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芸術鑑賞会レポート
しおりを挟む講堂から出て生徒たちの波に乗り、ゾロゾロと教室に入る。
机を合わせ、明翔、颯太、一条、柳、タカトゥー、カイルと顔を突き合わせる。
「では、これから芸術鑑賞会のレポートを作成していく。司会進行は柳龍二です。まずは、そうだね、話のおさらいから」
「はーい。大学生たちがバカ騒ぎする話」
「タイムマシーンで過去に行く話」
「真冬の大学でDVDを見る話」
「女風呂のぞく話」
「日本のオタ芸が素晴らしい話」
何の話か分かんねーよ。
ざっくり言うと、とある理由から正月休みの大学に侵入した男ばかりのSF研究会。
時を同じくして侵入している女ばかりの文芸部。
SF研究会の部室の昨日まであったエアコンのリモコンがない。
文芸部にはタイムマシーンがあるから、昨日に戻って取ってくればいい、と過去に行くが紆余曲折あってリモコンは手に入らない。
風呂に入って温まろう、と大学内の風呂に入る文芸部。なんとかのぞこうとするSF研究会。
せっかく温まったのに口喧嘩から外に出てまた冷える。
あまりの寒さに体を動かそう、とあるアイドルのライブDVDをつけることになる。
このアイドルは1年前に事故死した。
だが、本当に事故なのか?
ラストはDVDを流しみんなでオタ芸を披露しながらエンディングを迎える。
という、何の話か分からない会話劇中心の映画を見た。
これから何を学べというのか。
「タイムマシーンに対する男たちのリアクションが薄すぎるよな。SF研究会所属ならもっと騒ぐだろ」
「ああ、タイムマシーンね、乗るか、っておかしいよねっ」
「文芸部がSF研究会のスクリーン見た時のリアクションはすごかったのに」
「うおおおおぉ! デカい! デカすぎるぅ!!」
「深月うまい!」
「あれこそタイムマシーンに乗ったテンションだねっ」
柳がシャーペンを走らせる。
「その指摘は必要だな。脚本はいいのにオーバーな演技が台無しにしている。あれは舞台の演技だ」
「評論家気取りウッザ」
「ボクに言わせれば脚本も粗が目立つ。あれは伏線じゃない、後付けだ」
「一条も柳に負けてねえ!」
いいライバルを見つけたよ、とばかりに柳と一条が唇を曲げて微笑み合う。
「てかさ、結局SF研究会が大学に忍び込んだ理由て何なん。出てた?」
「忘れてはいけない伏線の回収を忘れているね」
「アドローン映画祭金賞をとった名監督ともあろう人がそんな凡ミスをするなんてね」
「すげー監督だからスタッフも気付いてても言えんかったのかな」
「それだ!」
さすが明翔。
「偉い人が堂々とミスってると指摘できねーよな」
「逆ギレしてくるタイプだと尚更」
「どうしてだい? 僕は相手が偉ければ偉いほど指摘するよ。テレビで大学教授が誤った発言をしていたからメールを送ったことがある」
「柳は論外」
話を戻してレポートを作ろうか、学級委員長。
「てかさー、あの流れだと普通アイドルの死因は事故ではないべきじゃね?」
「どんでん返しを期待したよね」
「事故死なのか? 事故死でした! って何それ」
「セルフバンジーはダメだよねっ。成功すればそりゃ話題になるけど、危険すぎる」
「あれは自殺だろ」
タカトゥーにみんなの視線が集まった。
「思いっきり事故ってたじゃん。ロープが切れて」
「全国ツアーが決まってファンも盛り上がってるのに、動機もねえし」
「ワンチャン狙って飛んだんだよ。死ねっかなって。自殺はカッコ悪いじゃん」
明翔と俺の反論にもタカトゥーは眉ひとつ動かさないで余裕の笑みを見せている。
「始めのほうで言ってただろ。アイドルが破局したからファンに戻ったって」
「うん」
「アイドルには彼氏がいた。けど別れた。離れてたファンが戻ってくる。アイドルから見てみろよ。自分の不幸を喜んでるとしか思えない」
「たしかに。それで全国ツアーって、もう……」
悪魔の巣窟に自ら飛び込むような気持ちかもしれない。
「アイドルの意向じゃない破局だったんだろうな。本気の失恋って、誰も自分を必要としてない、自分なんて存在価値ないって思っちゃうんだよ」
ガヤガヤした教室で我らグループだけがシーン。
「何」
「ハイエナのタカトゥーが失恋語ってる違和感」
「ハイエナ? 死肉貪るやつ?」
「深月知らない? 塔夜フラれた女子ばっかいくから1年の時ハイエナって言われてたの」
「お前、最低だな」
「がんがんエサ与えてくれてサンキューな!」
爽やかに微笑まれても蔑みの目しかできんわ。
何をしっとり語っとるんじゃ。
「タカトゥーくん、おもしろい観点だね。それをレポートにしよう。フラットに見ると事故だが、視点をアイドルに据えると自殺が濃厚になる。多角的に物語を見る楽しさを学びました。と」
「急にレポートっぽくなった!」
「教師がレポートに何を求めているかを考えればいい。今回は芸術的な気付きだ。求められているものを返してやれば高評価を得られる」
キリッと柳は言い切るが、なんだコイツ、教師相手にも上から目線。
「柳ってこずるい評価の取り方すんのな」
「呂久村くん、知性派、理知的、聡明、さとい、など僕を表すもっと適切な言葉はたくさんあるんだよ」
「いや、こずるいが一番適切」
ははは、とタカトゥーもみんなと同じように笑ってる。
けど、コイツ……。
明翔は俺とタカトゥーに似てるところがあるって言ってたけど、むしろコイツ、明翔に似てるとこあんじゃないのか。
机を合わせ、明翔、颯太、一条、柳、タカトゥー、カイルと顔を突き合わせる。
「では、これから芸術鑑賞会のレポートを作成していく。司会進行は柳龍二です。まずは、そうだね、話のおさらいから」
「はーい。大学生たちがバカ騒ぎする話」
「タイムマシーンで過去に行く話」
「真冬の大学でDVDを見る話」
「女風呂のぞく話」
「日本のオタ芸が素晴らしい話」
何の話か分かんねーよ。
ざっくり言うと、とある理由から正月休みの大学に侵入した男ばかりのSF研究会。
時を同じくして侵入している女ばかりの文芸部。
SF研究会の部室の昨日まであったエアコンのリモコンがない。
文芸部にはタイムマシーンがあるから、昨日に戻って取ってくればいい、と過去に行くが紆余曲折あってリモコンは手に入らない。
風呂に入って温まろう、と大学内の風呂に入る文芸部。なんとかのぞこうとするSF研究会。
せっかく温まったのに口喧嘩から外に出てまた冷える。
あまりの寒さに体を動かそう、とあるアイドルのライブDVDをつけることになる。
このアイドルは1年前に事故死した。
だが、本当に事故なのか?
ラストはDVDを流しみんなでオタ芸を披露しながらエンディングを迎える。
という、何の話か分からない会話劇中心の映画を見た。
これから何を学べというのか。
「タイムマシーンに対する男たちのリアクションが薄すぎるよな。SF研究会所属ならもっと騒ぐだろ」
「ああ、タイムマシーンね、乗るか、っておかしいよねっ」
「文芸部がSF研究会のスクリーン見た時のリアクションはすごかったのに」
「うおおおおぉ! デカい! デカすぎるぅ!!」
「深月うまい!」
「あれこそタイムマシーンに乗ったテンションだねっ」
柳がシャーペンを走らせる。
「その指摘は必要だな。脚本はいいのにオーバーな演技が台無しにしている。あれは舞台の演技だ」
「評論家気取りウッザ」
「ボクに言わせれば脚本も粗が目立つ。あれは伏線じゃない、後付けだ」
「一条も柳に負けてねえ!」
いいライバルを見つけたよ、とばかりに柳と一条が唇を曲げて微笑み合う。
「てかさ、結局SF研究会が大学に忍び込んだ理由て何なん。出てた?」
「忘れてはいけない伏線の回収を忘れているね」
「アドローン映画祭金賞をとった名監督ともあろう人がそんな凡ミスをするなんてね」
「すげー監督だからスタッフも気付いてても言えんかったのかな」
「それだ!」
さすが明翔。
「偉い人が堂々とミスってると指摘できねーよな」
「逆ギレしてくるタイプだと尚更」
「どうしてだい? 僕は相手が偉ければ偉いほど指摘するよ。テレビで大学教授が誤った発言をしていたからメールを送ったことがある」
「柳は論外」
話を戻してレポートを作ろうか、学級委員長。
「てかさー、あの流れだと普通アイドルの死因は事故ではないべきじゃね?」
「どんでん返しを期待したよね」
「事故死なのか? 事故死でした! って何それ」
「セルフバンジーはダメだよねっ。成功すればそりゃ話題になるけど、危険すぎる」
「あれは自殺だろ」
タカトゥーにみんなの視線が集まった。
「思いっきり事故ってたじゃん。ロープが切れて」
「全国ツアーが決まってファンも盛り上がってるのに、動機もねえし」
「ワンチャン狙って飛んだんだよ。死ねっかなって。自殺はカッコ悪いじゃん」
明翔と俺の反論にもタカトゥーは眉ひとつ動かさないで余裕の笑みを見せている。
「始めのほうで言ってただろ。アイドルが破局したからファンに戻ったって」
「うん」
「アイドルには彼氏がいた。けど別れた。離れてたファンが戻ってくる。アイドルから見てみろよ。自分の不幸を喜んでるとしか思えない」
「たしかに。それで全国ツアーって、もう……」
悪魔の巣窟に自ら飛び込むような気持ちかもしれない。
「アイドルの意向じゃない破局だったんだろうな。本気の失恋って、誰も自分を必要としてない、自分なんて存在価値ないって思っちゃうんだよ」
ガヤガヤした教室で我らグループだけがシーン。
「何」
「ハイエナのタカトゥーが失恋語ってる違和感」
「ハイエナ? 死肉貪るやつ?」
「深月知らない? 塔夜フラれた女子ばっかいくから1年の時ハイエナって言われてたの」
「お前、最低だな」
「がんがんエサ与えてくれてサンキューな!」
爽やかに微笑まれても蔑みの目しかできんわ。
何をしっとり語っとるんじゃ。
「タカトゥーくん、おもしろい観点だね。それをレポートにしよう。フラットに見ると事故だが、視点をアイドルに据えると自殺が濃厚になる。多角的に物語を見る楽しさを学びました。と」
「急にレポートっぽくなった!」
「教師がレポートに何を求めているかを考えればいい。今回は芸術的な気付きだ。求められているものを返してやれば高評価を得られる」
キリッと柳は言い切るが、なんだコイツ、教師相手にも上から目線。
「柳ってこずるい評価の取り方すんのな」
「呂久村くん、知性派、理知的、聡明、さとい、など僕を表すもっと適切な言葉はたくさんあるんだよ」
「いや、こずるいが一番適切」
ははは、とタカトゥーもみんなと同じように笑ってる。
けど、コイツ……。
明翔は俺とタカトゥーに似てるところがあるって言ってたけど、むしろコイツ、明翔に似てるとこあんじゃないのか。
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