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第一章 第一部 東の海へ

 6 得意不得意

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 日がのぼりつつある町を東へ東へと馬車は走る。

「エロクソオヤジ……」
 
 トーヤはそうつぶやいてへこんだ様子で、それでも速度を上げて馬車を飛ばす。

「しゃあねえだろ、そんだけのことしたんだからよ」

 アランが御者席の左側に座りながら、使い込みのことを含ませるように右側のトーヤに言う。

「それにしてもよ、エロオヤジかクソオヤジならともかくよ、言うに事欠いておまえ、エロクソオヤジって……」
「どこに刺さってんだよ」

 トーヤのへこむツボはよう分からんな、とアランは思いながら秋の風に吹かれて景色を眺めていた。

 ここから「シャンタルの神域」へ向かう船が出る港は、東と言いながら、やや南東へ向けて走ることになる。
 季節は秋、これからどんどんと気温は下がっていくはずだが、一行は東へ向かっている。季節を逆行しているからか、それとも南下しているからか、進めば進むほど体感温度は上がっている気がする。

「もうちょい行くと砂漠も近いからな、暑くなるのはしゃあねえ。それと、村や町も減るからな、そんで荷物が多くなる」
「なるほど」
「それとな、ちっとばかり愉快な連中も出るかも知れねえぞ」
「愉快な連中?」
「ああ、ちょっとした運動不足解消になるような連中な」
「ああ」

 盗賊などであろう。
 アルディナの中心あたりならともかく、辺境近いこのあたりからは、遠く離れるほど治安は悪くなっていく。大きな街道沿いはまだましだが、そうでない場所の方が多いと思った方がいい。
 馬車を偽装したのはそういう連中の目から隠すためと、砂漠近くなどの厳しい気象条件から守る目的もあった。

 段々と街道沿いの街は町になり、村になっていくが、小さくとも駅はある。その駅で馬を取り替えてもらっては強行軍で走り続けていく予定だ。

「できれば俺とおまえが交代して、この際だからシャンタルとベルに馬車の操り方教えながら、補助してもらいながら行くかな。そうすりゃ、どっちかが休みながら夜も走れて、余計都合いいんだけどな」
「あいつらがすんなり言うこと聞くかなあ」

 まだベルはいい。ぶうぶう言いながらでも、教えてやれば負けん気で必死にやろうともする。できるかできないかに関わらず、必死に覚えようとはする。

「問題はシャンタルだなあ、何しろ元神様、それにあんな成長の仕方してるからな」
「それな、聞いてよく分かったぜ」

 シャンタルは嫌とは言わない。ただ、なんというか、そう、やっぱり能天気のままなのだ。自分のやれることしか基本的にはやらない。どうやってもやってやろう、そういうのに欠けているような感じだ。面白がりはするが、できないことがあったとしても「できないねえ」で終わってしまう。

「まあな、神様にも得意不得意あるんだろうよ」
「なのかも知れねえなあ」

 そうでもなくば、当時たった10歳の子どもが、自分を湖に沈めろ、などと決断できるはずもない。

「あいつのできることってのが、またきっついからなあ」
「そうだな」
 
 他の人に取って代わってやってくれ、と言えるようなことではないだけに、それをやっててくれればもういいか、という気持ちにこっちもなってくる。

 出発してすぐは、そうして何事もなくいくつかの駅を通り越して予定以上に進むことができた。途中で馬をうまく交換してもらえたのも運がよかった。
 こういう駅では、長旅、急ぐ旅をする旅人のために、替えの馬を準備して商売にしている者がいる。だがタイミングが悪ければ、全部出払って疲れた馬しかいない場合もある。

「この調子だったら予定より早く着きそうだな」

 昼過ぎに、ある駅で交渉して、無事に体力のある馬と二度目の交換をできた。
 遅めの昼食をとるためと、次の駅までは遠いので少しばかり休憩する。

「俺とアランだけでは体力が持たねえからな。だからおまえらも交代で操り方覚えろ」

 出発する時にトーヤがそう言うと、

「え~」
「え~」

 と、声を揃えてシャンタルとベルが言う。

「つべこべ言わずに覚えとけ」

 そう言ってぶうぶう言うベルを引っ掴み、アランと交代させて御者席に乗せる。

「そんじゃ俺は中で少し寝るから。なんかあったら、楽しい連中が出たら教えろよな」
「ああ、そうする」

 そう言ってトーヤがまた馬を走らせ始める。

 午後のまだ高い日の下、

「あ~日に焼ける~」

 と文句を言うベルに、

「るせえな、そんじゃ頭からタオルかなんかかぶっとけ」

 そう言いながらトーヤがベルに操り方を教える。

「ほれ、やってみろ。今は調子よく走ってるからな、馬の機嫌損ねねえようにしろよ」
「しゃあねえなあ」

 頭からタオルをほっかぶりしたベルが、そう言いながらも結構器用に馬を操る。
 色んな人に操られて駅を行き来しているので馬も人馴れしている。

「なかなかうまいじゃねえか」
「まあな」

 得意そうにどんどんと走らせる。

「ほんと、うまいな。この調子だったら3人で交代いけそうだな」
「シャンタルは?」
「うーん、どうかなあ、あいつはできることとできないことの差が激しいからなあ」
「そうだな」

 そうやってトーヤとベルのコンビで夕方近くまで順調に進み、目的の駅に着くことができた。
 その駅でもうまく元気な馬と交換ができた。
 ここで夕飯をとり、今日は夜の間ずっと走る予定だ。
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