39 / 65
2022年 7月
私の庭
しおりを挟む
「まただわ、またやられてる……」
私は怒りを通り越して情けなさでため息をつく。
私の庭に、誰かが嫌がらせをしてくるのだ。
いつぐらいからだろう、そんなことをされるようになったのは。
最初のうちはなぜこんなことをされてるのかな、と思うぐらい、すぐに片付けて終われるぐらいのことだったので、不愉快には思ってもさっとどけてしまえばそれで済んでいた。
それがどんどんひどくなり、ある時などは通り道に針金のような物を置かれたり、時には石やブロックの欠片を置かれたりするようになってきた。そうそう、歩く邪魔をするように鉢を移動されていたこともあったわ。
そして今は臭い物をまかれるのだ。
一体何をまいているのか、臭くて臭くて鼻が曲がりそうになり、その臭いの元を探すのだが、液体か何からしく、見つけて撤去することもできない。
一度それをまかれたらしばらくは庭に入ることもできない。泣く泣くその場から立ち去ることしかできない。そのぐらい臭いのだ。
「もしかしたらあの子たちが?」
そう思う相手はいる。
今までに何度か揉めたことがある相手だ。
だけどあの子たちも同じことをされているらしく、誰の仕業だろうと話をしているのを通りすがりに聞いたことがある。
あちらはあちらで私のことを疑っているようで、一度など、
「あんたの仕業?」
と直接聞かれたことがあるのだが、私は私で、
「そっちこそ変な嫌がらせはやめてよね」
と、こちらも疑っていることを告げて以来、それ以上そのことに触れることはなくなった。
だけど本当のところ、あの子たちではないような気はしている。
あそこまで自分たちでも嫌がっているものを、わざわざ苦しみながら私の庭にまくことはしないでしょう。
お互いに嫌い合ってはいるが、そこまで苦労してまでそういうことをしてやろうと思うほどの気持ちにはなれない。そこまで手間暇かけてまで相手をしたくない。しょせんその程度の相手だ。
では誰の仕業なのかと考えると、それ以上のことは思いつかない。
何をしても消えない臭いなので、雨が降ったり風が吹いたりして自然に薄れるのを待つしかない。
一昨日、結構まとまった雨が降り、これでやっと臭いが薄くなって、なんとか庭に入れるぐらいになったと思ったのに今日また……
「本当に一体誰がこんなことを」
あ、情けなくて涙が出てきた。
今度この庭が安心して入れるようになるのはいつのことなのかしら……
ある雨の翌日、その家の若い妻は庭に入ると顔を顰め、
「まただわ、またやられてる……」
そう言ってため息をついた。
「なんだ、またやられてるのか」
「そうなの、本当に嫌になるわ。本当に臭いの」
「あれからまた日にちが経ってるからね」
「昨日雨も降ったし、またまいておかないといけないわね」
若い妻はそう言って金ばさみとちりとりを手にしたが、
「あ、今日は僕やるよ」
やはりまだ若い夫がそう言って妻の手からその2つを受け取った。
「ありがとう。もうね、臭いのよ」
夫は吐出口からサンダルをつっかけて庭に降りる。
さっき妻が見てきた場所に行くと、
「本当だな、すごく臭う」
そう言って妻と同じように顔を顰めた。
「そうでしょ? もうね、見えなくてもすぐ分かるの臭いで」
「あんな小さい体なのになあ」
夫はそう言って植え込みの影にあった「モノ」を金ばさみで掴み、ちりとりの上に乗せた。
「取ってるだけでも臭うなあ」
「そうでしょ?」
いつも夫がいない時には妻がこの作業をしている。
すぐにやっておかないと、臭いが染み付いて取れなくなるからだ。
夫はちりとりに取った「モノ」を新聞紙で包み、さらにビニール袋で何重にも包んだ。
そうしておいてそれを玄関脇のゴミを入れるバケツに入れた。
「消臭剤もまいておかないとな」
ゴミバケツの中、周囲、それからさっきの場所、そのあたりに専用の消臭剤を振りかける。
「それからこれも忘れないでね」
「うん」
妻から渡された液体の入ったプラスチックのボトルを持ち、さっきの場所から周囲にたっぷりとまいて回った。
「そうやってもね、何回か雨が降って時間が経つと元の木阿弥なのよ」
「まったく腹が立つな」
「ええ。おかげで花が枯れちゃうし、それになにより汚くて」
妻はこれまでに枯れてしまったいくつかの花を思い出し、うっすらと涙ぐんだ。
「通り道に針金を置いてみたり、石を置いてみたりしたけどそれもどけちゃうのよね」
「結構力が強いんだな」
「ええ。でもこれをまいたらしばらくは来ないの」
「効果は二ヶ月って書いてあるから、忘れないようにそれより早くまいておくぐらいしか手がないか」
「ええ。それにね、土の上に鉢を置いても、風で寄せられた砂の集まった上とか、飛んできた草の上とか、本当にちょっとでも隙があったらやられるのよね」
「本当に飼い主はどうしてるんだろうな」
夫婦揃って怒りを感じる。
「猫は嫌いじゃないのよ? でもね、よその庭に入ってそこかしこにフンをしてまわる、しつけがなってない猫は大嫌いよ」
「夜中の内だからなあ、どこの猫かも分からないし」
「ええ、何匹もいるみたい」
猫にフンをされない安心な庭のためには、これからもずっとこの戦いが必要なのかと、夫婦揃ってげんなりとため息をついた。
私は怒りを通り越して情けなさでため息をつく。
私の庭に、誰かが嫌がらせをしてくるのだ。
いつぐらいからだろう、そんなことをされるようになったのは。
最初のうちはなぜこんなことをされてるのかな、と思うぐらい、すぐに片付けて終われるぐらいのことだったので、不愉快には思ってもさっとどけてしまえばそれで済んでいた。
それがどんどんひどくなり、ある時などは通り道に針金のような物を置かれたり、時には石やブロックの欠片を置かれたりするようになってきた。そうそう、歩く邪魔をするように鉢を移動されていたこともあったわ。
そして今は臭い物をまかれるのだ。
一体何をまいているのか、臭くて臭くて鼻が曲がりそうになり、その臭いの元を探すのだが、液体か何からしく、見つけて撤去することもできない。
一度それをまかれたらしばらくは庭に入ることもできない。泣く泣くその場から立ち去ることしかできない。そのぐらい臭いのだ。
「もしかしたらあの子たちが?」
そう思う相手はいる。
今までに何度か揉めたことがある相手だ。
だけどあの子たちも同じことをされているらしく、誰の仕業だろうと話をしているのを通りすがりに聞いたことがある。
あちらはあちらで私のことを疑っているようで、一度など、
「あんたの仕業?」
と直接聞かれたことがあるのだが、私は私で、
「そっちこそ変な嫌がらせはやめてよね」
と、こちらも疑っていることを告げて以来、それ以上そのことに触れることはなくなった。
だけど本当のところ、あの子たちではないような気はしている。
あそこまで自分たちでも嫌がっているものを、わざわざ苦しみながら私の庭にまくことはしないでしょう。
お互いに嫌い合ってはいるが、そこまで苦労してまでそういうことをしてやろうと思うほどの気持ちにはなれない。そこまで手間暇かけてまで相手をしたくない。しょせんその程度の相手だ。
では誰の仕業なのかと考えると、それ以上のことは思いつかない。
何をしても消えない臭いなので、雨が降ったり風が吹いたりして自然に薄れるのを待つしかない。
一昨日、結構まとまった雨が降り、これでやっと臭いが薄くなって、なんとか庭に入れるぐらいになったと思ったのに今日また……
「本当に一体誰がこんなことを」
あ、情けなくて涙が出てきた。
今度この庭が安心して入れるようになるのはいつのことなのかしら……
ある雨の翌日、その家の若い妻は庭に入ると顔を顰め、
「まただわ、またやられてる……」
そう言ってため息をついた。
「なんだ、またやられてるのか」
「そうなの、本当に嫌になるわ。本当に臭いの」
「あれからまた日にちが経ってるからね」
「昨日雨も降ったし、またまいておかないといけないわね」
若い妻はそう言って金ばさみとちりとりを手にしたが、
「あ、今日は僕やるよ」
やはりまだ若い夫がそう言って妻の手からその2つを受け取った。
「ありがとう。もうね、臭いのよ」
夫は吐出口からサンダルをつっかけて庭に降りる。
さっき妻が見てきた場所に行くと、
「本当だな、すごく臭う」
そう言って妻と同じように顔を顰めた。
「そうでしょ? もうね、見えなくてもすぐ分かるの臭いで」
「あんな小さい体なのになあ」
夫はそう言って植え込みの影にあった「モノ」を金ばさみで掴み、ちりとりの上に乗せた。
「取ってるだけでも臭うなあ」
「そうでしょ?」
いつも夫がいない時には妻がこの作業をしている。
すぐにやっておかないと、臭いが染み付いて取れなくなるからだ。
夫はちりとりに取った「モノ」を新聞紙で包み、さらにビニール袋で何重にも包んだ。
そうしておいてそれを玄関脇のゴミを入れるバケツに入れた。
「消臭剤もまいておかないとな」
ゴミバケツの中、周囲、それからさっきの場所、そのあたりに専用の消臭剤を振りかける。
「それからこれも忘れないでね」
「うん」
妻から渡された液体の入ったプラスチックのボトルを持ち、さっきの場所から周囲にたっぷりとまいて回った。
「そうやってもね、何回か雨が降って時間が経つと元の木阿弥なのよ」
「まったく腹が立つな」
「ええ。おかげで花が枯れちゃうし、それになにより汚くて」
妻はこれまでに枯れてしまったいくつかの花を思い出し、うっすらと涙ぐんだ。
「通り道に針金を置いてみたり、石を置いてみたりしたけどそれもどけちゃうのよね」
「結構力が強いんだな」
「ええ。でもこれをまいたらしばらくは来ないの」
「効果は二ヶ月って書いてあるから、忘れないようにそれより早くまいておくぐらいしか手がないか」
「ええ。それにね、土の上に鉢を置いても、風で寄せられた砂の集まった上とか、飛んできた草の上とか、本当にちょっとでも隙があったらやられるのよね」
「本当に飼い主はどうしてるんだろうな」
夫婦揃って怒りを感じる。
「猫は嫌いじゃないのよ? でもね、よその庭に入ってそこかしこにフンをしてまわる、しつけがなってない猫は大嫌いよ」
「夜中の内だからなあ、どこの猫かも分からないし」
「ええ、何匹もいるみたい」
猫にフンをされない安心な庭のためには、これからもずっとこの戦いが必要なのかと、夫婦揃ってげんなりとため息をついた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる