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第三章 第一部 見えない敵
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部屋に戻ったトーヤは「奥様セット」をシャンタルに返却した。
「シャンタル、ごめんな、おっさんくさくなってるかも、いで!」
「おまえ、ほんっと、懲りねえのな」
アランがいつものように言う。
「ベル、ありがと、大丈夫みたいだよ」
と、こちらもシャンタルが真面目な顔でクンクンと嗅いで見せる。
「おい……」
トーヤがしかめっ面でシャンタルとベルを交互に見比べるのを見て、ミーヤがクスクスと笑い出した。
「おかしいですね、ずっとそんな調子だったのですか?」
「そうだよ、かわいそうな俺」
「楽しそうです」
「おい」
ミーヤにも顔をしかめて見せるが、本心では楽しそうに思っているのが目で分かる。
「まあ、これで今日中にもキリエさんは落ち着くだろう。見たところ他には何もなさそうだったしな」
「だな」
ベルも認めて頷く。
「ってことは、次に目をつけられそうなのは、っと」
「ラーラ様じゃね?」
「おれもそう思う」
兄と妹が続けて言う。
「うん、俺もそう思う」
「ラーラ様がですか?」
ミーヤが驚いた顔になる。
「ああ、多分な」
「どうしてラーラ様が」
「とにかくな、マユリアの周囲から少しでも味方を減らしたいんだよ。そんで思う通りに動かしたい」
「後宮入りの話が来てるってミーヤさん、知ってた?」
「なんとなく噂では」
ミーヤには今は奥宮のことがあまりよく分からないのだという。
「神官長が皇太子殿下のお使いとして来られているらしい、というのは聞いたことがあります。ですが、毎日のようにかどうかまでは。それから国王様がマユリアの誓約書のことをおっしゃっているらっしゃると、それも耳にしたことはございます」
「いい年したおじんがかよ~」
ベルが呆れたように言うが、
「おまえな、男ってのは生涯現役なもんなんだよ」
トーヤが真面目な顔でそう言ってから、ギクリとしてオレンジ色の侍女を横目で伺った。
「国王様もずっとマユリアをお好きな気持ちが変わらないということですか」
「そうそう! そういうこと!」
「それはそれでお気の毒ですね」
ミーヤは言葉の通りに受け止めてそう言う。
一人の人を想い続ける気持ち、それが分かるだけに国王に少しばかり共感をしたようだ。
「なにがだよ~奥さんがいて、そんで何人も側室がいるんだろ? その上にすげえ美人だからって神様まで欲しがるなんて、けっ、厚かましいおっさんだぜ」
ベルがあまりにもストレートにそう言った。
「それに皇太子か? そっちも奥さんと子どもがいるんだろ? なんで男ってやつは!」
「おまえな」
アランが何か言おうとしてこちらも冷静に押し留めた。巻き込まれてはたまらない。
「なんだよ兄貴」
「いや、おまえの言う通りだなと思ってな」
「だよな!」
こうしてベルの中では国王と皇太子親子は「どうしようもないおっさんたち」のレッテルを貼り付けられることとなった。
「けどさ、なんでラーラ様まで目ぇつけられんだよ? 聞いたとこによるとさ、あんまりそういう力のない人なんだろ?」
「まあな。だがマユリアの心の大きな支えにはなってるのには違いない」
「そうなのか」
「ラーラ様になんかされても、キリエさんほどには守れないのが困ったところだ」
聞いてミーヤが暗い顔になる。
「俺たちがいること知らせるわけにもいかねえしなあ」
アランもそう言う。
「お茶会で出入りはできたんだし、なんとかつなぎ取る方法ねえのかなあ」
ベルも目をつぶって頭を捻っている。
「つなぎが取れたとしても正体明かさない限りは難しいな」
トーヤがそう言う。
シャンタルは何も言わず黙って聞いている。
「あの」
ミーヤがおずおずとそう言い出した。
「なんだ?」
「犯人がいればいいのではないかしら」
「犯人?」
「ええ」
「どういうこった?」
「ラーラ様のことを誰かが狙っている、そういう話が広まれば、奥の方でも色々と気をつけられるのではないでしょうか」
「犯人か……」
「たとえばエリス様を狙った同じ犯人が奥の方を狙っている、というのは」
「なんで奥様襲撃犯がラーラ様を狙うんだ?」
「そこまでは……」
ミーヤが困った顔でそう言う。
「んでも、悪い考えじゃねえ気がする」
アランがふとそう言った。
「エリス様が宮に匿われたことで逆恨みしてるとかか?」
トーヤが難しそうに眉を寄せた。
「ちょっーっと乱暴じゃねえか?」
「んでもな、無理にでもそう持っていきゃ、少なくとも手を出しにくくなるんじゃね?」
「うーん」
方向的にはありかもと思うのだが、ではどう話を持っていくようにすればいいのか。何しろ場所が場所だ。
「襲撃するっても、その前に警護隊なんてのもいるしな」
「ルギってやつのか」
「そうだ。あいつだったら黙ってそんなことさせてねえぞ」
「だよな」
「いや、待って!」
ベルが何かを閃いたように言い出した。
「そいつ、ルギってやつ、使えねえ?」
「どういうことだ」
「だからさ、警護隊使って噂流すんだよ。そうだな、ダルからでもいいけど、なんかラーラ様が狙われてるとかなんとかさ」
「なるほど」
トーヤもベルの思いつきに乗ってきたようだ。
「そっち経由で守ってもらうってのはいけそうだな」
「だろぉ?」
ベルが得意そうに胸を貼り、兄とトーヤ、両方から、
「調子にのんな」
と軽く張り倒された。
「シャンタル、ごめんな、おっさんくさくなってるかも、いで!」
「おまえ、ほんっと、懲りねえのな」
アランがいつものように言う。
「ベル、ありがと、大丈夫みたいだよ」
と、こちらもシャンタルが真面目な顔でクンクンと嗅いで見せる。
「おい……」
トーヤがしかめっ面でシャンタルとベルを交互に見比べるのを見て、ミーヤがクスクスと笑い出した。
「おかしいですね、ずっとそんな調子だったのですか?」
「そうだよ、かわいそうな俺」
「楽しそうです」
「おい」
ミーヤにも顔をしかめて見せるが、本心では楽しそうに思っているのが目で分かる。
「まあ、これで今日中にもキリエさんは落ち着くだろう。見たところ他には何もなさそうだったしな」
「だな」
ベルも認めて頷く。
「ってことは、次に目をつけられそうなのは、っと」
「ラーラ様じゃね?」
「おれもそう思う」
兄と妹が続けて言う。
「うん、俺もそう思う」
「ラーラ様がですか?」
ミーヤが驚いた顔になる。
「ああ、多分な」
「どうしてラーラ様が」
「とにかくな、マユリアの周囲から少しでも味方を減らしたいんだよ。そんで思う通りに動かしたい」
「後宮入りの話が来てるってミーヤさん、知ってた?」
「なんとなく噂では」
ミーヤには今は奥宮のことがあまりよく分からないのだという。
「神官長が皇太子殿下のお使いとして来られているらしい、というのは聞いたことがあります。ですが、毎日のようにかどうかまでは。それから国王様がマユリアの誓約書のことをおっしゃっているらっしゃると、それも耳にしたことはございます」
「いい年したおじんがかよ~」
ベルが呆れたように言うが、
「おまえな、男ってのは生涯現役なもんなんだよ」
トーヤが真面目な顔でそう言ってから、ギクリとしてオレンジ色の侍女を横目で伺った。
「国王様もずっとマユリアをお好きな気持ちが変わらないということですか」
「そうそう! そういうこと!」
「それはそれでお気の毒ですね」
ミーヤは言葉の通りに受け止めてそう言う。
一人の人を想い続ける気持ち、それが分かるだけに国王に少しばかり共感をしたようだ。
「なにがだよ~奥さんがいて、そんで何人も側室がいるんだろ? その上にすげえ美人だからって神様まで欲しがるなんて、けっ、厚かましいおっさんだぜ」
ベルがあまりにもストレートにそう言った。
「それに皇太子か? そっちも奥さんと子どもがいるんだろ? なんで男ってやつは!」
「おまえな」
アランが何か言おうとしてこちらも冷静に押し留めた。巻き込まれてはたまらない。
「なんだよ兄貴」
「いや、おまえの言う通りだなと思ってな」
「だよな!」
こうしてベルの中では国王と皇太子親子は「どうしようもないおっさんたち」のレッテルを貼り付けられることとなった。
「けどさ、なんでラーラ様まで目ぇつけられんだよ? 聞いたとこによるとさ、あんまりそういう力のない人なんだろ?」
「まあな。だがマユリアの心の大きな支えにはなってるのには違いない」
「そうなのか」
「ラーラ様になんかされても、キリエさんほどには守れないのが困ったところだ」
聞いてミーヤが暗い顔になる。
「俺たちがいること知らせるわけにもいかねえしなあ」
アランもそう言う。
「お茶会で出入りはできたんだし、なんとかつなぎ取る方法ねえのかなあ」
ベルも目をつぶって頭を捻っている。
「つなぎが取れたとしても正体明かさない限りは難しいな」
トーヤがそう言う。
シャンタルは何も言わず黙って聞いている。
「あの」
ミーヤがおずおずとそう言い出した。
「なんだ?」
「犯人がいればいいのではないかしら」
「犯人?」
「ええ」
「どういうこった?」
「ラーラ様のことを誰かが狙っている、そういう話が広まれば、奥の方でも色々と気をつけられるのではないでしょうか」
「犯人か……」
「たとえばエリス様を狙った同じ犯人が奥の方を狙っている、というのは」
「なんで奥様襲撃犯がラーラ様を狙うんだ?」
「そこまでは……」
ミーヤが困った顔でそう言う。
「んでも、悪い考えじゃねえ気がする」
アランがふとそう言った。
「エリス様が宮に匿われたことで逆恨みしてるとかか?」
トーヤが難しそうに眉を寄せた。
「ちょっーっと乱暴じゃねえか?」
「んでもな、無理にでもそう持っていきゃ、少なくとも手を出しにくくなるんじゃね?」
「うーん」
方向的にはありかもと思うのだが、ではどう話を持っていくようにすればいいのか。何しろ場所が場所だ。
「襲撃するっても、その前に警護隊なんてのもいるしな」
「ルギってやつのか」
「そうだ。あいつだったら黙ってそんなことさせてねえぞ」
「だよな」
「いや、待って!」
ベルが何かを閃いたように言い出した。
「そいつ、ルギってやつ、使えねえ?」
「どういうことだ」
「だからさ、警護隊使って噂流すんだよ。そうだな、ダルからでもいいけど、なんかラーラ様が狙われてるとかなんとかさ」
「なるほど」
トーヤもベルの思いつきに乗ってきたようだ。
「そっち経由で守ってもらうってのはいけそうだな」
「だろぉ?」
ベルが得意そうに胸を貼り、兄とトーヤ、両方から、
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