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第三章 第一部 カースより始まる

15 カースと洞窟

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「ずっと、長い間、みんな、なぜあんなものがあるのかと不思議には思っておったんじゃが……」

 村長がそう言って言葉を失う。

「あの洞窟は、ずっとずっと昔のシャンタルの託宣たくせんで掘られたものだそうだ」
「え?」
「宮で聞いたんだ」
「宮はあの洞窟のことをご存知だったのか?」
「ああ、一部の人間、いや、神様含む、か、だけだけどな」

 トーヤが冗談口を交えてそう言う。
 だが今回は誰も笑う者がない。

「どなたがご存知じゃ」
「えっとだな、まずマユリアだな」
 
 真面目に答えるしかないだろう。

「それから、侍女頭のキリエさん、そしてシャンタル付き侍女のネイさん、タリアさん、そしてラーラ様だ」
「ラーラ様? それってここに来られてた侍女の方かい?」
「ああ、そうだ。あの方、ラーラ様はマユリアの前のシャンタル、つまり、今から見ると3代前のシャンタルなんだよ」
「ええっ!」
「はあ?」
「なんだよそれ!」
「…………」

 ナスタの問いにトーヤがこともなげにそう答えると、ナスタ、サディ、ダリオが驚いて声を上げ、村長は黙って受け止めてはいるが、なんとも言えない表情になっている。
 ディナ一人が何も反応せずにいつもと変わらない。

「ばあちゃんは、知ってたのかい?」
「ああ、ダルから聞いてね。すまなかったね、黙っていて」

 昨夜、村長がこう言っていた。

『その意味ではわしもディナもダルと同罪か』

 その通りであった。

「なんてこった、ねえ……」

 ナスタが困った顔で左手を左頬に当ててほおっと息を吐いた。

「まあ、終わってしまったことはしょうがない。そんで、あの洞窟をどうしろってんだい?」
「さすがおふくろさん、話が早いや」

 トーヤがうれしそうにニンマリと笑う。

「俺らが今回やろうと思ってること、やらないといけないことを聞いといてほしい」
「うん、なんだい」
「まずは交代をうまくいかせる。シャンタルが次代様にシャンタルを継承させて、その次だ問題は。こいつを、黒のシャンタルを間に割り込ませる」

 みんな黙って聞いている。

「そのために宮に潜り込んでる方がいいと思ってたんだが、まあ逃げることになっちまったからな。だから、交代の時にあそこを通ってまた宮へ入る」
「それ、大丈夫なのかい?」
「さあなあ、やってみないとって、あっ! もう一人忘れてたわ、ルギも知ってる」
「なにがだよ!」

 ナスタに答えていたトーヤがいきなり大きな声を出したもので、つられるようにダリオも大きな声で聞く。

「あの洞窟だよ」
「ああ」

 言われてダリオにも意味が通じて納得したようだ。

「そうか、ルギってうちの村の人間だもんな、元々は」
「ダリオの兄貴は気がついてたのか?」
「ダナン兄貴がルギと年も一緒だし、小さい頃は仲良くしてたからな」
「そうなのか」
「ああ。俺より1つ上で、他のやつらも一緒になって悪いこととかも一緒にやってたからなあ」
「その頃からあんな仏頂面の無愛想だったのか?」
「いや、その頃はそんなでもなかったぞ、普通だった」
「なんか、想像できねえな」
「ルギがあんななったのは、まああれだ、家族があんなことになってからだな」
「そうか」

 ルギが12歳の時、父親、2人の兄、そして父親の弟である叔父を同時に海で亡くし、その結果、ルギは「忌むべき者」となって母親と二人で村を出されることになったのだ。

「どうしてるのかと気にはしてたけど、俺らにはどこに行ったかも教えられてなかったし、しばらくしてからだよ、ルギのおふくろさんも亡くなって、ルギがいなくなったって聞いたのは」
「そうか」
「それで、俺らで交代でルギの家の手入れをしてた。なんたってガキの頃の仲間だったしな。いつか戻ってきてほしい、いつか戻るだろうからその日のためにって」
「そうか」

 トーヤはダリオたちの気持ちをうれしいと思った。
 ルギはトーヤにとっては天敵、気に食わないやつだとは思っているが、それでもルギという人間を認めてはいる。絶望を味わって自暴自棄であの洞窟を駆け抜けて宮へ行ってしまったこと、そこで生きる道を定めてマユリアに仕え続けていること、トーヤにも理解できる、どこかで似たところがあると思わないでもなかった。
 そんなルギを思って家の手入れをし、戻ってくる日を待っていてくれた人がいたことが、ディレンが自分を探していてくれたこと、そしてカースの人たちが自分を待っていてくれたことと重なって、感謝の気持ちがわいていた。

「ありがとうな」
「へ?」
「嫌、なんでもない。まあな、誰だってあんななるよな、そういうことがあったんなら。まあ、そういうことで、当然ルギも知ってるんだが、ルギは、マユリアが命じない限りあそこを人に知らせることはないだろうし、入るのを邪魔することもないと思う」
「そうか、なら安心だね」
「そうだな」

 ナスタとダリオがホッとしたようにそう言うが、トーヤの考えは少し違っている。

 確かにルギはマユリアのめいがなければあそこをどうこうとは考えないだろう。
 だがマユリアの命があったら? 言うまでもないことだ。

「あいつはマユリアの命は絶対だからな」

 もう一度そう言い添えたトーヤの発言に、ベルは何かを感じたようだ。
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