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第三章 第一部 カースより始まる
13 もう一度集まる
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「と、その前に、あの、アベルのお師匠様、あなたはアベルたちと一体どういう関係なんですか?」
リルが顔の向きをダルからラデルに移動してそう尋ねる。
「アベルから色々と話は聞いたんですが、結局どういう方かは教えてもらえなかったんです。ですから、この先ダルも私も、何をどの程度話せばいいのか分からないもので」
「いや、おっしゃる通りです」
ラデルが申し訳無さそうに頭を下げる。
「私がどういう人間かは、おそらくまだ言わない方がいいでしょうね」
「そうなんですか?」
「はい、おそらく」
「分かりました」
リルがそう言うと、ラデルがほおっと小さく感心するように、
「それで納得されたんですか?」
と、確認する。
「以前の私だったらどういう人なんですかって知りたがったと思います」
リルが少し笑いながら続ける。
「でも、私は、そして多分ダルも、あの出来事の後、必要なことならば知ることになる、そう考えるようになったと思います」
「うん、知りたくても知りたくなくても、必要ならそうなるってこと、なんだか知ってしまいました」
「そう、時が満ちるのよね」
「だったよな」
「そうなんですか」
ラデルがリルとダルに少し微笑みながらそう一言だけ答えた。
「ええ、そうなんです。なんですが、こちらからはラデルさんがどの程度のことをどうご存知なのか分かりません。なので、何をご存知なのか教えてもらえたらと思います」
「はい、俺も何をどう話していいのか分からなくて」
「そうですね、それはお話ししておいた方がいいでしょうね」
ラデルは二人の言うことを最もだと納得したようだ。
「おそらくですが、当時、何があったのかを全部を知っていると思います」
「え?」
「ぜ、全部って何をですか!」
「本当に全部です」
リルもダルもさすがに返答に困る。
「本当に全部です」
重ねて言うラデルに2人共何も言えずにいる。
「信じていただくために、私が知っていることの一部をお話したいと思います。少し寄っていただけますか、少しでも外に漏れてはいけないことだと思いますので」
ラデルに言われ、ダルがソファに座っているリルの隣に腰をかけ、ラデルが2人の前に膝をつくようにして座り、頭を3つ寄せ合うようにしていくつかの話をした。
「本当に、何もかもご存知なんですね」
「…………」
リルがそう言い、ダルは言葉も出ない。
「ええ」
「どうしてあの、あの人は」
リルがトーヤの名を伏せてそう呼ぶ。
「その、あなたにそれほど何もかもを話したのでしょう。でもきっと、それも聞いてはいけないことなんでしょう?」
「そうですね」
ラデルが穏やかに微笑みながら答える。
「でも分かりました。では、これからどうすればいいのか、一緒に考えてくださいますか?」
「ええ、もちろんです」
「俺たちが知ってることはみんなご存知だと思ってていいですか?」
ダルの質問にラデルは少し考えるようにしていたが、
「基本的に、あのことに関することは全て知っていると思っていただいていいかと思いますが、その後のこと、ここ最近のことは知らないこともあると思います」
そう答えた。
「とりあえず、あの方たちが出ていかれた先のことは私にも分かりません」
「あ、それなんですが、アランは宮に戻ってます」
「え?」
リルが初耳だという風にダルを見る。
「いや、黙ってたわけじゃないんだよ、俺もさっき知ったばかりで」
もう長い付き合いになる。ダルはリルの言いたいことはなんとなく分かるような仲だ、必要なことはとっとと言っておかないとえらい目に合う可能性がある。
「じゃあ、とりあえずその話、してくれるかしら?」
「分かったよ」
そして月虹隊に届いた文を持って宮に行き、キリエとルギに会った後、アランとディレンのいる部屋に通された話をする。
「アランはあえて自分は残る、そう言っていました」
ダルの話に補足をするようにラデルが続ける。
「最初、アベルは反対していたんですが、あの人がそれが正しいことだと言い聞かせて、それで」
そこまで言って思い出し笑いをしてしまった。
トーヤに諭された後、意趣返しのようにベルが兄と離れた時のことを連呼していたのを思い出したのだ。
「あの?」
「いえ、なんでもありません」
リルが不思議そうに尋ねたが、ラデルの様子を見てなんとなくピンときたことがあったようだ。
「アベルが何かしたんですね、きっと」
「ええ。ですがどうして?」
「なんとなく推測がつきました。本当にあの人もアベルにはどうにもやり込められてばっかりみたいでしたし」
「おっしゃる通りです」
「やっぱり?」
リルがふふっと笑うが、ダルにはピンとこないようだ。
「なんの話?」
「ダルもやられる方ねきっと」
「え?」
「いえ、なんでも~」
「なんだよ、気になるな」
そういうダルにふふっともう一度笑い、リルが話を元に戻す。
「一度はみんなあちらこちらに散らばってしまってどうなるかと思いましたが、これで少なくともアランと船長とも連絡が取れますし、もう一度集まってきてるようですね。あの人が言ってたことを思い出します。ほらな、道が決まると自然と集まってくるんだ、って。本当にそうなってきましたね」
