98 / 488
第二章 第一部 吹き返す風
16 清める
しおりを挟む
トーヤがシャンタル宮から戻った日の午後、ラデルはリルから頼まれたお守りを持ってオーサ商会を尋ねた。
「まあ、なんて素敵なかわいいお守り!」
リルは出来上がった木彫りのお守りを見るなり、そう言って胸の前で手を揉みしだいて喜んだ。
頼まれたお守りの数は9つ。ダルの子5人とリルの子3人、そしてこれから生まれてくるお腹の子の分であった。
ラデルはそれぞれの子の特徴を聞くと、青い小鳥の彫刻のような丸い木の玉の表面に、それぞれふさわしいと思われる色で花と小鳥の模様を細かく彫刻をした。
「これから生まれてくるお子様だけはどのような方か分かりませんから、これから色を作られる方ということで、白に銀の線刻にさせていただきました」
「ええ、ええ、本当にありがとうございます。本当、本当に素敵だわ」
お守りには、青い小鳥と同じように上に金属の部品が付けられている。
「木で掘り出すことも考えたのですが、そうすると折れやすくなります。金属だと折れたり外れたりしても付け替えが効きますので」
「はい、ありがとうございます。感謝します」
リルはそれぞれのお守りを手に取っては、かわいいかわいいと食べてしまいかねないような気にいり方だ。
「親方~これ、作って売り出したらどうです? きっと大繁盛ですよ」
アベルことベルが商売っ気を出して本気でそう勧めた。
「ありがとう。でもこれはリルさんに特別にお願いされたお守りだし、私もそう商売を広げる気もないのでね」
「そうなの? うーん、でも欲しがる人多いと思うけどなあ。だっておれも早速欲しいもん」
その言葉を聞いてラデルとリルが笑った。
「じゃあベルも親方に作っていただいたら? 費用なら私が出すから」
「え、ほんと? やったー!」
大喜びするベルにまた二人が笑うが、
「いやいや、弟子の分ぐらい親方である私がなんとかしますので、リルさんはお気遣いなく」
「そう?」
リルはなんとなく残念そうにそう答えた。
そしてまた3人で色々と相談をし、ダルの子たちの分はこの後、ベルとラデルでリルの家にいるダルに届けることになった。
「これ、ダルに渡してくれるかしら。持って行ってもらう時にと思って書いておいたの」
と、リルが預けてくれた手紙を持って師弟がマルトの雑貨店へと向かう。
雑貨店ではまずマルトが出てきたので、ラデルがこっそりと耳打ちをしてダルを呼んでもらう。
今、ダルは封鎖でカースの我が家に帰ることができないので、マルトの雑貨店に滞在させてもらっているのだ。
「あの隊長、これを」
「え、何?」
ダルは受け取った包みを開いてびっくりし、リルの手紙を読んで理由を知り、またびっくりする。
「それでうちの子たちにもこれを?」
「はい、リルの発案で」
「リルが?」
マルトの言葉にすでに鼻声になっている。
「いやいや、ちょっと隊長~泣かないでくださいよ~」
「うん、あの、ごめん。俺ちょっと」
後ろを向いて鼻をすすっている。
(本当に涙もろいんだなあ、ダル)
少し笑いながらそう思いながらも、ベルもなんとなく涙ぐむ。
ここに入って来た時、ラデルの後ろに隠れながらだがダルにも軽く挨拶をしているのだが、ダルはベルに全く気がついていないようだった。
「そうですか、お弟子さんかあ。小さいのにえらいなあ。がんばっていい職人さんになってくださいね」
そう言ってニコニコと挨拶をしてくれた。
あまりに気がつかないもので、ベルはダルが気がつかないぐらいなら街を歩いても大丈夫だなと安心すると同時に、
(それって仮にも一隊の隊長としてどうなの)
と思ったが、
(まあダルだしな)
と納得した。
「それで、門のところまで子どもさんたちに来てもらって、門番から渡してもらったらどうかと思うんです。用事があるわけだから構わないでしょう」
ダルが生まれ育ったカースという漁師町はやや特殊な存在である。
「マユリアの海」と続きにあるためか「聖地の守り番」的役割があり、嵐の後などに「マユリアの海」を清掃をしたり、無闇に人が立ち入ることがないように見張ったりもしている。
リュセルスとほぼ同じ場所にありながらリュセルスではない。
封鎖期間中、カースはリュセルスから切り離されてしまうと、ポツンと離れ小島のようになる。
そのため、リュセルスと他の町との検問所よりもっと頻繁に連絡などが取れるようにはしてもらっている。
まあ、内緒のルートで海を渡ったキノスへ行く者もいるにはいるが、王都への出入りができなくなると死活問題なので便宜を図られているという形だ。
「じゃあこれを持って早速街の神殿に行ってくるよ」
「え、なんで?」
思わずベルがそう聞いて、
(しまった)
と思った。
もしも今ダルが自分に気がついてしまい、様子がおかしくなってマルトに怪しまれてしまったら困る。
だが、
「ああ、君は封鎖は知らなかったんだっけ。あのね、王都から出たり入ったりする物はみんな、一度神殿で祝福を受けて清めてからにしないといけないんだよ。封鎖はそもそも穢れが王都に入らないようにするもので、物にくっついて穢れが行き来してはいけないだろう?」
と、ダルがごく普通に教えてくれたのでホッとしながら、
(気がついてないのかよ!)
