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相合傘
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下駄箱ゾーンを抜け、空を見上げて絶望する。
これは、外に出たら秒で傘なんて文化なくても雨が降ったら濡れればいいだけ、と悟りが開ける豪雨。
ゲリラっぽいからすぐやむかな。
「おー、呂久村。明翔が休みだとぼっちなの?」
そう言うタカトゥーもひとりである。
「たまたまだよ。颯太と柳が委員会で」
「明翔のいないつまらん学校がやっと終わったと思ったら大雨かよ。萎える~」
明翔と一条はじいちゃんの法要で今日はお休み。
親戚付き合いが密だとそれはそれで大変そう。
タカトゥーは屋根下から半身を乗り出して試し濡れしている。
「俺、雨は嫌いじゃねーけど制服は良くてもカバンがなあー。教科書バリバリになりそう」
「あー、濡れて乾いた教科書な。癒着して開けないページが誕生すんのな」
「呂久村、ビッショリいったことあるな、それ」
「教科書よりスマホが水没するだろ、この雨」
「あ、無理だ。走って帰ろーかと思ったんだけど」
「マジか」
この雨の中飛び出そうとかタカトゥー案外やんちゃ坊主。
「えー、ヒマ。雨宿りとか時間の無駄でしかねえ」
「お前5分とじっとできねえのな」
「食堂でも行かねえ? ここじゃまじ何もできんじゃん」
「靴履き替えんのめんどくせーよ」
「ええー。それこそ5分とかかんねえのに」
でもめんどくさい。なぜかしら。
「ごめんなさい! あ、深月」
カバンから折りたたみ傘を出したゆりの腕が背中に当たった。
隣にはさつきも立派な傘を手にしている。
朝はめっちゃ晴れてたのに、なんて用意周到なんだコイツら。
「お前、いいもん持ってんな」
「深月が言うとカツアゲのセリフ」
「なんでだよ」
「駅まで入れてあげようか?」
「俺、徒歩なんだわ。駅は反対」
「俺も! 呂久村、駅まで入れてもらおーぜ!」
「は? お前も反対なんだろ?」
「ここじゃヒマだもん。駅まで行ったらマックとかカラオケとかあるじゃん」
どんだけヒマに耐えられないんだ、コイツは。
ゆりとさつきが傘を広げる。
俺さつきは絶対嫌。そそくさとゆりの傘に入ろうと寄っていく。
「呂久村くん、空気読みなさいよ。ゆりはこっちの人が今は好きなのよ。いつまでも自分を追いかけてると思ってるの?」
「思ってねえよ」
「さっさとこっちに来なさい。勘違いしないでね。豪雨の中傘もないことに同情して入れてあげるだけだから。私、偏差値69の彼氏がいるんで」
偏差値下がってんじゃねーか。
お前と付き合ってるせいで模試で点取れなくなってんじゃねーの。
こんな自分は地味なくせに彼氏の頭がいいだけで高飛車な女と相合傘なんか絶対に嫌。
さっさと来ないと行っちゃうわよ、な感じでさつきが屋根下から外に出る。
ひとりで行け。
「俺ここで――」
タカトゥーがサッとさつきの傘に入って歩きだした。
お、タカトゥーサンキュ。
「ゆり、入れてー」
「深月が持って。傘が頭に当たっちゃう」
俺たちの少し前をタカトゥーとさつきが歩いている。
合コンシュミレーションの時もしゃべってなかったし、互いに面識はないようだ。
今も特におしゃべりに花が咲いてるようには見えない。
「ねえねえ、タカアスがもらって喜ぶ物、何だと思う?」
「明翔? なんで」
「誕生日が近いんだって。サプライズで欲しい物もらえたらキュンとしちゃうでしょ。深月、仲いいから心当たりあるかなーと思って」
「お前、マジでタカトゥーと明翔をくっつける気なの? 普通にお前が付き合えばいいじゃん」
「いやいやいや、私なんかよりもイケメンはイケメンと付き合うべき!」
だからお前、俺とは付き合おうとしてたよね。
「そんな卑下しなくても、ゆりは普通にかわいいと思うけど」
「え?!」
「違うから。俺、好きな子いるから」
いらんこと言ったな。
まあでも、普通にかわいいとは思う。おっちょこちょいで慌ててるとことか、嫌いじゃない。
「明翔は今格闘技にハマってるから、赤いパンツを贈ると喜ぶよ。確定で」
「格闘技?! タカトゥー知らないみたいだから教えてあげよう」
「あとね、熱帯魚が好きなの」
「なるほど、食いしん坊だもんね」
さすがに明翔でも熱帯魚を食料として見てないと思うけどな。
まあ、いいや。
「あとね、明翔は胸のデカい小学生みたいなギャップロリキャラに最近ハマってんの」
「ええー。イメージになかった……」
「タカトゥーに教えてあげて」
「うん! ありがとう、深月!」
全部嘘だけどな。
ロリキャラのフィギュアでも贈って盛大に引かれろと思っている。
「あれ? 雨やんでね?」
「あ、ほんとだ」
ゆりが傘をたたむ。
やっぱゲリラ豪雨だったか。学校で雨宿りしてても俺は全然良かった。
「やだ、深月大きいから肩濡れちゃった」
「お前の傘がちっせーんだよ。じゃーな、家帰るわ」
「えー、せっかくここまで来たんだからカラオケ行かねえ?」
「行かねえ。金ないし」
「あ。俺も財布忘れてたん忘れてた」
危ねー。恥かくとこだった。
ゆり、さつきは駅に、俺たちはきびすを返して歩き出す。
俺も右肩濡れちゃってんな。
と見て、タカトゥーの肩が視界に入る。
「肩ビッシャビシャじゃん。でけー傘だったのに」
「あ、ほんとだ。ゆーて折りたたみよりはデカいけど女物だし」
「まあなー。あんな高飛車地味女と相合傘とかマジかわいそ。最悪な」
「あはは! 呂久村そんな嫌いか」
「俺あいつ大っ嫌い」
ふふ、と笑ったタカトゥーが手を上げた。
「俺こっちだから。また明日」
「おー、明日ー」
スマホが鳴り、見ると明翔からだ。
お、帰ってきたか。
「女子たちはショッピング行った」
てことは、家には明翔ひとり?
俺はまたしても方向転換して、デカい水溜まりを飛び越えた。
これは、外に出たら秒で傘なんて文化なくても雨が降ったら濡れればいいだけ、と悟りが開ける豪雨。
ゲリラっぽいからすぐやむかな。
「おー、呂久村。明翔が休みだとぼっちなの?」
そう言うタカトゥーもひとりである。
「たまたまだよ。颯太と柳が委員会で」
「明翔のいないつまらん学校がやっと終わったと思ったら大雨かよ。萎える~」
明翔と一条はじいちゃんの法要で今日はお休み。
親戚付き合いが密だとそれはそれで大変そう。
タカトゥーは屋根下から半身を乗り出して試し濡れしている。
「俺、雨は嫌いじゃねーけど制服は良くてもカバンがなあー。教科書バリバリになりそう」
「あー、濡れて乾いた教科書な。癒着して開けないページが誕生すんのな」
「呂久村、ビッショリいったことあるな、それ」
「教科書よりスマホが水没するだろ、この雨」
「あ、無理だ。走って帰ろーかと思ったんだけど」
「マジか」
この雨の中飛び出そうとかタカトゥー案外やんちゃ坊主。
「えー、ヒマ。雨宿りとか時間の無駄でしかねえ」
「お前5分とじっとできねえのな」
「食堂でも行かねえ? ここじゃまじ何もできんじゃん」
「靴履き替えんのめんどくせーよ」
「ええー。それこそ5分とかかんねえのに」
でもめんどくさい。なぜかしら。
「ごめんなさい! あ、深月」
カバンから折りたたみ傘を出したゆりの腕が背中に当たった。
隣にはさつきも立派な傘を手にしている。
朝はめっちゃ晴れてたのに、なんて用意周到なんだコイツら。
「お前、いいもん持ってんな」
「深月が言うとカツアゲのセリフ」
「なんでだよ」
「駅まで入れてあげようか?」
「俺、徒歩なんだわ。駅は反対」
「俺も! 呂久村、駅まで入れてもらおーぜ!」
「は? お前も反対なんだろ?」
「ここじゃヒマだもん。駅まで行ったらマックとかカラオケとかあるじゃん」
どんだけヒマに耐えられないんだ、コイツは。
ゆりとさつきが傘を広げる。
俺さつきは絶対嫌。そそくさとゆりの傘に入ろうと寄っていく。
「呂久村くん、空気読みなさいよ。ゆりはこっちの人が今は好きなのよ。いつまでも自分を追いかけてると思ってるの?」
「思ってねえよ」
「さっさとこっちに来なさい。勘違いしないでね。豪雨の中傘もないことに同情して入れてあげるだけだから。私、偏差値69の彼氏がいるんで」
偏差値下がってんじゃねーか。
お前と付き合ってるせいで模試で点取れなくなってんじゃねーの。
こんな自分は地味なくせに彼氏の頭がいいだけで高飛車な女と相合傘なんか絶対に嫌。
さっさと来ないと行っちゃうわよ、な感じでさつきが屋根下から外に出る。
ひとりで行け。
「俺ここで――」
タカトゥーがサッとさつきの傘に入って歩きだした。
お、タカトゥーサンキュ。
「ゆり、入れてー」
「深月が持って。傘が頭に当たっちゃう」
俺たちの少し前をタカトゥーとさつきが歩いている。
合コンシュミレーションの時もしゃべってなかったし、互いに面識はないようだ。
今も特におしゃべりに花が咲いてるようには見えない。
「ねえねえ、タカアスがもらって喜ぶ物、何だと思う?」
「明翔? なんで」
「誕生日が近いんだって。サプライズで欲しい物もらえたらキュンとしちゃうでしょ。深月、仲いいから心当たりあるかなーと思って」
「お前、マジでタカトゥーと明翔をくっつける気なの? 普通にお前が付き合えばいいじゃん」
「いやいやいや、私なんかよりもイケメンはイケメンと付き合うべき!」
だからお前、俺とは付き合おうとしてたよね。
「そんな卑下しなくても、ゆりは普通にかわいいと思うけど」
「え?!」
「違うから。俺、好きな子いるから」
いらんこと言ったな。
まあでも、普通にかわいいとは思う。おっちょこちょいで慌ててるとことか、嫌いじゃない。
「明翔は今格闘技にハマってるから、赤いパンツを贈ると喜ぶよ。確定で」
「格闘技?! タカトゥー知らないみたいだから教えてあげよう」
「あとね、熱帯魚が好きなの」
「なるほど、食いしん坊だもんね」
さすがに明翔でも熱帯魚を食料として見てないと思うけどな。
まあ、いいや。
「あとね、明翔は胸のデカい小学生みたいなギャップロリキャラに最近ハマってんの」
「ええー。イメージになかった……」
「タカトゥーに教えてあげて」
「うん! ありがとう、深月!」
全部嘘だけどな。
ロリキャラのフィギュアでも贈って盛大に引かれろと思っている。
「あれ? 雨やんでね?」
「あ、ほんとだ」
ゆりが傘をたたむ。
やっぱゲリラ豪雨だったか。学校で雨宿りしてても俺は全然良かった。
「やだ、深月大きいから肩濡れちゃった」
「お前の傘がちっせーんだよ。じゃーな、家帰るわ」
「えー、せっかくここまで来たんだからカラオケ行かねえ?」
「行かねえ。金ないし」
「あ。俺も財布忘れてたん忘れてた」
危ねー。恥かくとこだった。
ゆり、さつきは駅に、俺たちはきびすを返して歩き出す。
俺も右肩濡れちゃってんな。
と見て、タカトゥーの肩が視界に入る。
「肩ビッシャビシャじゃん。でけー傘だったのに」
「あ、ほんとだ。ゆーて折りたたみよりはデカいけど女物だし」
「まあなー。あんな高飛車地味女と相合傘とかマジかわいそ。最悪な」
「あはは! 呂久村そんな嫌いか」
「俺あいつ大っ嫌い」
ふふ、と笑ったタカトゥーが手を上げた。
「俺こっちだから。また明日」
「おー、明日ー」
スマホが鳴り、見ると明翔からだ。
お、帰ってきたか。
「女子たちはショッピング行った」
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