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第一章 第一部 嵐の前触れ
1 足元を照らす火
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「ここでいいのかな?」
「そうなんじゃない?」
こちらはトーヤたちより一足先に宮から抜け出したシャンタルとベルだ。
二人は宮の外へ飛び出すと、あらためて建物伝いに奥宮へと忍び入り、「葬送の扉」から外へと出た。
そう、前回シャンタルが棺に入れられて奥宮の外へと運ばれたあの扉だ。亡くなった人が出た時にだけ使う扉、めったに使う扉ではない。ここから抜け出すとかなり見つかりにくい。
「よく鍵が開いてたと思ったら、多分トーヤが開けといたんだな、あれ」
「そうみたいだね」
見回りもこの扉にはほとんど来ない。だからトーヤはそこに目をつけ、こっそりと鍵を開けておいた。散歩の振りをしてあっちこっちにそういう細工をして回っていたようだ。
「そんなことしなくても、鍵開け教えてくれてりゃいいのにな」
「そうだね」
シャンタルがくすっと笑いながら、ベルと一緒に北西へと走る。
目的地は聖なる森の向こうにある、例の洞窟だ。
『ルギは知ってるが衛士たちには知らせてねえだろう。だからシャンタルとベルはそこから洞窟を抜けて外へ出ろ。出口のへんに荷物と目的地を書いた紙を置いとく』
トーヤにそう言われていた。
聖なる森にはほとんど誰も近づかない。
もしもルギが本気でトーヤたちを捕まえる気なら、八年前と同じように衛士たちをどこかに潜ませているだろうが、多分それはないと思われた。
思った通り、誰にも見つからずに洞窟へとたどり着けた。
「ここがそうなのか」
「うん、ここからアルってダルの馬に乗って海まで行ったんだよ。今回はもっと手前、多分一番最初の出口から出ろってことだと思うよ。その先だったらカースの人が使う可能性があるからね」
「そうか。真っ暗だな」
ベルが奥を覗いてそう言う。
「ちょっと待ってね」
シャンタルがそう言うと右手を前に突き出し、意識を集中する。
ぼっ
小さな音がして、シャンタルの掌の上に小さな火が灯る。
「これで足元が見えるよね」
「大丈夫そうだな」
ベルが念の為に洞窟のあちこちを見回し、足元も確認してそう言う。
「しっかし便利だな、魔法ってのは」
「一応魔法使いを名乗るんだからちょっとは勉強しろってトーヤに言われて勉強したからねえ」
クスクス笑いながらシャンタルが言う。
「うるせえ親父だよな、トーヤって」
「そうだね。でも必要なことはちゃんとそうして教えてくれるいい親父だよ」
と、トーヤが聞いたら「誰が親父だ」と怒り出しそうなことを話しながら、気楽な感じで洞窟を進む。
戦場で暮らすことが多い二人だ、足場がよくない道は歩き慣れている。
「とはいうものの、しばらく宮の中ばっかりだったから、なんか滑りそうだな」
「そうだね、あそこは歩きやすかったものね」
「いいとこだったよな~」
「うん、いいとこでしょ」
「そうか、シャンタルの実家だもんな」
「うん、いい実家だよ」
「だな」
今の状況が分かっているのかいないのか、まるで遠足のように口ではのんびりとそんな話をしながら、それでも足元だけはしっかりと踏みしめながら洞窟を下っていく。
「あそこじゃないかな、うっすら明るい」
「そんじゃこのあたりかな」
そのあたりから少し気をつけるようにして、どこかに何かがないか探しながら進む。
「あの明かりよりはこっちだよな? 向こうだとカースの人間に見つけられる可能性がある」
「そうだね、多分このあたりだね」
「あ、これかな」
ベルが何かを見つけた。
肩からひっかけて担ぐ形の袋が2つ、それからそのうちの1つに細く折られた紙が括り付けられている。
「目的地が書いてあんのかな」
ベルがシャンタルの掌の上の明かりに照らして手紙を読む。
「相変わらずきったねえ字、と……なんだこりゃ?」
「なんて書いてあるの?」
シャンタルが左手で紙を引き寄せて読む。
『一人だけが知っている場所』
あまり上手ではない字でそうとだけ書いてある。
「ひとりだけがしってるばしょ~?」
「そう書いてあるね」
「どこだよそれ」
ベルがムッとした顔で言う。
「わかんねえじゃねえかよ、これじゃ」
「そうだねえ……」
シャンタルもそう言って考える。
「一人だけってなんだろう?」
「ってか、誰が知ってんだよそれ。トーヤだけが知ってる場所だったらわかんねえぞ」
「ということは、私かベルのどちらかなんだよね」
「来た時に兄貴と3人でお買い物には出たけどさ、でもその後はおれは宮から出てねえからな。一人だけなんて知るわけねえじゃん」
「私も出てはいないけど、でもそれなら私みたいだよね……あ、そうか!」
シャンタルが何か心当たりがあったようだ。
「うん、分かった、あそこだよ」
そう言って紙を手のひらの上で燃やした。
「どこだよ」
「どこかは分からないけど行けるよ」
「は?」
「その前にまず着替えようよ、はい」
中を覗いてみてベル用らしい袋を渡し、
「私はこっちみたいだね。ここまで来たら外からの明かりで見える?」
「そうだな」
「じゃあ火を消して着替えるよ」
そう言って右手を握るとすっと火が消えた。
もしもアランがここにいたら、シャンタルとベルが二人きりで着替えなんぞ! そう言って大騒ぎしそうなものだが、今はそういう場合ではない。二人共とっとと中の服に着替えてから洞窟の外へと出ていった。
「そうなんじゃない?」
こちらはトーヤたちより一足先に宮から抜け出したシャンタルとベルだ。
二人は宮の外へ飛び出すと、あらためて建物伝いに奥宮へと忍び入り、「葬送の扉」から外へと出た。
そう、前回シャンタルが棺に入れられて奥宮の外へと運ばれたあの扉だ。亡くなった人が出た時にだけ使う扉、めったに使う扉ではない。ここから抜け出すとかなり見つかりにくい。
「よく鍵が開いてたと思ったら、多分トーヤが開けといたんだな、あれ」
「そうみたいだね」
見回りもこの扉にはほとんど来ない。だからトーヤはそこに目をつけ、こっそりと鍵を開けておいた。散歩の振りをしてあっちこっちにそういう細工をして回っていたようだ。
「そんなことしなくても、鍵開け教えてくれてりゃいいのにな」
「そうだね」
シャンタルがくすっと笑いながら、ベルと一緒に北西へと走る。
目的地は聖なる森の向こうにある、例の洞窟だ。
『ルギは知ってるが衛士たちには知らせてねえだろう。だからシャンタルとベルはそこから洞窟を抜けて外へ出ろ。出口のへんに荷物と目的地を書いた紙を置いとく』
トーヤにそう言われていた。
聖なる森にはほとんど誰も近づかない。
もしもルギが本気でトーヤたちを捕まえる気なら、八年前と同じように衛士たちをどこかに潜ませているだろうが、多分それはないと思われた。
思った通り、誰にも見つからずに洞窟へとたどり着けた。
「ここがそうなのか」
「うん、ここからアルってダルの馬に乗って海まで行ったんだよ。今回はもっと手前、多分一番最初の出口から出ろってことだと思うよ。その先だったらカースの人が使う可能性があるからね」
「そうか。真っ暗だな」
ベルが奥を覗いてそう言う。
「ちょっと待ってね」
シャンタルがそう言うと右手を前に突き出し、意識を集中する。
ぼっ
小さな音がして、シャンタルの掌の上に小さな火が灯る。
「これで足元が見えるよね」
「大丈夫そうだな」
ベルが念の為に洞窟のあちこちを見回し、足元も確認してそう言う。
「しっかし便利だな、魔法ってのは」
「一応魔法使いを名乗るんだからちょっとは勉強しろってトーヤに言われて勉強したからねえ」
クスクス笑いながらシャンタルが言う。
「うるせえ親父だよな、トーヤって」
「そうだね。でも必要なことはちゃんとそうして教えてくれるいい親父だよ」
と、トーヤが聞いたら「誰が親父だ」と怒り出しそうなことを話しながら、気楽な感じで洞窟を進む。
戦場で暮らすことが多い二人だ、足場がよくない道は歩き慣れている。
「とはいうものの、しばらく宮の中ばっかりだったから、なんか滑りそうだな」
「そうだね、あそこは歩きやすかったものね」
「いいとこだったよな~」
「うん、いいとこでしょ」
「そうか、シャンタルの実家だもんな」
「うん、いい実家だよ」
「だな」
今の状況が分かっているのかいないのか、まるで遠足のように口ではのんびりとそんな話をしながら、それでも足元だけはしっかりと踏みしめながら洞窟を下っていく。
「あそこじゃないかな、うっすら明るい」
「そんじゃこのあたりかな」
そのあたりから少し気をつけるようにして、どこかに何かがないか探しながら進む。
「あの明かりよりはこっちだよな? 向こうだとカースの人間に見つけられる可能性がある」
「そうだね、多分このあたりだね」
「あ、これかな」
ベルが何かを見つけた。
肩からひっかけて担ぐ形の袋が2つ、それからそのうちの1つに細く折られた紙が括り付けられている。
「目的地が書いてあんのかな」
ベルがシャンタルの掌の上の明かりに照らして手紙を読む。
「相変わらずきったねえ字、と……なんだこりゃ?」
「なんて書いてあるの?」
シャンタルが左手で紙を引き寄せて読む。
『一人だけが知っている場所』
あまり上手ではない字でそうとだけ書いてある。
「ひとりだけがしってるばしょ~?」
「そう書いてあるね」
「どこだよそれ」
ベルがムッとした顔で言う。
「わかんねえじゃねえかよ、これじゃ」
「そうだねえ……」
シャンタルもそう言って考える。
「一人だけってなんだろう?」
「ってか、誰が知ってんだよそれ。トーヤだけが知ってる場所だったらわかんねえぞ」
「ということは、私かベルのどちらかなんだよね」
「来た時に兄貴と3人でお買い物には出たけどさ、でもその後はおれは宮から出てねえからな。一人だけなんて知るわけねえじゃん」
「私も出てはいないけど、でもそれなら私みたいだよね……あ、そうか!」
シャンタルが何か心当たりがあったようだ。
「うん、分かった、あそこだよ」
そう言って紙を手のひらの上で燃やした。
「どこだよ」
「どこかは分からないけど行けるよ」
「は?」
「その前にまず着替えようよ、はい」
中を覗いてみてベル用らしい袋を渡し、
「私はこっちみたいだね。ここまで来たら外からの明かりで見える?」
「そうだな」
「じゃあ火を消して着替えるよ」
そう言って右手を握るとすっと火が消えた。
もしもアランがここにいたら、シャンタルとベルが二人きりで着替えなんぞ! そう言って大騒ぎしそうなものだが、今はそういう場合ではない。二人共とっとと中の服に着替えてから洞窟の外へと出ていった。
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