160 / 488
第三章 第一部 カースより始まる
15 カースと洞窟
しおりを挟む
「ずっと、長い間、みんな、なぜあんなものがあるのかと不思議には思っておったんじゃが……」
村長がそう言って言葉を失う。
「あの洞窟は、ずっとずっと昔のシャンタルの託宣で掘られたものだそうだ」
「え?」
「宮で聞いたんだ」
「宮はあの洞窟のことをご存知だったのか?」
「ああ、一部の人間、いや、神様含む、か、だけだけどな」
トーヤが冗談口を交えてそう言う。
だが今回は誰も笑う者がない。
「どなたがご存知じゃ」
「えっとだな、まずマユリアだな」
真面目に答えるしかないだろう。
「それから、侍女頭のキリエさん、そしてシャンタル付き侍女のネイさん、タリアさん、そしてラーラ様だ」
「ラーラ様? それってここに来られてた侍女の方かい?」
「ああ、そうだ。あの方、ラーラ様はマユリアの前のシャンタル、つまり、今から見ると3代前のシャンタルなんだよ」
「ええっ!」
「はあ?」
「なんだよそれ!」
「…………」
ナスタの問いにトーヤがこともなげにそう答えると、ナスタ、サディ、ダリオが驚いて声を上げ、村長は黙って受け止めてはいるが、なんとも言えない表情になっている。
ディナ一人が何も反応せずにいつもと変わらない。
「ばあちゃんは、知ってたのかい?」
「ああ、ダルから聞いてね。すまなかったね、黙っていて」
昨夜、村長がこう言っていた。
『その意味ではわしもディナもダルと同罪か』
その通りであった。
「なんてこった、ねえ……」
ナスタが困った顔で左手を左頬に当ててほおっと息を吐いた。
「まあ、終わってしまったことはしょうがない。そんで、あの洞窟をどうしろってんだい?」
「さすがおふくろさん、話が早いや」
トーヤがうれしそうにニンマリと笑う。
「俺らが今回やろうと思ってること、やらないといけないことを聞いといてほしい」
「うん、なんだい」
「まずは交代をうまくいかせる。シャンタルが次代様にシャンタルを継承させて、その次だ問題は。こいつを、黒のシャンタルを間に割り込ませる」
みんな黙って聞いている。
「そのために宮に潜り込んでる方がいいと思ってたんだが、まあ逃げることになっちまったからな。だから、交代の時にあそこを通ってまた宮へ入る」
「それ、大丈夫なのかい?」
「さあなあ、やってみないとって、あっ! もう一人忘れてたわ、ルギも知ってる」
「なにがだよ!」
ナスタに答えていたトーヤがいきなり大きな声を出したもので、つられるようにダリオも大きな声で聞く。
「あの洞窟だよ」
「ああ」
言われてダリオにも意味が通じて納得したようだ。
「そうか、ルギってうちの村の人間だもんな、元々は」
「ダリオの兄貴は気がついてたのか?」
「ダナン兄貴がルギと年も一緒だし、小さい頃は仲良くしてたからな」
「そうなのか」
「ああ。俺より1つ上で、他のやつらも一緒になって悪いこととかも一緒にやってたからなあ」
「その頃からあんな仏頂面の無愛想だったのか?」
「いや、その頃はそんなでもなかったぞ、普通だった」
「なんか、想像できねえな」
「ルギがあんななったのは、まああれだ、家族があんなことになってからだな」
「そうか」
ルギが12歳の時、父親、2人の兄、そして父親の弟である叔父を同時に海で亡くし、その結果、ルギは「忌むべき者」となって母親と二人で村を出されることになったのだ。
「どうしてるのかと気にはしてたけど、俺らにはどこに行ったかも教えられてなかったし、しばらくしてからだよ、ルギのおふくろさんも亡くなって、ルギがいなくなったって聞いたのは」
「そうか」
「それで、俺らで交代でルギの家の手入れをしてた。なんたってガキの頃の仲間だったしな。いつか戻ってきてほしい、いつか戻るだろうからその日のためにって」
「そうか」
トーヤはダリオたちの気持ちをうれしいと思った。
ルギはトーヤにとっては天敵、気に食わないやつだとは思っているが、それでもルギという人間を認めてはいる。絶望を味わって自暴自棄であの洞窟を駆け抜けて宮へ行ってしまったこと、そこで生きる道を定めてマユリアに仕え続けていること、トーヤにも理解できる、どこかで似たところがあると思わないでもなかった。
そんなルギを思って家の手入れをし、戻ってくる日を待っていてくれた人がいたことが、ディレンが自分を探していてくれたこと、そしてカースの人たちが自分を待っていてくれたことと重なって、感謝の気持ちがわいていた。
「ありがとうな」
「へ?」
「嫌、なんでもない。まあな、誰だってあんななるよな、そういうことがあったんなら。まあ、そういうことで、当然ルギも知ってるんだが、ルギは、マユリアが命じない限りあそこを人に知らせることはないだろうし、入るのを邪魔することもないと思う」
「そうか、なら安心だね」
「そうだな」
ナスタとダリオがホッとしたようにそう言うが、トーヤの考えは少し違っている。
確かにルギはマユリアの命がなければあそこをどうこうとは考えないだろう。
だがマユリアの命があったら? 言うまでもないことだ。
「あいつはマユリアの命は絶対だからな」
もう一度そう言い添えたトーヤの発言に、ベルは何かを感じたようだ。
村長がそう言って言葉を失う。
