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2022年 7月
あいすきゃんでー
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「あづい……」
他に何か言おうと思ってもそれしか出てこないほど暑い……
「あづい……」
言ってもどうにもならないと思うが、ついつい言ってしまうほど暑い……
うちのエアコンが壊れている。
修理を頼んだが、急に暑くなってあっちこっちから同じような依頼があるらしく、うちの修理は二週間ほど先だと言われてしまったとか。
絶望……
「図書館に勉強しにいってくる」
そう言って一度は家を出てみたものの、図書館は予約制になってて入れなかった。
次に行ったネカフェもいっぱいだ。そもそも自分が行ける範囲ににネカフェはここにしかない。
どこの家にもネット環境が整っていって、前はあっちこっちにあった店は次々潰れてしまった。今はどこも介護関連の店になってしまっている。
「あづい……」
私は自転車を漕ぎながら次に行く場所を考えていたが、どこも思いつかない。
駅前にあるおしゃれなカフェは長居できないし、ファミレスのドリンクバーで何時間も居座れるほどの根性もない。
「こんなことなら帰省せずに下宿に残ればよかった」
心の底からそう思った。
まさか、のんびりできると思って帰った実家のエアコンが壊れるなんて!
夏休みが始まったばかりだが、この夏はバイトも入れず、実家で過ごそうと思った。
普段バイトに入っていた居酒屋は、昨今の復興の空気で学校も試験も何もかもほったらかしてでも毎日入れ入れと言われたのでやめた。
言ってはなんだが、バイトしていたのは稼ぐためではない。私は他のことでそこそこ稼げていた。
某アニメの二次創作の同人誌、先の祭りでそれがえらいこと売れて、今は結構な小金持ちなのだ。バイトしていたのはそのアニメの主人公が居酒屋でバイトしていたもので、その雰囲気を掴むためだった。
仕送りしてもらってる手前、親には内緒にしているが、毎日ガツガツバイトしてた時より、ずっと懐があったたかった。まあ多分今だけだけどね。
さっき「勉強してくる」と言って家を出たが、それも本当は新作のためだ。
「ちょっとヤオイの新作描いてくるね」
とはとても言えるものではない。
真夏の炎天下、行き場所を探して彷徨えど、そう長いこと走ってるわけにもいかない。熱中症で死ねる。
いっそ鎮守の森にでも行ってみようかと駅前とは反対方向に向かって走る。
あっと、今の間に自販機で冷たい飲み物をゲットしておかないと。
そうして私はいなかの道を、田んぼ道をひたすら自転車を漕いでこんもりとした森目指して突き進んで行った。
もうそこそこ伸びてきた青田の間を走るのは気持ちがいい。
もうちょっと短い頃、晴天の下、自転車で走る速度に合わせて光る水面が銀色の線になって流れるぐらいが好きなのだが、進学で都会に出ている今、帰ってきたらもう水面が隠れるぐらいに伸びてしまっているので仕方がない。
今度あの走る銀線を見られるのは、私がこの町に戻って来た時になるのかな。
そう考えながら走って行ったら、一時間に1本しか仕事をしていないバス停と、その横にある小さな駄菓子屋が見えてきた。
「あれは」
思い出した。
私がまだ子供の頃からあのお店はあった。
というか、まだあったんだな。
一休みするつもりでバス停の横に自転車を停め、小さな店に入ってみた。
「いらっしゃい」
おお!
あの頃出迎えてくれたおばあちゃんだ!
まだ元気だったんだ!
あれから少なくとも15年は経ってるから、当時はまだ思った以上に若かったのかも知れない。なんにしても、今はかなりのおばあちゃんになってしまってるのは間違いないが。
一応お店には冷房が入っていた。
生き返る。
私はブラブラと店の中を見て回り、思わずあるコーナーで足を止めた。
「あいすきゃんでー」
おばちゃんが書いたのか、ひらがながそう踊っている。
古い、よくまだ動いているなと思うアイスケースの中、すごく懐かしい物が並んでいた。
動きが悪いガラスのフタをキュキュっと開ける。
箸が斜めに刺さったアイスキャンディー。
この近所の古いアイスキャンディー工場で作られているのだと聞いたことがある。
「あのアイスキャンデーはお父さんが子供の頃からあったんだ。箸が斜めに刺さってるから、食べる時に気をつけないと角から崩れて落ちるぞ」
父からそう聞いたことがあった。
並んだケースにキャンディーの原液を入れ、そこにそのまま割り箸を挿すだけなので斜めになるのだそうだ。
気をつけては食べるのだが、まだ幼かった私はよく落としていたものだ。
色々な味がある中からオレンジを一本取り、レジのおばちゃんのところへ持っていく。
「100円」
え、今どきその値段?
