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第二章 第二部 揺れる故郷

20 アランの取り調べ

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「まあ、大体そんな感じです」

 実際は娼婦とその旦那なのだが、それでいいかとアランはそこで言葉を止めた。

「それで、ディレン船長も一緒になってこっちに来ることにしたのか」
「いや、それは違います。本当に偶然に、こっちに来る船の船長がディレン船長だったんですよ」
「そんな偶然があるのか?」
「ないと言えますか?」

 アランの言葉にルギが黙り込む。
 ないと言えない。
 それは八年前の出来事でよく分かっている。

「運命だったんじゃないですかね」

 アランがルギの上にその言葉をかぶせた。

「だとしても、どういう経緯でトーヤが育て親の夫の船に乗ったのかは聞かせてもらいたい」
「いいですよ」

 さて、アランは作り話を再開する。

「エリス様のご主人がこちらに来るという話が出た頃、エリス様と同じく医師だった父親が亡くなりました。それも、ちょっと不審な状態で」
「なんだと」
「あくまで不審、な状態です。誰かに何かをされた、と断定できる状態ではない。ですが、もしかしたら、そう思える状態で亡くなったもので、これはエリス様も同行した方がいいだろう、そういう話になりました」

 ルギは黙って話を聞いている。
 ボーナムやゼト、他の衛士たちには嘘と分からぬ話だが、ルギだけは作り話だと分かって聞いている。

「それで、こちらに来たことがあるというトーヤに送ってほしいって話になって、極秘裏に支度していたんですが、思った通りと言いますか、やはり邪魔が入った。それで一緒には行かない振りをしておいて、隙を見て逃げ出してきたというわけです」
「なるほど」
「そういうわけで、船長と連絡を取るなんてことできっこない。そもそもトーヤも何年も会ってなかったらしいですし」
「そうなのか」
「らしいですよ。俺らも港で初めて知り合いだと聞きました。近々こっち来る船があるらしいって東の港の少し前の駅で聞いて、それに間に合わせようってんで不眠不休ですっ飛ばして、そこで初めて知ったんですから」
「まだそのあたりのことはディレン船長からは聞いていないな。ボーナム」
「はい」

 隊長に声をかけられ、副隊長が返事をする。

「今から行って確かめてきてくれ。どこでトーヤと会って船に乗せることになったかを」
「分かりました」

 見た目だけは人が良さそうな副隊長がすぐに部屋を飛び出した。

「聞いてなかったんですか?」
「まだそこまでは聞いてなかった」

 ディレンを逮捕したのは今日の午後過ぎ、アランが戻ってきたのはその夕方、まだそんな時間は取れていない。マユリアの応接での面談の後、ある一室にディレンを移動させたばかりだった。

「のんびりしてんだなあ」

 アランがからかうように言い、ゼトがまた怒りをにじせたが、ルギは変化なく続ける。

「その部分は船長の話と突き合わせるとして、その後はどうした」
「ああ、そうしてトーヤが話をつけてアルロス号でこっち来た、そんだけです」
「なるほど。それで、船長はどうしてハリオにトーヤの振りをさせた」
「トーヤがバレるわけにいかないって言うもんで、それで、かな?」

 そのへんはぼかすしかない。

「その、どうして、の部分を知りたいと思って俺も戻ってきたわけですから」
「そうか、分かった」

 ルギもそのあたりで話を終える。

「それで、キリエ様に届けた見舞いだが」
「ああ、俺が船長やハリオさんと一緒に買いに行きました」
「それはあのピンクの花を知ってのことだな?」
「もうこうなったら仕方ないなあ」

 アランが苦笑して続ける。

「妹が、見舞いに行った時に毒の花だって気がついたんですよ。あいつもあっちで色々見たり聞いたりして、そんでエリス様から色々習ってますからね。もちろん、俺やトーヤも行ったら気がついてましたけどね」
「やはりそうか」
「ええ」
「それでピンクの花を毒のない物とすり替えさせたというわけだな」
「まあ、そういうことです」
「そのピンクの花は誰が買った」
「ハリオさんに頼みました」
 
 アランが素直に認める。

「ハリオさんはトーヤと一緒で、こっちの人間と見た目が同じですからね。俺と船長が他の買い物してる間にちょっとおつかいを頼みました」
「やはりか」

 ルギも推測はついていた。
 もしもあの顔ぶれの中でそういうことができる人間がいるとすると、それはトーヤとハリオ以外にない。そしてトーヤは顔を隠している。消去法でいくとハリオということになる。

「ハリオさんを責めないでくださいね、あの人は善意から引き受けてくれただけですから」
「まあ、そのあたりはまた本人にも話を聞く」
「お手柔らかに」
「ピンクの花をハリオに買わせたということは分かった」

 ルギはアランの言葉を無視した。

「他には何を頼んだ」
「それだけ、かな」
「本当か?」
「多分」
「多分?」
「ええ、多分」
「それはどういう意味だ?」
「いや、俺が知らないところでトーヤや船長が何か頼んでたら、それは分かりませんからね」
「そういう可能性もあるのか?」
「ないとは思いますが、まあ一応言っといた方がいいかな、と?」

 少しからかうような物言いに、ルギは知らぬ顔だが、やはりゼトの顔に怒りらしき物が浮かぶ。
 アランは特にゼトをからかおうというつもりはないようだが、生真面目なゼトには、いちいちかんに障るようだ。
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