親友彼氏―親友と付き合う俺らの話。

はちみつ電車

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高崎明翔VS柿ノ元はんな

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こんだけ人気のない学校も珍しい。
ちょっとテンション上がって、階段4段目くらいから飛び降りてみる。
思いのほか綺麗に着地できた!
体操選手みたいに両手を上げる。

ふふっ。
深月ってばあんな小さい女の子が相手だってのに、めちゃくちゃ俺のこと心配しちゃうんだもんなあ。

さっさと柳と課題終わらせてもらって、早く深月の家に行きたい!

中庭の土の感触を踏んで、こんなとこで漢検の話? と疑問に感じ、辺りに神経を研ぎ澄ます。

そこだ!

気配を感じて振り返ると、案の定、小柄で丸い目が印象的な女の子が無表情で立っている。

女の子がこちらへと1歩近付いたのが合図だったかのように走る。

足の速さには自信がある。
軽くグラウンドまで流して振り返ると、あの子はいない。

柿ノ元はんな、かあ。
内容はともかく、見た目かわいらしい。小さくて、丸顔で。

今ではあんな嫌がるのに付き合ったってことは、見た目は好みだったのかな……。

いや、大丈夫。好みなんて変わっていくものだから。
今の深月は俺のことかわいいって言ってくれるし。

悲しくなってきた心を高ぶらせるかのごとく、うつむいてしまっていた顔をキッと上げる。

目の前に、柿ノ元はんながいた。

「うわあ!」

びっくりしてグラウンドを突っ切って走る。
もう花が散ってしまっている金木犀の前で振り返ると、姿が見えない。

消えた?!
俺を追いかけてたはずなのに?!

不気味……。
あんなちっせー子全然怖くなかったけど、違う怖さを感じる。

深月に言われていた通り、逃げて正解――

丸いシルエットの金木犀と金木犀の隙間に、柿ノ元はんなの顔があった。

「うわああああ!」

心臓が飛び上がった。
一目散に逃げる。もはや全速力。女子が絶対に追いつけるはずがない!

体育館の前まで来て振り返ると、いない。

どこ?
どこから現れる?
どうせふと見たらいてびっくりさせる気なんだろ?

辺りを警戒してキョロキョロと見回す。

用心さえしていれば、そんな不意打ち――

ハアハアと息切れの声と共に温かい吐息を胸に感じた。
俺は学ランの前を開けて着ている。
ワイシャツ1枚の胸元に柿ノ元はんなの顔があった。

「うわああああああ!」

逃げなきゃ!
逃げなきゃ!!

必死で足を動かし、校舎裏に入った。
ここでしばらく隠れていよう。
こんな所、誰も来ない。

ガサッ……と、枯葉を踏む音。

サーッと、血の気が引く。
恐る恐る、振り返った。

ゼエゼエと虫の息の柿ノ元はんながヨロヨロと立っている。
と思ったら、胸を押さえて膝から崩れ落ちた。

「は……話……聞いて……これを……み……深月に……」

この小さい体で俺を追っていたのだから、もう動けないはず……だよな。

彼女は薄いピンクの封筒を差し出している。
手紙?

「深月に渡してってこと?」
「私は……深月に近付いちゃ……いけな……から……」

ああ、深月に近付かないと念書で約束したんだっけ。
それでも、深月に伝えたい思いがこの手紙にはしたためられている……。

「何を書いたの?」
「……本当の……気持ち……深月の前だと……うまく……話せない……」
「なんで?」
「……きんちょ……」

緊張?
付き合ってたのに、話すにも緊張するの?

あ、深月は女の子関係は割とクズだから誰とも長くは続いていないらしい。たしか、最長でも一度も会わなかった夏休みを挟んで3か月だって言ってた。

緊張が解ける前に別れたのかな……それは悔いがたくさん残ってそう。
本当の気持ちを伝える前に、別れがきてしまった。

俺は友達から始まって親友になって好きになったから深月と話してても緊張なんてしないけど、深月に好きって言う時はいつもちょっと緊張してる。

たぶんこの子も、深月がすごく好きだから緊張するんだ。

なんだか親近感が湧く。
俺たち同じなんだ。俺も深月のこと、すごく好きだよ。

「分かった。深月に渡すって約束する」

はんなへと歩み寄り、手紙へと手を伸ばす。

手が封筒に触れた瞬間、とっさにバックステップで大きく後ろに跳んだ。

自分でもなんでそんな行動をしたのか分からない。
けど、はんなが胸に当てていた右手に小型のナイフが握られている。

チクチクするような軽い痛みを感じ、手の甲を見ると薄っすら皮膚が割け真っすぐな赤い線ができている。

血が出るほどのケガじゃない。
良かった。この程度なら深月もそこまで怒んないだろ。
自分の野生の勘を褒めたたえたい。

はんなは立ち上がって、いつでも襲い掛かれる臨戦態勢だ。

真っすぐ俺を見つめる視線に迷いは感じられない。
信じらんないけど、この子本気だ。

本気で俺を殺しに来てる。
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