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第二章 第四部 おかえり、ただいま
17 心の内
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そうしてダルが「中の国」からの一行を尋ねることになった。
そういうつながりができれば、お互いに行き来するのも少しは楽になるかも知れない。
周囲に気を配りながらトーヤとアランはダルの部屋を出て、客殿へと戻った。
「へえ、そんじゃうまくいったんだな、よかった」
「ああ、一応な」
「いい人だったな、ダルさん」
「そうだろ?」
「そうか、じゃあ私もダルに会えるのかな」
「あまりにも変わってなくてびっくりするぞ?」
「そうなの!?」
トーヤの言葉にシャンタルが楽しそうに笑った。
「ここに戻って奥様以外で話をする初めての人になるね」
「そうだな」
言われてみればそうだ。
今までキリエ、マユリア、ラーラ様、そして一瞬だけだが会ったことがある当時の「次代様」である当代シャンタルと会うには会ったが、みんな「エリス様」としてだけ、しかも直接の会話すらない。
考えようによっては遠くにいて会えないよりつらく悲しいのかも知れない。そばにいるのに名乗りを上げられないのは。
ただ、シャンタルを見ているとそういう様子を見せない、何も考えていないように思えるのでつい忘れてしまいがちになるのだ。
昨日のベルとのやりとりで、トーヤはあらためて気をつけてやらないとと思っていた。
――思えば自分はいつからか、シャンタルの気持ちをあまり考えなくなっていたのかも知れない――
それはひとえにシャンタルが何を考えているかがよく分からないということが大きい。
人間は目に見えるものには敏感になっても、見えないことには知らぬうちに疎くなっていきがちだ。それが自分とシャンタルの間にも起こっていたように思えた。
それからシャンタルがあまりにベルと仲がよく、いつも幸せそうに見えたのも理由の一つかも知れない。大事な家族と離れていること、それを忘れさせるほど、シャンタルがベルに寄せる好意は大きい。
ベルだけではなくアランと、そして自分と4人でいる今の状態に満足してしまっていると、知らず知らず、そう思い込んでいたしまったのだ。
人の心の内というものは見えないからこそ、時にそうして勝手に思い込んでしまうことがある。この間のことであらためてそう思った。
とはいうものの、シャンタルだってもう18歳の成人男子だ。
いつまでもここを連れ出した10歳の子どものままではない。親だって手を放し、独り立ちさせる年齢だ。特異な育ち方をしたとはいっても立派な大人なのだ。本当は突き放さなくてはいけないのだろう。
だが、ダルと会えると聞いてあんなに無邪気に喜ぶ姿を見ていると、どうしてもあの時のまま、10歳の時の、やっと自分を取り戻し、あんな経験をしながらも、見るもの聞くものに楽しそうに反応していた姿を思い出す。
トーヤは2つの心の間で揺れた。
そうして、心が定まらぬまま、ダルが訪問する時が来てしまった。
「はじめまして、月虹隊の隊長、ダルと申します。こちらのアルロス号船長、ディレン殿にご同行いただき、今回の事件のことについて少しお伺いしたく、本日は訪問いたしました」
ダルは隊長らしい態度でそう言って丁寧に頭を下げると、同行していた2人の月虹兵を紹介した。
「こちらがマルトとナルです。どちらも副隊長を務めております」
あまり大きくはないがそこそこガッシリとした体格、丸顔の人の良さそうな男がマルトと名乗った。これがリルの夫なのだろう。
次にもう一人、いかにも体力勝負の仕事をしている、といった感じの大柄で体格のいい男がナルと名乗った。こちらどうやら例の「募集で入った侍女」から「外の侍女」になったノノの夫のナルらしい。
「はじめまして、こちらは『中の国』からこちらにご主人を探していらっしゃった、今は『エリス様』と呼ばれていらっしゃる奥様です」
アランがそう言って絹の海をまとっている貴婦人を紹介する。
濃茶の髪の侍女が何か耳打ちすると、貴婦人はゆっくりと優雅な姿で月虹兵たちに頭を下げた。
3人はしばらく奥様一行とディレンから色々話を聞いてそれを書き付けていた。
「なるほど、では襲撃者に心当たりはない、と?」
「ええ、疑えば疑える相手はないことはないのですが、はっきりとこれ、というには決め手に欠けます」
「そうですか」
ダルの態度は立派であった。この八年にかなり場数を踏んでいるのだろう、昔のちょっと気弱なダルとは一味違う、そう思ってトーヤはうれしくなった。
「じゃあマルトはこれを本部に持って帰って清書してくれるかな? ナルはアルロス号の方に船長は今日はこちらに泊まって話をしていただくから、そう伝えてきて。そのまま2人は直帰していいから、お疲れさまでした」
「隊長はどうされます?」
「私は今日はもう少し話を伺って、こちらに泊まるから」
「分かりました、では奥様にもそうお伝えしておきましょうか?」
「いや、こちらは大丈夫、出てくる時にそうなるかもと言ってきたから」
「分かりました」
「お疲れ様」
「失礼します」
「失礼します」
マルトとナルはそうして宮を辞していった。
「いやあ、堂に入ったもんだなあ」
「よせよ~」
トーヤがそう声をかけるとダルはいつものダルに戻り、照れくさそうにそう言った。
そういうつながりができれば、お互いに行き来するのも少しは楽になるかも知れない。
周囲に気を配りながらトーヤとアランはダルの部屋を出て、客殿へと戻った。
「へえ、そんじゃうまくいったんだな、よかった」
「ああ、一応な」
「いい人だったな、ダルさん」
「そうだろ?」
「そうか、じゃあ私もダルに会えるのかな」
「あまりにも変わってなくてびっくりするぞ?」
「そうなの!?」
トーヤの言葉にシャンタルが楽しそうに笑った。
「ここに戻って奥様以外で話をする初めての人になるね」
「そうだな」
言われてみればそうだ。
今までキリエ、マユリア、ラーラ様、そして一瞬だけだが会ったことがある当時の「次代様」である当代シャンタルと会うには会ったが、みんな「エリス様」としてだけ、しかも直接の会話すらない。
考えようによっては遠くにいて会えないよりつらく悲しいのかも知れない。そばにいるのに名乗りを上げられないのは。
ただ、シャンタルを見ているとそういう様子を見せない、何も考えていないように思えるのでつい忘れてしまいがちになるのだ。
昨日のベルとのやりとりで、トーヤはあらためて気をつけてやらないとと思っていた。
――思えば自分はいつからか、シャンタルの気持ちをあまり考えなくなっていたのかも知れない――
それはひとえにシャンタルが何を考えているかがよく分からないということが大きい。
人間は目に見えるものには敏感になっても、見えないことには知らぬうちに疎くなっていきがちだ。それが自分とシャンタルの間にも起こっていたように思えた。
それからシャンタルがあまりにベルと仲がよく、いつも幸せそうに見えたのも理由の一つかも知れない。大事な家族と離れていること、それを忘れさせるほど、シャンタルがベルに寄せる好意は大きい。
ベルだけではなくアランと、そして自分と4人でいる今の状態に満足してしまっていると、知らず知らず、そう思い込んでいたしまったのだ。
人の心の内というものは見えないからこそ、時にそうして勝手に思い込んでしまうことがある。この間のことであらためてそう思った。
とはいうものの、シャンタルだってもう18歳の成人男子だ。
いつまでもここを連れ出した10歳の子どものままではない。親だって手を放し、独り立ちさせる年齢だ。特異な育ち方をしたとはいっても立派な大人なのだ。本当は突き放さなくてはいけないのだろう。
だが、ダルと会えると聞いてあんなに無邪気に喜ぶ姿を見ていると、どうしてもあの時のまま、10歳の時の、やっと自分を取り戻し、あんな経験をしながらも、見るもの聞くものに楽しそうに反応していた姿を思い出す。
トーヤは2つの心の間で揺れた。
そうして、心が定まらぬまま、ダルが訪問する時が来てしまった。
「はじめまして、月虹隊の隊長、ダルと申します。こちらのアルロス号船長、ディレン殿にご同行いただき、今回の事件のことについて少しお伺いしたく、本日は訪問いたしました」
ダルは隊長らしい態度でそう言って丁寧に頭を下げると、同行していた2人の月虹兵を紹介した。
「こちらがマルトとナルです。どちらも副隊長を務めております」
あまり大きくはないがそこそこガッシリとした体格、丸顔の人の良さそうな男がマルトと名乗った。これがリルの夫なのだろう。
次にもう一人、いかにも体力勝負の仕事をしている、といった感じの大柄で体格のいい男がナルと名乗った。こちらどうやら例の「募集で入った侍女」から「外の侍女」になったノノの夫のナルらしい。
「はじめまして、こちらは『中の国』からこちらにご主人を探していらっしゃった、今は『エリス様』と呼ばれていらっしゃる奥様です」
アランがそう言って絹の海をまとっている貴婦人を紹介する。
濃茶の髪の侍女が何か耳打ちすると、貴婦人はゆっくりと優雅な姿で月虹兵たちに頭を下げた。
3人はしばらく奥様一行とディレンから色々話を聞いてそれを書き付けていた。
「なるほど、では襲撃者に心当たりはない、と?」
「ええ、疑えば疑える相手はないことはないのですが、はっきりとこれ、というには決め手に欠けます」
「そうですか」
ダルの態度は立派であった。この八年にかなり場数を踏んでいるのだろう、昔のちょっと気弱なダルとは一味違う、そう思ってトーヤはうれしくなった。
「じゃあマルトはこれを本部に持って帰って清書してくれるかな? ナルはアルロス号の方に船長は今日はこちらに泊まって話をしていただくから、そう伝えてきて。そのまま2人は直帰していいから、お疲れさまでした」
「隊長はどうされます?」
「私は今日はもう少し話を伺って、こちらに泊まるから」
「分かりました、では奥様にもそうお伝えしておきましょうか?」
「いや、こちらは大丈夫、出てくる時にそうなるかもと言ってきたから」
「分かりました」
「お疲れ様」
「失礼します」
「失礼します」
マルトとナルはそうして宮を辞していった。
「いやあ、堂に入ったもんだなあ」
「よせよ~」
トーヤがそう声をかけるとダルはいつものダルに戻り、照れくさそうにそう言った。
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