黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

文字の大きさ
上 下
91 / 488
第二章 第一部 吹き返す風

 9 隠れる

しおりを挟む
「つまりそれって、皇太子、じゃなくて新国王の後ろに誰かいるってこと?」

 それまで黙って聞いていたシャンタルがそう聞く。

「かもな」
「皇太子が背後から動かしてるんじゃなく、さらにその後ろに誰かいるってのか?」
「かも知れん」
「かもかも、かもだけか、今のところ」

 アランがふうっと息を吐いた。

「分からん。何回も言うけど、なんもかんも分からん。けど俺も皇太子が神官長やセルマを動かしてんじゃねえかとずっと思ってた」
「だろうな。俺もそうじゃねえかと思ってた」
「それは、この国のことを他の国と同じように考えてたからだが、よくよく考えたらそういうこと思いつくような人間がいるのか、この国に?」
「それは俺よりトーヤの方がよく分かってんだろうが」
「俺もおまえとそう変わんねえよ」
「まあ、そのぐらいのことになってくるとそうなのかも知れねえなあ」

 二人共あらためてこの国とアルディナやその周辺の国との違いを痛感する。

「とにかくこの国じゃあシャンタルは絶対だ。そりゃそうだろう、女神様が人を哀れと思ってこの国を作ってこの世に残ってくれた。そしていつでも目の前に神様がいる。外側は代々交代してだがな。そんでこの世界のために託宣してくれて、ずっと平和な生活が続いてる」
「疑う余地ねえよなあ」
「そういうこった。そんで、その女神様が王様って指名した王様の家系がずっとこの国を支配してる。間違いなんぞあるはずがない。たとえその王様が女好きでべっぴんいっぱい集めて、女神様まで自分のもんにしようとしても、それも間違いなんだとは思わない」
「だけど新国王がそれをひっくり返した」
「そうなんだけどな、結局はそれもおそらくは自分が女神様を欲しいがためだろうが」
「まあな」
「そういうどろどろした親子ゲンカがあったわけだが、そんでも無辜むこの民は王様たちが何をしようが、まあそれは上のお方のすることで、文句もなけりゃ間違ってるとも思わねえ。今までと同じく淡々と流れるままに上は上、下は下で生きてくだけだったはずだったんだが」
「なんでか今になって新しい王様は間違ってる、そういう風に流れてってるんだな」
「だな」
「そんだけ必死になって元王様側が元の地位を取り戻そうとしてるわけだが、そこまでするってのがまあ信じられねえ、ってとこまで話がきてる」
「だよな。今までそんなこと経験してねえからな。そんでつまるところ、王様以外で頼れるところって言やあ宮、シャンタルしかいねえってことでこんな騒ぎになってきてる」

 トーヤとアランが話しながら考えをまとめていく。

「旧勢力がシャンタルに頼ろうってのは、まあ言ってみりゃ子どものケンカに負けたやつが親の力に頼ろうって、そっちにいっただけかも知れねえが、そうなるきっかけについては、どう考えても皇太子がそこまでやろうって自分から思いつくとは思えねえんだよなあ」
「ですが」

 ラデルも自分の考えを述べる。

「八年前、先代のことがあってマユリアが宮にお残りになって後宮には入らないとなった後、皇太子殿下はそれはもう大変な努力をなさってご立派になったと聞いたことがありますよ」
「へえ」
「そうなんですか」
「ええ、そういう話です」
「って、誰がそんなこと広めたんだ?」
「え?」
「それって王宮の中でのことなんですよね? でもそれがたとえ当代の父親といってもラデルさんの耳にまで入るってのは、誰かがそう教えないと分からないことじゃないですか?」
「そういえば」

 言われてラデルが考える。

「気がつけば知っていた感じですね」
「そうなんですか」
「つまり、誰かが意図的にそういう話を流したんだな」
「ありえるな」
「皇太子自身は街に来たりしてました?」
「ええ、私はお会いしたことはありませんが、時々そういう話は聞きましたよ」
「どんな話です」
「例えば、年老いた父親と一緒に町外れを歩いていたら、馬で通りがかった皇太子殿下に親孝行を褒めてもらったとか、皇太子殿下が妃殿下と一緒にお忍びで街の食堂にいらっしゃって、とても気さくな様子で声をかけてくださったとか、他には子どもたちがけんかをしていたら皇太子殿下が仲直りさせてくださって、おいしいお菓子をくださったとか」
「うはあ、典型的」

 と、アランが呆れたように言い、トーヤがそれを聞いて笑った。

「いかにも、だな」
「だよな」
「え、何がなんです」
「いや、よくある手ですよそれ」

 トーヤがラデルに説明する。

「さっき言った王様の座の取り合いしてる者が、民にこんなに慕われてる、自分の方にこそ王様としての徳があると広めるんです。そのやり方にとても似てます」
「そんなことが……」

 ラデルが考えこんだように黙り込む。

「でもまあ、そのぐらいのことできないやつに上に立たれてもな」

 と、アランが言い、

「もっともだ」

 と、トーヤも続ける。

「それはどういう?」

 ラデルは意味が分からないらしく、二人に尋ねた。

「つまりですね、そのぐらいの頭や行動力があるやつじゃないと、その国を任せられないってことですよ。けど」

 トーヤが愉快そうな顔を引っ込めた。

「この国に、それを知って隠れてそうやって王様親子を操ってるやつがいる。それはちょっとばかり怖いことだと思いますよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

真実の愛のお相手に婚約者を譲ろうと頑張った結果、毎回のように戻ってくる件

さこの
恋愛
好きな人ができたんだ。 婚約者であるフェリクスが切々と語ってくる。 でもどうすれば振り向いてくれるか分からないんだ。なぜかいつも相談を受ける プレゼントを渡したいんだ。 それならばこちらはいかがですか?王都で流行っていますよ? 甘いものが好きらしいんだよ それならば次回のお茶会で、こちらのスイーツをお出ししましょう。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

【第1部完結】勇者参上!!~東方一の武芸の名門から破門された俺は西方で勇者になって究極奥義無双する!~

Bonzaebon
ファンタジー
東方一の武芸の名門、流派梁山泊を破門・追放の憂き目にあった落ちこぼれのロアは行く当てのない旅に出た。 国境を越え異国へと足を踏み入れたある日、傷ついた男からあるものを託されることになる。 それは「勇者の額冠」だった。 突然、事情も呑み込めないまま、勇者になってしまったロアは竜帝討伐とそれを巡る陰謀に巻き込まれることになる。 『千年に一人の英雄だろうと、最強の魔物だろうと、俺の究極奥義の前には誰もがひれ伏する!』 ※本作は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...