ですが、それに抗う力が、今はわたくしより強くなった力が、それを留め、再びこの神域を眠りにつかせようとしているのです』
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
亡国の草笛
うらたきよひこ
ファンタジー
兄を追い行き倒れた少年が拾われた先は……
大好きだった兄を追って家を出た少年エリッツは国の中心たる街につくや行き倒れてしまう。最後にすがりついた手は兄に似た大きな手のひらだった。その出会いからエリッツは国をゆるがす謀略に巻きこまれていく。
※BL要素を含むファンタジー小説です。苦手な方はご注意ください。

真実の愛のお相手に婚約者を譲ろうと頑張った結果、毎回のように戻ってくる件
さこの
恋愛
好きな人ができたんだ。
婚約者であるフェリクスが切々と語ってくる。
でもどうすれば振り向いてくれるか分からないんだ。なぜかいつも相談を受ける
プレゼントを渡したいんだ。
それならばこちらはいかがですか?王都で流行っていますよ?
甘いものが好きらしいんだよ
それならば次回のお茶会で、こちらのスイーツをお出ししましょう。

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

【完結】私のことが大好きな婚約者さま
咲雪
恋愛
私は、リアーナ・ムスカ侯爵令嬢。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの?
・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。
・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。
※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。
※ご都合展開ありです。

召喚勇者の餌として転生させられました
猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。
途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。
だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。
「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」
しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。
「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」
異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。
日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。
「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」
発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販!
日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。
便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。
※カクヨムにも掲載中です

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる