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第二章 第三部 女神の国
10 女神の願い
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ラーラ様は小さな主に急かされるように、鈴を振って当番の侍女を呼び、侍女頭に会いに行くと連絡をさせる。
ちょうどキリエは自室に戻っていたらしく、主の要求はすぐさま侍女頭に伝えられた。
「でもエリス様ご一行はいらっしゃらないのですよね」
「ええ」
ラーラ様が困った顔でキリエを見つめる。
キリエはいつもと変わらぬ様子で少し考える。
シャンタルは絶対だ。
シャンタルのご要望は何があろうと叶えられなくてはならない。
これはただの子どものわがままとは違う、神の命なのだ。
ただ、これまではそのようなご要望を出されることがほとんどなかった。それが、よりにもよっておらぬ人に会いたいとは、どう叶えて差し上げればよいのかと困惑する。
キリエはしばらく何かを考えていたが、
「分かりました、私が直接お話に参ります」
そう言ってラーラ様と共にシャンタルの私室へと向かった。
「キリエ!」
小さな主は侍女頭の姿を見るとうれしそうに微笑んだ。
キリエは主の前まで進み出ると片膝をついて正式の礼をする。
「ラーラ様より伺いました、エリス様とお茶会をなさりたいと」
「ええ、そうなの。また楽しいお話を聞かせていただきたいの」
確かに前回のお茶会の時にもまた次回ぜひ、との約束をなさっておられた。
シャンタルからすると、単にその続きのお話なのだろう。
なんとささやかなご要望を出されるのだろうと、キリエは愛らしく思うと同時にキュッと胸を掴まれるような心地にもなった。
この国で、この神域で一番の尊い御方。どんなことでも望める立場の御方。その尊い御方の本当にささやかな願い。そんないじらしい願い事を叶えて差し上げられぬ、それがなんともつらい。
「申し訳ありません」
キリエがそう言って頭を下げると、シャンタルの表情がみるみる曇った。
「だめなの? お会いできないの?」
「はい」
「どうして?」
「はい、事情がございます」
キリエが頭を上げ、片膝をついたままの姿勢でそう言うと、
「お立ちなさい」
主が老いた侍女頭にその姿勢はきつかろうとそう言う。
「ありがとうございます」
キリエはそう言ってもう一度頭を下げると、ありがたく立ち上がる。
「キリエ、ここに座って」
シャンタルは自分が座っているいつものソファの隣の席をとんとんと小さな手で叩いた。
「いえ、もったいない、このままで」
「ううん、座ってほしいの」
隣の席に手を置いたまま、立ち上がった侍女頭にそう言う。
「ね、座って。座ってお話したいの」
「ありがとうございます、では失礼いたします」
「ラーラ様はこちらに」
「はい、ありがとうございます」
そうしてソファの左にシャンタル、右側にキリエ、そしてシャンタル側の椅子にラーラ様が腰掛けて横並びの形になった。
「では、その事情を聞かせてください」
「はい」
キリエが座って軽く頭を下げて上げる。
「実は、今、ベル殿はシャンタルにお会いできない時期にあられます」
「え、そうなの?」
シャンタル宮における一番の禁忌、それは「穢れ」である。
宮にいるのは一部の衛士や侍医、神官を除き、ほぼ女性ばかり、そして妙齢の侍女も多いことから、ある時期にはシャンタルの御前に出られないこととなる。
まだ幼いシャンタルには、まだそれがどういうことかまではお知らせしていないが、「そういう時期がある」ということだけはご理解されている。
今のベルは確かに事情は違えど「会えない時期」にあるので嘘ではない。
嘘をつけぬ侍女であるキリエにはギリギリの言い訳である。
「そうなの、それでは仕方ありませんね」
シャンタルががっかりした顔で小さくため息をつく。
「エリス様はベル殿を通じてしかお話をなされません、ですから今はお会いすることができないのです」
「分かりました」
言葉ではそう言うが、見るのも気の毒なほどに気落ちしていらっしゃるのが分かった。
「ええ、ですので、こうしてはいかがかと」
「え?」
シャンタルがキリエの言葉に顔を上げた。
「ルーク殿はご存知のように、おケガをのためにやはりお話しにはなれません。ですが、アラン殿なら大丈夫かと」
「アラン? 金色の髪のアランね!」
みるみるシャンタルの瞳に光が戻る。
「はい。そしてアルロス号のディレン船長も宮にご滞在中です」
「そうなの?」
シャンタルがさらに明るい顔になる。
「ただ、今は封鎖の時期、前のようにこちらに二人をお通しすることはできません。ですから、前の宮にあるマユリアの客室をお借りして、そこに来ていただいてはいかがかと」
「いいの!?」
「はい、それでよろしければシャンタルのご希望に添えるかと」
「うん、アランとディレン船長とお茶会をしたいです!」
「では、そのように取り計らいます。少しだけお時間をいただけますか」
「うん!」
シャンタルがキラキラと輝く瞳でキリエをまっすぐ見つめ、
「うん、待ちます。でも、できるだけ早くお願いね?」
そう言って可愛らしく首を傾げた。
その様子に、鋼鉄の侍女頭の表情も思わず緩む。
「はい、では今からすぐにご都合をお聞きしてまいります」
「うん、お願いね」
ラーラ様はアランとディレンが逮捕されている状態だとは知っているので、少しだけ不安そうに主従を見つめた。
ちょうどキリエは自室に戻っていたらしく、主の要求はすぐさま侍女頭に伝えられた。
「でもエリス様ご一行はいらっしゃらないのですよね」
「ええ」
ラーラ様が困った顔でキリエを見つめる。
キリエはいつもと変わらぬ様子で少し考える。
シャンタルは絶対だ。
シャンタルのご要望は何があろうと叶えられなくてはならない。
これはただの子どものわがままとは違う、神の命なのだ。
ただ、これまではそのようなご要望を出されることがほとんどなかった。それが、よりにもよっておらぬ人に会いたいとは、どう叶えて差し上げればよいのかと困惑する。
キリエはしばらく何かを考えていたが、
「分かりました、私が直接お話に参ります」
そう言ってラーラ様と共にシャンタルの私室へと向かった。
「キリエ!」
小さな主は侍女頭の姿を見るとうれしそうに微笑んだ。
キリエは主の前まで進み出ると片膝をついて正式の礼をする。
「ラーラ様より伺いました、エリス様とお茶会をなさりたいと」
「ええ、そうなの。また楽しいお話を聞かせていただきたいの」
確かに前回のお茶会の時にもまた次回ぜひ、との約束をなさっておられた。
シャンタルからすると、単にその続きのお話なのだろう。
なんとささやかなご要望を出されるのだろうと、キリエは愛らしく思うと同時にキュッと胸を掴まれるような心地にもなった。
この国で、この神域で一番の尊い御方。どんなことでも望める立場の御方。その尊い御方の本当にささやかな願い。そんないじらしい願い事を叶えて差し上げられぬ、それがなんともつらい。
「申し訳ありません」
キリエがそう言って頭を下げると、シャンタルの表情がみるみる曇った。
「だめなの? お会いできないの?」
「はい」
「どうして?」
「はい、事情がございます」
キリエが頭を上げ、片膝をついたままの姿勢でそう言うと、
「お立ちなさい」
主が老いた侍女頭にその姿勢はきつかろうとそう言う。
「ありがとうございます」
キリエはそう言ってもう一度頭を下げると、ありがたく立ち上がる。
「キリエ、ここに座って」
シャンタルは自分が座っているいつものソファの隣の席をとんとんと小さな手で叩いた。
「いえ、もったいない、このままで」
「ううん、座ってほしいの」
隣の席に手を置いたまま、立ち上がった侍女頭にそう言う。
「ね、座って。座ってお話したいの」
「ありがとうございます、では失礼いたします」
「ラーラ様はこちらに」
「はい、ありがとうございます」
そうしてソファの左にシャンタル、右側にキリエ、そしてシャンタル側の椅子にラーラ様が腰掛けて横並びの形になった。
「では、その事情を聞かせてください」
「はい」
キリエが座って軽く頭を下げて上げる。
「実は、今、ベル殿はシャンタルにお会いできない時期にあられます」
「え、そうなの?」
シャンタル宮における一番の禁忌、それは「穢れ」である。
宮にいるのは一部の衛士や侍医、神官を除き、ほぼ女性ばかり、そして妙齢の侍女も多いことから、ある時期にはシャンタルの御前に出られないこととなる。
まだ幼いシャンタルには、まだそれがどういうことかまではお知らせしていないが、「そういう時期がある」ということだけはご理解されている。
今のベルは確かに事情は違えど「会えない時期」にあるので嘘ではない。
嘘をつけぬ侍女であるキリエにはギリギリの言い訳である。
「そうなの、それでは仕方ありませんね」
シャンタルががっかりした顔で小さくため息をつく。
「エリス様はベル殿を通じてしかお話をなされません、ですから今はお会いすることができないのです」
「分かりました」
言葉ではそう言うが、見るのも気の毒なほどに気落ちしていらっしゃるのが分かった。
「ええ、ですので、こうしてはいかがかと」
「え?」
シャンタルがキリエの言葉に顔を上げた。
「ルーク殿はご存知のように、おケガをのためにやはりお話しにはなれません。ですが、アラン殿なら大丈夫かと」
「アラン? 金色の髪のアランね!」
みるみるシャンタルの瞳に光が戻る。
「はい。そしてアルロス号のディレン船長も宮にご滞在中です」
「そうなの?」
シャンタルがさらに明るい顔になる。
「ただ、今は封鎖の時期、前のようにこちらに二人をお通しすることはできません。ですから、前の宮にあるマユリアの客室をお借りして、そこに来ていただいてはいかがかと」
「いいの!?」
「はい、それでよろしければシャンタルのご希望に添えるかと」
「うん、アランとディレン船長とお茶会をしたいです!」
「では、そのように取り計らいます。少しだけお時間をいただけますか」
「うん!」
シャンタルがキラキラと輝く瞳でキリエをまっすぐ見つめ、
「うん、待ちます。でも、できるだけ早くお願いね?」
そう言って可愛らしく首を傾げた。
その様子に、鋼鉄の侍女頭の表情も思わず緩む。
「はい、では今からすぐにご都合をお聞きしてまいります」
「うん、お願いね」
ラーラ様はアランとディレンが逮捕されている状態だとは知っているので、少しだけ不安そうに主従を見つめた。
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