銀色の魔法使い(黒のシャンタル外伝)<完結>

小椋夏己

文字の大きさ
上 下
7 / 30

 7 魔法と治療

しおりを挟む

◇◇◇

「————というのが、今回の事件の経緯けいいだ」

 エリオットが立ち去った後、生徒会と風紀委員会を始めとした、委員長会の会議を行っていた。
 先日行われた新入生歓迎会についての情報交換の会議であり、エリオットが巻き込まれた事件についての経緯いきさつを説明していた。

「でもさぁ、僕ずっと思ってたんにゃ」

 アランの事の経緯いきさつの説明が終わると、リルが口を開いた。

「用意した膨大の料理が破棄されるからって、新入生歓迎会を中止しなくていい理由にはならないと思うにゃ。どう考えても、人の生命の脅かす事件があったのなら中止するのがだと思うというのに、どうしてアーくんはその正常な判断が出来なかったのかにゃ?」

 鋭い眼光が、アランに向けられる。
 リルが言うことはもっともだ。
 だというのに、俺様はその判断を下すことは出来なかった。
 被害者が悪くないとしても中止になった原因が露呈してしまえば糾弾され、せっかく復学してくれたというのにまた休学まで追い込まれてしまう。
 それに対処するために生徒会が関与してしまえば、ディアナが言う通り親衛隊が動き出してしまう可能性も無きにしも非ず。
 被害者のことを考えると、どうしても中止という答えが出せなかった。
 料理が破棄されてしまうからという理由は、ただのカモフラージュにしか過ぎない。

「……まぁ、僕はアーくんの考えてることは解るから別にいいんだけど」

 じっとアランを凝視していたリルは、息を吐くように呟いた。
 もし『俺様の力があれば大丈夫だ』と、キリッとした表情でそんな戯言を言い出したら、寝不足が原因で頭がおかしくなったという記事でも書こうと思ってたんだけどにゃぁ……。いや、それは僕が炎上するからやめておいた方が吉かにゃ。

「僕からはもういいかにゃ。他の委員長たちは何か言いたいことがあったりするのにゃ?」

 リルは両の手の甲に顎を乗せると言葉を発した。

「べつに、強いていえば今すぐ水に浸かりたい」
「水に……って、ハーくんは相変わらず水に浸かりたがるね~」

 双葉のようなアホ毛を生やしている彼は、ハイド・クルシアナシンシア。緑化委員会の委員長である、3年生。
 毎日のように光合成や水に浸かって瞑想するのが日課……というか、いつ見ても噴水に浮かんでいる謎の人物だ。
 水を操る能力に長けていて、よくその力で花たちに水やりしているのを見掛けたりしている。

「それなら、体育祭のことでも話そう!! そうだ!! 今年こそ、ボディービルダーコンテストでもするべきだ!!」
「昨年も言っただろ。需要がお前にしかない、却下だ」

 アランに却下されたこの人物は、ニコラス・ノルドランデル。体育委員長であり、筋肉馬鹿。
 厚い胸板に、発達した上腕二頭筋を始める筋肉。
 僕はこっそり筋肉ダルマと呼んでいるのにゃ。
 とにかく暑苦しく声が大きくて脳筋。
 脳筋に関しては、風紀副委員長であるジェラールといい勝負である。

「…………で、ラディリアス。いい加減起きてくれ」

 ディランが声を掛けると、ゆっくりもそもそと動き出す人物。
 クマの抱き枕から顔を出すと、口を開く。

「……何? もう、終わった?」
「まだ終わってない。せめて会議中くらいは起きてくれ」

 彼の名前はラディリアス・アールクヴィスト。保健委員長である。
 相棒と呼べるほど持ち歩いているクマの抱き枕に、アイマスクを身に付けている。
 いつ見掛けてもアイマスクを付けており、その下の素顔は誰も見た事がないと言われている。
 ……まぁ、僕は一度見たことがあるんだけどね。
 一応自分ととして、興味深いが、ああいうぽけ~としている人物こそ要注意だったりする。
 あまり深く関わって地雷でも踏んでしまえば、一大事になりそうだ。

「じゃあ、終わったら起こして……」

 ラディリアスは、また再度抱き枕に突っ伏して寝息を立てた。

「ラディリアスっ」
「ディラン、もう今日は終了にしよう。一応新入生歓迎会についての会議は出来たからな」
「……アランがそれでいいなら」

 こうして一応会議は終了し、委員長たちは会議室を後にする。

「リル」

 アランは、この場を後にしようとしているリルを引き止めるように声を掛けた。

「ん? なんだい、アーくん」
「あの事件の一件だが、お前が言った通り被害者に処分を一任させた」
「お! そうかそうか、で? 結果はどうなったんだ!!」

 きらきらとした真っ直ぐな目で此方を正視しているリルに、アランは不思議そうに首を傾げる。
 どう考えても、リル本人に全て伝わっていると思っているからだ。

「被害者は今回の一件を不問にするようだ」
「————え?」

 豆鉄砲を食らったかのように、リルは目を丸くした。

「それだけだ。じゃあな、俺様は仕事に戻る」

 そんなリルの表情には気が付かず、アランは生徒会室へと戻って行った。

「……おかしいなぁ……。てっきり国の衛兵を呼び寄せ、事件化させると思ってたんだけどにゃぁ……」

 自分の予想が大ハズレし、顎に手を添える。
 すると、いい事を思いついたと言わんばかりの笑顔を浮かべた。

「それなら、この広報委員会委員長である僕が直々に取材するべきにゃ!!」

 それは名案だと、軽くスキップしながら廊下を歩いて行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「黒のシャンタル」登場人物紹介

小椋夏己
ファンタジー
「黒のシャンタル」シリーズの登場人物の解説です。 場合によってはネタバレになることがあります。 話が進むのに従って人物紹介も更新されると思います。 ネタバレを避けたい方は気をつけて読んでください。 「この人はどんな人物だっただろう?」と思った時の確認の時にでも読んでいただくと便利かも知れません。 ※本編の第一部、第二部とほぼ登場順に並んでいます。 ※外伝は補足として紹介のところに説明を加えてあります。 ※「シャンタルの神域」の人の容姿については全員が黒髪、黒い瞳、白い肌なのでその部分は割愛し、年齢的な白髪やその他特筆すべき点だけを記載しています。 ※「シャンタル宮」の侍女はトレードマークの色を記載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】皆様、答え合わせをいたしましょう

楽歩
恋愛
白磁のような肌にきらめく金髪、宝石のようなディープグリーンの瞳のシルヴィ・ウィレムス公爵令嬢。 きらびやかに彩られた学院の大広間で、別の女性をエスコートして現れたセドリック王太子殿下に婚約破棄を宣言された。 傍若無人なふるまい、大聖女だというのに仕事のほとんどを他の聖女に押し付け、王太子が心惹かれる男爵令嬢には嫌がらせをする。令嬢の有責で婚約破棄、国外追放、除籍…まさにその宣告が下されようとした瞬間。 「心当たりはありますが、本当にご理解いただけているか…答え合わせいたしません?」 令嬢との答え合わせに、青ざめ愕然としていく王太子、男爵令嬢、側近達など… 周りに搾取され続け、大事にされなかった令嬢の答え合わせにより、皆の終わりが始まる。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...