と、心の中でつっこんでいた。
「まあ、なんて素敵なかわいいお守り!」
リルは出来上がった木彫りのお守りを見るなり、そう言って胸の前で手を揉みしだいて喜んだ。
頼まれたお守りの数は9つ。ダルの子5人とリルの子3人、そしてこれから生まれてくるお腹の子の分であった。
ラデルはそれぞれの子の特徴を聞くと、青い小鳥の彫刻のような丸い木の玉の表面に、それぞれふさわしいと思われる色で花と小鳥の模様を細かく彫刻をした。
「これから生まれてくるお子様だけはどのような方か分かりませんから、これから色を作られる方ということで、白に銀の線刻にさせていただきました」
「ええ、ええ、本当にありがとうございます。本当、本当に素敵だわ」
お守りには、青い小鳥と同じように上に金属の部品が付けられている。
「木で掘り出すことも考えたのですが、そうすると折れやすくなります。金属だと折れたり外れたりしても付け替えが効きますので」
「はい、ありがとうございます。感謝します」
リルはそれぞれのお守りを手に取っては、かわいいかわいいと食べてしまいかねないような気にいり方だ。
「親方~これ、作って売り出したらどうです? きっと大繁盛ですよ」
アベルことベルが商売っ気を出して本気でそう勧めた。
「ありがとう。でもこれはリルさんに特別にお願いされたお守りだし、私もそう商売を広げる気もないのでね」
「そうなの? うーん、でも欲しがる人多いと思うけどなあ。だっておれも早速欲しいもん」
その言葉を聞いてラデルとリルが笑った。
「じゃあベルも親方に作っていただいたら? 費用なら私が出すから」
「え、ほんと? やったー!」
大喜びするベルにまた二人が笑うが、
「いやいや、弟子の分ぐらい親方である私がなんとかしますので、リルさんはお気遣いなく」
「そう?」
リルはなんとなく残念そうにそう答えた。
そしてまた3人で色々と相談をし、ダルの子たちの分はこの後、ベルとラデルでリルの家にいるダルに届けることになった。
「これ、ダルに渡してくれるかしら。持って行ってもらう時にと思って書いておいたの」
と、リルが預けてくれた手紙を持って師弟がマルトの雑貨店へと向かう。
雑貨店ではまずマルトが出てきたので、ラデルがこっそりと耳打ちをしてダルを呼んでもらう。
今、ダルは封鎖でカースの我が家に帰ることができないので、マルトの雑貨店に滞在させてもらっているのだ。
「あの隊長、これを」
「え、何?」
ダルは受け取った包みを開いてびっくりし、リルの手紙を読んで理由を知り、またびっくりする。
「それでうちの子たちにもこれを?」
「はい、リルの発案で」
「リルが?」
マルトの言葉にすでに鼻声になっている。
「いやいや、ちょっと隊長~泣かないでくださいよ~」
「うん、あの、ごめん。俺ちょっと」
後ろを向いて鼻をすすっている。
(本当に涙もろいんだなあ、ダル)
少し笑いながらそう思いながらも、ベルもなんとなく涙ぐむ。
ここに入って来た時、ラデルの後ろに隠れながらだがダルにも軽く挨拶をしているのだが、ダルはベルに全く気がついていないようだった。
「そうですか、お弟子さんかあ。小さいのにえらいなあ。がんばっていい職人さんになってくださいね」
そう言ってニコニコと挨拶をしてくれた。
あまりに気がつかないもので、ベルはダルが気がつかないぐらいなら街を歩いても大丈夫だなと安心すると同時に、
(それって仮にも一隊の隊長としてどうなの)
と思ったが、
(まあダルだしな)
と納得した。
「それで、門のところまで子どもさんたちに来てもらって、門番から渡してもらったらどうかと思うんです。用事があるわけだから構わないでしょう」
ダルが生まれ育ったカースという漁師町はやや特殊な存在である。
「マユリアの海」と続きにあるためか「聖地の守り番」的役割があり、嵐の後などに「マユリアの海」を清掃をしたり、無闇に人が立ち入ることがないように見張ったりもしている。
リュセルスとほぼ同じ場所にありながらリュセルスではない。
封鎖期間中、カースはリュセルスから切り離されてしまうと、ポツンと離れ小島のようになる。
そのため、リュセルスと他の町との検問所よりもっと頻繁に連絡などが取れるようにはしてもらっている。
まあ、内緒のルートで海を渡ったキノスへ行く者もいるにはいるが、王都への出入りができなくなると死活問題なので便宜を図られているという形だ。
「じゃあこれを持って早速街の神殿に行ってくるよ」
「え、なんで?」
思わずベルがそう聞いて、
(しまった)
と思った。
もしも今ダルが自分に気がついてしまい、様子がおかしくなってマルトに怪しまれてしまったら困る。
だが、
「ああ、君は封鎖は知らなかったんだっけ。あのね、王都から出たり入ったりする物はみんな、一度神殿で祝福を受けて清めてからにしないといけないんだよ。封鎖はそもそも穢れが王都に入らないようにするもので、物にくっついて穢れが行き来してはいけないだろう?」
と、ダルがごく普通に教えてくれたのでホッとしながら、
(気がついてないのかよ!)
と、心の中でつっこんでいた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。



貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる