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第三章 第ニ部 助け手の秘密
6 お手紙
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『今日は少し寒かったのでもう1枚上着を着るようにとラーラ様がおっしゃいました。着る時には暑いのでのはないかしらと思ったのですが、その後でまだ寒くなったので、ラーラ様がおっしゃるように着て良かったなと思っています。アランは寒くはありませんか? 宮は広いので全体を温めるのは大変なのだとネイが言っていました。もしも寒かったら部屋付きの侍女によく言ってくださいね』
今日、アランの元に届いた当代シャンタルからの手紙はこんな言葉から始まっていた。
続きには他にもちょっとした疑問とか、アランに対する質問、そんなことが8歳の子どもらしからぬ美しい文字で書き綴られていた。
「相変わらずきれいな字だなあ」
アランは読み書きができる。トーヤが生きるのに必要だからと学ばせたのだ。
ただ、生活するのに必要なだけのことしかやっていないので、お世辞にも美しい文字とは言い難い。どちらかというと少年らしい文字だ。
こうして一生懸命書いただろう「お手紙」をもらうと、どうやって返事を書こうかと、アランもなんとなく心が沸き立つような感じがしていた。
『お手紙ありがとうございます。大丈夫ですよ、寒くはないです、とてもよくしてもらってます。俺は鍛えてますし、もっともっと寒い場所で寝ていたこともあるので大丈夫です。シャンタルも風邪をひかないように、ラーラ様や侍女の人の言うことをよく聞いてください』
そんな風に、考え考え、一生懸命に返事を書いている。
「楽しそうだな」
そんなアランに同室になったディレンが冷やかしながら声をかける。
「ええ、まあ、どうせやることもないし。それに、案外楽しいもんですね、手紙の返事を書くのって」
「書いたことなかったのか?」
「ないですね」
アランが言われて気がつく。
「仕事の書類とかに返事書くことはあっても、こんな手紙もらうのって本当に初めてですよ」
「そうなのか」
「ええ。戦場暮らしするようになってからは、手紙を出したりもらったりするような相手、全くいませんでしたからね」
「そういやそうだな」
「だからまあ、楽しいですよ」
アランがシャンタルへのお手紙用にもらった便箋をにらみながら、真面目に考えながらそう返事をし、その姿にまたディレンが微笑ましそうに笑った。
そんな時間を過ごしていると、誰かが扉を叩いた。
「失礼します」
当番の衛士がそう言って部屋に入ってきたので、アランもディレンも顔を見合わせた。
これまでは誰かが入ってくる時は、
「入るぞ」
と、そう声をかけてから入ってきていた。それがどうしてこんな丁寧に。
「失礼します」
衛士の後ろから続いてルギがそう声をかけて入ってきたもので、二人でさらに顔を見合わせる。
「これまで色々ご助力いただきありがとうございます。ご不自由な生活をされたことでしょうが、今日からは元通り、宮の客人として扱わせていただきます。ご協力感謝いたします」
ルギが丁寧に正式の礼をするのにますます驚きはしたものの、二人共そのあたりは話を合わせていた方がいいだろうと即時に判断したようで、軽くうなずき合うだけにしておいた。
「では、部屋をお移りいただきます。それから、理由を御存知ないハリオ殿も後ほど部屋へお連れいたします。まだしばらくは宮にご滞在いただくと思いますので、そのご説明もお願いできればありがたいです」
なるほど、自分たちの拘束は「なんらかの理由での演技」だったということか、と2人は理解した。
「分かりました、そちらも色々とご苦労さまでした」
ディレンが丁寧にルギに返す。
「では行きましょうか」
「あ、ちょっと待って」
アランが急いで書きかけの「お返事」をまとめる。
「はい、どうぞ」
「では」
2人が案内されたのは、エリス様の部屋の隣にある、同じ間取りを持つ部屋であった。
「しばらくは3人でお過ごしいただくと思いますので、こちらで」
「ありがとうございます」
「おい」
「はい」
ルギが一緒に2人を案内してきた若い衛士に声をかける。
「ハリオ殿に事情を説明してこちらにお呼びしてきてくれ。驚かれるだろから、少し丁寧に説明をな」
「はい、了解いたしました!」
衛士が部屋から出ていくと、
「簡単に説明だけさせてもらう」
と、ルギがハリオが来るまでの間にとかいつまんで説明をする。
「なるほど、そういうことにしちゃったってことですね」
「そうだ」
「まあいいや、こっちは動きやすくなるし」
「それで、この後は俺たちはどうしたらいいんでしょう」
ディレンがルギに尋ねる。
「ハリオもこの部屋に来たらうかつな話はできなくなりますよ」
「その時にはなんとか理由をつけて2人か、もしくは1人を呼んで話をする」
「それしかないでしょうね、やれやれ、なんか八年前のトーヤの苦労が分かったような気がするな」
まだリルに何も知らせていなかった時、そうやって秘密の話をしていたと聞いたのを思い出す。
「そんで、アーダさんにもそうだったしなあ」
