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第二章 第二部 揺れる故郷
21 アランと女神
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アランの取り調べも一応は終わり、警護隊隊長室から移動することになった。
「その前に少し連れていく場所がある」
そう言ってルギがアランの腕を縛っていた縄を解いた。
「いいんすか、そういうことして」
アランが不思議そうに聞くと、
「逃げるつもりなら戻っては来ないだろう」
そう答えるので、
「だったらもっと早くほどいてくれればよかったのに、ほら、痕がついちゃったし」
という言葉を聞いて、またゼトが口端を僅かだが引き上げる。
「後で部屋へ連れて行くから準備しておいてくれ」
「はっ!」
ルギが声をかけ、ゼトと他の衛士たちが部屋から出ていった。
「あまりうちの若いのをからかわんでくれ」
「若いっても俺より上じゃないっすか?」
「俺よりは若い」
「そりゃまそうか。トーヤぐらいですかね?」
「そんなものだろう」
どちらも誰のことと言わずとも分かっているようだ。
そうして話しながら着いた部屋は、
「ここって……」
そうではないかと思ったが、やはりここに連れてこられたかとアランがごくりと喉を鳴らした。
「入れ」
そこはマユリアの客室だった。
「例のお茶会」をやった部屋だとトーヤから聞いていた。
それで初めて招待されたお茶会がこの部屋だろうと言われていたのが、シャンタルの私室であったのが予想外だった。
だが、今ここで、他の者もおらず、マユリアとルギの三人で話すとなると、やはりちょっと都合が違うとアランは思っていた。
「よく来てくれました。お掛けなさい」
相変わらずこの世のものとは思えぬ美しい人が、微笑みながらアランに椅子を勧める。
「失礼します」
かろうじてそう言って、アランは椅子にぎこちなく腰を掛けた。
「トーヤのことを聞きたいとの仰せだ」
ルギがさっきとは全く様子が違うアランに、全く同じ様子でそう言う。
「トーヤのことですか」
「ええ。以前はトーヤの知り人とは知らず、聞きそびれました」
マユリアがそう言って嫣然と微笑む。
「は、はあ、そうっすか……」
アランは頭がぼおっとして何をどう言っていいのかも考えられず、そんな風に答えてから、
「あ!」
と、今度は自分の発言が失礼だと思い、思わず声を出してしまった。
「楽にしてくださいな」
マユリアが優しく微笑んでそう言ってくれても、やはり何をどうしていいのか分からない。
(トーヤ、今の俺と同じぐらいの年で、そんでたった一人でこの人やこの宮と渡り合ったんだよな。やっぱすげえよあんた……)
心の中でそう言いながら、ただ黙り込んでしまう。
「トーヤの仲間なのですってね」
マユリアがアランの気持ちをほぐすように、ゆっくりとそう聞いた。
「あ、はい」
「どこでどうして知り合ったのですか?」
「あ、あの、えっと」
話そうとするが、どぎまぎしてうまく説明ができない。
「さっき聞いた話に間違いはないのだな?」
「え?」
「知り合った時のことだ」
「え、あ、そうです」
「私からまとめてお話させてよろしいでしょうか」
「ええ、アランさえよければ」
「あ、あの、お願いします」
情けないと思いながらもルギの助け舟がありがたかった。
ルギがさきほど聞いた話をマユリアにまとめて話す。
「そのエリス様が先代であったのですね」
「はい」
「そうですか、戦場に」
マユリアの美しい顔が陰った。
「ですが、そうなることも構わぬ、そう言ったのはわたくしです。もしもそうなるならば、それが運命なのでしょうと」
「あ、あの!」
思わずアランは半分立ち上がりながら声をかけていた。
「どうしました」
「あの、あいつは、シャンタルは、その、手を汚すようなことはしていません! トーヤが必死で守ってました」
「え?」
「俺、俺も妹にそういう真似はさすまい、そう思って必死に守ってました。トーヤもそうでした。あの、だからあいつは、全然汚れてません。ずっと人を助けること、そればかりでした。それで俺も助けられたんです!」
必死にそう訴えるアランに、マユリアの表情が和らぐ。
「ありがとう」
「い、いえ……」
「それで、トーヤたちとはどのような暮らしをしていたのですか?」
「あ、はい」
こうして一度話してしまったからか、力が抜けてアランは話をすることができた。
まるで自分がベルになったかのように話している、そう思いながらも色々なことを話していた。
「それで、何かあるとトーヤとベルが、そりゃもう掴みかからんかのようにぶつかるんですよ。それを間で笑いながらシャンタルが止めるのがお約束なんです」
「まあ」
美しい女神もほぐれた様子でアランの話を聞いて美しく笑う。
「その時、あなたはどうしていたのです?」
「あ、俺ですか? 俺は大抵黙って見てました。やれやれと思いながら」
「話を聞いていると、なんだかアランが一番年上のように思えます」
「そうなんですよ。トーヤ、なんでかベルとだけはそんな風に、子どもみたいに張り合って、それをシャンタルが止めるんです。俺は、それでもどうにもならなくなった時にだけ口出すって感じです」
「そうなのですか」
「ええ、そんな感じなもんで、とうとうシャンタルから『アラン隊長』と呼ばれるようになってしまいました」
「まあ」
一体何の時間なのか分からないが、微笑ましい時間が過ぎていた。
「その前に少し連れていく場所がある」
そう言ってルギがアランの腕を縛っていた縄を解いた。
「いいんすか、そういうことして」
アランが不思議そうに聞くと、
「逃げるつもりなら戻っては来ないだろう」
そう答えるので、
「だったらもっと早くほどいてくれればよかったのに、ほら、痕がついちゃったし」
という言葉を聞いて、またゼトが口端を僅かだが引き上げる。
「後で部屋へ連れて行くから準備しておいてくれ」
「はっ!」
ルギが声をかけ、ゼトと他の衛士たちが部屋から出ていった。
「あまりうちの若いのをからかわんでくれ」
「若いっても俺より上じゃないっすか?」
「俺よりは若い」
「そりゃまそうか。トーヤぐらいですかね?」
「そんなものだろう」
どちらも誰のことと言わずとも分かっているようだ。
そうして話しながら着いた部屋は、
「ここって……」
そうではないかと思ったが、やはりここに連れてこられたかとアランがごくりと喉を鳴らした。
「入れ」
そこはマユリアの客室だった。
「例のお茶会」をやった部屋だとトーヤから聞いていた。
それで初めて招待されたお茶会がこの部屋だろうと言われていたのが、シャンタルの私室であったのが予想外だった。
だが、今ここで、他の者もおらず、マユリアとルギの三人で話すとなると、やはりちょっと都合が違うとアランは思っていた。
「よく来てくれました。お掛けなさい」
相変わらずこの世のものとは思えぬ美しい人が、微笑みながらアランに椅子を勧める。
「失礼します」
かろうじてそう言って、アランは椅子にぎこちなく腰を掛けた。
「トーヤのことを聞きたいとの仰せだ」
ルギがさっきとは全く様子が違うアランに、全く同じ様子でそう言う。
「トーヤのことですか」
「ええ。以前はトーヤの知り人とは知らず、聞きそびれました」
マユリアがそう言って嫣然と微笑む。
「は、はあ、そうっすか……」
アランは頭がぼおっとして何をどう言っていいのかも考えられず、そんな風に答えてから、
「あ!」
と、今度は自分の発言が失礼だと思い、思わず声を出してしまった。
「楽にしてくださいな」
マユリアが優しく微笑んでそう言ってくれても、やはり何をどうしていいのか分からない。
(トーヤ、今の俺と同じぐらいの年で、そんでたった一人でこの人やこの宮と渡り合ったんだよな。やっぱすげえよあんた……)
心の中でそう言いながら、ただ黙り込んでしまう。
「トーヤの仲間なのですってね」
マユリアがアランの気持ちをほぐすように、ゆっくりとそう聞いた。
「あ、はい」
「どこでどうして知り合ったのですか?」
「あ、あの、えっと」
話そうとするが、どぎまぎしてうまく説明ができない。
「さっき聞いた話に間違いはないのだな?」
「え?」
「知り合った時のことだ」
「え、あ、そうです」
「私からまとめてお話させてよろしいでしょうか」
「ええ、アランさえよければ」
「あ、あの、お願いします」
情けないと思いながらもルギの助け舟がありがたかった。
ルギがさきほど聞いた話をマユリアにまとめて話す。
「そのエリス様が先代であったのですね」
「はい」
「そうですか、戦場に」
マユリアの美しい顔が陰った。
「ですが、そうなることも構わぬ、そう言ったのはわたくしです。もしもそうなるならば、それが運命なのでしょうと」
「あ、あの!」
思わずアランは半分立ち上がりながら声をかけていた。
「どうしました」
「あの、あいつは、シャンタルは、その、手を汚すようなことはしていません! トーヤが必死で守ってました」
「え?」
「俺、俺も妹にそういう真似はさすまい、そう思って必死に守ってました。トーヤもそうでした。あの、だからあいつは、全然汚れてません。ずっと人を助けること、そればかりでした。それで俺も助けられたんです!」
必死にそう訴えるアランに、マユリアの表情が和らぐ。
「ありがとう」
「い、いえ……」
「それで、トーヤたちとはどのような暮らしをしていたのですか?」
「あ、はい」
こうして一度話してしまったからか、力が抜けてアランは話をすることができた。
まるで自分がベルになったかのように話している、そう思いながらも色々なことを話していた。
「それで、何かあるとトーヤとベルが、そりゃもう掴みかからんかのようにぶつかるんですよ。それを間で笑いながらシャンタルが止めるのがお約束なんです」
「まあ」
美しい女神もほぐれた様子でアランの話を聞いて美しく笑う。
「その時、あなたはどうしていたのです?」
「あ、俺ですか? 俺は大抵黙って見てました。やれやれと思いながら」
「話を聞いていると、なんだかアランが一番年上のように思えます」
「そうなんですよ。トーヤ、なんでかベルとだけはそんな風に、子どもみたいに張り合って、それをシャンタルが止めるんです。俺は、それでもどうにもならなくなった時にだけ口出すって感じです」
「そうなのですか」
「ええ、そんな感じなもんで、とうとうシャンタルから『アラン隊長』と呼ばれるようになってしまいました」
「まあ」
一体何の時間なのか分からないが、微笑ましい時間が過ぎていた。
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