9 / 65
2022年 6月
ぶんちゃんとしんちゃん
しおりを挟む
一応童話のつもりです。
――――――――――――――――――――――――――――
しんちゃんが幼稚園から帰ってきたらママが泣いていました。
「ママ、どうしたの?」
「しんちゃんおかえり。あのね、ぶんちゃんがね……」
ママの手の中で文鳥のぶんちゃんが寝ていました。
「ぶんちゃんねてるの?」
ママはどう言えばいいのか考えましたが、
「あのね、ぶんちゃんは死んでしまったの」
悲しそうにそう言いました。
「しんでしまったってなに?」
ママは少しだけ考えていましたが、
「ぶんちゃんはずっと寝てることになったの」
「へえ」
そう言ったけど、しんちゃんにはよく分かりません。
「ずっとねてるの?」
「そう」
ぶんちゃんはしんちゃんが生まれる前からママの家族でした。
まだママが高校生だった時、道の上に落ちてぴいぴい鳴いてた鳥のヒナを見つけたのです。
文鳥は自然にいる鳥ではないから、どこかに飼い主さんがいるだろうと色んな人に聞いてまわったけど飼い主さんは見つからなくて、ママの家族になったのです。
ママが結婚する時もぶんちゃんはママと一緒にパパのところに来て、しんちゃんが生まれてからはずっとしんちゃんのお兄ちゃんでした。
「しんちゃんも入れてあげてね」
ママはぶんちゃんを白いハンカチに包んで紙の箱に寝かせると、ぶんちゃんが好きだったご飯やおやつ、それから庭で摘んできたお花をしんちゃんに渡してくれました。
しんちゃんはぶんちゃんの口のところにご飯とおやつを、それから頭のところにお花を入れてあげました。
「こう?」
「うん、ぶんちゃんも喜んでると思うよ」
ママはそう言うと、しんちゃんを連れて、ぶんちゃんの入った箱を持って庭に降りました。
「え! ママ、なにするの!」
しんちゃんはママがぶんちゃんの箱を土を掘った穴の中に入れようとしてるのを見てびっくりしました。
「ぶんちゃんがかわいそうだー!」
しんちゃんはそう言ってわんわんと泣きました。
ママは困ってしまいました。
「あのねしんちゃん。ぶんちゃんはこれからここで寝るの」
「ここで?」
「うん、だから、ぶんちゃんがゆっくり寝られるように土をかけてあげないといけないの」
しんちゃんはそう聞くと泣くのをやめて、ママと一緒にぶんちゃんの箱に土をかけ、また上にもお花を置きました。
その日から毎日毎日、しんちゃんはお花を置いた場所を見にいきました。
そうして何日か経ったある日、しんちゃんはママに聞きました。
「ママ」
「なあに?」
「いつぶんちゃんのおはなさくの?」
「え?」
「ぶんちゃんは、おはながさいたらそこからでてくるんでしょ?」
「え……」
しんちゃんの幼稚園にはきれいなお花が咲いています。
春にはチューリップ、そして今の時期にはユリがぱかっとお花を開きます。
「ぶんちゃんはあのなかからでてくるんだよね」
しんちゃんはそう思ってぶんちゃんの場所からお花が伸びてくるのを待ちましたが、全然そんな気配はありません。
「あのね、しんちゃん」
ママは言いにくそうに言いました。
「もうぶんちゃんは戻ってこられないの、これからずっとあそこで寝るだけなの」
「えっ!」
しんちゃんはてっきりぶんちゃんがお花になるために土をかけるんだとばっかり思っていたので、すごく驚いてしまいました。
「いやだ、そんなの!」
しんちゃんは走って家を飛び出していきました。
ママは急いで追いかけましたが、どっちの方向に向かったのかしんちゃんの姿を見失い、慌ててあちらこちらを探しました。
しんちゃんは神社まで走ってきていました。
「ぶんちゃん……」
神社の石の椅子の上でそう言って泣いていたら、
「しんちゃん、何を泣いているの?」
誰かが話しかけてきました。
「だあれ?」
しんちゃんが足元を見ると、一羽の鳩がくるっくーとしんちゃんを見上げています。
「きみ?」
「そう、僕」
「はと?」
「うん、僕、ぶんちゃんの友達だよ」
「え! ぶんちゃんどこ?」
「ほら、上を見てごらん」
鳩に言われてしんちゃんが上を見上げると、たくさんの鳥たちが空いっぱいに広がってぐるぐると飛び回っていました。
「あの鳥はみんなぶんちゃんなんだよ」
「え!」
しんちゃんがびっくりしていると鳩が続けて言いました。
「どの子もみんなしんちゃんが大好きなぶんちゃんだよ。だから、もしも誰かがしんちゃんのところにきたら、ぶんちゃんだと思ってかわいがってあげてね」
くるっくーともう一度鳩がそう言ったので、
「うん、わかった、ぼく、だれがきてもだいじにするよ」
しんちゃんはそう約束をしました。
「約束だよ」
鳩はそう言うと自分も飛び立ってぐるぐると回る鳥の輪の中に入りました。
しんちゃんはそれで今の鳩はぶんちゃんだったんだと分かりました。
「しんちゃん、しんちゃん!」
「あ、ママ」
しんちゃんは石の椅子の上で寝てしまってました。
「あのねママ、ぼくぶんちゃんにあったんだよ」
「え?」
「ぶんちゃんがはとになっててね、それで、どのとりもみんなぶんちゃんだよ、だからどのこがきてもかわいがってあげてねって」
ママはしんちゃんの言ってることはよく分かりませんでしたが、
「そうね、うちに来る子がいたら大事にしてあげようね」
そう言ってしんちゃんの手を握って一緒に家に帰りました。
きっとまたいつかぶんちゃんに会えるはず、そう思いながら。
――――――――――――――――――――――――――――
しんちゃんが幼稚園から帰ってきたらママが泣いていました。
「ママ、どうしたの?」
「しんちゃんおかえり。あのね、ぶんちゃんがね……」
ママの手の中で文鳥のぶんちゃんが寝ていました。
「ぶんちゃんねてるの?」
ママはどう言えばいいのか考えましたが、
「あのね、ぶんちゃんは死んでしまったの」
悲しそうにそう言いました。
「しんでしまったってなに?」
ママは少しだけ考えていましたが、
「ぶんちゃんはずっと寝てることになったの」
「へえ」
そう言ったけど、しんちゃんにはよく分かりません。
「ずっとねてるの?」
「そう」
ぶんちゃんはしんちゃんが生まれる前からママの家族でした。
まだママが高校生だった時、道の上に落ちてぴいぴい鳴いてた鳥のヒナを見つけたのです。
文鳥は自然にいる鳥ではないから、どこかに飼い主さんがいるだろうと色んな人に聞いてまわったけど飼い主さんは見つからなくて、ママの家族になったのです。
ママが結婚する時もぶんちゃんはママと一緒にパパのところに来て、しんちゃんが生まれてからはずっとしんちゃんのお兄ちゃんでした。
「しんちゃんも入れてあげてね」
ママはぶんちゃんを白いハンカチに包んで紙の箱に寝かせると、ぶんちゃんが好きだったご飯やおやつ、それから庭で摘んできたお花をしんちゃんに渡してくれました。
しんちゃんはぶんちゃんの口のところにご飯とおやつを、それから頭のところにお花を入れてあげました。
「こう?」
「うん、ぶんちゃんも喜んでると思うよ」
ママはそう言うと、しんちゃんを連れて、ぶんちゃんの入った箱を持って庭に降りました。
「え! ママ、なにするの!」
しんちゃんはママがぶんちゃんの箱を土を掘った穴の中に入れようとしてるのを見てびっくりしました。
「ぶんちゃんがかわいそうだー!」
しんちゃんはそう言ってわんわんと泣きました。
ママは困ってしまいました。
「あのねしんちゃん。ぶんちゃんはこれからここで寝るの」
「ここで?」
「うん、だから、ぶんちゃんがゆっくり寝られるように土をかけてあげないといけないの」
しんちゃんはそう聞くと泣くのをやめて、ママと一緒にぶんちゃんの箱に土をかけ、また上にもお花を置きました。
その日から毎日毎日、しんちゃんはお花を置いた場所を見にいきました。
そうして何日か経ったある日、しんちゃんはママに聞きました。
「ママ」
「なあに?」
「いつぶんちゃんのおはなさくの?」
「え?」
「ぶんちゃんは、おはながさいたらそこからでてくるんでしょ?」
「え……」
しんちゃんの幼稚園にはきれいなお花が咲いています。
春にはチューリップ、そして今の時期にはユリがぱかっとお花を開きます。
「ぶんちゃんはあのなかからでてくるんだよね」
しんちゃんはそう思ってぶんちゃんの場所からお花が伸びてくるのを待ちましたが、全然そんな気配はありません。
「あのね、しんちゃん」
ママは言いにくそうに言いました。
「もうぶんちゃんは戻ってこられないの、これからずっとあそこで寝るだけなの」
「えっ!」
しんちゃんはてっきりぶんちゃんがお花になるために土をかけるんだとばっかり思っていたので、すごく驚いてしまいました。
「いやだ、そんなの!」
しんちゃんは走って家を飛び出していきました。
ママは急いで追いかけましたが、どっちの方向に向かったのかしんちゃんの姿を見失い、慌ててあちらこちらを探しました。
しんちゃんは神社まで走ってきていました。
「ぶんちゃん……」
神社の石の椅子の上でそう言って泣いていたら、
「しんちゃん、何を泣いているの?」
誰かが話しかけてきました。
「だあれ?」
しんちゃんが足元を見ると、一羽の鳩がくるっくーとしんちゃんを見上げています。
「きみ?」
「そう、僕」
「はと?」
「うん、僕、ぶんちゃんの友達だよ」
「え! ぶんちゃんどこ?」
「ほら、上を見てごらん」
鳩に言われてしんちゃんが上を見上げると、たくさんの鳥たちが空いっぱいに広がってぐるぐると飛び回っていました。
「あの鳥はみんなぶんちゃんなんだよ」
「え!」
しんちゃんがびっくりしていると鳩が続けて言いました。
「どの子もみんなしんちゃんが大好きなぶんちゃんだよ。だから、もしも誰かがしんちゃんのところにきたら、ぶんちゃんだと思ってかわいがってあげてね」
くるっくーともう一度鳩がそう言ったので、
「うん、わかった、ぼく、だれがきてもだいじにするよ」
しんちゃんはそう約束をしました。
「約束だよ」
鳩はそう言うと自分も飛び立ってぐるぐると回る鳥の輪の中に入りました。
しんちゃんはそれで今の鳩はぶんちゃんだったんだと分かりました。
「しんちゃん、しんちゃん!」
「あ、ママ」
しんちゃんは石の椅子の上で寝てしまってました。
「あのねママ、ぼくぶんちゃんにあったんだよ」
「え?」
「ぶんちゃんがはとになっててね、それで、どのとりもみんなぶんちゃんだよ、だからどのこがきてもかわいがってあげてねって」
ママはしんちゃんの言ってることはよく分かりませんでしたが、
「そうね、うちに来る子がいたら大事にしてあげようね」
そう言ってしんちゃんの手を握って一緒に家に帰りました。
きっとまたいつかぶんちゃんに会えるはず、そう思いながら。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる