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第二章 第二部 揺れる故郷
13 とりあえずご飯
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「てか、もう俺のことがバレちまったから、多分マユリアもこいつのことに気がついてると思う」
マユリアの名を聞いてダルの家族たちは思わず黙り込む。
「封鎖さえなかったら、多分ここにも調べに来てただろうな。そこんところは不幸中の幸いだったかも知れん」
「トーヤ」
ナスタが心配そうにトーヤに聞く。
「それで、どうするつもりだったんだい。そういや封鎖なのによくここに来られたね、どこから来たんだよ」
「それな」
トーヤがなんとなく言いにくそうに口ごもる。
「あの洞窟かい?」
「え?」
ダルから聞いたところによると、あの洞窟はカースの男連中しか知らないということだったのだが。
「そんなもんね、当然女たちも知ってるよ。知ってて知らん顔してんだよ」
「そうなのか?」
「ああ、そうだよ」
一応ナスタがサディやダリオ、それから村長にもちらりと視線をやる。
サディはなんとなく頭をかき、ダリオは少し上を見て知らん顔、そして村長は一つコホンと咳払いをした。
「まあまあね、そのへんは今ここで言うこっちゃないだろうさ」
ディナがクスクスと笑いながらそう言った。
「そうだね、そういうのはまたゆっくりね。で、あんたらはあそこ通ってどこ行くつもりだったんだい」
「俺はてっきりあっちからこっちに来たと思っちまったからなあ」
なんとなく話をごまかすように、ダリオがそう言って会話に交じった。
「どうしようかと考えてた」
トーヤが少し笑いながら続ける。
「ここに来て迷惑かけちゃいけねえと思ったけど、来たいと思った気持ちも本当だ。そんで海渡ってそのままあっちに逃げてしまえるならそんでいいけど、そういうわけにもいかねえしな」
「なんで逃げちまっちゃいけないんだ?」
またダリオが聞く。
「まだやり残してることがあるからだよ」
「やり残してること?」
「そういやそのへんのことは聞かない方がいいんだろ?」
不思議そうに聞くダリオを止めるようにナスタがかぶせて聞く。
「すまんが、そういうことだ」
「なんであっちに逃げたのか、そしてなんで戻ってきたのか、そのへんは話せないんだろうね」
「ああ」
「だったらなんでこのまま逃げないのかも聞かないよ。どうするつもりなのかももしかしたら聞いちゃいけないのかも知れない。でもね、なんか助けになることがあるなら、それは言ってほしい」
「おふくろさん……」
「とりあえず、あたしらがどうすりゃいいのか、そんだけは言っておくれよね。そうでないと困っちまう」
「分かった、ありがとう」
「ってところで、とりあえずお腹空いたんじゃないのかい?」
「あ、そう言えば」
ベルが右手で腹を押さえて首を傾げる。
「すげえ腹減ってる」
「そうかい。すぐ支度するから待っといで。ダリオ、手伝いだよ」
「おう、分かった」
そうしてナスタはダリオを連れて台所へと消えていった。
広間に残ったのは村長、サディ、ディナ、そしてトーヤ、シャンタル、ベルの6人になった。
これまで話を進めてくれていたナスタがいなくなったので、なんとなく沈黙が続く。
そうして沈黙になると、どうしてもシャンタルの存在がじんわりと浮かび上がったようになってきた。
「あの」
思い切ったようにサディがシャンタルに話しかけた。
「はい」
素直に答えられて、困ったようにまた黙る。
「いえ、なんでも……」
思わず声をかけてしまったというものの、サディには特に何か言いたいことも聞きたいこともなかった。
いや、あるにはあるが、とても言えない、とても聞けない。そんな感じだ。
「ご飯、なんでしょうね」
「え?」
空耳かと思った。
「お母さんがご飯を作ってくれるというので」
「あ、ああ」
サディが話の接穂をつかんだとばかりに続ける。
「なんもない村ですが、魚だけは自慢ですよ。封鎖になっても漁は続けてますしね」
「そうなんですね」
「海には封鎖はありませんから。リュセルスを超えてカトッティの向こうの市場に持って行けばいくばくかの収入にはなりますが、遠いし、ほとんどは干物にしたり、封鎖の間の食事になってます」
「カースの魚はおいしいとトーヤたちから聞いてます」
「そ、そうなんですか、ありがとうございます!」
サディが恐縮して頭を下げる。
「嬢ちゃんはいくつだい?」
「え、おれ?」
ディナがベルに話しかけた。
「おれは13歳、兄貴は16歳です」
「そうかい。じゃあ兄貴さんはトーヤが初めてここに来たぐらいの年齢だね」
「トーヤは今25のおっさんですよ」
「誰がだ」
「あだ!」
いつものようにトーヤがベルのあたまをはたき、それを見てシャンタルがくすくすと笑った。
「いっつもこうなんです。すごく仲がいいんですよトーヤとベル」
「誰がだよおまえ!」
「ほんとだぜ、誰がこんなおっさ、あだ!」
2発目。
「いっでえな! 頭がもげるだろうが!」
「もげたら拾ってくっつけとけ」
「つけられるかよ!」
2人のやりとりを見てディナが楽しそうに笑い出した。
「なんでだろうねえ、全然違うのに、どうしてだかフェイを思い出したよ」
「全然違うって……それ、ミーヤさんにも言われた……」
何が違うのだろう。
ベルにはさっぱり分からないが、多分悪い意味ではないとだけは分かる気がして、まあいいかと思った。
マユリアの名を聞いてダルの家族たちは思わず黙り込む。
「封鎖さえなかったら、多分ここにも調べに来てただろうな。そこんところは不幸中の幸いだったかも知れん」
「トーヤ」
ナスタが心配そうにトーヤに聞く。
「それで、どうするつもりだったんだい。そういや封鎖なのによくここに来られたね、どこから来たんだよ」
「それな」
トーヤがなんとなく言いにくそうに口ごもる。
「あの洞窟かい?」
「え?」
ダルから聞いたところによると、あの洞窟はカースの男連中しか知らないということだったのだが。
「そんなもんね、当然女たちも知ってるよ。知ってて知らん顔してんだよ」
「そうなのか?」
「ああ、そうだよ」
一応ナスタがサディやダリオ、それから村長にもちらりと視線をやる。
サディはなんとなく頭をかき、ダリオは少し上を見て知らん顔、そして村長は一つコホンと咳払いをした。
「まあまあね、そのへんは今ここで言うこっちゃないだろうさ」
ディナがクスクスと笑いながらそう言った。
「そうだね、そういうのはまたゆっくりね。で、あんたらはあそこ通ってどこ行くつもりだったんだい」
「俺はてっきりあっちからこっちに来たと思っちまったからなあ」
なんとなく話をごまかすように、ダリオがそう言って会話に交じった。
「どうしようかと考えてた」
トーヤが少し笑いながら続ける。
「ここに来て迷惑かけちゃいけねえと思ったけど、来たいと思った気持ちも本当だ。そんで海渡ってそのままあっちに逃げてしまえるならそんでいいけど、そういうわけにもいかねえしな」
「なんで逃げちまっちゃいけないんだ?」
またダリオが聞く。
「まだやり残してることがあるからだよ」
「やり残してること?」
「そういやそのへんのことは聞かない方がいいんだろ?」
不思議そうに聞くダリオを止めるようにナスタがかぶせて聞く。
「すまんが、そういうことだ」
「なんであっちに逃げたのか、そしてなんで戻ってきたのか、そのへんは話せないんだろうね」
「ああ」
「だったらなんでこのまま逃げないのかも聞かないよ。どうするつもりなのかももしかしたら聞いちゃいけないのかも知れない。でもね、なんか助けになることがあるなら、それは言ってほしい」
「おふくろさん……」
「とりあえず、あたしらがどうすりゃいいのか、そんだけは言っておくれよね。そうでないと困っちまう」
「分かった、ありがとう」
「ってところで、とりあえずお腹空いたんじゃないのかい?」
「あ、そう言えば」
ベルが右手で腹を押さえて首を傾げる。
「すげえ腹減ってる」
「そうかい。すぐ支度するから待っといで。ダリオ、手伝いだよ」
「おう、分かった」
そうしてナスタはダリオを連れて台所へと消えていった。
広間に残ったのは村長、サディ、ディナ、そしてトーヤ、シャンタル、ベルの6人になった。
これまで話を進めてくれていたナスタがいなくなったので、なんとなく沈黙が続く。
そうして沈黙になると、どうしてもシャンタルの存在がじんわりと浮かび上がったようになってきた。
「あの」
思い切ったようにサディがシャンタルに話しかけた。
「はい」
素直に答えられて、困ったようにまた黙る。
「いえ、なんでも……」
思わず声をかけてしまったというものの、サディには特に何か言いたいことも聞きたいこともなかった。
いや、あるにはあるが、とても言えない、とても聞けない。そんな感じだ。
「ご飯、なんでしょうね」
「え?」
空耳かと思った。
「お母さんがご飯を作ってくれるというので」
「あ、ああ」
サディが話の接穂をつかんだとばかりに続ける。
「なんもない村ですが、魚だけは自慢ですよ。封鎖になっても漁は続けてますしね」
「そうなんですね」
「海には封鎖はありませんから。リュセルスを超えてカトッティの向こうの市場に持って行けばいくばくかの収入にはなりますが、遠いし、ほとんどは干物にしたり、封鎖の間の食事になってます」
「カースの魚はおいしいとトーヤたちから聞いてます」
「そ、そうなんですか、ありがとうございます!」
サディが恐縮して頭を下げる。
「嬢ちゃんはいくつだい?」
「え、おれ?」
ディナがベルに話しかけた。
「おれは13歳、兄貴は16歳です」
「そうかい。じゃあ兄貴さんはトーヤが初めてここに来たぐらいの年齢だね」
「トーヤは今25のおっさんですよ」
「誰がだ」
「あだ!」
いつものようにトーヤがベルのあたまをはたき、それを見てシャンタルがくすくすと笑った。
「いっつもこうなんです。すごく仲がいいんですよトーヤとベル」
「誰がだよおまえ!」
「ほんとだぜ、誰がこんなおっさ、あだ!」
2発目。
「いっでえな! 頭がもげるだろうが!」
「もげたら拾ってくっつけとけ」
「つけられるかよ!」
2人のやりとりを見てディナが楽しそうに笑い出した。
「なんでだろうねえ、全然違うのに、どうしてだかフェイを思い出したよ」
「全然違うって……それ、ミーヤさんにも言われた……」
何が違うのだろう。
ベルにはさっぱり分からないが、多分悪い意味ではないとだけは分かる気がして、まあいいかと思った。
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