30 / 65
2022年 7月
スイカ様バンザイ!
しおりを挟む
「ああ~いらいらするー!」
今日のことを思い出すと、ただでさえ暑いこの季節、ますます頭がカッカカッカと煮えたぎるようだった。
上司に怒鳴られた。
それが納得できる事情なら反省もする。だが結果的には上司が自分の失敗を人のせいだと勘違いしてみんなの前で私をきつく叱責、覚えがなかった私は言われていることに「なんのこっちゃ?」とクエスチョンマーク連発しながら、訳が分からないだけに何をどう答えていいのか分からずに首を捻っていたらさらに激怒。
「おまえはそんな無責任で社会人がつとまるのかあ!」
そうして散々人のことを生ゴミよばわりしてたくせに、他の人が「それは……」と声をかけてやっと「ああ」と思い出したみたいで、こちらにはろくに謝りもせず、照れ笑いだけして「お疲れ様」の一言で終わらせた。
「なんじゃそりゃー!」
思い出し怒り。思わず声を出してしまい通行人に振り返られた。
このまま街に繰り出して飲んで憂さ晴らししたいぐらいの気持ちだが、明日も仕事、そんなことしたら自分の明日がつらいだけ。
そんじゃお酒でも買って帰って飲みつぶれて気絶するように寝てやろうかとも考えたが、私はそれほどお酒が強い方ではない。これも明日二日酔いになって自分がつらいだけ。
「う~!! スイーツバイキングでもあったら突撃して食べまくってくれるのに……」
そう思うが、残業帰りの今はもう時間も遅く、そんなお店はあっても閉店している。
それにまだ早い時間だとしても、私が住むアパートのある最寄り駅からその周辺はそれほどの都会ではないので、そんなお店はないと思われる。
住宅地と農地がちょこちょこ。やや田舎寄りの住宅地、住むにはなかなか良いところだが、華々しさには欠ける地域だ。
「くそっ、せめてスーパーでなんか甘いもんでも買って帰ろう」
この時間だったらもう半額シールのついたスイーツの1つや2つぐらいあるだろう。それ買ってヤケ食いぐらいしかできることがない我が身の哀れさよ。
そんなアンニュイ半分戦闘モード半分な気持ちで、駅からの帰り道、アパートから徒歩10分ほどの一応チェーン店のスーパーへ足を向けた。
入り口でカゴを取ってカートに乗せ、さてめぼしいものをと思ったら、入ってすぐの野菜売り場で、
「スイカ1個2980円(税別)よく冷えてます」
という紙がピラピラと目に入ってきた。
「なにぃ、スイカ一個丸ごと冷やして売るだと!」
驚きました。
このご時世に、小家族化が進むこの時代に、私みたいな独り者が増えているという今に、なんつー怖い物知らず! なんという豪胆さか!
そんなもん丸ごと売られても冷蔵庫に入らない家多いっつーの!
それにこのへん農家も多いから、丸ごと一個冷蔵庫に入るようなご家庭は、自分ちで作って食べてる気もする。
思った通り、冷やした丸ごとスイカはまだ多少売れ残っていて、その姿に私はまた我が身と同じ哀れを感じた。
実は私はスイカに命を救われた過去がある。
小学校のある冬、インフルエンザで胃腸までやられ、水も飲み込めなくなった時に唯一喉を通ったのがスイカだった。
母が何かないかと買って帰ってくれた冬のカットスイカ。それで水分とミネラルを摂取できて、なんとか命をつないだのだ。
スイカ様バンザイ!
見ていると目の前でスイカに「2割引」のシールが貼られた。
ますます我が身と重なって見える。
「ここで会ったのも何かのご恩返し、おっしゃ、買ったるわい!」
と、思い切りよくスイカ1個買ったった。
えっちらおっちら。幸いすぐ近くのアパートに抱えて帰る。
元々あまり料理もせず、空っぽに近かった冷蔵庫の中の棚を外し、スイカ様に鎮座いただく。そうしておいてお風呂上がりにさあ、ご対面だ。
真横にすっぱり真っ二つ。
下半分はラップして冷蔵庫にお戻りいただき、上半分をお盆に乗せて、ど真ん中からスプーンでいただきます!
