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第一章 第二部 囚われの侍女
7 青い小鳥の秘密
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そうして運ばれたセルマの荷物を調べていったが、特にこれという物は見つからなかった。
「こちらは貴重品入れの品ですが」
最後の箱を衛士の一人が丁寧に開ける。
中には現金、宝石などが入っていた。
「それなりの金額、それなりの宝石ですが、貴族出身で、長年宮で勤め上げ、取次役という大役に就く者の持ち物として、不思議に思うようなものではないですよね」
セルマが何かを小馬鹿にしたような表情でそう言った。
「確かに」
ルギも認め、言葉少なにそう言って箱のフタを閉じた。
「お衣装や本などは、後ほどお部屋でもう一度検めさせていただきます」
「お好きに」
ルギの言葉にセルマは余裕を見せながらそう言った。
「では次は侍女ミーヤの荷物を」
言われて衛士が同じように箱を開けていく。
ミーヤの荷物はセルマよりずっと少なかったが、これは宮で過ごした年月、その立場を思えば特に変ではない。
同じように特に問題もなく品の検めは終わっていった。
「これが貴重品入れにあった物です」
衛士がそう言って最後の箱を開けた。
中には少しばかりの現金と、いくつかの木工細工、それから同じ生地で作られた小袋が3つ入っていた。
「この細工物は?」
ありふれたどこにでもあるような小さな細工物、普通に考えれば貴重品入れに入れるような品ではない。
「それは故郷の祖父が作って送ってくれた物です。私にとっては宝物なのです」
「分かりました。この小袋は自分で作った物ですか」
「はい」
「開けます」
「どうぞ」
ルギの手の上に青い小さなガラス細工の小鳥が乗せられた。
「これは?」
「それは八年前に亡くなった侍女見習い、フェイの形見です」
「フェイの」
その名に聞き覚えのある者、幼くして亡くなった侍女見習いがそのような名であると知っている者が何名かこの部屋にはいた。
「はい。他に受け取る者がおらず、それで私が預かることとなりました」
「そうですか」
ルギがそう言って小袋の中に入れようとした時にセルマが尋ねた。
「どうしておまえが預かることとなったのです」
「はい」
ミーヤが簡単にフェイの事情を説明する。
「それでフェイはこの宮に入る時に家族との縁が切れております」
「なるほど。それで、そのガラス細工はどのような来歴の物です」
「え?」
「たとえその程度の些末な物でも、そんな幼い侍女見習いが自分で手に入れることのできる物には思えません」
セルマの言う通りであった。
侍女は宮に入る時に家族にまとまった金額の金を渡されるが、本人はほぼ何も持たされることがない。宮の人間となった後は、全てを天からの借り物として、ほぼ私物というものはなくなるからだ。
宮から貸与され、そのうちに、たとえば衣装やちょっとした小物などがその侍女の専用の物となることはあるが、それでもそれはあくまで「借り物」なのだ。
同じく金銭も生活の全てを宮が担っていることから、ほぼ手にすることはない。長年のうちに何かの折の恩賞などとして手にする金銭を貯めたり、家族から送ってもらったりして好きな物を買ったりする者もあるが、フェイのように身内がおらぬような立場で、しかもまだ見習いでほぼ金銭を持たぬ者が、些少の額であるとはいえ、こんな物を自分で購入などできるはずがない。
「不思議です。それは一体どのような流れでその侍女見習いの物となったのか」
セルマが続けてミーヤに質問をする。
「これは」
ミーヤはゆっくりとセルマを見て言う。
「トーヤがフェイに買ってやったものです」
「トーヤが?」
「はい」
「何故に?」
「当時、フェイは私と共にトーヤに付いておりました。そしてリュセルスに行った時に気に入って見ていたらしいのですが、それに気がついたトーヤが買って与えた物です」
「どうして買ってやったのです」
「トーヤがフェイを可愛がっていたからです」
「そうですか、トーヤが。どうぞ、続けてください」
セルマが意味ありげにそれだけ言って質問を終えた。
ルギが黙って青い小鳥を袋に入れ、次の小袋を手にする。
「これは?」
「はい」
次は指輪であった。
「それは、トーヤからの預かり物です」
「トーヤの?」
「はい」
「これはどういう物です」
ルギが事務的に尋ねる。
「トーヤの育て親の形見だそうです」
「なぜそんな物を預かりました」
「はい、あちらに戻る時、失ってはいけないからと預かりました。嵐に流されてカースに流れついた時、幸いにも失わずに済みましたが、何かあってはいけないから、戻るまで預かってほしいと」
「そうですか」
何も言わなかったがセルマが不思議な目の色でミーヤを見ている。
「ではこちらは」
最後は小銭の入った小袋だ。
「それは……」
さすがにミーヤが答えをためらう。
「どうしました」
「あ、はい」
思い切って口を開く。
「トーヤが、フェイに買ってやった小鳥の代金です」
「そんな物をなぜ」
「はい……トーヤがあの小鳥をフェイに買ってやった時、まだ宮からいただいたお金しか持っておらず、自分で稼いだお金で買ってやれなかったと残念がっていました。その後、自分の働きでお金を手にした時に、その金額を渡してきて、これでやっと自分で買ってやれたことになった、と」
ミーヤが事実を説明する。
「こちらは貴重品入れの品ですが」
最後の箱を衛士の一人が丁寧に開ける。
中には現金、宝石などが入っていた。
「それなりの金額、それなりの宝石ですが、貴族出身で、長年宮で勤め上げ、取次役という大役に就く者の持ち物として、不思議に思うようなものではないですよね」
セルマが何かを小馬鹿にしたような表情でそう言った。
「確かに」
ルギも認め、言葉少なにそう言って箱のフタを閉じた。
「お衣装や本などは、後ほどお部屋でもう一度検めさせていただきます」
「お好きに」
ルギの言葉にセルマは余裕を見せながらそう言った。
「では次は侍女ミーヤの荷物を」
言われて衛士が同じように箱を開けていく。
ミーヤの荷物はセルマよりずっと少なかったが、これは宮で過ごした年月、その立場を思えば特に変ではない。
同じように特に問題もなく品の検めは終わっていった。
「これが貴重品入れにあった物です」
衛士がそう言って最後の箱を開けた。
中には少しばかりの現金と、いくつかの木工細工、それから同じ生地で作られた小袋が3つ入っていた。
「この細工物は?」
ありふれたどこにでもあるような小さな細工物、普通に考えれば貴重品入れに入れるような品ではない。
「それは故郷の祖父が作って送ってくれた物です。私にとっては宝物なのです」
「分かりました。この小袋は自分で作った物ですか」
「はい」
「開けます」
「どうぞ」
ルギの手の上に青い小さなガラス細工の小鳥が乗せられた。
「これは?」
「それは八年前に亡くなった侍女見習い、フェイの形見です」
「フェイの」
その名に聞き覚えのある者、幼くして亡くなった侍女見習いがそのような名であると知っている者が何名かこの部屋にはいた。
「はい。他に受け取る者がおらず、それで私が預かることとなりました」
「そうですか」
ルギがそう言って小袋の中に入れようとした時にセルマが尋ねた。
「どうしておまえが預かることとなったのです」
「はい」
ミーヤが簡単にフェイの事情を説明する。
「それでフェイはこの宮に入る時に家族との縁が切れております」
「なるほど。それで、そのガラス細工はどのような来歴の物です」
「え?」
「たとえその程度の些末な物でも、そんな幼い侍女見習いが自分で手に入れることのできる物には思えません」
セルマの言う通りであった。
侍女は宮に入る時に家族にまとまった金額の金を渡されるが、本人はほぼ何も持たされることがない。宮の人間となった後は、全てを天からの借り物として、ほぼ私物というものはなくなるからだ。
宮から貸与され、そのうちに、たとえば衣装やちょっとした小物などがその侍女の専用の物となることはあるが、それでもそれはあくまで「借り物」なのだ。
同じく金銭も生活の全てを宮が担っていることから、ほぼ手にすることはない。長年のうちに何かの折の恩賞などとして手にする金銭を貯めたり、家族から送ってもらったりして好きな物を買ったりする者もあるが、フェイのように身内がおらぬような立場で、しかもまだ見習いでほぼ金銭を持たぬ者が、些少の額であるとはいえ、こんな物を自分で購入などできるはずがない。
「不思議です。それは一体どのような流れでその侍女見習いの物となったのか」
セルマが続けてミーヤに質問をする。
「これは」
ミーヤはゆっくりとセルマを見て言う。
「トーヤがフェイに買ってやったものです」
「トーヤが?」
「はい」
「何故に?」
「当時、フェイは私と共にトーヤに付いておりました。そしてリュセルスに行った時に気に入って見ていたらしいのですが、それに気がついたトーヤが買って与えた物です」
「どうして買ってやったのです」
「トーヤがフェイを可愛がっていたからです」
「そうですか、トーヤが。どうぞ、続けてください」
セルマが意味ありげにそれだけ言って質問を終えた。
ルギが黙って青い小鳥を袋に入れ、次の小袋を手にする。
「これは?」
「はい」
次は指輪であった。
「それは、トーヤからの預かり物です」
「トーヤの?」
「はい」
「これはどういう物です」
ルギが事務的に尋ねる。
「トーヤの育て親の形見だそうです」
「なぜそんな物を預かりました」
「はい、あちらに戻る時、失ってはいけないからと預かりました。嵐に流されてカースに流れついた時、幸いにも失わずに済みましたが、何かあってはいけないから、戻るまで預かってほしいと」
「そうですか」
何も言わなかったがセルマが不思議な目の色でミーヤを見ている。
「ではこちらは」
最後は小銭の入った小袋だ。
「それは……」
さすがにミーヤが答えをためらう。
「どうしました」
「あ、はい」
思い切って口を開く。
「トーヤが、フェイに買ってやった小鳥の代金です」
「そんな物をなぜ」
「はい……トーヤがあの小鳥をフェイに買ってやった時、まだ宮からいただいたお金しか持っておらず、自分で稼いだお金で買ってやれなかったと残念がっていました。その後、自分の働きでお金を手にした時に、その金額を渡してきて、これでやっと自分で買ってやれたことになった、と」
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