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2022年 6月
ポニーテールの彼女
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あるオンラインゲームを楽しんでいる。
ごくごく普通の会社員の俺だけど、そのゲームの中ではかっこいい剣士をやっている。
ゲーム内で色んな人と知り合って仲良くなった。
みんな自分のキャラを持っていて、性別も種族も職業もバラバラだが、楽しくダンジョンを攻めたり、何もせずにそのへんでしゃべったりといい仲間もできた。
偶然都心近くのメンバーが多かったらしく、俺が仲良くしてる人たちが集まってちょこちょこオフ会をしたりして、ゲーム中にもその続きの話をしてたりする。
俺はちょっとばかり遠い地域在住なので簡単に参加はできないが、特に行こうとも思っていなかった。
リアルとゲームの中は違うからだ。
ゲームの知り合いとリアルで会う必要を特には感じなかった。
楽しそうに話をしているのはちょっとだけ羨ましいと思ったが、まあ、それだけだ。
「ネットで出会う人間なんて怖い」
そういう人間もいるがそんなことはない。
文字だけの会話でも大体どんな人間かの想像はつく。
その話し方や話の内容でなんとなく、どういう人間かが分かる。
ネットの世界だからこそ、普段は押さえているものが出ることもあるので、むしろどんな人間なのかよく分かることもある。
たとえば実世界ではそんな根性ないくせに、ゲームのキャラのかわいい女の子相手にエッチなことを言ったりしたりする情けないやつもいる。ネットの向こうで操作してるのは汚いおっさんの可能性もあるのにな。
実世界では手が後ろに回るの怖さにそんなことできないようなやつが、詐欺や窃盗を働いたりすることもある。相手が自分と同じ人間だと思わずに、電源落とせばもう終わり、そう思ってるからだ。
だから、俺はゲームの中でだけ楽しめればいい。そう思っていた。
「ベオウルフという名前はイギリス文学からですか?」
ある時、そんなゲーム仲間の一人からそう話しかけられた。
「ベオウルフ」は俺の使っているキャラの名前だ。
そしてまさにイギリスの叙情詩に出てくる伝説の王からとった。
よく、あるゲームのキャラですか? と聞かれたりしたが、そう言われたのは初めてだった。
色々話していくうちに、同じ子ども向けの文学シリーズを読んでいたということが分かり、ますます話が盛り上がった。
そのキャラの名前はマナさんといってかわいらしい女の子だった。
俺は剣士、マナさんは癒し系の聖職者、かぶる職業ではなかったので、人数制限のパーティーに一緒に入ることも多くなり、会話をする機会もますます増えていった。
マナさんはおっとりと話をする人で、時に天然もかましてくれる。
(かわいい)
相手は作り物のキャラだ、そう思いながらも、ポニーテールにメガネをかけて、白いマント、ぼこぼことした長い杖を持つ聖女の姿を見るたびに、俺はなんだかドキドキするようになっていた。
その上品なたたずまい、文学やクラシックが好き。
(きっとどこかのお嬢様なんだろうなあ)
うっすらとそんな印象を持ってきた頃、オフ会で会ったという仲間がマナさんのことを話題にした。
「マナさん、オフ会にもゲームと同じポニテで来てたよ」
その言葉を聞いて俺は、もうなんだか頭に血が上ってしまい、会いたくて会いたくてたまらなくなってしまった。
そうしてついに、長距離バスに乗って上京し、オフ会に参加することにした。
マナさんに会いたさに、リアルでは会わないという禁忌を破って。
待ち合わせの場所には深夜バスだった俺が一番に到着した。
時間が近づくと、目印を持った俺の周囲に仲間たちが集まってきた。
思った通り、ゲーム内の会話で想像していた通りの仲間たちだった。
やっぱり文字だけでも分かるもんだな、そんなことを考えていたら、
「あ、マナさん、こっちこっち、この人がベオさん」
仲間の一人が俺の後ろに向かってそう言いながら手を振った。
心臓がドキン!! と大きく打つ。
ついにマナさんに、現実世界のマナさんに会えるんだ!!
「はじめまして、マナです」
この声……
想像もしなかった声に振り向くと、
「力士……」
思わずそうつぶやいていた。
「あーいつも仲良くしてもらって」
ものすごくでかい相撲取りが、照れくさそうにゆっくりと頭を下げた。
「マナさん、四股名が『玉名山』っていうお相撲さん」
「たまなやま」からとって「マナ」かよ!
「ほら、キャラと同じだろ」
うん、たしかに後ろで髪の毛一本括りしてるけど、それってポニテじゃなくてちょんまげだよね?
「まだ下っ端で大銀杏結えるほどじゃないんで」
と、メガネをかけて大福のような笑顔を見せるマナさん……
「子どもの頃から本ばかり読んでて現実でもメガネをかけてる」
前にそう言ってた、言ってたね、うん。
「手がでかいもんで、いつもタイピング遅くなって、迷惑かけてます」
そう、おっとりしてるからじゃないんだ……
うん、大きい手してるよね、うん。
それから俺は楽しいオフ会の時間を過ごし、帰りは特急で帰宅の途についた。
やっぱりネットは怖い。
それから実際に見たり聞いたりしたこと以外はもう信じない。
想像で分かった気にならない。
今度の出来事はとっても勉強になった。
ごっつぁんです!
そんなことを考えながら、早く家に着け、ひたすらそう思っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
脚色して全く違う話になっていますが、実は元になったエピソードがあります。
あの時のL氏の驚いた顔、僕はずっと忘れないよ!
ありがとう、僕たちはズッ友だ!
これからも色んなネタをお願いします!
