黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

文字の大きさ
上 下
161 / 488
第三章 第一部 カースより始まる

16 割り込み

しおりを挟む
「ルギもあの洞窟のことを知ってるってのは分かったよ。そんで、あたしらにもそれを知ってどうしろって言うんだい?」

 ナスタの言葉にトーヤがふっと顔を上げた。

「ああ、それだったよな」

 ルギの動きのことは今考えてもどうなることでもない。

(今はとりあえず、マユリアがあそこをどうしろと言わない、それを前提に考えるしかない)

「で、話はどこまでいったっけかな?」
「うん、交代にその」
 
 ダリオが一瞬だけ言葉を止めて、

「その、そこのシャンタルを、それに割り込ませるってそこまで聞いた」
「そうだったな」

 そうだ、交代の後のことを伝えるのに洞窟の話をしたのだった。

「最初の予定では、宮に潜り込んでおいて、さっと交代済ませてさっとあそこを通って逃げる予定だった。けど、今はここに、カースにいることになっちまってるからな。だから、交代の日までにもう一度宮へ行かなきゃなんねえ」
「それなんだけどね、なんで割り込ませるなんてことしなくちゃいけないんだい?」

 ナスタが素直に疑問を口にした。

「それな」

 トーヤが少しいたずらっぽく笑って続ける。

「こいつの中にまだ神様が残ってるからだよ」
「ええっ!」

 そりゃびっくりするわな、とベルが心の中で思う。

「え、だって、交代は終わって、そんで次代様が今のシャンタルになられて、そんで、そんで」
「兄貴、ちょい落ち着いて聞いてくれ」

 動揺するダリオにトーヤが声をかけて落ち着かせる。

「そのへんを説明するから、まあ落ち着けって」

 まだいたずらっぽい顔のままのトーヤを見て、ベルがしょうがないな、という風にハッと息を吐いた。
 あの時、その話を聞いた時に自分があれだけ驚いたこと、それがトーヤを面白がらせていたんだろうな、そう思うとなんとなくムッとしたからだ。

「ん? なんだよ?」
「なんでもねえよ」

 ベルが不服そうな顔をしてるのに気がついてトーヤが声をかけるが、今は話を進めるのが先だ。
 いつもだったら何かつっこんで話がそれてもアランが止めてくれていたが、今はいない。

(おれが我慢するしかねえだろうが、こんなガキみてえなおっさん相手によ!)

 ベルがそう考えながらも口をつぐむと、

「ベルはいつもいい子だよね」

 そう言ってシャンタルが笑いながら、よしよし、と頭を撫でた。

「なんだよ、おまえら」
「なんでもねえよ! いいからとっとと話を進めろって!」
「うん? そ、そうか、まあそうするけどよ」

 トーヤもいつもとちょっと違う話の流れに少しばかり戸惑いを感じる。

「まあな、まだこいつん中に神様が残ってるんだよ」
「でも交代の儀式は終わったんだろ?」
「そうなんだけどな、その後をよく思い出してくれよ」
「その後って、その翌日、マユリアとの交代の前に先代は亡くなられて、それでマユリアがそのまま続けて残られるって話だった」

 妻と子に変わって今度はサディがトーヤと話をする。

「うん、それなんだけど、なんでマユリアが残った?」
「そりゃおまえ、次のマユリアになるはずの方が亡くなった、と俺らは聞いてたからな」
「うん、けど、実際は生きてた。生きてこの国から出た。ってことは?」
「ことは?」

 言われてもサディにはピンとこないようだ。

「マユリアの交代ってのはな、今度はこいつの中にマユリアの中の女神マユリアを移すってことなんだよ」
「あ、ああ、そうなんだろうな」
「そのことをな、マユリアやラーラ様はこう言ってた。ずっと続いてきた糸を受け渡すんだって」
「糸?」
「なんか、俺にもよく分からんが、そうやって受け取った糸を次に渡して、そんでずっとつながってるらしい」
「つながってる」
「そうか、言われてみりゃそういうことになるのかな」

 ダリオがなんとなくつながるという意味を分かったようだ。

「そうそう。この村だってじいさんがいて、親父さんがいて、そんで兄貴たちやダルがいるだろ? 親子って関係でつながってるけど、シャンタルやマユリアは女神様が持ってるその糸を次のやつに渡すことでつながってるってことらしい」
「なるほど」

 サディにもやっとなんとなく理解できたようだ。

「で、本当なら、こいつがマユリアの糸を受け取った後、マユリアはその糸を離して人に戻ってたはずだった。けど、それができなかっただろ?」
「そうなるな」
「ってことは、糸の端はどうなってる?」
「糸の端……」

 すぐには返事ができずダルの家族たちは少し黙って考える。

「つまりあれかい」

 ナスタがやっと続けた。

「その糸の端っての、そこのシャンタルもまだ握ってるってことになるのかい?」
「ご明答」

 トーヤがパチパチと手を叩いて称える。

「で、マユリアはまだマユリアの糸を持ったまま、まだ誰にも渡してないってことなんだね?」
「そういうこと」
「だから、間にそこのシャンタルを割り込ませて、マユリアの糸を受け取った後、シャンタルの糸を離さないときちんと交代ができなくなるってことか」
「そうそう、そうなんだよ」

 うんうん、と頷いた後、

「もしもマユリアの交代を済ませた後でこいつが死んだことにしたら、この国にはマユリアがいなくなっちまってたからな。だから仕方がなかったんだ」

 そう言ってトーヤがまとめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

フォルトゥナ・フォーチュン

kawa.kei
ファンタジー
ガチャ――コロコロコロ……

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...