「う~ん冷えてる~おいし~」
染み渡るスイカの甘み。
「えい、この、この、あのハゲ課長め!」
カレースプーンでガバッとほじくってはゴクリと飲みこんでスッキリしていく。
そう言えば「頭が池」という落語だったか昔話だったかがあったなと思い出す。
ある男がさくらんぼの種を飲み込んだら頭に桜が生えてきて、春に満開になったら人が花見に集まってきた。うるさいと木を引っこ抜いたら今度はそこが池になってやっぱり人が集まってきた。絶望した男は確かその池に飛び込んでしまうのよね。
不条理極まりないがちゃんとオチがついた話だった。
私はざくざくスイカを食べながら、課長の頭からスイカが生えて、それをみんなで引っこ抜いたところを想像した。
課長の頭から生えたスイカなど食べたくはないが、残り少ない髪の毛をザクザクと踏みにじり、毛根よろしくスイカを収穫する様子はなかなか快適だ。
そうしてほじくってほじくって、スイカを半分あっという間に平らげてしまった。
「はあ~満足した!」
2980円(税別)の2割引のさらに半分だから……まあ1300円弱か。
それでスッキリしたのだから、かなりのお買い得だった。
「ああ、またスイカ様に救われた」
これで明日課長を殴ってクビになる事態は防げた。
残りはまた明日のお楽しみ。
スイカ様バンザイ!
今日のことを思い出すと、ただでさえ暑いこの季節、ますます頭がカッカカッカと煮えたぎるようだった。
上司に怒鳴られた。
それが納得できる事情なら反省もする。だが結果的には上司が自分の失敗を人のせいだと勘違いしてみんなの前で私をきつく叱責、覚えがなかった私は言われていることに「なんのこっちゃ?」とクエスチョンマーク連発しながら、訳が分からないだけに何をどう答えていいのか分からずに首を捻っていたらさらに激怒。
「おまえはそんな無責任で社会人がつとまるのかあ!」
そうして散々人のことを生ゴミよばわりしてたくせに、他の人が「それは……」と声をかけてやっと「ああ」と思い出したみたいで、こちらにはろくに謝りもせず、照れ笑いだけして「お疲れ様」の一言で終わらせた。
「なんじゃそりゃー!」
思い出し怒り。思わず声を出してしまい通行人に振り返られた。
このまま街に繰り出して飲んで憂さ晴らししたいぐらいの気持ちだが、明日も仕事、そんなことしたら自分の明日がつらいだけ。
そんじゃお酒でも買って帰って飲みつぶれて気絶するように寝てやろうかとも考えたが、私はそれほどお酒が強い方ではない。これも明日二日酔いになって自分がつらいだけ。
「う~!! スイーツバイキングでもあったら突撃して食べまくってくれるのに……」
そう思うが、残業帰りの今はもう時間も遅く、そんなお店はあっても閉店している。
それにまだ早い時間だとしても、私が住むアパートのある最寄り駅からその周辺はそれほどの都会ではないので、そんなお店はないと思われる。
住宅地と農地がちょこちょこ。やや田舎寄りの住宅地、住むにはなかなか良いところだが、華々しさには欠ける地域だ。
「くそっ、せめてスーパーでなんか甘いもんでも買って帰ろう」
この時間だったらもう半額シールのついたスイーツの1つや2つぐらいあるだろう。それ買ってヤケ食いぐらいしかできることがない我が身の哀れさよ。
そんなアンニュイ半分戦闘モード半分な気持ちで、駅からの帰り道、アパートから徒歩10分ほどの一応チェーン店のスーパーへ足を向けた。
入り口でカゴを取ってカートに乗せ、さてめぼしいものをと思ったら、入ってすぐの野菜売り場で、
「スイカ1個2980円(税別)よく冷えてます」
という紙がピラピラと目に入ってきた。
「なにぃ、スイカ一個丸ごと冷やして売るだと!」
驚きました。
このご時世に、小家族化が進むこの時代に、私みたいな独り者が増えているという今に、なんつー怖い物知らず! なんという豪胆さか!
そんなもん丸ごと売られても冷蔵庫に入らない家多いっつーの!
それにこのへん農家も多いから、丸ごと一個冷蔵庫に入るようなご家庭は、自分ちで作って食べてる気もする。
思った通り、冷やした丸ごとスイカはまだ多少売れ残っていて、その姿に私はまた我が身と同じ哀れを感じた。
実は私はスイカに命を救われた過去がある。
小学校のある冬、インフルエンザで胃腸までやられ、水も飲み込めなくなった時に唯一喉を通ったのがスイカだった。
母が何かないかと買って帰ってくれた冬のカットスイカ。それで水分とミネラルを摂取できて、なんとか命をつないだのだ。
スイカ様バンザイ!
見ていると目の前でスイカに「2割引」のシールが貼られた。
ますます我が身と重なって見える。
「ここで会ったのも何かのご恩返し、おっしゃ、買ったるわい!」
と、思い切りよくスイカ1個買ったった。
えっちらおっちら。幸いすぐ近くのアパートに抱えて帰る。
元々あまり料理もせず、空っぽに近かった冷蔵庫の中の棚を外し、スイカ様に鎮座いただく。そうしておいてお風呂上がりにさあ、ご対面だ。
真横にすっぱり真っ二つ。
下半分はラップして冷蔵庫にお戻りいただき、上半分をお盆に乗せて、ど真ん中からスプーンでいただきます!
