49 / 354
第一章 第三部 絶海の孤島
8 男と男の話
しおりを挟む
「ミーヤが……」
「もっと早く言ってやりゃよかったのにな……」
トーヤが少し俯いてぽつりぽつりと話し出した。
「一番最初、あんたを追っかけてひっぱたいた時、あの時は、悔しかったんだよ、ミーヤにそんな仕事をさせなきゃならねえってのが」
「そうか」
「だから、こいつのせいでミーヤがそういう仕事を始めるんだ、そう思って思いっきりひっぱたいた。八つ当たりだって分かってるけど、そうせずにいられなかったんだ」
「そうか」
「だから、あんたにミーヤを取られたって気持ちより、その悔しい気持ちの方がずっと大きかった。俺が大人だったら、もっと稼いでたら、そしたらミーヤにそんな仕事やらせなくて済むのに、ってな」
「そうか」
「母親の時は、まあ、あまりに小さかったからな、そこまで考えることすらできなかった。その後、あいつが色々世話焼いてくれて、あいつが俺の母親になってったから、だから、それ聞いて、その時ははっきりとヤキモチ焼いてたと思う。俺よりあんたの方が大事なんじゃないか、ってな。だから多分言わなかったんだろ」
「それ、いつぐらいのことだ?」
「いつだったっけかなあ……」
少し考えて、
「ああ、俺が戦場稼ぎから傭兵になるちょっと前だな。だから俺が11の頃、いや、まだ10かも知れんが、なんにしてもそのぐらいのことだ」
「ほう、ってことは12より前」
「それ言うなよな!」
トーヤが気色ばんでディレンに詰め寄る。
「ベルにいらんこと言うなよな!そんでなくともあいつ、今お年頃とかでアランも厳しくなってんだし」
「ほう」
ディレンの目が楽しそうに光ったのに気づき、トーヤはしまったと思った。
「まあ、よく覚えとくよ」
「くそっ」
ディレンがものすごーく楽しそうに笑った目になる。
「くそお!ガキの頃の自慢話が今になって脅しのネタになるなんて誰が思うよ!」
「まあそう言うな、そんだけおまえがあの嬢ちゃんを大事に思ってる証拠だ。知られたくないんだろ?って、あの嬢ちゃん、おまえの女か?」
「ちがうわ!」
思いっきり否定する。
「妹だよ、完全にな。というか、娘でもいいぐらいだ、あんなションベン臭いガキ」
「そうか」
嘘ではないみたいなのでディレンが思い切り笑う。
「そんじゃ娘にそういうこと知られたくねえな。年齢的に本当に親子でもおかしくないぐ」
「だから言うなって!」
トーヤは11歳の時、年をごまかして傭兵として雇ってもらうようになった。
「あの頃はまだガキとしては体が大きい方だったから、13だとか14だとか言ってもなんとか通ったんだよ。あのまま結構でかくなるだろうと思ったのに、その後で止まったからなあ。そんでほどほどの大きさの大人になっちまった」
「そうだな。俺はずっと小さい方だったからなんとも思わんが、おまえは当時は鼻っ柱強かったし、態度も体もでかい大人になるだろうと俺も思ったな」
「だろ?」
「早熟ってやつかな。そこからあんまり伸びなかったよなあ」
「そうなんだよな」
はあっとため息をつく。
「アランなんかとっくに俺追い抜いて、まだまだ伸びそうだし、シャンタルだってああいう風情で俺よりでかいしな」
「そうなのか!」
ディレンが驚いて聞く。
「ああ、でかいな。あんな風にしてるからそう思わねえんだがな、背筋伸ばすと俺よりちょっとばかり上だ」
「そりゃまた……」
ディレンが気の毒そうに言う。
「つーてもシャンタルはまだいい。俺よりでかいってもそれほど変わらんし、年も18でもう今より伸びねえだろうし。問題はベルだよ」
「嬢ちゃんか」
「ああ、あいつらの両親と死んだ兄貴ってのがまたでかかったらしくてな、そのうちベルにまで追い越されんじゃねえかとびくびくしてる」
「そうか」
心底気の毒そうに言われ、
「いや、だからって俺の方がなんでもかんでも上だからな!身長ぐらいでどうってことねえからな!」
トーヤが慌てて言い直す。
「まあ、あれだな。あんまり若いうちからそういうことすると伸びねえって」
「だから冗談でもそういうこと言うなよな!」
トーヤのガキの頃の自慢話とは、当時は大きい方だったので、年をごまかしてかなり若いうちからそういう悪所に出入りするようになっていた、ということだった。
「その気になってりゃベルと同じぐらいの年のガキがいてもおかしくねえ、ってアランに言っちまったことあって」
「俺にも似たようなこと言ったからなあ、あの頃、ガキのくせに」
「なんだよなあ……」
はあっと大きなため息をつき、
「知られたくねえよなあ……」
ぼそっとつぶやく。
「誰にだ?」
「へ?」
「誰に知られたくないんだ?」
「いや、だからベルに」
「いや、違うな」
ディレンがじーっとトーヤを見て確信する。
「なんか、そういうの知られたくない相手がいるんだな、多分」
「な、何言ってんだよ!」
トーヤがびっくりして叫ぶ。
「いねえよ、そんな相手!ただ、ベルに不潔だなんだとへそ曲げられっと面倒なんだよ!」
「娘に知られるのは確かに親父としてはつらいよな」
ディレンがそう言って笑う。
「けど、娘だけじゃねえな、そりゃ」
「違うって」
「まあ先は長い、また嬢ちゃんたちに色々聞いてみるか」
「やめろー!」
ディレンに旅の楽しみができたらしい。
「もっと早く言ってやりゃよかったのにな……」
トーヤが少し俯いてぽつりぽつりと話し出した。
「一番最初、あんたを追っかけてひっぱたいた時、あの時は、悔しかったんだよ、ミーヤにそんな仕事をさせなきゃならねえってのが」
「そうか」
「だから、こいつのせいでミーヤがそういう仕事を始めるんだ、そう思って思いっきりひっぱたいた。八つ当たりだって分かってるけど、そうせずにいられなかったんだ」
「そうか」
「だから、あんたにミーヤを取られたって気持ちより、その悔しい気持ちの方がずっと大きかった。俺が大人だったら、もっと稼いでたら、そしたらミーヤにそんな仕事やらせなくて済むのに、ってな」
「そうか」
「母親の時は、まあ、あまりに小さかったからな、そこまで考えることすらできなかった。その後、あいつが色々世話焼いてくれて、あいつが俺の母親になってったから、だから、それ聞いて、その時ははっきりとヤキモチ焼いてたと思う。俺よりあんたの方が大事なんじゃないか、ってな。だから多分言わなかったんだろ」
「それ、いつぐらいのことだ?」
「いつだったっけかなあ……」
少し考えて、
「ああ、俺が戦場稼ぎから傭兵になるちょっと前だな。だから俺が11の頃、いや、まだ10かも知れんが、なんにしてもそのぐらいのことだ」
「ほう、ってことは12より前」
「それ言うなよな!」
トーヤが気色ばんでディレンに詰め寄る。
「ベルにいらんこと言うなよな!そんでなくともあいつ、今お年頃とかでアランも厳しくなってんだし」
「ほう」
ディレンの目が楽しそうに光ったのに気づき、トーヤはしまったと思った。
「まあ、よく覚えとくよ」
「くそっ」
ディレンがものすごーく楽しそうに笑った目になる。
「くそお!ガキの頃の自慢話が今になって脅しのネタになるなんて誰が思うよ!」
「まあそう言うな、そんだけおまえがあの嬢ちゃんを大事に思ってる証拠だ。知られたくないんだろ?って、あの嬢ちゃん、おまえの女か?」
「ちがうわ!」
思いっきり否定する。
「妹だよ、完全にな。というか、娘でもいいぐらいだ、あんなションベン臭いガキ」
「そうか」
嘘ではないみたいなのでディレンが思い切り笑う。
「そんじゃ娘にそういうこと知られたくねえな。年齢的に本当に親子でもおかしくないぐ」
「だから言うなって!」
トーヤは11歳の時、年をごまかして傭兵として雇ってもらうようになった。
「あの頃はまだガキとしては体が大きい方だったから、13だとか14だとか言ってもなんとか通ったんだよ。あのまま結構でかくなるだろうと思ったのに、その後で止まったからなあ。そんでほどほどの大きさの大人になっちまった」
「そうだな。俺はずっと小さい方だったからなんとも思わんが、おまえは当時は鼻っ柱強かったし、態度も体もでかい大人になるだろうと俺も思ったな」
「だろ?」
「早熟ってやつかな。そこからあんまり伸びなかったよなあ」
「そうなんだよな」
はあっとため息をつく。
「アランなんかとっくに俺追い抜いて、まだまだ伸びそうだし、シャンタルだってああいう風情で俺よりでかいしな」
「そうなのか!」
ディレンが驚いて聞く。
「ああ、でかいな。あんな風にしてるからそう思わねえんだがな、背筋伸ばすと俺よりちょっとばかり上だ」
「そりゃまた……」
ディレンが気の毒そうに言う。
「つーてもシャンタルはまだいい。俺よりでかいってもそれほど変わらんし、年も18でもう今より伸びねえだろうし。問題はベルだよ」
「嬢ちゃんか」
「ああ、あいつらの両親と死んだ兄貴ってのがまたでかかったらしくてな、そのうちベルにまで追い越されんじゃねえかとびくびくしてる」
「そうか」
心底気の毒そうに言われ、
「いや、だからって俺の方がなんでもかんでも上だからな!身長ぐらいでどうってことねえからな!」
トーヤが慌てて言い直す。
「まあ、あれだな。あんまり若いうちからそういうことすると伸びねえって」
「だから冗談でもそういうこと言うなよな!」
トーヤのガキの頃の自慢話とは、当時は大きい方だったので、年をごまかしてかなり若いうちからそういう悪所に出入りするようになっていた、ということだった。
「その気になってりゃベルと同じぐらいの年のガキがいてもおかしくねえ、ってアランに言っちまったことあって」
「俺にも似たようなこと言ったからなあ、あの頃、ガキのくせに」
「なんだよなあ……」
はあっと大きなため息をつき、
「知られたくねえよなあ……」
ぼそっとつぶやく。
「誰にだ?」
「へ?」
「誰に知られたくないんだ?」
「いや、だからベルに」
「いや、違うな」
ディレンがじーっとトーヤを見て確信する。
「なんか、そういうの知られたくない相手がいるんだな、多分」
「な、何言ってんだよ!」
トーヤがびっくりして叫ぶ。
「いねえよ、そんな相手!ただ、ベルに不潔だなんだとへそ曲げられっと面倒なんだよ!」
「娘に知られるのは確かに親父としてはつらいよな」
ディレンがそう言って笑う。
「けど、娘だけじゃねえな、そりゃ」
「違うって」
「まあ先は長い、また嬢ちゃんたちに色々聞いてみるか」
「やめろー!」
ディレンに旅の楽しみができたらしい。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました
あーもんど
恋愛
ずっと腹違いの妹の方を優遇されて、生きてきた公爵令嬢セシリア。
正直不満はあるものの、もうすぐ結婚して家を出るということもあり、耐えていた。
でも、ある日……
「お前の人生を妹に譲ってくれないか?」
と、両親に言われて?
当然セシリアは反発するが、無理やり体を押さえつけられ────妹と中身を入れ替えられてしまった!
この仕打ちには、さすがのセシリアも激怒!
でも、自分の話を信じてくれる者は居らず……何も出来ない。
そして、とうとう……自分に成り代わった妹が結婚準備のため、婚約者の家へ行ってしまった。
────嗚呼、もう終わりだ……。
セシリアは全てに絶望し、希望を失うものの……数日後、婚約者のヴィンセントがこっそり屋敷を訪ねてきて?
「あぁ、やっぱり────君がセシリアなんだね。会いたかったよ」
一瞬で正体を見抜いたヴィンセントに、セシリアは動揺。
でも、凄く嬉しかった。
その後、セシリアは全ての事情を説明し、状況打破の協力を要請。
もちろん、ヴィンセントは快諾。
「僕の全ては君のためにあるんだから、遠慮せず使ってよ」
セシリアのことを誰よりも愛しているヴィンセントは、彼女のため舞台を整える。
────セシリアをこんな目に遭わせた者達は地獄へ落とす、と胸に決めて。
これは姉妹の入れ替わりから始まる、報復と破滅の物語。
■小説家になろう様にて、先行公開中■
■2024/01/30 タイトル変更しました■
→旧タイトル:偽物に騙されないでください。本物は私です
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~
ノエ丸
ファンタジー
「ステータスオープン!」シーン「——出ねぇ!」地面に両手を叩きつけ、四つん這いの体制で叫ぶ。「クソゲーやんけ!?」
――イキナリ異世界へと飛ばされた一般的な高校ソラ。
眩い光の中で、彼が最初に目にしたモノ。それは異世界を作り出した創造神――。
ではなくただの広い草原だった――。
生活魔法と云うチートスキル(異世界人は全員持っている)すら持っていない地球人の彼はクソゲーと嘆きながらも、現地人より即座に魔法を授かる事となった。そして始まる冒険者としての日々。
怖いもの知らずのタンクガールに、最高ランクの女冒険者。果てはバーサーカー聖職者と癖のある仲間達と共に異世界を駆け抜け、時にはヒーラーに群がられながらも日々を生きていく。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
超エリートコンサルタントは隠れて女子中学生制服スカートを穿いていた
進撃の制服スカート
ファンタジー
30歳で経営コンサルタントに転身した、ごく普通の男性「恵夢」。
しかし彼にはちょっとした秘密がある。
それは女子中学生の制服スカートを穿いているということ!!!
何故超エリートの人生を歩む勝ち組の彼が女子中学生の制服スカートを穿くようになったのか?
全ての元凶は彼の中学時代、同級生の女の子たちが彼に見せつけるかのようなスカートの遊び方であった。
制服スカートには夏用と冬用があるが、恵夢が強い怒りと執念を抱いたのが夏用制服スカート。
太陽の光の下を歩く女子中学生の制服スカートが透けて、くっきりと黒い影で見える足にエロさを感じ、
自分もこの制服スカートを穿きたい!!下着をつけずノーパンでこの制服スカートの感触を味わいたい!
そんな強い思いから、いつしかそれが生きる活力となり、エネルギーとなり
女子中学生の制服スカートがきっかけで超エリートコンサルタントへの道を切り開く物語である。
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる