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第一章 第一部 嵐の前触れ
14 消える託宣
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ベルとラデルを見送った後、トーヤは適当なベッドにごろりと横になり、たちまちいびきをかいて寝てしまった。
アランも同じように横になったが、他のベッドに腰掛けたままのシャンタルがなんとなく気になり、寝付けずにしばらく様子を伺っていたが、
「よう」
やがてそう声をかけた。
「何?」
「ん、何考えてんだ?」
「うん」
シャンタルはどう言おうか少し考えていた。
何かを話す時、大抵の場合はベルとトーヤが何かを話し、それを自分もアランも聞いて受け答えをする、その形が多かった。
アランも自分と同じく聞き役に回ることが多く、4人の中での役割分担としてそのような形になっていた。雑談以外で真面目に正面からアランとだけ、二人だけで話すことには慣れていない、単にそんな感じだ。
「うん、あのね」
やがて、頭の中で言葉が組み立てられたようにシャンタルが話し出した。
「ここ、当代の親御様の家でしょ? そして次代様の家でもあるってことは、次代様の親御様も家具職人なのかなって」
「ああ」
アランは合点がいったという風に頷く。
「そうなのかな?」
「かもな」
「ということは、私の親という人も家具職人なのかな?」
「へ?」
「考えたことはなかったんだけどね、もしかしたら次代様に選ばれる人には何か共通点があるのかもしれない」
「ああ、なるほどな」
アランはシャンタルの考えていることが分かって納得した顔になる。
「ありえるかもな」
「でしょ?」
「っていうか、シャンタルが当代のことも託宣したんだろ? 覚えてねえのか?」
「うん、覚えてないんだ」
「へ?」
「あのね」
シャンタルが正面からアランを向き直って続ける。
「話を聞いたからもう分かってると思うけど、昔の私はほとんど自分というものがなかったじゃない?」
「だったな」
「だけど、それとはまた別に、代々のシャンタルが覚えていない託宣というのがあってね、それが次代様についての託宣なんだ」
「なんだよそれ」
アランは驚いてベッドの上に上半身を起こした。
「託宣にもいくつかあってね、託宣を求めて来る人に下される託宣はもちろん本人に聞かせるんだよ。でもトーヤが来るって言った時みたいな、なんて言うのかな、この世界に関わるような大きな託宣、そうそう、ミーヤの村にあった大きな木の託宣とか、そういうのはマユリアだけが聞いていい託宣なんだ」
「へえ、そうなのか」
「うん。だからそういう託宣がありそうだとなったら、他の人は聞いてはいけないことになってる。その逆にね、マユリアだけが聞いてはいけない託宣というのもあって、それが次代様に関する託宣なんだ」
「マユリアだけが?」
「うん」
「そりゃなんでだ?」
「運命のためなのかなあ」
シャンタルが首を軽く振り、考えるようにする。
「シャンタルとマユリアは糸のようなものでつながってる、そう言ったでしょ?」
「ああ、言ってたな」
「だからかな、人に戻った後、その人がどこの誰かは知ってはいけないみたい」
「へ?」
「だから、本当は私はここに来てはいけなかったんだろうと思うけど、覚えてたからねえ」
「この場所をか?」
「うん」
「そりゃ自分がした託宣なんだから覚えてるだろ?」
「うん。だけどね、当代の親御様についてはもう何も覚えてないんだ」
「えっと」
アランが少し考えるようにして、
「それはおまえがお人形ってか、マユリアやラーラ様の中にいたからじゃねえのか?」
「違う」
シャンタルが銀色の髪を隠した黒いかつらを揺らしてそう言う。
「代々のシャンタルは、次代様の託宣を誰かに伝えたらその記憶が消えるんだよ」
「なんだって?」
「だから当代の親御様の託宣は、私の口から出て誰かに伝えられたから私の中から消えたんだよ」
「なんだよそりゃ!」
もう結構色々と不思議な話を耳にして、すっかり慣れたつもりのアランがまた驚かされた。
「なんでだよ、それ」
「よくは分からないけど、シャンタルはマユリアになって、やがては人に戻るからかも」
「わけわからん……」
アランが妹の口癖を口にする。
「分からないけど、神の座を降りた者が顔を合わさないようにかも」
「なんで合わせちゃいけねえんだよ」
「分からない。けど、一緒になったら色々使い道あると思わない?」
「いや、そりゃまあ」
シャンタルはこの国を出たときの10歳の子どものままではない、色々な「人」を「世界」を見てきてそれなりに世間を知っている。
「なんとなく思うだけだけど、そんな気がする」
「う~ん……」
分かったような分からないような話だとアランは思った。
「だからね、この場所のことを忘れてないことが不思議だった。トーヤに私だけが知っている場所と言われてここに来られたのは、ここに来ることが必要だったからかも知れないね」
「そうなのか」
「うん。だからかな、今ではもう場所以外のこと、次代様の親御様の、顔も名前も思い出せない」
「え!」
その言葉にこそアランは驚いて大きな声を出した。
「覚えていないんだ。当代にああやって伝えて、それを当代がラーラ様に伝えるのを見た後、靄のようなものに飲み込まれて、すっかり見えなくなってしまった」
「そんなことが……」
アランがごくりとつばを飲み込み、困ったような顔のシャンタルをじっと見た。
アランも同じように横になったが、他のベッドに腰掛けたままのシャンタルがなんとなく気になり、寝付けずにしばらく様子を伺っていたが、
「よう」
やがてそう声をかけた。
「何?」
「ん、何考えてんだ?」
「うん」
シャンタルはどう言おうか少し考えていた。
何かを話す時、大抵の場合はベルとトーヤが何かを話し、それを自分もアランも聞いて受け答えをする、その形が多かった。
アランも自分と同じく聞き役に回ることが多く、4人の中での役割分担としてそのような形になっていた。雑談以外で真面目に正面からアランとだけ、二人だけで話すことには慣れていない、単にそんな感じだ。
「うん、あのね」
やがて、頭の中で言葉が組み立てられたようにシャンタルが話し出した。
「ここ、当代の親御様の家でしょ? そして次代様の家でもあるってことは、次代様の親御様も家具職人なのかなって」
「ああ」
アランは合点がいったという風に頷く。
「そうなのかな?」
「かもな」
「ということは、私の親という人も家具職人なのかな?」
「へ?」
「考えたことはなかったんだけどね、もしかしたら次代様に選ばれる人には何か共通点があるのかもしれない」
「ああ、なるほどな」
アランはシャンタルの考えていることが分かって納得した顔になる。
「ありえるかもな」
「でしょ?」
「っていうか、シャンタルが当代のことも託宣したんだろ? 覚えてねえのか?」
「うん、覚えてないんだ」
「へ?」
「あのね」
シャンタルが正面からアランを向き直って続ける。
「話を聞いたからもう分かってると思うけど、昔の私はほとんど自分というものがなかったじゃない?」
「だったな」
「だけど、それとはまた別に、代々のシャンタルが覚えていない託宣というのがあってね、それが次代様についての託宣なんだ」
「なんだよそれ」
アランは驚いてベッドの上に上半身を起こした。
「託宣にもいくつかあってね、託宣を求めて来る人に下される託宣はもちろん本人に聞かせるんだよ。でもトーヤが来るって言った時みたいな、なんて言うのかな、この世界に関わるような大きな託宣、そうそう、ミーヤの村にあった大きな木の託宣とか、そういうのはマユリアだけが聞いていい託宣なんだ」
「へえ、そうなのか」
「うん。だからそういう託宣がありそうだとなったら、他の人は聞いてはいけないことになってる。その逆にね、マユリアだけが聞いてはいけない託宣というのもあって、それが次代様に関する託宣なんだ」
「マユリアだけが?」
「うん」
「そりゃなんでだ?」
「運命のためなのかなあ」
シャンタルが首を軽く振り、考えるようにする。
「シャンタルとマユリアは糸のようなものでつながってる、そう言ったでしょ?」
「ああ、言ってたな」
「だからかな、人に戻った後、その人がどこの誰かは知ってはいけないみたい」
「へ?」
「だから、本当は私はここに来てはいけなかったんだろうと思うけど、覚えてたからねえ」
「この場所をか?」
「うん」
「そりゃ自分がした託宣なんだから覚えてるだろ?」
「うん。だけどね、当代の親御様についてはもう何も覚えてないんだ」
「えっと」
アランが少し考えるようにして、
「それはおまえがお人形ってか、マユリアやラーラ様の中にいたからじゃねえのか?」
「違う」
シャンタルが銀色の髪を隠した黒いかつらを揺らしてそう言う。
「代々のシャンタルは、次代様の託宣を誰かに伝えたらその記憶が消えるんだよ」
「なんだって?」
「だから当代の親御様の託宣は、私の口から出て誰かに伝えられたから私の中から消えたんだよ」
「なんだよそりゃ!」
もう結構色々と不思議な話を耳にして、すっかり慣れたつもりのアランがまた驚かされた。
「なんでだよ、それ」
「よくは分からないけど、シャンタルはマユリアになって、やがては人に戻るからかも」
「わけわからん……」
アランが妹の口癖を口にする。
「分からないけど、神の座を降りた者が顔を合わさないようにかも」
「なんで合わせちゃいけねえんだよ」
「分からない。けど、一緒になったら色々使い道あると思わない?」
「いや、そりゃまあ」
シャンタルはこの国を出たときの10歳の子どものままではない、色々な「人」を「世界」を見てきてそれなりに世間を知っている。
「なんとなく思うだけだけど、そんな気がする」
「う~ん……」
分かったような分からないような話だとアランは思った。
「だからね、この場所のことを忘れてないことが不思議だった。トーヤに私だけが知っている場所と言われてここに来られたのは、ここに来ることが必要だったからかも知れないね」
「そうなのか」
「うん。だからかな、今ではもう場所以外のこと、次代様の親御様の、顔も名前も思い出せない」
「え!」
その言葉にこそアランは驚いて大きな声を出した。
「覚えていないんだ。当代にああやって伝えて、それを当代がラーラ様に伝えるのを見た後、靄のようなものに飲み込まれて、すっかり見えなくなってしまった」
「そんなことが……」
アランがごくりとつばを飲み込み、困ったような顔のシャンタルをじっと見た。
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