「う~ん冷えてる~おいし~」
染み渡るスイカの甘み。
「えい、この、この、あのハゲ課長め!」
カレースプーンでガバッとほじくってはゴクリと飲みこんでスッキリしていく。
そう言えば「頭が池」という落語だったか昔話だったかがあったなと思い出す。
ある男がさくらんぼの種を飲み込んだら頭に桜が生えてきて、春に満開になったら人が花見に集まってきた。うるさいと木を引っこ抜いたら今度はそこが池になってやっぱり人が集まってきた。絶望した男は確かその池に飛び込んでしまうのよね。
不条理極まりないがちゃんとオチがついた話だった。
私はざくざくスイカを食べながら、課長の頭からスイカが生えて、それをみんなで引っこ抜いたところを想像した。
課長の頭から生えたスイカなど食べたくはないが、残り少ない髪の毛をザクザクと踏みにじり、毛根よろしくスイカを収穫する様子はなかなか快適だ。
そうしてほじくってほじくって、スイカを半分あっという間に平らげてしまった。
「はあ~満足した!」
2980円(税別)の2割引のさらに半分だから……まあ1300円弱か。
それでスッキリしたのだから、かなりのお買い得だった。
「ああ、またスイカ様に救われた」
これで明日課長を殴ってクビになる事態は防げた。
残りはまた明日のお楽しみ。
スイカ様バンザイ!
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜
長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。
しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。
中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。
※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。
※小説家になろうにて重複投稿しています。

料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた
藤岡 フジオ
ファンタジー
遥か未来の地球。地球型惑星の植民地化が進む中、地球外知的生命体が見つかるには至らなかった。
しかしある日突然、一人の科学者が知的生命体の住む惑星を見つけて地球に衝撃が走る。
惑星は発見した科学者の名をとって惑星ヒジリと名付けられた。知的生命体の文明レベルは低く、剣や魔法のファンタジー世界。
未知の食材を見つけたい料理人の卵、道 帯雄(ミチ オビオ)は運良く(運悪く?)惑星ヒジリへと飛ばされ、相棒のポンコツ女騎士と共に戦いと料理の旅が始まる。

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!
雪那 由多
ライト文芸
恋人に振られて独立を決心!
尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!
庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。
さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!
そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!
古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。
見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!
見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート!
****************************************************************
第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました!
沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました!
****************************************************************

大喜利お題、小ネタ、クイズなど (仮)
マグカップと鋏は使いやすい
エッセイ・ノンフィクション
こちらは、別サイトやアプリで載せた、ちょっとしたお題や大喜利問題などです。
文章でお題を投稿し、それに音声で答えてもらう形式でした。
そちらのアプリが仕様変更や停止によりなくなってしまったため、こちらに残そうと思います。
大喜利お題、気づいたら百をこえておりました。
遊んでくださった多くの皆様に感謝しています。
いろいろありまして、載せられるのが117個になりました。
また機会があれば、どこかで日の目を見ることができればなと思います。
大喜利で困ったときにお使いください
北野坂パレット
うにおいくら
ライト文芸
舞台は神戸・異人館の街北野町。この物語はほっこり仕様になっております。
青春の真っただ中の子供達と青春の残像の中でうごめいている大人たちの物語です。
『高校生になった記念にどうだ?』という酒豪の母・雪乃の訳のわからん理由によって、両親の離婚により生き別れになっていた父・一平に生まれて初めて会う事になったピアノ好きの高校生亮平。
気が付いたら高校生になっていた……というような何も考えずにのほほんと生きてきた亮平が、父親やその周りの大人たちに感化されて成長していく物語。
ある日父親が若い頃は『ピアニストを目指していた』という事を知った亮平は『何故その夢を父親が諦めたのか?』という理由を知ろうとする。
それは亮平にも係わる藤崎家の因縁が原因だった。 それを知った亮平は自らもピアニストを目指すことを決意するが、流石に16年間も無駄飯を食ってきた高校生だけあって考えがヌルイ。脇がアマイ。なかなか前に進めない。
幼馴染の冴子や宏美などに振り回されながら、自分の道を模索する高校生活が始まる。 ピアノ・ヴァイオリン・チェロ・オーケストラそしてスコッチウィスキーや酒がやたらと出てくる小説でもある。主人公がヌルイだけあってなかなか音楽の話までたどり着けないが、8話あたりからそれなりに出てくる模様。若干ファンタージ要素もある模様だが、だからと言って異世界に転生したりすることは間違ってもないと思われる。

真実の愛、その結末は。
もふっとしたクリームパン
恋愛
こうしてシンディは幸せに暮らしました、とさ。
前編、後編、おまけ、の三話で完結します。
カクヨム様にも投稿してる小説です。内容は変わりません。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる