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2022年 7月
俺たちは、死なない!
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今日は出かける予定がない日曜日。
時刻は間もなく9時。
もうすぐ始まるヒーローたちの活躍を見るべく、私は朝食を済ませると正座してテレビの前に陣取った。
まずは元々はバッタが進化した変身するヒーローのお話が30分、その次はカラフルな数名の仲間が協力したり巨大化したりして悪に立ち向かうヒーローチームのお話が30分。
この合計60分が毎週日曜、私の至高の時間なのだ。
いつもはキリッとした営業課のホープの一人である私が、まさか日曜の朝っぱらからこんな子供の見る番組にはまっているなんて、職場の誰も想像もできないだろう。
きっかけはよくある話だが、まだ小さかった甥っ子だ。
姉の息子がまだ5歳ぐらいだったか、当時高校生だった私はかわいい甥っ子のために仕方なく付き合いでヒーローたちの番組を見たり、スーパーなんかでやってるショーや映画に一緒に付き合ったりしていたのだが、そのうちに目覚めてしまったのだ。
「ヒーローかっこいい!」
正確にはヒーローというより、それを演じている俳優さんたちにだったが、それでも番組自体にも気がつけばはまってしまっていた。
それまで日曜の朝というと、母に怒鳴られるまで布団の中で惰眠を貪っていた私が、早起きしてリビングに来てテレビの前に座るようになった。
当時はまだ8時からだったので、それまでに朝食を済ませて着席する。
「まあ寝坊されてるよりいいけど女子高校生がヒーローねえ」
と、母が苦笑していたのを思い出す。
就職して家を出てからも、日曜日の朝は必ず見ている。どうしても見られない時には録画して、次週までには絶対に見て話をつなげるようにしている。
若いイケメンももちろん目当てだが、でもこの番組、どっちも「所詮は子供番組」と言い切れないと思うのだ。
1年かけて一つのストーリーを作り込むのだから、到底単純なお話では続かない。子供が見るには難解なストーリーは色々と考えさせられることも多く、散りばめられたエピソードや知らない言葉を調べて私の知識は深く広くなっていったと思う。
それだけではない、数々の必殺技を彩るため駆使されるCG、変身したヒーローや悪役を演じるスーツアクターの体だけでの表現力。もちろん使用されている音楽も人気のアーティストが交代で聴き逃がせない。
「それにそうよ、仕事にも役立ってるのよ」
言い訳ではなく、毎週毎週、よくもまあ次から次へと手を変え品を変え、子供だけではなく「大きなお友達」の心をくすぐり購買欲を掻き立てる商品を生み出すことができるものだ。
そしてその宣伝の妙にも学ぶところはある。
「うん、うちの事業部もこういうの見習わないといけないと思うのよ」
何度も言うが言い訳ではない、本心からそう思っている。
ただ、色んな意味でただの子供だましではないと言いながら、時に子供だましなところがあったりするのも結構ツボだ。
まだ甥っ子がちびだった頃のあるシリーズ、最終回の一つ前の回、メンバーを一人残して残り全員が敵の罠にはまって爆弾でふっとばされてしまったことがあった。
「みんなどうなったの? まさかやられてしまってないよね?」
どう考えてもあの状況では誰一人助かってはいまい。そして残った一人は確かイエローだったが、強さも賢さも言ってはなんだがいまいちで、どちらかというと癒やしを担うそんなキャラだった。
まだ小さい甥っ子とどうやって助かるんだろうねーと(甥っ子はどの程度分かってたか分からないが)心配した記憶がある。
翌週、最終回は甥っ子が来ていなかったが、私は一人テレビの前に座ってその時を待っていた。
「わはははは~おまえもすぐに仲間の後を追わせてやる!」
そう言って悪の親玉がイエローを車の後ろにつないで荒野を引っ張り回していたら、どこかから何かが飛んできて綱が切れ、イエローは助かった。
「誰だ!」
驚いた親玉がそう叫ぶと、その目の前には先週爆破されたとばかり思った仲間たちが!
「おのれ、どうして助かった!」
その問いにリーダーはきっぱりとこう答えた。
「俺たちは、死なない!」
え、それで終わり?
どうやって助かったかなし?
呆然としている私の前で全員で親玉を倒し、無事に世界に平和が戻ってエンディングとなりました。
結局どうやって助かったかはなし。
「そんなのいいのか?」
いいのである。
いくら大人が喜ぶと言っても元々は子供向けの番組である。
子供が喜べばそれでいいのだ。
その少し前にたまたま印籠片手のご隠居の時代劇を見ていた時、同じような状態で閉じ込められた建物が爆発して次週へ続くとなったのだが、次回はなんの説明もなく高笑いしながらご隠居が現れて、いつものようにお付きが悪をバッタバッタと倒していったのも見たことがある。
「現実じゃないんだから面白ければそれでもいいんだよ」
そう言われた気がした。
リアリティがどうの、ストーリーがどうの、ここが役に立つ、勉強になるとか言ってみたけど、そんなの無視して純粋に楽しいとだけ思えるものがあってもいいじゃない。現実的で考えさせられる番組もいいが、テレビは所詮娯楽なんだから。
そうして私は今週もヒーローたちを心待ちにしている。
ヒーローはいてくれるだけでいいのです!
時刻は間もなく9時。
もうすぐ始まるヒーローたちの活躍を見るべく、私は朝食を済ませると正座してテレビの前に陣取った。
まずは元々はバッタが進化した変身するヒーローのお話が30分、その次はカラフルな数名の仲間が協力したり巨大化したりして悪に立ち向かうヒーローチームのお話が30分。
この合計60分が毎週日曜、私の至高の時間なのだ。
いつもはキリッとした営業課のホープの一人である私が、まさか日曜の朝っぱらからこんな子供の見る番組にはまっているなんて、職場の誰も想像もできないだろう。
きっかけはよくある話だが、まだ小さかった甥っ子だ。
姉の息子がまだ5歳ぐらいだったか、当時高校生だった私はかわいい甥っ子のために仕方なく付き合いでヒーローたちの番組を見たり、スーパーなんかでやってるショーや映画に一緒に付き合ったりしていたのだが、そのうちに目覚めてしまったのだ。
「ヒーローかっこいい!」
正確にはヒーローというより、それを演じている俳優さんたちにだったが、それでも番組自体にも気がつけばはまってしまっていた。
それまで日曜の朝というと、母に怒鳴られるまで布団の中で惰眠を貪っていた私が、早起きしてリビングに来てテレビの前に座るようになった。
当時はまだ8時からだったので、それまでに朝食を済ませて着席する。
「まあ寝坊されてるよりいいけど女子高校生がヒーローねえ」
と、母が苦笑していたのを思い出す。
就職して家を出てからも、日曜日の朝は必ず見ている。どうしても見られない時には録画して、次週までには絶対に見て話をつなげるようにしている。
若いイケメンももちろん目当てだが、でもこの番組、どっちも「所詮は子供番組」と言い切れないと思うのだ。
1年かけて一つのストーリーを作り込むのだから、到底単純なお話では続かない。子供が見るには難解なストーリーは色々と考えさせられることも多く、散りばめられたエピソードや知らない言葉を調べて私の知識は深く広くなっていったと思う。
それだけではない、数々の必殺技を彩るため駆使されるCG、変身したヒーローや悪役を演じるスーツアクターの体だけでの表現力。もちろん使用されている音楽も人気のアーティストが交代で聴き逃がせない。
「それにそうよ、仕事にも役立ってるのよ」
言い訳ではなく、毎週毎週、よくもまあ次から次へと手を変え品を変え、子供だけではなく「大きなお友達」の心をくすぐり購買欲を掻き立てる商品を生み出すことができるものだ。
そしてその宣伝の妙にも学ぶところはある。
「うん、うちの事業部もこういうの見習わないといけないと思うのよ」
何度も言うが言い訳ではない、本心からそう思っている。
ただ、色んな意味でただの子供だましではないと言いながら、時に子供だましなところがあったりするのも結構ツボだ。
まだ甥っ子がちびだった頃のあるシリーズ、最終回の一つ前の回、メンバーを一人残して残り全員が敵の罠にはまって爆弾でふっとばされてしまったことがあった。
「みんなどうなったの? まさかやられてしまってないよね?」
どう考えてもあの状況では誰一人助かってはいまい。そして残った一人は確かイエローだったが、強さも賢さも言ってはなんだがいまいちで、どちらかというと癒やしを担うそんなキャラだった。
まだ小さい甥っ子とどうやって助かるんだろうねーと(甥っ子はどの程度分かってたか分からないが)心配した記憶がある。
翌週、最終回は甥っ子が来ていなかったが、私は一人テレビの前に座ってその時を待っていた。
「わはははは~おまえもすぐに仲間の後を追わせてやる!」
そう言って悪の親玉がイエローを車の後ろにつないで荒野を引っ張り回していたら、どこかから何かが飛んできて綱が切れ、イエローは助かった。
「誰だ!」
驚いた親玉がそう叫ぶと、その目の前には先週爆破されたとばかり思った仲間たちが!
「おのれ、どうして助かった!」
その問いにリーダーはきっぱりとこう答えた。
「俺たちは、死なない!」
え、それで終わり?
どうやって助かったかなし?
呆然としている私の前で全員で親玉を倒し、無事に世界に平和が戻ってエンディングとなりました。
結局どうやって助かったかはなし。
「そんなのいいのか?」
いいのである。
いくら大人が喜ぶと言っても元々は子供向けの番組である。
子供が喜べばそれでいいのだ。
その少し前にたまたま印籠片手のご隠居の時代劇を見ていた時、同じような状態で閉じ込められた建物が爆発して次週へ続くとなったのだが、次回はなんの説明もなく高笑いしながらご隠居が現れて、いつものようにお付きが悪をバッタバッタと倒していったのも見たことがある。
「現実じゃないんだから面白ければそれでもいいんだよ」
そう言われた気がした。
リアリティがどうの、ストーリーがどうの、ここが役に立つ、勉強になるとか言ってみたけど、そんなの無視して純粋に楽しいとだけ思えるものがあってもいいじゃない。現実的で考えさせられる番組もいいが、テレビは所詮娯楽なんだから。
そうして私は今週もヒーローたちを心待ちにしている。
ヒーローはいてくれるだけでいいのです!
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