上 下
2 / 3

シャンタルと青い小鳥

しおりを挟む
「へえ、それでミーヤがこの子を」

 シャンタルが懐かしそうにそう言う。

「そうなんだよ、うん、かわいいよなこの子」

 ベルの手の上には青いガラスでできた小さな小鳥が乗っていた。

「久しぶりだね、私のことを覚えているのかな」

 シャンタルがそう言って小鳥の頭をそっと撫でる。

「私も抱っこしてみていいかな?」
「もちろんです」
「ありがとう。さあ、おいで」

 シャンタルがそう言ってベルの手から小鳥を受け取る。

「私の初めてのお友達、あの時は本当にありがとう」

 そう言いながらもう一度そっと頭を撫でた。
 
 その様子を、ベルはじいーっと食い入るように見つめていたが、

「なんもおこらねえな」

 そう言って、それでもまだ視線を外さずじっと見つめ続ける。

「何もって何?」
「ん、だってさ、前にシャンタルが抱っこした時には光ったんだろ?」
「ああ、そうだったね」

 シャンタルが頑なにトーヤに心を開こうとしなかった時に、この青い小鳥がフェイの心を伝えてくれて、それが今に繋がっているのだ。

「なあなあ、今はなんか言ってる? また光らない?」
「うーん、どうだろうねえ」
 
 シャンタルはそっと右耳を寄せてからうんうんと頷き、

「何も言わないねえ」
「なんだよそれ! なんか言ったのかと思うじゃねえかよ!」

 と、ベルに突っ込まれて楽しそうにコロコロと笑っていた。

「驚きました」
  
 その様子にミーヤが目を丸くして驚く。

「冗談を、おっしゃるんですね」
 
 そう聞いてまたシャンタルがコロコロと笑う。

「うん、言うよ、ベルといるとね、どうしても冗談を言うようになってしまうんだよ」
「なんだよなんだよそれ、おれのせいかよ!」

 そう言いながらベルも楽しそうに笑っている。

「本当に仲がよろしいんですね」
「うん、私たちはね、ダチなんだよ」
「そうそう、ダチなの」
「ねー」
「なー」

 二人で首を傾げ合ってそう言う様子に、ミーヤがまた驚く。

 シャンタルが初めて青い小鳥と会った時、その時にはまだ10歳の子どもであった。
 そしてその特殊な生い立ちから、やっと人と話をできるようになったばかりの頃であったので、その子どもがここまで成長していることにミーヤは本当に驚いたのだ。

「本当に、成長されたんですね」
 
 少し目が潤んでいる。

「うん、私はミーヤとキリエに子どもにしてもらって、その後はトーヤ、それからベルとアランにも育ててもらってるんだと思うよ。ベルは私のお姉さんみたいな感じかな」
「え、お姉さんって、おれのが年下じゃん」
「うん、でもね、私は10歳になるまでずっと生まれたばかりの赤子のようなものだったからね。だから人になったのはベルの方が先だからお姉さんでいいと思うよ」
「え~なんか変な感じー!」

 そう言う二人を見てまたミーヤが笑う。

「あれっ、なんか光った?」

 シャンタルがコロコロと笑うと、それに合わせて青い小鳥が光ったように見えた。

 それは多分、シャンタルの体の揺れに合わせて光が当たっただけなのだろうけど、本当に小鳥が笑ったように見えた。

「笑ってる」
「うん、そうだね、笑ってるね」
「ええ、笑ってますね」

 ミーヤは心が温まるのを感じた。

 あの時、ギリギリの状況でこの子がシャンタルを助けてくれた。そして今、そのシャンタルが戻ってきて自分をふんわりと抱きしめ、幸せそうに笑っているのがきっとうれしいのだ。

「フェイ……」

 思わずその名が口から出た。

「ねえねえ、ミーヤさん」
「はい?」
「きっとトーヤもフェイに会いたいと思うんだけど、今のトーヤに見せるのもなんか変だよな?」
「それは、そうかも知れません」

 今、トーヤはトーヤであってトーヤではない。「ルーク」という仮の名でこの宮に滞在している。

「だったらみんなに会わせてあげたらいいんじゃない?」
「え?」
「フェイを、トーヤだけじゃなく、ダルにもリルにもディレンにもそれからアーダにも会わせてあげればいいと思うよ」
「あ、そうか、それいいよな! 兄貴も忘れずに、だ」

 シャンタルの言葉にベルが手を打って喜んだ。

「この子ももっとお友達がいたら楽しいよな。うん、おれもみんなに会わせてあげたい。いいよね、ミーヤさん」
「ええ」

 ミーヤはさらに心が柔らかくなるのを感じた。

「なんと優しいのでしょう、お二人とも。ええ、きっとフェイも喜びます」
「そうか、そんじゃ応接にみんなを呼べばいいよな」

 今、アーダはダルの部屋に世話係として行っている。そちらにいる男4人を奥様の部屋へ呼び、奥様の侍従部屋にいるリルにも応接へ来てもらえばいい。

「じゃあさ、奥様とおれはそっち行ってリルも呼んどくから、ミーヤさん、おっさんたちを呼んできてもらえますか?」
「ええ、行ってきます」
「うん、その間ちゃんとフェイは私が預かっているからね。よろしく頼みます」
「はい、よろしくお願いいたします」

 ミーヤはニッコリと笑ってそう言うと、シャンタルの手のひらの上でキラキラと笑っている青い小鳥に、

「フェイ、すぐにトーヤも呼んできます、待っててくださいね」

 そう言って優しくその頭を撫でた。

「あ、でも今変なかっこしてるからフェイ、分かるかなあ」

 ミーヤの手の下でくすぐったそうに揺れている小鳥にベルがそう言い、ますます光がキラキラと広がった気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

銀色の魔法使い(黒のシャンタル外伝)<完結>

小椋夏己
ファンタジー
戦で家も家族もなくした10歳の少女ベル、今、最後に残った兄アランも失うのかと、絶望のあまり思わず駆け出した草原で見つけたのは? ベルが選ぶ運命とは? その先に待つ物語は?    連載中の「黒のシャンタル」の外伝です。 序章で少し触れられた、4人の出会いの物語になります。 仲間の紅一点、ベルの視点の話です。 「第一部 過去への旅<完結>」の三年前、ベルがまだ10歳の時の話です。 ベルとアランがトーヤとシャンタルと出会って仲間になるまでの話になります。 兄と妹がどうして戦場に身を投じることになったのか、そして黒髪の傭兵と銀色の魔法使いと行く末を共にすることになったのか、そのお話です。  第一部 「過去への旅」 https://ncode.syosetu.com/s3288g/  第二部「新しい嵐の中へ」https://ncode.syosetu.com/n3151hd/  もどうぞよろしくお願いいたします。 「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」「ノベルアップ+」「エブリスタ」で公開中 ※表紙絵は横海イチカさんに描いていただいたファンアートです、ありがとうございました!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁<外伝>

結城芙由奈 
恋愛
【前作の登場人物たちのもう一つの物語】 アイゼンシュタット城の人々のそれぞれの物語 ※他サイトでも投稿中

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...