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第二章 第二部 揺れる故郷
17 アランの攻撃
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「どうしてそこで別れたんだ、一緒に行かずに。この国で一人はぐれてもどうしようもないだろうが」
ボーナムがアランの言葉にそういう疑問を持つ。
「少し前からちょっと考えてたんですけど、俺、大したことやってないですよね?」
「なんだと?」
「第一、なんで指名手配なんです? どういう罪で?」
言われてボーナムが言葉に詰まる。
「それはあんな逃げ方をしたからだろう」
横からゼトがそう言うが、
「そう言われても、それはそちらが先にあんなことをしたからじゃないですか?」
ボーナムとゼト、二人がかりでいきなり「ルーク」ことトーヤの覆面を剥ぎ取ったことを言う。
「先にあんな隠れ方をしてたからだろう!」
ゼトが声を荒げる。
ボーナムよりかなり導火線が短いタイプだなとアランは判断していた。
「あんな隠れ方って?」
「だから、あのトーヤという男が身元を偽ってルークなどと名乗っていたからだ」
「それ、なんでいけないんです?」
「なんだと?」
「あれがトーヤだとなんでいけないんです?」
そう言われて今度はゼトも言葉に詰まる。
どうしてなんだ?
もちろん、身元を偽って神聖なるシャンタル宮に入り込んだことは良いこととは言えない。
だが、言われてみれば、それであの男が何か問題を起こしたようなことはなかったと思いつく。
「俺、最初にトーヤに自分は身元を隠してこの国に入るって言われた時、なんか戻ったのが知られたらヤバいようなことやったのかなと思ったんですよね」
アランが二人が黙った空間に入り込む。
「でもこっち来てみたら思ってたのと全然違ってた。オーサ商会のアロ会長、月虹隊のダル隊長、どっちもトーヤに会いたいって言ってる。それどころかお茶会に呼ばれたら、マユリアまで託宣の客人、大切な存在、どうしているのか心配してるって」
マユリアの名前に二人がますます黙り込んだ。
「なんでトーヤが顔隠してこっち来たのか知りませんが、よくよく考えたらあいつ、逃げ隠れする必要ないんじゃないですか?」
二人とも何も答えられず、ついには困ったようにルギを見た。
「指名手配の理由だが」
ルギが二人に変わって答える。
「エリス様と名乗る謎の人物とその護衛、および侍女にはキリエ様に対する傷害の容疑がかかっている」
「俺たちがですか?」
アランが驚いたように大きな声を出し、
「そういやなんかそういうこと言ってたけど、あれってトーヤの仮面を剥がすためのいちゃもんだとばっかり思ってました」
と、続けた。
「第一、香炉でしたっけ? それには俺らはなんも関係ないし、キリエさんにお見舞い持ってったってだけで、なーんでそんなこと疑われないといけないわけ?」
鼻で笑いながらそうも言う。
トーヤが自分のことを隠していた理由、それはシャンタルをそのままこの国に入れるわけにはいかないから、八年前のことを知られるわけにはいかないからだ。
さらに言うなら、宮の中がどうなっているか全く分からず、そのままシャンタルを家族に引き合わす前に様子を見たかったからだ。
そしてもしかしたらと思った通り、宮の中は色々と問題が起きていた。隠していてよかった、という結論になっていた。
この国で現在、トーヤは月虹隊の副隊長という立場、しかも宮の命で世界中を旅しているいう名誉職に就いている存在だ。逃げ隠れする謂れは全くない。
ボーナムとゼトもトーヤの動き、ハリオを替え玉にしてまで顔を隠していたトーヤを怪しいと思いはしたが、八年前のことを知らない立場からすると、隠れて入る理由が全く分からず、なぜと問われても答えられない。
「だからですね、よくよく考えて離れたわけですよ」
「だからそれがなぜだ」
「知りたかったからですよ、なんでトーヤが自分のこと隠して宮に入ったかを」
アランがゼトの質問に正面から答える。
「あいつがいたら、本当のこと分からないかもしれないでしょ? だから、はぐれた振りして、そんであんたらに捕まろうと思ったのに、ぜ~んぜん見つけてくれないもんで、そんでしょうがなく、自分からこうして戻ってきたってわけです」
まるで衛士が無能かやる気がないかのように、また皮肉っぽくそう言う。
アランの言葉にゼトが眉尻をキリッと上げるが、探していても見つけられなかったのは事実なので唇を噛んで怒りを飲み込んだ。
「あいつ、何したんです? ルギ隊長、今だったらトーヤがいないので本当のところを教えてくれませんか?」
わざとルギに振って様子を見る腹だったが、
「知らん」
と、一言で切り捨てられた。
「知らんって、そんな無責任な」
半笑いでアランがそう答えた。
「でもまあ、そういうことですよね? 少なくとも、入国禁止にもされてなけりゃ、指名手配もされてなかった。今はされてるみたいっすけどね」
「おまえは」
やっとのようにゼトが言葉を絞り出した。
「なぜ、そんな男に、隠れてこの国に入ると言ってる胡散臭い男に付いてこようと思ったんだ」
嫌味ったらしく言うゼトに、
「トーヤを信じてるからですよ」
と、アランがきっぱりと答えた。
「三年前、俺はトーヤとエリス様と呼ばれる方に命を救われた。それからずっとトーヤたちと一緒だった。だから妹のベル共々、付いてくる気になったんですよ」
本当のことだった。
ボーナムがアランの言葉にそういう疑問を持つ。
「少し前からちょっと考えてたんですけど、俺、大したことやってないですよね?」
「なんだと?」
「第一、なんで指名手配なんです? どういう罪で?」
言われてボーナムが言葉に詰まる。
「それはあんな逃げ方をしたからだろう」
横からゼトがそう言うが、
「そう言われても、それはそちらが先にあんなことをしたからじゃないですか?」
ボーナムとゼト、二人がかりでいきなり「ルーク」ことトーヤの覆面を剥ぎ取ったことを言う。
「先にあんな隠れ方をしてたからだろう!」
ゼトが声を荒げる。
ボーナムよりかなり導火線が短いタイプだなとアランは判断していた。
「あんな隠れ方って?」
「だから、あのトーヤという男が身元を偽ってルークなどと名乗っていたからだ」
「それ、なんでいけないんです?」
「なんだと?」
「あれがトーヤだとなんでいけないんです?」
そう言われて今度はゼトも言葉に詰まる。
どうしてなんだ?
もちろん、身元を偽って神聖なるシャンタル宮に入り込んだことは良いこととは言えない。
だが、言われてみれば、それであの男が何か問題を起こしたようなことはなかったと思いつく。
「俺、最初にトーヤに自分は身元を隠してこの国に入るって言われた時、なんか戻ったのが知られたらヤバいようなことやったのかなと思ったんですよね」
アランが二人が黙った空間に入り込む。
「でもこっち来てみたら思ってたのと全然違ってた。オーサ商会のアロ会長、月虹隊のダル隊長、どっちもトーヤに会いたいって言ってる。それどころかお茶会に呼ばれたら、マユリアまで託宣の客人、大切な存在、どうしているのか心配してるって」
マユリアの名前に二人がますます黙り込んだ。
「なんでトーヤが顔隠してこっち来たのか知りませんが、よくよく考えたらあいつ、逃げ隠れする必要ないんじゃないですか?」
二人とも何も答えられず、ついには困ったようにルギを見た。
「指名手配の理由だが」
ルギが二人に変わって答える。
「エリス様と名乗る謎の人物とその護衛、および侍女にはキリエ様に対する傷害の容疑がかかっている」
「俺たちがですか?」
アランが驚いたように大きな声を出し、
「そういやなんかそういうこと言ってたけど、あれってトーヤの仮面を剥がすためのいちゃもんだとばっかり思ってました」
と、続けた。
「第一、香炉でしたっけ? それには俺らはなんも関係ないし、キリエさんにお見舞い持ってったってだけで、なーんでそんなこと疑われないといけないわけ?」
鼻で笑いながらそうも言う。
トーヤが自分のことを隠していた理由、それはシャンタルをそのままこの国に入れるわけにはいかないから、八年前のことを知られるわけにはいかないからだ。
さらに言うなら、宮の中がどうなっているか全く分からず、そのままシャンタルを家族に引き合わす前に様子を見たかったからだ。
そしてもしかしたらと思った通り、宮の中は色々と問題が起きていた。隠していてよかった、という結論になっていた。
この国で現在、トーヤは月虹隊の副隊長という立場、しかも宮の命で世界中を旅しているいう名誉職に就いている存在だ。逃げ隠れする謂れは全くない。
ボーナムとゼトもトーヤの動き、ハリオを替え玉にしてまで顔を隠していたトーヤを怪しいと思いはしたが、八年前のことを知らない立場からすると、隠れて入る理由が全く分からず、なぜと問われても答えられない。
「だからですね、よくよく考えて離れたわけですよ」
「だからそれがなぜだ」
「知りたかったからですよ、なんでトーヤが自分のこと隠して宮に入ったかを」
アランがゼトの質問に正面から答える。
「あいつがいたら、本当のこと分からないかもしれないでしょ? だから、はぐれた振りして、そんであんたらに捕まろうと思ったのに、ぜ~んぜん見つけてくれないもんで、そんでしょうがなく、自分からこうして戻ってきたってわけです」
まるで衛士が無能かやる気がないかのように、また皮肉っぽくそう言う。
アランの言葉にゼトが眉尻をキリッと上げるが、探していても見つけられなかったのは事実なので唇を噛んで怒りを飲み込んだ。
「あいつ、何したんです? ルギ隊長、今だったらトーヤがいないので本当のところを教えてくれませんか?」
わざとルギに振って様子を見る腹だったが、
「知らん」
と、一言で切り捨てられた。
「知らんって、そんな無責任な」
半笑いでアランがそう答えた。
「でもまあ、そういうことですよね? 少なくとも、入国禁止にもされてなけりゃ、指名手配もされてなかった。今はされてるみたいっすけどね」
「おまえは」
やっとのようにゼトが言葉を絞り出した。
「なぜ、そんな男に、隠れてこの国に入ると言ってる胡散臭い男に付いてこようと思ったんだ」
嫌味ったらしく言うゼトに、
「トーヤを信じてるからですよ」
と、アランがきっぱりと答えた。
「三年前、俺はトーヤとエリス様と呼ばれる方に命を救われた。それからずっとトーヤたちと一緒だった。だから妹のベル共々、付いてくる気になったんですよ」
本当のことだった。
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