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第一章 第四部 穢れた侍女
14 ついてくる
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キリエはその後すぐにルギのところに行き、
「リルから受け取りたい物があります。申し訳ありませんがすぐに行って来てもらえませんか」
そう言って封蝋で閉じた封筒を渡す。
「分かりました」
ルギは理由も何も聞かず、すぐに馬を走らせ、すぐに厳重に包装された小さな包みを持ち帰った。
「ありがとうございます。申し訳なかったですね、使い立てして」
「いえ、これも役目ですから」
宮広しと言えど、主を除く人の中で警護隊隊長を伝令に使えるのは侍女頭しかいない。
キリエは確認した中身をハンカチで包み、二人の侍女が隔離されている部屋へと向かった。
見張りの衛士たちも侍女頭の訪問には何も言わずに中に通す。
「遅い時間に申し訳ないことです」
「いえ」
「…………」
ミーヤは丁寧に礼をしてキリエを迎え、セルマは不愉快そうに横を向き、黙ったまま一応その場に立った。
「ミーヤ」
「はい」
「これを」
白いハンカチを広げると、
「これは……」
どこかで見たことのあるような、だが全く違うそれをミーヤは戸惑いながら見る。
「お守りです」
キリエはそうとだけ言う。
「お守り……」
そう聞いて興味を持ったのかセルマがちらっと視線をやり、見た目は子供の工作としか見えない青い小鳥を鼻で笑う。
「そんなもの……」
「おそらくですが、今一番危ないのはおまえです」
セルマにキリエが感情を込めずに言う。
「何を言うのですか!」
セルマがカッとしてキリエに言い返すが、
「本当なのです」
真面目にキリエがそう言い添え、セルマがさすがに黙る。
何もなければ言いがかりと無視することもできたが、セルマは聞いているのだ、あの水音を。
「本当なのです」
セルマの心の内を理解したようにもう一度キリエがそう言った。
「分かりました」
ミーヤが受け取った青い小鳥を優しく両手で包むと、
「私たちを守ってくださいね」
祈りを込めるように両手を額に当てた。
「キリエ様、ありがとうございます」
これが何かはセルマがいるここでは聞くことはできない。
だがそれが何であったとしても、ミーヤは理由を聞かずとも、キリエのしてくれることならば信じることができる。
「私も何もないことを祈っていますよ」
そう言ってキリエは部屋から出ていった。
「セルマ様、この子をここに置いてもよろしいですか?」
2つのベッドの間にあるキャビネット。
本来なら上にランプを置くようになっているが、例のことがあり懲罰房と同じくランプは置かれていない。代わりに足元に火桶を置いてはあるが、さすがにそれだけでは普通の部屋よりかなり暗く感じる。
セルマはちらりと木彫りの青い小鳥を見て、
「その不細工な細工物が何の役に立つというのです」
とは言ったものの、あの水音のことを思い出すと、たとえそれが何でもすがりたい気持ちにはなっていた。
ミーヤは丁寧に折ったハンカチを敷き、その上に木彫りの青い小鳥を座らせた。
「この子が守ってくれます。私はそう信じています」
ミーヤはそう言うと、もう一度同じように優しく、今度は上からふんわりと抱きしめ、額を寄せると、
「よろしくお願いしますね」
そう言ってから心の中で、
(フェイ)
懐かしい名を呼ぶ。
そうしておいて、
「さあ、では寝ましょうか。おやすみなさい」
そう言ってもう一度ベッドに入って横になってしまう。
「……呑気な……」
セルマは腹立たしそうにそう吐き出した。
さっきもそうだった。セルマが腹を立てていたというのに、するりと知らぬ顔をして、あっさりと「もう寝ましょう」そう言ってとっととベッドに入ってしまったのだ。
あまりの想像外の行動にセルマはそれ以上何も言うことができなくなり、
「ではおやすみなさいませ」
そう言ってくるりと背を向けてしまったミーヤをただ呆然と見つめることしかできなかった。
セルマはミーヤがベッドに入ってしまっても、そのままベッドの横に立ったままでいた。
立っているとドアの隙間から外の光が少しでも見えて、それで少しだけ安心な気がしたのだ。
ドアの外には番をする衛士のためにランプが置いてあったから。
(ただでさえ気味が悪いというのにランプを置いてもらえないなんて、キリエ殿の嫌がらせに違いない)
事情を知らないセルマにはそうとしか思えなかった。
ただでさえ不気味な状況なのに、その上さらに明るさまで制限されるとは。
その意味では、まだ懲罰房の方が狭く、房の外にはランプを置いてくれていたのでもっと明るかった。普通ならランプを入れてゆっくり滞在できる客間、そこにランプがないとどれほど暗いか。
「その上……」
セルマは忌々しそうにミーヤを見る。
「この状態でよく寝られること!」
あえてミーヤに聞かせるようにそう言うが、ミーヤは反応しない。
そのうちにじっと立っていても仕方ないと、渋々のようにベッドに入ってセルマも横になった。
横になってしまうと昨夜はあまり寝られなかったからだろうか、セルマも自然とまぶたが閉じてきて、うとうとと夢の中に入りかける。
と……
ピシャン……ピシャン……
セルマがベッドの中で凍りついた。
なぜ……
ここは懲罰房ではない、それなのになぜあの音が聞こえるの……
ピシャン……ピシャン……
セルマの体が止めようもなくガタガタと震えだしていた。
「リルから受け取りたい物があります。申し訳ありませんがすぐに行って来てもらえませんか」
そう言って封蝋で閉じた封筒を渡す。
「分かりました」
ルギは理由も何も聞かず、すぐに馬を走らせ、すぐに厳重に包装された小さな包みを持ち帰った。
「ありがとうございます。申し訳なかったですね、使い立てして」
「いえ、これも役目ですから」
宮広しと言えど、主を除く人の中で警護隊隊長を伝令に使えるのは侍女頭しかいない。
キリエは確認した中身をハンカチで包み、二人の侍女が隔離されている部屋へと向かった。
見張りの衛士たちも侍女頭の訪問には何も言わずに中に通す。
「遅い時間に申し訳ないことです」
「いえ」
「…………」
ミーヤは丁寧に礼をしてキリエを迎え、セルマは不愉快そうに横を向き、黙ったまま一応その場に立った。
「ミーヤ」
「はい」
「これを」
白いハンカチを広げると、
「これは……」
どこかで見たことのあるような、だが全く違うそれをミーヤは戸惑いながら見る。
「お守りです」
キリエはそうとだけ言う。
「お守り……」
そう聞いて興味を持ったのかセルマがちらっと視線をやり、見た目は子供の工作としか見えない青い小鳥を鼻で笑う。
「そんなもの……」
「おそらくですが、今一番危ないのはおまえです」
セルマにキリエが感情を込めずに言う。
「何を言うのですか!」
セルマがカッとしてキリエに言い返すが、
「本当なのです」
真面目にキリエがそう言い添え、セルマがさすがに黙る。
何もなければ言いがかりと無視することもできたが、セルマは聞いているのだ、あの水音を。
「本当なのです」
セルマの心の内を理解したようにもう一度キリエがそう言った。
「分かりました」
ミーヤが受け取った青い小鳥を優しく両手で包むと、
「私たちを守ってくださいね」
祈りを込めるように両手を額に当てた。
「キリエ様、ありがとうございます」
これが何かはセルマがいるここでは聞くことはできない。
だがそれが何であったとしても、ミーヤは理由を聞かずとも、キリエのしてくれることならば信じることができる。
「私も何もないことを祈っていますよ」
そう言ってキリエは部屋から出ていった。
「セルマ様、この子をここに置いてもよろしいですか?」
2つのベッドの間にあるキャビネット。
本来なら上にランプを置くようになっているが、例のことがあり懲罰房と同じくランプは置かれていない。代わりに足元に火桶を置いてはあるが、さすがにそれだけでは普通の部屋よりかなり暗く感じる。
セルマはちらりと木彫りの青い小鳥を見て、
「その不細工な細工物が何の役に立つというのです」
とは言ったものの、あの水音のことを思い出すと、たとえそれが何でもすがりたい気持ちにはなっていた。
ミーヤは丁寧に折ったハンカチを敷き、その上に木彫りの青い小鳥を座らせた。
「この子が守ってくれます。私はそう信じています」
ミーヤはそう言うと、もう一度同じように優しく、今度は上からふんわりと抱きしめ、額を寄せると、
「よろしくお願いしますね」
そう言ってから心の中で、
(フェイ)
懐かしい名を呼ぶ。
そうしておいて、
「さあ、では寝ましょうか。おやすみなさい」
そう言ってもう一度ベッドに入って横になってしまう。
「……呑気な……」
セルマは腹立たしそうにそう吐き出した。
さっきもそうだった。セルマが腹を立てていたというのに、するりと知らぬ顔をして、あっさりと「もう寝ましょう」そう言ってとっととベッドに入ってしまったのだ。
あまりの想像外の行動にセルマはそれ以上何も言うことができなくなり、
「ではおやすみなさいませ」
そう言ってくるりと背を向けてしまったミーヤをただ呆然と見つめることしかできなかった。
セルマはミーヤがベッドに入ってしまっても、そのままベッドの横に立ったままでいた。
立っているとドアの隙間から外の光が少しでも見えて、それで少しだけ安心な気がしたのだ。
ドアの外には番をする衛士のためにランプが置いてあったから。
(ただでさえ気味が悪いというのにランプを置いてもらえないなんて、キリエ殿の嫌がらせに違いない)
事情を知らないセルマにはそうとしか思えなかった。
ただでさえ不気味な状況なのに、その上さらに明るさまで制限されるとは。
その意味では、まだ懲罰房の方が狭く、房の外にはランプを置いてくれていたのでもっと明るかった。普通ならランプを入れてゆっくり滞在できる客間、そこにランプがないとどれほど暗いか。
「その上……」
セルマは忌々しそうにミーヤを見る。
「この状態でよく寝られること!」
あえてミーヤに聞かせるようにそう言うが、ミーヤは反応しない。
そのうちにじっと立っていても仕方ないと、渋々のようにベッドに入ってセルマも横になった。
横になってしまうと昨夜はあまり寝られなかったからだろうか、セルマも自然とまぶたが閉じてきて、うとうとと夢の中に入りかける。
と……
ピシャン……ピシャン……
セルマがベッドの中で凍りついた。
なぜ……
ここは懲罰房ではない、それなのになぜあの音が聞こえるの……
ピシャン……ピシャン……
セルマの体が止めようもなくガタガタと震えだしていた。
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