ではこれも正しい道なのだろう、おそらく。
リルが顔の向きをダルからラデルに移動してそう尋ねる。
「アベルから色々と話は聞いたんですが、結局どういう方かは教えてもらえなかったんです。ですから、この先ダルも私も、何をどの程度話せばいいのか分からないもので」
「いや、おっしゃる通りです」
ラデルが申し訳無さそうに頭を下げる。
「私がどういう人間かは、おそらくまだ言わない方がいいでしょうね」
「そうなんですか?」
「はい、おそらく」
「分かりました」
リルがそう言うと、ラデルがほおっと小さく感心するように、
「それで納得されたんですか?」
と、確認する。
「以前の私だったらどういう人なんですかって知りたがったと思います」
リルが少し笑いながら続ける。
「でも、私は、そして多分ダルも、あの出来事の後、必要なことならば知ることになる、そう考えるようになったと思います」
「うん、知りたくても知りたくなくても、必要ならそうなるってこと、なんだか知ってしまいました」
「そう、時が満ちるのよね」
「だったよな」
「そうなんですか」
ラデルがリルとダルに少し微笑みながらそう一言だけ答えた。
「ええ、そうなんです。なんですが、こちらからはラデルさんがどの程度のことをどうご存知なのか分かりません。なので、何をご存知なのか教えてもらえたらと思います」
「はい、俺も何をどう話していいのか分からなくて」
「そうですね、それはお話ししておいた方がいいでしょうね」
ラデルは二人の言うことを最もだと納得したようだ。
「おそらくですが、当時、何があったのかを全部を知っていると思います」
「え?」
「ぜ、全部って何をですか!」
「本当に全部です」
リルもダルもさすがに返答に困る。
「本当に全部です」
重ねて言うラデルに2人共何も言えずにいる。
「信じていただくために、私が知っていることの一部をお話したいと思います。少し寄っていただけますか、少しでも外に漏れてはいけないことだと思いますので」
ラデルに言われ、ダルがソファに座っているリルの隣に腰をかけ、ラデルが2人の前に膝をつくようにして座り、頭を3つ寄せ合うようにしていくつかの話をした。
「本当に、何もかもご存知なんですね」
「…………」
リルがそう言い、ダルは言葉も出ない。
「ええ」
「どうしてあの、あの人は」
リルがトーヤの名を伏せてそう呼ぶ。
「その、あなたにそれほど何もかもを話したのでしょう。でもきっと、それも聞いてはいけないことなんでしょう?」
「そうですね」
ラデルが穏やかに微笑みながら答える。
「でも分かりました。では、これからどうすればいいのか、一緒に考えてくださいますか?」
「ええ、もちろんです」
「俺たちが知ってることはみんなご存知だと思ってていいですか?」
ダルの質問にラデルは少し考えるようにしていたが、
「基本的に、あのことに関することは全て知っていると思っていただいていいかと思いますが、その後のこと、ここ最近のことは知らないこともあると思います」
そう答えた。
「とりあえず、あの方たちが出ていかれた先のことは私にも分かりません」
「あ、それなんですが、アランは宮に戻ってます」
「え?」
リルが初耳だという風にダルを見る。
「いや、黙ってたわけじゃないんだよ、俺もさっき知ったばかりで」
もう長い付き合いになる。ダルはリルの言いたいことはなんとなく分かるような仲だ、必要なことはとっとと言っておかないとえらい目に合う可能性がある。
「じゃあ、とりあえずその話、してくれるかしら?」
「分かったよ」
そして月虹隊に届いた文を持って宮に行き、キリエとルギに会った後、アランとディレンのいる部屋に通された話をする。
「アランはあえて自分は残る、そう言っていました」
ダルの話に補足をするようにラデルが続ける。
「最初、アベルは反対していたんですが、あの人がそれが正しいことだと言い聞かせて、それで」
そこまで言って思い出し笑いをしてしまった。
トーヤに諭された後、意趣返しのようにベルが兄と離れた時のことを連呼していたのを思い出したのだ。
「あの?」
「いえ、なんでもありません」
リルが不思議そうに尋ねたが、ラデルの様子を見てなんとなくピンときたことがあったようだ。
「アベルが何かしたんですね、きっと」
「ええ。ですがどうして?」
「なんとなく推測がつきました。本当にあの人もアベルにはどうにもやり込められてばっかりみたいでしたし」
「おっしゃる通りです」
「やっぱり?」
リルがふふっと笑うが、ダルにはピンとこないようだ。
「なんの話?」
「ダルもやられる方ねきっと」
「え?」
「いえ、なんでも~」
「なんだよ、気になるな」
そういうダルにふふっともう一度笑い、リルが話を元に戻す。
「一度はみんなあちらこちらに散らばってしまってどうなるかと思いましたが、これで少なくともアランと船長とも連絡が取れますし、もう一度集まってきてるようですね。あの人が言ってたことを思い出します。ほらな、道が決まると自然と集まってくるんだ、って。本当にそうなってきましたね」
ではこれも正しい道なのだろう、おそらく。
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