昔の値段は覚えていないけど、コンビニアイスを買い慣れているとすごく安く思える。
おばあちゃんに100円渡し、外に出てバス停のベンチに座って食べる。
ほのかに柑橘系の味がするが半分は氷っぽい食感。
懐かしいなあ。
シャリシャリと食べて生き返る。
もしもエアコンが壊れてなかったら、図書館かネカフェに入れていたら、この味は味わえなかったんだな。
「よし、このキャンディーを新作に入れ込むかあ!」
そう言って一つ伸びをして、神社には行かず実家に向かって回れ右をして走り出した。
今ならエアコンなくてもなんとなくいける気がする。
他に何か言おうと思ってもそれしか出てこないほど暑い……
「あづい……」
言ってもどうにもならないと思うが、ついつい言ってしまうほど暑い……
うちのエアコンが壊れている。
修理を頼んだが、急に暑くなってあっちこっちから同じような依頼があるらしく、うちの修理は二週間ほど先だと言われてしまったとか。
絶望……
「図書館に勉強しにいってくる」
そう言って一度は家を出てみたものの、図書館は予約制になってて入れなかった。
次に行ったネカフェもいっぱいだ。そもそも自分が行ける範囲ににネカフェはここにしかない。
どこの家にもネット環境が整っていって、前はあっちこっちにあった店は次々潰れてしまった。今はどこも介護関連の店になってしまっている。
「あづい……」
私は自転車を漕ぎながら次に行く場所を考えていたが、どこも思いつかない。
駅前にあるおしゃれなカフェは長居できないし、ファミレスのドリンクバーで何時間も居座れるほどの根性もない。
「こんなことなら帰省せずに下宿に残ればよかった」
心の底からそう思った。
まさか、のんびりできると思って帰った実家のエアコンが壊れるなんて!
夏休みが始まったばかりだが、この夏はバイトも入れず、実家で過ごそうと思った。
普段バイトに入っていた居酒屋は、昨今の復興の空気で学校も試験も何もかもほったらかしてでも毎日入れ入れと言われたのでやめた。
言ってはなんだが、バイトしていたのは稼ぐためではない。私は他のことでそこそこ稼げていた。
某アニメの二次創作の同人誌、先の祭りでそれがえらいこと売れて、今は結構な小金持ちなのだ。バイトしていたのはそのアニメの主人公が居酒屋でバイトしていたもので、その雰囲気を掴むためだった。
仕送りしてもらってる手前、親には内緒にしているが、毎日ガツガツバイトしてた時より、ずっと懐があったたかった。まあ多分今だけだけどね。
さっき「勉強してくる」と言って家を出たが、それも本当は新作のためだ。
「ちょっとヤオイの新作描いてくるね」
とはとても言えるものではない。
真夏の炎天下、行き場所を探して彷徨えど、そう長いこと走ってるわけにもいかない。熱中症で死ねる。
いっそ鎮守の森にでも行ってみようかと駅前とは反対方向に向かって走る。
あっと、今の間に自販機で冷たい飲み物をゲットしておかないと。
そうして私はいなかの道を、田んぼ道をひたすら自転車を漕いでこんもりとした森目指して突き進んで行った。
もうそこそこ伸びてきた青田の間を走るのは気持ちがいい。
もうちょっと短い頃、晴天の下、自転車で走る速度に合わせて光る水面が銀色の線になって流れるぐらいが好きなのだが、進学で都会に出ている今、帰ってきたらもう水面が隠れるぐらいに伸びてしまっているので仕方がない。
今度あの走る銀線を見られるのは、私がこの町に戻って来た時になるのかな。
そう考えながら走って行ったら、一時間に1本しか仕事をしていないバス停と、その横にある小さな駄菓子屋が見えてきた。
「あれは」
思い出した。
私がまだ子供の頃からあのお店はあった。
というか、まだあったんだな。
一休みするつもりでバス停の横に自転車を停め、小さな店に入ってみた。
「いらっしゃい」
おお!
あの頃出迎えてくれたおばあちゃんだ!
まだ元気だったんだ!
あれから少なくとも15年は経ってるから、当時はまだ思った以上に若かったのかも知れない。なんにしても、今はかなりのおばあちゃんになってしまってるのは間違いないが。
一応お店には冷房が入っていた。
生き返る。
私はブラブラと店の中を見て回り、思わずあるコーナーで足を止めた。
「あいすきゃんでー」
おばちゃんが書いたのか、ひらがながそう踊っている。
古い、よくまだ動いているなと思うアイスケースの中、すごく懐かしい物が並んでいた。
動きが悪いガラスのフタをキュキュっと開ける。
箸が斜めに刺さったアイスキャンディー。
この近所の古いアイスキャンディー工場で作られているのだと聞いたことがある。
「あのアイスキャンデーはお父さんが子供の頃からあったんだ。箸が斜めに刺さってるから、食べる時に気をつけないと角から崩れて落ちるぞ」
父からそう聞いたことがあった。
並んだケースにキャンディーの原液を入れ、そこにそのまま割り箸を挿すだけなので斜めになるのだそうだ。
気をつけては食べるのだが、まだ幼かった私はよく落としていたものだ。
色々な味がある中からオレンジを一本取り、レジのおばちゃんのところへ持っていく。
「100円」
え、今どきその値段?
昔の値段は覚えていないけど、コンビニアイスを買い慣れているとすごく安く思える。
おばあちゃんに100円渡し、外に出てバス停のベンチに座って食べる。
ほのかに柑橘系の味がするが半分は氷っぽい食感。
懐かしいなあ。
シャリシャリと食べて生き返る。
もしもエアコンが壊れてなかったら、図書館かネカフェに入れていたら、この味は味わえなかったんだな。
「よし、このキャンディーを新作に入れ込むかあ!」
そう言って一つ伸びをして、神社には行かず実家に向かって回れ右をして走り出した。
今ならエアコンなくてもなんとなくいける気がする。
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