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第一章 第二部 囚われの侍女
14 馬車の密談
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父親のアロと入れ替わりに宮を出されたリルは、封鎖でカースにある自宅に帰れなくなったダルと共に実家のオーサ商会へと馬車で向かっていた。ダルに送ってもらうという口実で、これからのことを相談したかったからだ。
日頃からダル夫婦とは家族ぐるみで懇意にしていることから、アロは、
「ダル隊長に送っていただけるならリルも安心です。封鎖が明けるまでどうぞ我が家にご滞在ください。お世話をする者もたくさんおります、ご自宅には知らせをやっておけば安心なさるでしょうし」
そう言ってダルに滞在を勧めてくれたので、リルが特に強く主張しなくても自然とそういうことになったのだ。
「とにかくなんとかしてミーヤを懲罰房から出してもらわないと。それにトーヤの行方も探さないとね。ダル、何か心当たりないの?」
「一応何かあった時にはって場所は決めてあるんだけど、これから向かうのはまずいよね」
「それはそうよね、もしかしたらダルにも見張りとか付いてるかも知れないし」
何しろダルとリルは今一番の容疑者であるトーヤとつながりがあるのだ。
「ミーヤと一緒に懲罰房とかに入れられても不思議じゃなかったけど、私はこんな体だし、ダルもそんなでも一応隊長だし、仕方なく出されたって感じかも」
「そんなでもって……」
小さくダルは抗議するが、これ以上何かを言っても言い負かされるだけなのは分かっているし、今はそんなことで言い争っている場合でもないのでそこで口をつぐむ。
「なんであんな急にトーヤの正体がばれたのかしら。なんとかうまくセルマ様を追い詰めて、なんとかキリエ様の元で宮が落ち着くんじゃないかと思ってたのに」
「それなんだよなあ」
ダルも首を傾げる。
「とにかく、誰がどう動いているか分からないのだから、気をつけて動きましょう」
「そうだよな」
「懲罰房は本当に冷たい場所なのよ」
リルがマユリアがいた時のことを思い出して言う。
「そう言ってたよな」
「あの時は私ができるだけのことをして差し上げたけど、ミーヤにはそんな気配りをしてもらえるとは思えない。体を壊さないか本当に心配だわ」
ダルは黙ったままリルをじっと見た。
「何?」
「いや、本当に変わったなあって思ってた」
「誰が?」
「リルだよ。知り合った頃から考えたら本当に強くて優しくなった」
「何よ、今頃になって惚れたとか言っても遅いんですからね」
「そんなことは言ってないって」
「それはそれで失礼よね」
「そ、そうかな」
2人でぽんぽんと言い合い、そして顔を見合わせて笑う。
「あ~、あの時ダルに振られておいて本当によかった!」
「なんだよそれ」
「だって、そのおかげでこんなにいいお友達ができたんですもの」
「あ、ありがと」
ダルが照れくさそうに鼻の頭をかき、ふと手を止めて真面目な顔になってリルに話しかけた。
「なあ、あのさ」
「なに?」
「あの、トーヤとミーヤってさ」
「しっ!」
リルがダルの口をぺしゃりと右手で押さえた。
「それ以上言ってはだめ」
「え、な、なんで」
「あのね、ミーヤは侍女なの」
「いや、そりゃ分かってるけどさ」
「だからね、ミーヤは一生を宮に捧げると決めてるの、分かるでしょ」
「いや、そりゃそうだけどさ、でも同期のノノだって、応募の侍女だったけどナルと結婚して、今は外の侍女になってるだろ」
「ミーヤとノノは違うから」
「どこがだよ」
ダルが困った顔でリルに聞くと、リルがはあっとため息をつき、それから思い切ったように言う。
「ノノはね、本当は侍女になんてなりたくなかったのよ」
「え? な、なんで、だったらなんで侍女に応募したんだよ」
「家の事情よ」
「家の事情?」
「ええそうよ。ノノはね、子どもの頃に父親が病気をして家に借金があったの。それで借金の形に身売りをするってことになりかけた時に宮の募集があって、一か八かで応募してみたら選ばれたの」
「み、身売りって、ええっ!」
ダルは信じられないという顔になった。
「このシャンタリオでそんなこと、あるわけないと思った?」
「う、うん……」
「だからダルは世間を知らないって言うのよねえ」
リルがほおっとため息をつく。
「トーヤの育ての親だって女性も、そうやって売られてきたって言ってたでしょ? いくらでもある話なのよ」
「そうなのか……」
「なんでもノノのお父さまが病気をして、それでお金を借りた先が悪どい金貸しだったらしいわ」
「いるんだ、そんな人」
「いるのよねえ」
「それで身売りを?」
「ええ。それでね、幼なじみだったナルと子どもの頃から好き合ってたんだけど、まあそういう理由で宮の侍女になったのよ。それでナルがノノと会えるんじゃないかって月虹兵に応募したってのが本当のところらしいわ」
「あのナルが……知らなかった……」
ダルが見開けるだけ見開いた目をリルに向けて言う。
「俺、俺さ、そんな事情何も知らなくて、そんで良さそうな人だと思ってナルのこと選んだのに……」
「でしょうね」
リルが仕方がないという感じで笑う。
「全然そんなこと知らなくて、それでもそうして結果的にはノノとナルを幸せにしてしまった。そのあたりがダルの人徳なんでしょうねえ」
日頃からダル夫婦とは家族ぐるみで懇意にしていることから、アロは、
「ダル隊長に送っていただけるならリルも安心です。封鎖が明けるまでどうぞ我が家にご滞在ください。お世話をする者もたくさんおります、ご自宅には知らせをやっておけば安心なさるでしょうし」
そう言ってダルに滞在を勧めてくれたので、リルが特に強く主張しなくても自然とそういうことになったのだ。
「とにかくなんとかしてミーヤを懲罰房から出してもらわないと。それにトーヤの行方も探さないとね。ダル、何か心当たりないの?」
「一応何かあった時にはって場所は決めてあるんだけど、これから向かうのはまずいよね」
「それはそうよね、もしかしたらダルにも見張りとか付いてるかも知れないし」
何しろダルとリルは今一番の容疑者であるトーヤとつながりがあるのだ。
「ミーヤと一緒に懲罰房とかに入れられても不思議じゃなかったけど、私はこんな体だし、ダルもそんなでも一応隊長だし、仕方なく出されたって感じかも」
「そんなでもって……」
小さくダルは抗議するが、これ以上何かを言っても言い負かされるだけなのは分かっているし、今はそんなことで言い争っている場合でもないのでそこで口をつぐむ。
「なんであんな急にトーヤの正体がばれたのかしら。なんとかうまくセルマ様を追い詰めて、なんとかキリエ様の元で宮が落ち着くんじゃないかと思ってたのに」
「それなんだよなあ」
ダルも首を傾げる。
「とにかく、誰がどう動いているか分からないのだから、気をつけて動きましょう」
「そうだよな」
「懲罰房は本当に冷たい場所なのよ」
リルがマユリアがいた時のことを思い出して言う。
「そう言ってたよな」
「あの時は私ができるだけのことをして差し上げたけど、ミーヤにはそんな気配りをしてもらえるとは思えない。体を壊さないか本当に心配だわ」
ダルは黙ったままリルをじっと見た。
「何?」
「いや、本当に変わったなあって思ってた」
「誰が?」
「リルだよ。知り合った頃から考えたら本当に強くて優しくなった」
「何よ、今頃になって惚れたとか言っても遅いんですからね」
「そんなことは言ってないって」
「それはそれで失礼よね」
「そ、そうかな」
2人でぽんぽんと言い合い、そして顔を見合わせて笑う。
「あ~、あの時ダルに振られておいて本当によかった!」
「なんだよそれ」
「だって、そのおかげでこんなにいいお友達ができたんですもの」
「あ、ありがと」
ダルが照れくさそうに鼻の頭をかき、ふと手を止めて真面目な顔になってリルに話しかけた。
「なあ、あのさ」
「なに?」
「あの、トーヤとミーヤってさ」
「しっ!」
リルがダルの口をぺしゃりと右手で押さえた。
「それ以上言ってはだめ」
「え、な、なんで」
「あのね、ミーヤは侍女なの」
「いや、そりゃ分かってるけどさ」
「だからね、ミーヤは一生を宮に捧げると決めてるの、分かるでしょ」
「いや、そりゃそうだけどさ、でも同期のノノだって、応募の侍女だったけどナルと結婚して、今は外の侍女になってるだろ」
「ミーヤとノノは違うから」
「どこがだよ」
ダルが困った顔でリルに聞くと、リルがはあっとため息をつき、それから思い切ったように言う。
「ノノはね、本当は侍女になんてなりたくなかったのよ」
「え? な、なんで、だったらなんで侍女に応募したんだよ」
「家の事情よ」
「家の事情?」
「ええそうよ。ノノはね、子どもの頃に父親が病気をして家に借金があったの。それで借金の形に身売りをするってことになりかけた時に宮の募集があって、一か八かで応募してみたら選ばれたの」
「み、身売りって、ええっ!」
ダルは信じられないという顔になった。
「このシャンタリオでそんなこと、あるわけないと思った?」
「う、うん……」
「だからダルは世間を知らないって言うのよねえ」
リルがほおっとため息をつく。
「トーヤの育ての親だって女性も、そうやって売られてきたって言ってたでしょ? いくらでもある話なのよ」
「そうなのか……」
「なんでもノノのお父さまが病気をして、それでお金を借りた先が悪どい金貸しだったらしいわ」
「いるんだ、そんな人」
「いるのよねえ」
「それで身売りを?」
「ええ。それでね、幼なじみだったナルと子どもの頃から好き合ってたんだけど、まあそういう理由で宮の侍女になったのよ。それでナルがノノと会えるんじゃないかって月虹兵に応募したってのが本当のところらしいわ」
「あのナルが……知らなかった……」
ダルが見開けるだけ見開いた目をリルに向けて言う。
「俺、俺さ、そんな事情何も知らなくて、そんで良さそうな人だと思ってナルのこと選んだのに……」
「でしょうね」
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