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高崎明翔、サイドB
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薄暗い防火扉の前で、明翔が苦々しい中に悔しさを滲ませながらうつむいている。
俺は焦っていた。このまま放っておいたら、明翔は自分で自分の人生を終わらせようとしてしまうかもしれない。
「俺がイヤなら、深月が俺から離れてよ。俺からは離れらんないから」
そう言って、階段を駆け下りて行く明翔の背中が遠ざかって行く。
待ってくれ、明翔!
ちゃんと話してくれよ!
パッと目を開く。
心臓がバクバクしてるのがハッキリ分かって、理解した。夢か。
一学期、母親の交際相手から虐待を受けていた一条が転校してきて、俺の初恋の相手が一条だってバレた頃の明翔は今思えば明らかに精神が不安定だった。
明翔をかわいがってくれた父ちゃんとじいちゃんが立て続けに亡くなって、残った家族は自分よりも双子の妹を優先するのが染みついた母親のみ。
そんな母親そっくりな自分とそっくりな一条優。
そして、俺は一条を顔だけで好きになった。
幼い頃から一条と何でも分け合わされ、母親までも奪われたと感じていた明翔はあの頃、俺も一条に奪われる、と自暴自棄になってたんだと思う。
あの頃はワケ分からんかった明翔の気持ちが今なら手に取るように分かる。
そして、なぜ今こんな夢を見たのかも。
「今年の明翔の誕生日は平日だから、昨日パパさんの墓参りに行ってきたんだ。墓地の近くに和菓子屋があるんだけど、安倍川もちが名物だからお土産」
「あ……りがとう」
「明翔の誕生日と優ちゃんのパパの墓参りに何の関係があんの?」
一条は無神経だし、タカトゥーは明翔のパパが亡くなった経緯を聞いてないらしい。
後者については不謹慎ながらちょっとだけ嬉しい。明翔、俺にしか話してないんだ……。
「何だっていいじゃん! 食えよ、タカトゥー! さすが名物ってだけあって、超美味い! なあ、明翔!」
俺が勧めるまでもなく、明翔は無表情で無心に安倍川もちを食っている。
食え食え、今日は食事制限なんてナシだ!
放課後、俺の家に入った明翔はいつものように「来い!」と両手を広げる。
バワッと2匹の猫が宙を舞い、明翔にくっつく。
「マジかわいいなあ、君ら。なんで俺は猫に生まれなかったんだろ。俺も猫が良かった。猫は車なんか運転しないじゃん? てか、そもそもバースデーケーキなんてイベントないじゃん?」
お……おう……。
学校でこらえてた分、二人きりになると負のオーラが凄まじい。
誕生日が近付くにつれ、明翔の不安定っぷりが日に日に加速してる。
なのに、学校ではいつも通り明るく振舞ってるのが見ててキュンとさせやがる。
俺にだけは、どんどん本音を暴露ってほしい。
「俺のパパ、俺の誕生日ケーキを取りに車乗ってって事故に巻き込まれたの。誕プレ、事故死」
「き……キッツいなあ……」
「……ごめん。こんな話聞かされる方もキツいよね。ねえ、俺の誕生日に何か考えてる?」
「んー」
パッと明るい顔で明翔が振り向く。
「考えてるけど、明翔が行きたい所とかしたいことあったら教えて」
「パパとじいちゃんのいる所でキャッチボールしたい」
「お……俺と公園でキャッチボールしようか」
「深月、野球ド下手じゃん。物足りない」
「分かった、今日から毎日キャッチボールの練習する」
よし、明日早速野球部に仮入部だ。
「あ、ごめん、また俺……」
「気にすんな。我慢しなくていい、思ってること全部俺にぶつけて。どんな小さい不安でも不満でも何でもいい。パッションだ、明翔。明翔のパッションぶつけて来い。カモン!」
頼むからひとりで考え込んでスッポリ暗い方に落ち込まないでくれ。
俺の熱さが逆効果だったのか、明翔はスンとした顔で薄っすらと不気味に笑みを浮かべる。
「それってめんどくさくない? 俺めんどくさいよね。たぶん4月にも俺こんなんなるよ。だってじいちゃん死んだの俺の中学の入学式の日の朝だもん。起こしに行ったら冷たくなってたんだもん」
「め……めんどくさくなんかない。思ってること全部吐き出してくれていいから」
マジめんどくさくなんかないけど、怖い怖い怖い怖い。
頼むから明翔がそっちに行こうとしたら死んでも止めてくれ、じいちゃん、パパ。
「こんなんと付き合ってても楽しくないでしょ。別れてあげようか」
おおう、ネガティブ炸裂、見事に闇堕ちしとんな。
明翔の無表情は珍しい。美形が際立つ。
「別れたくなんかねえくせに」
「……別に」
知ってんだよ。
明翔は突然別れを突きつけられるのを恐れるあまり、その時が来る前に終わらせようとする。
「俺は別れないよ。言ってたじゃん。明翔は俺から離れられない」
「……覚えてない」
「パパもじいちゃんも、今もずっと明翔のそばにいたかっただろうな。パパとじいちゃんと俺と、明翔の前に3人揃いたかったよ。俺も」
明翔の顔がくしゃくしゃになる。
でも、明翔は泣かない。
「俺は泣くなとは言わない。泣きたい時には、泣いていいんだよ。パパもじいちゃんも、今の明翔なら泣いたっていじめられたりしないって笑ってるよ」
ギュッと抱きついてくる明翔の力がいつもより強い。
まだ我慢してるのか、泣き慣れてないせいなのか。
「俺はやたら重くて一方的で愛し方も分かんねえ頼りない彼氏だけど、だからこそ明翔と一緒に見つけていけたらって思ってる」
明翔が頭をブンブン振って否定してる。
一緒に見つける気なんかねえよじゃないよな。
明翔の頭は小さいから、手のひらに軽く収まってしまう。
「大丈夫だよ。いつもの天真爛漫で明るい明翔も、落ちてる明翔も全部好き。俺は明翔の全部を知りたいんだから、不安な気持ちも全部教えて」
きっと明翔の不安は俺なんかじゃ埋められない。俺にできることなんて少なすぎる。
明翔のためにできることがあるなら、泣き疲れた明翔が寝ちゃうまで抱きしめることくらい、喜んで引き受ける。
俺は焦っていた。このまま放っておいたら、明翔は自分で自分の人生を終わらせようとしてしまうかもしれない。
「俺がイヤなら、深月が俺から離れてよ。俺からは離れらんないから」
そう言って、階段を駆け下りて行く明翔の背中が遠ざかって行く。
待ってくれ、明翔!
ちゃんと話してくれよ!
パッと目を開く。
心臓がバクバクしてるのがハッキリ分かって、理解した。夢か。
一学期、母親の交際相手から虐待を受けていた一条が転校してきて、俺の初恋の相手が一条だってバレた頃の明翔は今思えば明らかに精神が不安定だった。
明翔をかわいがってくれた父ちゃんとじいちゃんが立て続けに亡くなって、残った家族は自分よりも双子の妹を優先するのが染みついた母親のみ。
そんな母親そっくりな自分とそっくりな一条優。
そして、俺は一条を顔だけで好きになった。
幼い頃から一条と何でも分け合わされ、母親までも奪われたと感じていた明翔はあの頃、俺も一条に奪われる、と自暴自棄になってたんだと思う。
あの頃はワケ分からんかった明翔の気持ちが今なら手に取るように分かる。
そして、なぜ今こんな夢を見たのかも。
「今年の明翔の誕生日は平日だから、昨日パパさんの墓参りに行ってきたんだ。墓地の近くに和菓子屋があるんだけど、安倍川もちが名物だからお土産」
「あ……りがとう」
「明翔の誕生日と優ちゃんのパパの墓参りに何の関係があんの?」
一条は無神経だし、タカトゥーは明翔のパパが亡くなった経緯を聞いてないらしい。
後者については不謹慎ながらちょっとだけ嬉しい。明翔、俺にしか話してないんだ……。
「何だっていいじゃん! 食えよ、タカトゥー! さすが名物ってだけあって、超美味い! なあ、明翔!」
俺が勧めるまでもなく、明翔は無表情で無心に安倍川もちを食っている。
食え食え、今日は食事制限なんてナシだ!
放課後、俺の家に入った明翔はいつものように「来い!」と両手を広げる。
バワッと2匹の猫が宙を舞い、明翔にくっつく。
「マジかわいいなあ、君ら。なんで俺は猫に生まれなかったんだろ。俺も猫が良かった。猫は車なんか運転しないじゃん? てか、そもそもバースデーケーキなんてイベントないじゃん?」
お……おう……。
学校でこらえてた分、二人きりになると負のオーラが凄まじい。
誕生日が近付くにつれ、明翔の不安定っぷりが日に日に加速してる。
なのに、学校ではいつも通り明るく振舞ってるのが見ててキュンとさせやがる。
俺にだけは、どんどん本音を暴露ってほしい。
「俺のパパ、俺の誕生日ケーキを取りに車乗ってって事故に巻き込まれたの。誕プレ、事故死」
「き……キッツいなあ……」
「……ごめん。こんな話聞かされる方もキツいよね。ねえ、俺の誕生日に何か考えてる?」
「んー」
パッと明るい顔で明翔が振り向く。
「考えてるけど、明翔が行きたい所とかしたいことあったら教えて」
「パパとじいちゃんのいる所でキャッチボールしたい」
「お……俺と公園でキャッチボールしようか」
「深月、野球ド下手じゃん。物足りない」
「分かった、今日から毎日キャッチボールの練習する」
よし、明日早速野球部に仮入部だ。
「あ、ごめん、また俺……」
「気にすんな。我慢しなくていい、思ってること全部俺にぶつけて。どんな小さい不安でも不満でも何でもいい。パッションだ、明翔。明翔のパッションぶつけて来い。カモン!」
頼むからひとりで考え込んでスッポリ暗い方に落ち込まないでくれ。
俺の熱さが逆効果だったのか、明翔はスンとした顔で薄っすらと不気味に笑みを浮かべる。
「それってめんどくさくない? 俺めんどくさいよね。たぶん4月にも俺こんなんなるよ。だってじいちゃん死んだの俺の中学の入学式の日の朝だもん。起こしに行ったら冷たくなってたんだもん」
「め……めんどくさくなんかない。思ってること全部吐き出してくれていいから」
マジめんどくさくなんかないけど、怖い怖い怖い怖い。
頼むから明翔がそっちに行こうとしたら死んでも止めてくれ、じいちゃん、パパ。
「こんなんと付き合ってても楽しくないでしょ。別れてあげようか」
おおう、ネガティブ炸裂、見事に闇堕ちしとんな。
明翔の無表情は珍しい。美形が際立つ。
「別れたくなんかねえくせに」
「……別に」
知ってんだよ。
明翔は突然別れを突きつけられるのを恐れるあまり、その時が来る前に終わらせようとする。
「俺は別れないよ。言ってたじゃん。明翔は俺から離れられない」
「……覚えてない」
「パパもじいちゃんも、今もずっと明翔のそばにいたかっただろうな。パパとじいちゃんと俺と、明翔の前に3人揃いたかったよ。俺も」
明翔の顔がくしゃくしゃになる。
でも、明翔は泣かない。
「俺は泣くなとは言わない。泣きたい時には、泣いていいんだよ。パパもじいちゃんも、今の明翔なら泣いたっていじめられたりしないって笑ってるよ」
ギュッと抱きついてくる明翔の力がいつもより強い。
まだ我慢してるのか、泣き慣れてないせいなのか。
「俺はやたら重くて一方的で愛し方も分かんねえ頼りない彼氏だけど、だからこそ明翔と一緒に見つけていけたらって思ってる」
明翔が頭をブンブン振って否定してる。
一緒に見つける気なんかねえよじゃないよな。
明翔の頭は小さいから、手のひらに軽く収まってしまう。
「大丈夫だよ。いつもの天真爛漫で明るい明翔も、落ちてる明翔も全部好き。俺は明翔の全部を知りたいんだから、不安な気持ちも全部教えて」
きっと明翔の不安は俺なんかじゃ埋められない。俺にできることなんて少なすぎる。
明翔のためにできることがあるなら、泣き疲れた明翔が寝ちゃうまで抱きしめることくらい、喜んで引き受ける。
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