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第二章 第一部 吹き返す風
8 思いつく
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トーヤたちが一応その後の話を一通り終えた頃、ラデルが二階に上がってきた。トーヤが帰ってきたのを見届けてから、街に買い物に出かけていたのだ。
「少し街の様子が変でした」
「変?」
「ええ」
ラデルの話を聞くところによると、
「あちらこちらでシャンタルは新国王の御即位を良しとなさっておられない、そのように言われてました」
「ああ~」
トーヤがなるほどという風にアランを見ると、そちらも納得したように頷いた。
「始まったか」
「みたいだな」
遅かれ早かれ前国王派の巻き返しがあるのではないかと予想はしていたが、何しろここは普通の国とは少し違う。
「シャンタルを利用しようと考えつくとは、旧勢力も必死だな」
「俺はこの国に来てまだ日が浅いけど、それでもまさかシャンタルを持ち出すとはな」
「ああ、その通りだ。この国ではシャンタルに触れるのは禁忌中の禁忌だ、それを国王親子の政争に巻き込もうなんて、思いつくやつがいるのにびっくりした」
「どういうことなのでしょう?」
ラデルが眉を寄せてそう聞く。
「この国では今までそういう争いってのは多分なかったでしょう」
「そういう争いというのがまずよく分かりません」
「いや、そうでしょうね」
トーヤはラデルもやはりこの国の人間なのだとあらためて思う。
「普通はこういう争い、つまり、王様の座の取り合いなんてのがあったら、そりゃもうありとあらゆる手を尽くして争うものなんですよ」
「王様の座を争う?」
ラデルが不思議そうな顔になる。
「なるほど、そこからですか」
トーヤが苦笑する。
「この国ではずっときれいに順番に王様の交代が行われてきたってことですね。シャンタルの交代のように」
「ええ、それが普通では?」
「それが、よその国ではそうでもないんですね」
「そうなんですか」
ラデルが驚いた顔になる。
「この国でも、例えば大きな商会や貴族の家なんかが、跡継ぎ争いとかってありませんか?」
「ええ、そういうのは耳にすることがありますね」
「それの国ぐるみでのでっかいやつ、と思ってくれたらいいかも知れません」
「確かに言われてみればそうなんですが」
そう言われても、具体的に王家がどうとかがラデルには今ひとつピンときていないようだった。
「まあ仕方ないですよ。今までなかったこと、経験したことがないことを分かれと言って分かるものでもないでしょう」
「そうでしょうか」
「ええ。ですが、今はそのこれまでなかったことが起きているということです」
「そうなんですね」
ラデルが黙り込む。
それはそうだろう。
ここで旧勢力に担ぎ出されている当代は、シャンタルは、ラデルの娘なのだ。
「八年前のことは色々とお話しましたが、この先はどうなるのか全く分かりません。この国自体が変わろうとしてますし」
「ええ」
ラデルはそう返事をして、
「どう変わるんでしょうね」
ポツリとそう言う。
だが誰にも分からない。
未来がどうなるのかは。
「街の様子をもうちょっと聞かせてもらえますか?」
トーヤがラデルに尋ねる。
「ええ。一番多かったのはそれです、シャンタルは良しとしてない。それから次は、新しい王様はやってはいけないことをやった、そのために天の加護を失ってしまった。そんな王様を置いていたら、この国はどうなるか分からない。天の怒りを鎮めるためにも、元の王様に戻っていただかないと、そんな声があちこちで聞こえました」
「はあ、なるほど」
トーヤとアランが顔を見合わせる。
「ってことは、反乱を起こさせようって腹かな?」
「そうみたいだな」
自分たちだけの力では新国王の一派に対抗できないと考えて、民を動かそうとしているのだろう。
「まあうまい考え方だな。けど、普通はそういうのも思ったようには動いてくれんもんなんだが」
「まったくだ」
勢力争いというものは、対立する勢力の力が拮抗すればするほど激しくなるものだ。
今回のこの交代劇は、勢力争いということもできないほどあっさりしたものだった。
「何しろ親父は息子がそんなことするなんて思ってもなかったんだからなあ」
「俺だってこの国の人間だったらそんなこと考えつきもしないと思うぜ。聞けば聞くほどそんなこと思いついたのが不思議なぐらいだ」
「そうだな」
そう言ってトーヤがふと何かを思いつく。
「そうなんだよな、いくらマユリア欲しさといっても、八年前には親父の一喝で息子はすごすご引っ込んでんだ。今も親父がその時のままこの国で一番えらい人間だ。なのに、なんで息子はそんなこと思いついた?」
「そりゃ、そんだけマユリアが欲しかったんだろうさ」
「それはそうなんだけどな」
トーヤがなんとなく引っかかる。
「それは分からんでもないが、実際に国王を押しのけてってのにたどり着くかな、この国の人間が」
「いや、それは」
言われてアランも考える。
「聞けばこの八年、皇太子ってのはそりゃもう努力したって話だ。ちょっと頼りない印象だったのが、みるみる立派な跡取りになったって」
「うん、だからそれは自分が親父に成り代わってやろうってじゃねえの?」
「それはそうなんだろうが、実際にクーデターを起こして、なんてこの国の人間が思いつくのがなんか引っかかるんだよ」
もう一度そう言ってトーヤが考え込んだ。
「少し街の様子が変でした」
「変?」
「ええ」
ラデルの話を聞くところによると、
「あちらこちらでシャンタルは新国王の御即位を良しとなさっておられない、そのように言われてました」
「ああ~」
トーヤがなるほどという風にアランを見ると、そちらも納得したように頷いた。
「始まったか」
「みたいだな」
遅かれ早かれ前国王派の巻き返しがあるのではないかと予想はしていたが、何しろここは普通の国とは少し違う。
「シャンタルを利用しようと考えつくとは、旧勢力も必死だな」
「俺はこの国に来てまだ日が浅いけど、それでもまさかシャンタルを持ち出すとはな」
「ああ、その通りだ。この国ではシャンタルに触れるのは禁忌中の禁忌だ、それを国王親子の政争に巻き込もうなんて、思いつくやつがいるのにびっくりした」
「どういうことなのでしょう?」
ラデルが眉を寄せてそう聞く。
「この国では今までそういう争いってのは多分なかったでしょう」
「そういう争いというのがまずよく分かりません」
「いや、そうでしょうね」
トーヤはラデルもやはりこの国の人間なのだとあらためて思う。
「普通はこういう争い、つまり、王様の座の取り合いなんてのがあったら、そりゃもうありとあらゆる手を尽くして争うものなんですよ」
「王様の座を争う?」
ラデルが不思議そうな顔になる。
「なるほど、そこからですか」
トーヤが苦笑する。
「この国ではずっときれいに順番に王様の交代が行われてきたってことですね。シャンタルの交代のように」
「ええ、それが普通では?」
「それが、よその国ではそうでもないんですね」
「そうなんですか」
ラデルが驚いた顔になる。
「この国でも、例えば大きな商会や貴族の家なんかが、跡継ぎ争いとかってありませんか?」
「ええ、そういうのは耳にすることがありますね」
「それの国ぐるみでのでっかいやつ、と思ってくれたらいいかも知れません」
「確かに言われてみればそうなんですが」
そう言われても、具体的に王家がどうとかがラデルには今ひとつピンときていないようだった。
「まあ仕方ないですよ。今までなかったこと、経験したことがないことを分かれと言って分かるものでもないでしょう」
「そうでしょうか」
「ええ。ですが、今はそのこれまでなかったことが起きているということです」
「そうなんですね」
ラデルが黙り込む。
それはそうだろう。
ここで旧勢力に担ぎ出されている当代は、シャンタルは、ラデルの娘なのだ。
「八年前のことは色々とお話しましたが、この先はどうなるのか全く分かりません。この国自体が変わろうとしてますし」
「ええ」
ラデルはそう返事をして、
「どう変わるんでしょうね」
ポツリとそう言う。
だが誰にも分からない。
未来がどうなるのかは。
「街の様子をもうちょっと聞かせてもらえますか?」
トーヤがラデルに尋ねる。
「ええ。一番多かったのはそれです、シャンタルは良しとしてない。それから次は、新しい王様はやってはいけないことをやった、そのために天の加護を失ってしまった。そんな王様を置いていたら、この国はどうなるか分からない。天の怒りを鎮めるためにも、元の王様に戻っていただかないと、そんな声があちこちで聞こえました」
「はあ、なるほど」
トーヤとアランが顔を見合わせる。
「ってことは、反乱を起こさせようって腹かな?」
「そうみたいだな」
自分たちだけの力では新国王の一派に対抗できないと考えて、民を動かそうとしているのだろう。
「まあうまい考え方だな。けど、普通はそういうのも思ったようには動いてくれんもんなんだが」
「まったくだ」
勢力争いというものは、対立する勢力の力が拮抗すればするほど激しくなるものだ。
今回のこの交代劇は、勢力争いということもできないほどあっさりしたものだった。
「何しろ親父は息子がそんなことするなんて思ってもなかったんだからなあ」
「俺だってこの国の人間だったらそんなこと考えつきもしないと思うぜ。聞けば聞くほどそんなこと思いついたのが不思議なぐらいだ」
「そうだな」
そう言ってトーヤがふと何かを思いつく。
「そうなんだよな、いくらマユリア欲しさといっても、八年前には親父の一喝で息子はすごすご引っ込んでんだ。今も親父がその時のままこの国で一番えらい人間だ。なのに、なんで息子はそんなこと思いついた?」
「そりゃ、そんだけマユリアが欲しかったんだろうさ」
「それはそうなんだけどな」
トーヤがなんとなく引っかかる。
「それは分からんでもないが、実際に国王を押しのけてってのにたどり着くかな、この国の人間が」
「いや、それは」
言われてアランも考える。
「聞けばこの八年、皇太子ってのはそりゃもう努力したって話だ。ちょっと頼りない印象だったのが、みるみる立派な跡取りになったって」
「うん、だからそれは自分が親父に成り代わってやろうってじゃねえの?」
「それはそうなんだろうが、実際にクーデターを起こして、なんてこの国の人間が思いつくのがなんか引っかかるんだよ」
もう一度そう言ってトーヤが考え込んだ。
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