親友彼氏―親友と付き合う俺らの話。

はちみつ電車

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高崎塔夜の差し入れ

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ハロウィンの出オチ感。
仮装して集まったら何をするでもなく、食って飲んでゲームしてダラダラと時間だけが消費されていく。

「寒くなってきちゃった。深月、服貸して」
「そりゃ寒いわな。タカトゥー、せめて長袖にしてやれよ」

半袖ポロシャツ1枚の明翔が俺の白いトレーナーを着る。
ピッタリ体にフィットする服を好む明翔がブカッと服に着られた感あるのかわいい。

「ふわあ……」

カイルがデレと並んで同じタイミングであくびをした。

「カイル、眠いの?」
「まだ6時なのに?」

タカトゥーが立ち上がってカイルの肩を叩く。

「カイルの国は夜6時にはもう真っ暗だから寝るのが早いの。その代わり朝が早い。7時には起きる」
「俺もだよ。乳児くらい寝るじゃん」
「こうなると思って俺バイクで来てるから送ってくよ。カイル、家までがんばれ」
「ありがとう……トーヤ……」

バイク大丈夫か? と心配になるほどカイルはフラフラだ。

「これ、俺から差し入れ。みんなで食べて」
「もっと早くに出せよ! したらお前もカイルも食えたのに!」

あはは、と笑ってタカトゥーがカイルの肩を抱いて出て行った。

受け取った箱の中身は何だろな。
お、チョコケーキっぽい。

「美味そう! 切って食おう!」

明翔がもう包丁を手にしている。
4等分は均等に切りやすいだろうに、この食いしん坊はひとつだけ明らかに大きく切り、真っ先にフォークを突き刺した。

「食い意地が汚いよ、明翔」
「こうでもしないと優が大きいの取らされるだろ!」

明翔と一条の間に小さい頃から食いもんの奪い合いがあったのが垣間見える。
大丈夫だ、明翔。今ここにいるのは一条を優先する亜衣ちゃん真衣ちゃんではなく、明翔が最優先の俺だ。

「いただきまーす」

おおー、高級な味がする。
ビターチョコとか大人向けのチョコ味。これはカイルにはまだ早いかもしれない。

「ブランデーか何か酒が効いてるねっ。甘さは控えめでめちゃくちゃおいしい!」
「うん、めっちゃ美味い。タカトゥーも食って行けば良かったのに」

言葉もなくえらい勢いで食い切った明翔が、俺の肩にポスンと頭を載せる。

「おねだりですかー、明翔くん。ダーメ、一番大きいの食ったんだか――」

え?

いつもの元気いっぱい明翔くんではなく、トロンとした半開きの目で俺を見上げている。
服装もいつもと違うし、違和感半端ない。

「明翔?」

ケーキを噛んだらカリッと何か割れ、中から濃い酒の刺激が舌を突き刺す。
それは口の中でスポンジやクリームと混ざり合い、まろやかなうま味になった。

「何これ、カリッてするやつ超美味いじゃん」
「小さいウイスキーボンボンみたいな感じかな。スポンジの中にいくつか入ってるみたいだよっ」

ほんとだ、よく見たらチョコスポンジに丸いチョコの粒みたいのが埋まってる。

うわ、これめっちゃ美味い。

夢中で食ってたらいつの間にか明翔が俺の膝の上に頭を預けている。
え、明翔寝てる?

「明翔?」
「カイルの眠気がうつったのかなっ?」
「しゃあねーな。ベッド貸してやるか」

体の力が抜けきっとる。
なんとか歩くも、フラフラして俺の部屋に運び込むだけでもひと苦労させられる。

何なんだ、急に。
まるで睡眠薬でも飲んだみた――

明翔を肩に担ぐようにベッドまで引きずってきたら、いきなり明翔の体重がのしかかってきてベッドに仰向けに倒れ込んでしまった。

「悪りぃ、大丈夫か?」

俺がこけたせいで明翔が俺の上に倒れてるんだと思った。

だから、明翔の唇がほっぺたにムニッと押し付けられても

「クリームでも付いてた?」

と呑気なことを言った。

くたっと首元に明翔の頭蓋骨から小さい頭が乗っかって、熱い息が触れた瞬間、一気にドキッとした。

「ちょ、明翔? さすがに重いからちょっとのいてもろて」

明翔の肩を押しても重くて、明翔の体の下から逃れられない。
俺より体格細いのに組み敷かれるとこんな動けねえのか!

腕をめいっぱい伸ばしたら明翔の顔が見えた。
やっぱりトローンとした見えてんだか見えてないんだかな目をして細く開けた口元は笑ってる。

明らか様子がおかしいんだが。
タカトゥー、ケーキに変な薬でも仕込んでたのか?!

いや、ケーキを切ったのも選んだのも明翔本人。
なんで明翔だけこんなことに?

頭の中混乱しかない。
こんな不気味な明翔は嫌だ。誰か明翔に何が起きてるのか説明してくれよ!!

「だぁうっ」

明翔、耳舐めた?!
何してんの?!

耳の後ろに鼻をこすりつけ、今度は首筋をなめる。
くすぐったいし変な感じする。
こんなん人生でされたことない。初めての感覚に怖さすら感じる。

「やめろ。まじ猫か」

おふざけが過ぎる。
グッと力を込めて明翔の胸を押すのと同時に、明翔が耳元で俺の名前をささやいた。

何度も何度も

「深月」

って明翔の声で聞いてるのに、声になってない息が聞こえて気が付いたら明翔をベッドに押し付けて肩をつかんでた。

馬乗りになられても変わらず明翔は半目で微笑んでいる。

ふと思う。

これ、犯罪の構図……。

クスリでも盛られたのか明らかに様子のおかしい明翔。
を押さえつけて馬乗りの俺。

通常営業の明翔なら確実に人外な身体能力で俺をひっぺがすだろう。

しかし、今なら……

あかんだろ!
構図もヤバいが俺の思考が犯罪者!

でも、今ならタカトゥーの怪しいクスリのせいにできるし明翔トロントロンで判断能力欠如してるし今なら何かしてももしかしたら明翔本人にもバレない可能性――だから、思考が犯罪者!!

グッと心に喝を入れ、ギュッと思い切り目をつぶってからカッと見開く。
ズンッと立ち上がってガシッとドアノブをつかみ、バンッと扉を開いて廊下をガシガシ歩いてバイーンとリビングに出ると、クタクタに横たわる一条を颯太が抱きしめていた。

「俺が愛する女は生涯ただひとりと決めている。一条、18歳になったらすぐ結婚しよう。誕生日いつ? 子供は3人は欲しいかな。男でも女でもいいよね。風呂は俺が入れるから、一条はバスタオル持って」

ヘラヘラ笑いながらくた~っと颯太にもたれかかる一条。
そんな一条をチラチラ見ながらマシンガントークの颯太。

そうか!

一条が風邪をひいた時、颯太は卵酒を差し入れたと言っていた。
卵酒でキスするほど一条は酒に弱い!

いとこの明翔も酒に弱いんだ。
あのタカトゥーが差し入れたチョコケーキはふんだんに酒が使われている味がした。

ヤンキーが多いで有名な中学校をやり過ごした俺と颯太は、大きな声では言えないが中学時代に酒に慣れている。

クスリじゃねえ!
酒だ!!

うーわ、俺が見てるとは知らない颯太がゲロ甘未来予想図を展開する。
そこまで一条との未来を考えてたのか颯太……。

末っ子の結婚が決まったと同時に颯太に重病が見つかる。
その役目を一条にしない辺り、やっぱ颯太かっけえ!

って、これ俺が見てたって知られたらたぶん絶対キレられる。

ヤバい、俺死ぬ!!

自分の部屋に戻ろうと数歩。
うー、あの明翔を前にしたら俺、犯罪者になる。

リビングへと戻り数歩。
うー、颯太に見つかったら俺、屍になる。

命には代えられない。
俺は自分の部屋を選んだ。

もーこうなったら、俺は犯罪者になることすら臆さない!!

さっき明翔を羽交い締めにした続きを実現するつもりで部屋に戻ると、明翔は安らかに寝息を立てていた。

……平和な顔して寝てんなあ……。

うわ、無理。
起こせねえ。

……マジか……マジかぁ――……。

高ぶる本能をも凌駕する明翔の寝顔。

お前、すげーなあ……。

一縷の望みをかけて、スースーと寝息を立てる明翔の唇に口をつける。

……まあ、目覚めねえわなあ……。

って、何してんだ。
ロマンチストか。

……あ――……
何、この時間。苦行?
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