「そうだったな」
秘密を知らせるわけにはいかないが、仲間はずれにもしてはいけないと気をつかっていた時期を思い出す。
「部屋の世話役はまたアーダに頼むことになった」
「分かりました」
事の流れからもそれが妥当だろう。
今日、アランの元に届いた当代シャンタルからの手紙はこんな言葉から始まっていた。
続きには他にもちょっとした疑問とか、アランに対する質問、そんなことが8歳の子どもらしからぬ美しい文字で書き綴られていた。
「相変わらずきれいな字だなあ」
アランは読み書きができる。トーヤが生きるのに必要だからと学ばせたのだ。
ただ、生活するのに必要なだけのことしかやっていないので、お世辞にも美しい文字とは言い難い。どちらかというと少年らしい文字だ。
こうして一生懸命書いただろう「お手紙」をもらうと、どうやって返事を書こうかと、アランもなんとなく心が沸き立つような感じがしていた。
『お手紙ありがとうございます。大丈夫ですよ、寒くはないです、とてもよくしてもらってます。俺は鍛えてますし、もっともっと寒い場所で寝ていたこともあるので大丈夫です。シャンタルも風邪をひかないように、ラーラ様や侍女の人の言うことをよく聞いてください』
そんな風に、考え考え、一生懸命に返事を書いている。
「楽しそうだな」
そんなアランに同室になったディレンが冷やかしながら声をかける。
「ええ、まあ、どうせやることもないし。それに、案外楽しいもんですね、手紙の返事を書くのって」
「書いたことなかったのか?」
「ないですね」
アランが言われて気がつく。
「仕事の書類とかに返事書くことはあっても、こんな手紙もらうのって本当に初めてですよ」
「そうなのか」
「ええ。戦場暮らしするようになってからは、手紙を出したりもらったりするような相手、全くいませんでしたからね」
「そういやそうだな」
「だからまあ、楽しいですよ」
アランがシャンタルへのお手紙用にもらった便箋をにらみながら、真面目に考えながらそう返事をし、その姿にまたディレンが微笑ましそうに笑った。
そんな時間を過ごしていると、誰かが扉を叩いた。
「失礼します」
当番の衛士がそう言って部屋に入ってきたので、アランもディレンも顔を見合わせた。
これまでは誰かが入ってくる時は、
「入るぞ」
と、そう声をかけてから入ってきていた。それがどうしてこんな丁寧に。
「失礼します」
衛士の後ろから続いてルギがそう声をかけて入ってきたもので、二人でさらに顔を見合わせる。
「これまで色々ご助力いただきありがとうございます。ご不自由な生活をされたことでしょうが、今日からは元通り、宮の客人として扱わせていただきます。ご協力感謝いたします」
ルギが丁寧に正式の礼をするのにますます驚きはしたものの、二人共そのあたりは話を合わせていた方がいいだろうと即時に判断したようで、軽くうなずき合うだけにしておいた。
「では、部屋をお移りいただきます。それから、理由を御存知ないハリオ殿も後ほど部屋へお連れいたします。まだしばらくは宮にご滞在いただくと思いますので、そのご説明もお願いできればありがたいです」
なるほど、自分たちの拘束は「なんらかの理由での演技」だったということか、と2人は理解した。
「分かりました、そちらも色々とご苦労さまでした」
ディレンが丁寧にルギに返す。
「では行きましょうか」
「あ、ちょっと待って」
アランが急いで書きかけの「お返事」をまとめる。
「はい、どうぞ」
「では」
2人が案内されたのは、エリス様の部屋の隣にある、同じ間取りを持つ部屋であった。
「しばらくは3人でお過ごしいただくと思いますので、こちらで」
「ありがとうございます」
「おい」
「はい」
ルギが一緒に2人を案内してきた若い衛士に声をかける。
「ハリオ殿に事情を説明してこちらにお呼びしてきてくれ。驚かれるだろから、少し丁寧に説明をな」
「はい、了解いたしました!」
衛士が部屋から出ていくと、
「簡単に説明だけさせてもらう」
と、ルギがハリオが来るまでの間にとかいつまんで説明をする。
「なるほど、そういうことにしちゃったってことですね」
「そうだ」
「まあいいや、こっちは動きやすくなるし」
「それで、この後は俺たちはどうしたらいいんでしょう」
ディレンがルギに尋ねる。
「ハリオもこの部屋に来たらうかつな話はできなくなりますよ」
「その時にはなんとか理由をつけて2人か、もしくは1人を呼んで話をする」
「それしかないでしょうね、やれやれ、なんか八年前のトーヤの苦労が分かったような気がするな」
まだリルに何も知らせていなかった時、そうやって秘密の話をしていたと聞いたのを思い出す。
「そんで、アーダさんにもそうだったしなあ」
「そうだったな」
秘密を知らせるわけにはいかないが、仲間はずれにもしてはいけないと気をつかっていた時期を思い出す。
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事の流れからもそれが妥当だろう。
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