※L氏にはちゃんと許可を取ってこの作品を書いております。
ごくごく普通の会社員の俺だけど、そのゲームの中ではかっこいい剣士をやっている。
ゲーム内で色んな人と知り合って仲良くなった。
みんな自分のキャラを持っていて、性別も種族も職業もバラバラだが、楽しくダンジョンを攻めたり、何もせずにそのへんでしゃべったりといい仲間もできた。
偶然都心近くのメンバーが多かったらしく、俺が仲良くしてる人たちが集まってちょこちょこオフ会をしたりして、ゲーム中にもその続きの話をしてたりする。
俺はちょっとばかり遠い地域在住なので簡単に参加はできないが、特に行こうとも思っていなかった。
リアルとゲームの中は違うからだ。
ゲームの知り合いとリアルで会う必要を特には感じなかった。
楽しそうに話をしているのはちょっとだけ羨ましいと思ったが、まあ、それだけだ。
「ネットで出会う人間なんて怖い」
そういう人間もいるがそんなことはない。
文字だけの会話でも大体どんな人間かの想像はつく。
その話し方や話の内容でなんとなく、どういう人間かが分かる。
ネットの世界だからこそ、普段は押さえているものが出ることもあるので、むしろどんな人間なのかよく分かることもある。
たとえば実世界ではそんな根性ないくせに、ゲームのキャラのかわいい女の子相手にエッチなことを言ったりしたりする情けないやつもいる。ネットの向こうで操作してるのは汚いおっさんの可能性もあるのにな。
実世界では手が後ろに回るの怖さにそんなことできないようなやつが、詐欺や窃盗を働いたりすることもある。相手が自分と同じ人間だと思わずに、電源落とせばもう終わり、そう思ってるからだ。
だから、俺はゲームの中でだけ楽しめればいい。そう思っていた。
「ベオウルフという名前はイギリス文学からですか?」
ある時、そんなゲーム仲間の一人からそう話しかけられた。
「ベオウルフ」は俺の使っているキャラの名前だ。
そしてまさにイギリスの叙情詩に出てくる伝説の王からとった。
よく、あるゲームのキャラですか? と聞かれたりしたが、そう言われたのは初めてだった。
色々話していくうちに、同じ子ども向けの文学シリーズを読んでいたということが分かり、ますます話が盛り上がった。
そのキャラの名前はマナさんといってかわいらしい女の子だった。
俺は剣士、マナさんは癒し系の聖職者、かぶる職業ではなかったので、人数制限のパーティーに一緒に入ることも多くなり、会話をする機会もますます増えていった。
マナさんはおっとりと話をする人で、時に天然もかましてくれる。
(かわいい)
相手は作り物のキャラだ、そう思いながらも、ポニーテールにメガネをかけて、白いマント、ぼこぼことした長い杖を持つ聖女の姿を見るたびに、俺はなんだかドキドキするようになっていた。
その上品なたたずまい、文学やクラシックが好き。
(きっとどこかのお嬢様なんだろうなあ)
うっすらとそんな印象を持ってきた頃、オフ会で会ったという仲間がマナさんのことを話題にした。
「マナさん、オフ会にもゲームと同じポニテで来てたよ」
その言葉を聞いて俺は、もうなんだか頭に血が上ってしまい、会いたくて会いたくてたまらなくなってしまった。
そうしてついに、長距離バスに乗って上京し、オフ会に参加することにした。
マナさんに会いたさに、リアルでは会わないという禁忌を破って。
待ち合わせの場所には深夜バスだった俺が一番に到着した。
時間が近づくと、目印を持った俺の周囲に仲間たちが集まってきた。
思った通り、ゲーム内の会話で想像していた通りの仲間たちだった。
やっぱり文字だけでも分かるもんだな、そんなことを考えていたら、
「あ、マナさん、こっちこっち、この人がベオさん」
仲間の一人が俺の後ろに向かってそう言いながら手を振った。
心臓がドキン!! と大きく打つ。
ついにマナさんに、現実世界のマナさんに会えるんだ!!
「はじめまして、マナです」
この声……
想像もしなかった声に振り向くと、
「力士……」
思わずそうつぶやいていた。
「あーいつも仲良くしてもらって」
ものすごくでかい相撲取りが、照れくさそうにゆっくりと頭を下げた。
「マナさん、四股名が『玉名山』っていうお相撲さん」
「たまなやま」からとって「マナ」かよ!
「ほら、キャラと同じだろ」
うん、たしかに後ろで髪の毛一本括りしてるけど、それってポニテじゃなくてちょんまげだよね?
「まだ下っ端で大銀杏結えるほどじゃないんで」
と、メガネをかけて大福のような笑顔を見せるマナさん……
「子どもの頃から本ばかり読んでて現実でもメガネをかけてる」
前にそう言ってた、言ってたね、うん。
「手がでかいもんで、いつもタイピング遅くなって、迷惑かけてます」
そう、おっとりしてるからじゃないんだ……
うん、大きい手してるよね、うん。
それから俺は楽しいオフ会の時間を過ごし、帰りは特急で帰宅の途についた。
やっぱりネットは怖い。
それから実際に見たり聞いたりしたこと以外はもう信じない。
想像で分かった気にならない。
今度の出来事はとっても勉強になった。
ごっつぁんです!
そんなことを考えながら、早く家に着け、ひたすらそう思っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
脚色して全く違う話になっていますが、実は元になったエピソードがあります。
あの時のL氏の驚いた顔、僕はずっと忘れないよ!
ありがとう、僕たちはズッ友だ!
これからも色んなネタをお願いします!
※L氏にはちゃんと許可を取ってこの作品を書いております。
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