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第三章 第四部 逆風
6 茶系の衣装
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「今回必要なのは、誰が持ってきたのかという事実だけです。結果的にそれが他部署の者であったとしても、最終的にどこの誰であったかが分かれば構いません」
ルギがセルマの怒りなど気に留めぬようにそう言う。
「それで、ヤナ様がライナ様に確認に伺ったところ、事実であった、そういうことで間違いはありませんか?」
「あ、はい、そうです」
事務的に話を進める。
「今分かっている事実と思しきことはこうです」
ルギが記録係の書きつけたものを見ながら確認をする。
「何者かが前夜、モアラとシリルの部屋を訪れ、侍女頭のキリエ様の部屋の香炉を割ってしまったから翌朝持って行ってほしいと言い、2名は言われた通り、神具係の部屋の一室のテーブルに置いてあった青い香炉を、2つ目の鐘がなってしばらくの後、キリエ様の部屋へ届けた。その後、昼前と思われる時刻にヤナ様が具合が悪くなられたキリエ様を発見して侍医を呼ぶ。侍医はキリエ様の不調の原因をその香炉に仕込まれたなんらかの物質であると判断した」
一呼吸置き、部屋の全員をぐるっと見渡す。
「これで間違いはありませんな?」
今まで証言してきた侍女たちが黙って頷く。
「では侍医にお伺いする」
「は、はい」
侍医もルギに少しばかり気後れしたような顔で返事をする。
「その青い香炉で燃された物質がキリエ様のご不快の原因だと、なぜ気がつかれました」
「それは、有名な毒物だからです」
侍医もそれが「毒物」であったと認める。
「どのような毒です?」
「命を奪うほどのものではありませんが、寝込むほどには体調を崩す。そのようなものです」
「それを知る者は多いのですか?」
「はい。医学を志す者ならば、勉学の中で知識としている物の一つです。まことに基本的な物で医学生でも知っている者は多いかと」
「なるほど」
ルギが侍医の解説に納得して頷いた。
「では、その毒物に関しては、手に入れて使える者は多数いる、そういうことで構いませんか?」
「あ、そうなりますな」
「例えば、侍医殿であっても可能、と」
「はあ!」
さすがに侍医が驚いて目を丸くし、次に三角に眉を吊り上げ、ルギに言い返す。
「ルギ隊長! それはあまりにあまりなお言葉かと!」
「失礼」
ルギはいつもの皮肉な笑顔を浮かべ、
「私は例えばのことと、申し上げたのですが、ご不快に思われたのなら詫びを言います」
そう言って軽く頭を下げた。
「あくまで、それほど簡単に手に入るものかどうかを知りたかったのです」
「いえ」
侍医もしぶしぶ怒りを引っ込めた。
「それほど誰でもというものではありません。ですが、多少の薬の知識のある者ならば、使うことはさほど難しいことではない、というぐらいのものですか」
「なるほど」
ルギが感情を込めず、納得したという風に答える。
「色々と分かってきたことがありますな。では、今度は分からないことについてお伺いしたい」
全員にまた緊張が走る。
特に、先ほど随分と怯えた少女二名はお互いに手を握り合って顔色を青くしている。
「神具係の侍女二名を訪ね、香炉を割ったので届けるようにと言ったのは誰であるか、これはまだ分かっておりません」
そう言って、その青ざめた少女二人を向き直る。
「その者について、何か思い出せることはありますか?」
丁寧に、あまり相手を怯えさせ過ぎないほどの口調でルギが聞く。
「あの、何しろ暗くて、それに細く開けた扉の隙間から少し体を入れられてのことでしたので」
「ええ、顔はほとんど見えませんでした」
「背の高さがどのぐらいであったかは?」
「背の高さ……」
二人が顔を見合わせて考えてみる。
「私は、そんなに特別大きな方ではなかったように思います」
「私も小さい方という印象はありませんでしたが、やはり大きい方であるとも思いませんでした。ですが、本当のところまでは」
「なるほど。ではどんな声でした?」
続けてルギが聞く。
「少し低かったような?」
「ええ、私もそのような印象です」
「少なくとも、高い声の方ではなかったです」
「そうですね、静かな声でいらっしゃったような」
「はい、沈んだような喋り方をなさっていらっしゃったと思います」
「あ、確かにそうです!」
「その声に聞き覚えはありますか?」
「え……」
言われて考え、
「いえ、思い当たる方はないかと」
「私もです」
「では初めて聞く声であったということですか?」
「そう、とも、言い切れるものではないのですが、何しろそうおっしゃっただけでしたので」
「はい」
ぼんやりとは覚えているが、そういう感じだ。
「では、他に何か特徴的なところは?」
「特徴的な、ですか」
「ルギ隊長」
少女二人を遮り、セルマが言う。
「そのことにつきましては、先ほど少し話を聞きました」
「どのようなことですか?」
「衣装の色です」
「衣装の色?」
「ええ、衣装の色をなんとなく覚えているようです。そうでしたね?」
「はい」
「はい」
取次役にそう言われ、先ほどの会話の中でこの色ではないかという結論に至った色を思い出す。
「色ですか。何色でしたか」
「茶系かと」
「私もそのように思います」
「茶系ですか、侍女頭付きの色ですな」
考えていた方向に話が進んでいる、セルマはそう思っていた。
ルギがセルマの怒りなど気に留めぬようにそう言う。
「それで、ヤナ様がライナ様に確認に伺ったところ、事実であった、そういうことで間違いはありませんか?」
「あ、はい、そうです」
事務的に話を進める。
「今分かっている事実と思しきことはこうです」
ルギが記録係の書きつけたものを見ながら確認をする。
「何者かが前夜、モアラとシリルの部屋を訪れ、侍女頭のキリエ様の部屋の香炉を割ってしまったから翌朝持って行ってほしいと言い、2名は言われた通り、神具係の部屋の一室のテーブルに置いてあった青い香炉を、2つ目の鐘がなってしばらくの後、キリエ様の部屋へ届けた。その後、昼前と思われる時刻にヤナ様が具合が悪くなられたキリエ様を発見して侍医を呼ぶ。侍医はキリエ様の不調の原因をその香炉に仕込まれたなんらかの物質であると判断した」
一呼吸置き、部屋の全員をぐるっと見渡す。
「これで間違いはありませんな?」
今まで証言してきた侍女たちが黙って頷く。
「では侍医にお伺いする」
「は、はい」
侍医もルギに少しばかり気後れしたような顔で返事をする。
「その青い香炉で燃された物質がキリエ様のご不快の原因だと、なぜ気がつかれました」
「それは、有名な毒物だからです」
侍医もそれが「毒物」であったと認める。
「どのような毒です?」
「命を奪うほどのものではありませんが、寝込むほどには体調を崩す。そのようなものです」
「それを知る者は多いのですか?」
「はい。医学を志す者ならば、勉学の中で知識としている物の一つです。まことに基本的な物で医学生でも知っている者は多いかと」
「なるほど」
ルギが侍医の解説に納得して頷いた。
「では、その毒物に関しては、手に入れて使える者は多数いる、そういうことで構いませんか?」
「あ、そうなりますな」
「例えば、侍医殿であっても可能、と」
「はあ!」
さすがに侍医が驚いて目を丸くし、次に三角に眉を吊り上げ、ルギに言い返す。
「ルギ隊長! それはあまりにあまりなお言葉かと!」
「失礼」
ルギはいつもの皮肉な笑顔を浮かべ、
「私は例えばのことと、申し上げたのですが、ご不快に思われたのなら詫びを言います」
そう言って軽く頭を下げた。
「あくまで、それほど簡単に手に入るものかどうかを知りたかったのです」
「いえ」
侍医もしぶしぶ怒りを引っ込めた。
「それほど誰でもというものではありません。ですが、多少の薬の知識のある者ならば、使うことはさほど難しいことではない、というぐらいのものですか」
「なるほど」
ルギが感情を込めず、納得したという風に答える。
「色々と分かってきたことがありますな。では、今度は分からないことについてお伺いしたい」
全員にまた緊張が走る。
特に、先ほど随分と怯えた少女二名はお互いに手を握り合って顔色を青くしている。
「神具係の侍女二名を訪ね、香炉を割ったので届けるようにと言ったのは誰であるか、これはまだ分かっておりません」
そう言って、その青ざめた少女二人を向き直る。
「その者について、何か思い出せることはありますか?」
丁寧に、あまり相手を怯えさせ過ぎないほどの口調でルギが聞く。
「あの、何しろ暗くて、それに細く開けた扉の隙間から少し体を入れられてのことでしたので」
「ええ、顔はほとんど見えませんでした」
「背の高さがどのぐらいであったかは?」
「背の高さ……」
二人が顔を見合わせて考えてみる。
「私は、そんなに特別大きな方ではなかったように思います」
「私も小さい方という印象はありませんでしたが、やはり大きい方であるとも思いませんでした。ですが、本当のところまでは」
「なるほど。ではどんな声でした?」
続けてルギが聞く。
「少し低かったような?」
「ええ、私もそのような印象です」
「少なくとも、高い声の方ではなかったです」
「そうですね、静かな声でいらっしゃったような」
「はい、沈んだような喋り方をなさっていらっしゃったと思います」
「あ、確かにそうです!」
「その声に聞き覚えはありますか?」
「え……」
言われて考え、
「いえ、思い当たる方はないかと」
「私もです」
「では初めて聞く声であったということですか?」
「そう、とも、言い切れるものではないのですが、何しろそうおっしゃっただけでしたので」
「はい」
ぼんやりとは覚えているが、そういう感じだ。
「では、他に何か特徴的なところは?」
「特徴的な、ですか」
「ルギ隊長」
少女二人を遮り、セルマが言う。
「そのことにつきましては、先ほど少し話を聞きました」
「どのようなことですか?」
「衣装の色です」
「衣装の色?」
「ええ、衣装の色をなんとなく覚えているようです。そうでしたね?」
「はい」
「はい」
取次役にそう言われ、先ほどの会話の中でこの色ではないかという結論に至った色を思い出す。
「色ですか。何色でしたか」
「茶系かと」
「私もそのように思います」
「茶系ですか、侍女頭付きの色ですな」
考えていた方向に話が進んでいる、セルマはそう思っていた。
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