「あの洞窟は、ずっとずっと昔のシャンタルの託宣で掘られたものだそうだ」
「え?」
「宮で聞いたんだ」
「宮はあの洞窟のことをご存知だったのか?」
「ああ、一部の人間、いや、神様含む、か、だけだけどな」
トーヤが冗談口を交えてそう言う。
だが今回は誰も笑う者がない。
「どなたがご存知じゃ」
「えっとだな、まずマユリアだな」
真面目に答えるしかないだろう。
「それから、侍女頭のキリエさん、そしてシャンタル付き侍女のネイさん、タリアさん、そしてラーラ様だ」
「ラーラ様? それってここに来られてた侍女の方かい?」
「ああ、そうだ。あの方、ラーラ様はマユリアの前のシャンタル、つまり、今から見ると3代前のシャンタルなんだよ」
「ええっ!」
「はあ?」
「なんだよそれ!」
「…………」
ナスタの問いにトーヤがこともなげにそう答えると、ナスタ、サディ、ダリオが驚いて声を上げ、村長は黙って受け止めてはいるが、なんとも言えない表情になっている。
ディナ一人が何も反応せずにいつもと変わらない。
「ばあちゃんは、知ってたのかい?」
「ああ、ダルから聞いてね。すまなかったね、黙っていて」
昨夜、村長がこう言っていた。
『その意味ではわしもディナもダルと同罪か』
その通りであった。
「なんてこった、ねえ……」
ナスタが困った顔で左手を左頬に当ててほおっと息を吐いた。
「まあ、終わってしまったことはしょうがない。そんで、あの洞窟をどうしろってんだい?」
「さすがおふくろさん、話が早いや」
トーヤがうれしそうにニンマリと笑う。
「俺らが今回やろうと思ってること、やらないといけないことを聞いといてほしい」
「うん、なんだい」
「まずは交代をうまくいかせる。シャンタルが次代様にシャンタルを継承させて、その次だ問題は。こいつを、黒のシャンタルを間に割り込ませる」
みんな黙って聞いている。
「そのために宮に潜り込んでる方がいいと思ってたんだが、まあ逃げることになっちまったからな。だから、交代の時にあそこを通ってまた宮へ入る」
「それ、大丈夫なのかい?」
「さあなあ、やってみないとって、あっ! もう一人忘れてたわ、ルギも知ってる」
「なにがだよ!」
ナスタに答えていたトーヤがいきなり大きな声を出したもので、つられるようにダリオも大きな声で聞く。
「あの洞窟だよ」
「ああ」
言われてダリオにも意味が通じて納得したようだ。
「そうか、ルギってうちの村の人間だもんな、元々は」
「ダリオの兄貴は気がついてたのか?」
「ダナン兄貴がルギと年も一緒だし、小さい頃は仲良くしてたからな」
「そうなのか」
「ああ。俺より1つ上で、他のやつらも一緒になって悪いこととかも一緒にやってたからなあ」
「その頃からあんな仏頂面の無愛想だったのか?」
「いや、その頃はそんなでもなかったぞ、普通だった」
「なんか、想像できねえな」
「ルギがあんななったのは、まああれだ、家族があんなことになってからだな」
「そうか」
ルギが12歳の時、父親、2人の兄、そして父親の弟である叔父を同時に海で亡くし、その結果、ルギは「忌むべき者」となって母親と二人で村を出されることになったのだ。
「どうしてるのかと気にはしてたけど、俺らにはどこに行ったかも教えられてなかったし、しばらくしてからだよ、ルギのおふくろさんも亡くなって、ルギがいなくなったって聞いたのは」
「そうか」
「それで、俺らで交代でルギの家の手入れをしてた。なんたってガキの頃の仲間だったしな。いつか戻ってきてほしい、いつか戻るだろうからその日のためにって」
「そうか」
トーヤはダリオたちの気持ちをうれしいと思った。
ルギはトーヤにとっては天敵、気に食わないやつだとは思っているが、それでもルギという人間を認めてはいる。絶望を味わって自暴自棄であの洞窟を駆け抜けて宮へ行ってしまったこと、そこで生きる道を定めてマユリアに仕え続けていること、トーヤにも理解できる、どこかで似たところがあると思わないでもなかった。
そんなルギを思って家の手入れをし、戻ってくる日を待っていてくれた人がいたことが、ディレンが自分を探していてくれたこと、そしてカースの人たちが自分を待っていてくれたことと重なって、感謝の気持ちがわいていた。
「ありがとうな」
「へ?」
「嫌、なんでもない。まあな、誰だってあんななるよな、そういうことがあったんなら。まあ、そういうことで、当然ルギも知ってるんだが、ルギは、マユリアが命じない限りあそこを人に知らせることはないだろうし、入るのを邪魔することもないと思う」
「そうか、なら安心だね」
「そうだな」
ナスタとダリオがホッとしたようにそう言うが、トーヤの考えは少し違っている。
確かにルギはマユリアの命がなければあそこをどうこうとは考えないだろう。
だがマユリアの命があったら? 言うまでもないことだ。
「あいつはマユリアの命は絶対だからな」
もう一度そう言い添えたトーヤの発言に、ベルは何かを感じたようだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。


三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる