21 / 51
芸術鑑賞会レポート
しおりを挟む
講堂から出て生徒たちの波に乗り、ゾロゾロと教室に入る。
机を合わせ、明翔、颯太、一条、柳、タカトゥー、カイルと顔を突き合わせる。
「では、これから芸術鑑賞会のレポートを作成していく。司会進行は柳龍二です。まずは、そうだね、話のおさらいから」
「はーい。大学生たちがバカ騒ぎする話」
「タイムマシーンで過去に行く話」
「真冬の大学でDVDを見る話」
「女風呂のぞく話」
「日本のオタ芸が素晴らしい話」
何の話か分かんねーよ。
ざっくり言うと、とある理由から正月休みの大学に侵入した男ばかりのSF研究会。
時を同じくして侵入している女ばかりの文芸部。
SF研究会の部室の昨日まであったエアコンのリモコンがない。
文芸部にはタイムマシーンがあるから、昨日に戻って取ってくればいい、と過去に行くが紆余曲折あってリモコンは手に入らない。
風呂に入って温まろう、と大学内の風呂に入る文芸部。なんとかのぞこうとするSF研究会。
せっかく温まったのに口喧嘩から外に出てまた冷える。
あまりの寒さに体を動かそう、とあるアイドルのライブDVDをつけることになる。
このアイドルは1年前に事故死した。
だが、本当に事故なのか?
ラストはDVDを流しみんなでオタ芸を披露しながらエンディングを迎える。
という、何の話か分からない会話劇中心の映画を見た。
これから何を学べというのか。
「タイムマシーンに対する男たちのリアクションが薄すぎるよな。SF研究会所属ならもっと騒ぐだろ」
「ああ、タイムマシーンね、乗るか、っておかしいよねっ」
「文芸部がSF研究会のスクリーン見た時のリアクションはすごかったのに」
「うおおおおぉ! デカい! デカすぎるぅ!!」
「深月うまい!」
「あれこそタイムマシーンに乗ったテンションだねっ」
柳がシャーペンを走らせる。
「その指摘は必要だな。脚本はいいのにオーバーな演技が台無しにしている。あれは舞台の演技だ」
「評論家気取りウッザ」
「ボクに言わせれば脚本も粗が目立つ。あれは伏線じゃない、後付けだ」
「一条も柳に負けてねえ!」
いいライバルを見つけたよ、とばかりに柳と一条が唇を曲げて微笑み合う。
「てかさ、結局SF研究会が大学に忍び込んだ理由て何なん。出てた?」
「忘れてはいけない伏線の回収を忘れているね」
「アドローン映画祭金賞をとった名監督ともあろう人がそんな凡ミスをするなんてね」
「すげー監督だからスタッフも気付いてても言えんかったのかな」
「それだ!」
さすが明翔。
「偉い人が堂々とミスってると指摘できねーよな」
「逆ギレしてくるタイプだと尚更」
「どうしてだい? 僕は相手が偉ければ偉いほど指摘するよ。テレビで大学教授が誤った発言をしていたからメールを送ったことがある」
「柳は論外」
話を戻してレポートを作ろうか、学級委員長。
「てかさー、あの流れだと普通アイドルの死因は事故ではないべきじゃね?」
「どんでん返しを期待したよね」
「事故死なのか? 事故死でした! って何それ」
「セルフバンジーはダメだよねっ。成功すればそりゃ話題になるけど、危険すぎる」
「あれは自殺だろ」
タカトゥーにみんなの視線が集まった。
「思いっきり事故ってたじゃん。ロープが切れて」
「全国ツアーが決まってファンも盛り上がってるのに、動機もねえし」
「ワンチャン狙って飛んだんだよ。死ねっかなって。自殺はカッコ悪いじゃん」
明翔と俺の反論にもタカトゥーは眉ひとつ動かさないで余裕の笑みを見せている。
「始めのほうで言ってただろ。アイドルが破局したからファンに戻ったって」
「うん」
「アイドルには彼氏がいた。けど別れた。離れてたファンが戻ってくる。アイドルから見てみろよ。自分の不幸を喜んでるとしか思えない」
「たしかに。それで全国ツアーって、もう……」
悪魔の巣窟に自ら飛び込むような気持ちかもしれない。
「アイドルの意向じゃない破局だったんだろうな。本気の失恋って、誰も自分を必要としてない、自分なんて存在価値ないって思っちゃうんだよ」
ガヤガヤした教室で我らグループだけがシーン。
「何」
「ハイエナのタカトゥーが失恋語ってる違和感」
「ハイエナ? 死肉貪るやつ?」
「深月知らない? 塔夜フラれた女子ばっかいくから1年の時ハイエナって言われてたの」
「お前、最低だな」
「がんがんエサ与えてくれてサンキューな!」
爽やかに微笑まれても蔑みの目しかできんわ。
何をしっとり語っとるんじゃ。
「タカトゥーくん、おもしろい観点だね。それをレポートにしよう。フラットに見ると事故だが、視点をアイドルに据えると自殺が濃厚になる。多角的に物語を見る楽しさを学びました。と」
「急にレポートっぽくなった!」
「教師がレポートに何を求めているかを考えればいい。今回は芸術的な気付きだ。求められているものを返してやれば高評価を得られる」
キリッと柳は言い切るが、なんだコイツ、教師相手にも上から目線。
「柳ってこずるい評価の取り方すんのな」
「呂久村くん、知性派、理知的、聡明、さとい、など僕を表すもっと適切な言葉はたくさんあるんだよ」
「いや、こずるいが一番適切」
ははは、とタカトゥーもみんなと同じように笑ってる。
けど、コイツ……。
明翔は俺とタカトゥーに似てるところがあるって言ってたけど、むしろコイツ、明翔に似てるとこあんじゃないのか。
机を合わせ、明翔、颯太、一条、柳、タカトゥー、カイルと顔を突き合わせる。
「では、これから芸術鑑賞会のレポートを作成していく。司会進行は柳龍二です。まずは、そうだね、話のおさらいから」
「はーい。大学生たちがバカ騒ぎする話」
「タイムマシーンで過去に行く話」
「真冬の大学でDVDを見る話」
「女風呂のぞく話」
「日本のオタ芸が素晴らしい話」
何の話か分かんねーよ。
ざっくり言うと、とある理由から正月休みの大学に侵入した男ばかりのSF研究会。
時を同じくして侵入している女ばかりの文芸部。
SF研究会の部室の昨日まであったエアコンのリモコンがない。
文芸部にはタイムマシーンがあるから、昨日に戻って取ってくればいい、と過去に行くが紆余曲折あってリモコンは手に入らない。
風呂に入って温まろう、と大学内の風呂に入る文芸部。なんとかのぞこうとするSF研究会。
せっかく温まったのに口喧嘩から外に出てまた冷える。
あまりの寒さに体を動かそう、とあるアイドルのライブDVDをつけることになる。
このアイドルは1年前に事故死した。
だが、本当に事故なのか?
ラストはDVDを流しみんなでオタ芸を披露しながらエンディングを迎える。
という、何の話か分からない会話劇中心の映画を見た。
これから何を学べというのか。
「タイムマシーンに対する男たちのリアクションが薄すぎるよな。SF研究会所属ならもっと騒ぐだろ」
「ああ、タイムマシーンね、乗るか、っておかしいよねっ」
「文芸部がSF研究会のスクリーン見た時のリアクションはすごかったのに」
「うおおおおぉ! デカい! デカすぎるぅ!!」
「深月うまい!」
「あれこそタイムマシーンに乗ったテンションだねっ」
柳がシャーペンを走らせる。
「その指摘は必要だな。脚本はいいのにオーバーな演技が台無しにしている。あれは舞台の演技だ」
「評論家気取りウッザ」
「ボクに言わせれば脚本も粗が目立つ。あれは伏線じゃない、後付けだ」
「一条も柳に負けてねえ!」
いいライバルを見つけたよ、とばかりに柳と一条が唇を曲げて微笑み合う。
「てかさ、結局SF研究会が大学に忍び込んだ理由て何なん。出てた?」
「忘れてはいけない伏線の回収を忘れているね」
「アドローン映画祭金賞をとった名監督ともあろう人がそんな凡ミスをするなんてね」
「すげー監督だからスタッフも気付いてても言えんかったのかな」
「それだ!」
さすが明翔。
「偉い人が堂々とミスってると指摘できねーよな」
「逆ギレしてくるタイプだと尚更」
「どうしてだい? 僕は相手が偉ければ偉いほど指摘するよ。テレビで大学教授が誤った発言をしていたからメールを送ったことがある」
「柳は論外」
話を戻してレポートを作ろうか、学級委員長。
「てかさー、あの流れだと普通アイドルの死因は事故ではないべきじゃね?」
「どんでん返しを期待したよね」
「事故死なのか? 事故死でした! って何それ」
「セルフバンジーはダメだよねっ。成功すればそりゃ話題になるけど、危険すぎる」
「あれは自殺だろ」
タカトゥーにみんなの視線が集まった。
「思いっきり事故ってたじゃん。ロープが切れて」
「全国ツアーが決まってファンも盛り上がってるのに、動機もねえし」
「ワンチャン狙って飛んだんだよ。死ねっかなって。自殺はカッコ悪いじゃん」
明翔と俺の反論にもタカトゥーは眉ひとつ動かさないで余裕の笑みを見せている。
「始めのほうで言ってただろ。アイドルが破局したからファンに戻ったって」
「うん」
「アイドルには彼氏がいた。けど別れた。離れてたファンが戻ってくる。アイドルから見てみろよ。自分の不幸を喜んでるとしか思えない」
「たしかに。それで全国ツアーって、もう……」
悪魔の巣窟に自ら飛び込むような気持ちかもしれない。
「アイドルの意向じゃない破局だったんだろうな。本気の失恋って、誰も自分を必要としてない、自分なんて存在価値ないって思っちゃうんだよ」
ガヤガヤした教室で我らグループだけがシーン。
「何」
「ハイエナのタカトゥーが失恋語ってる違和感」
「ハイエナ? 死肉貪るやつ?」
「深月知らない? 塔夜フラれた女子ばっかいくから1年の時ハイエナって言われてたの」
「お前、最低だな」
「がんがんエサ与えてくれてサンキューな!」
爽やかに微笑まれても蔑みの目しかできんわ。
何をしっとり語っとるんじゃ。
「タカトゥーくん、おもしろい観点だね。それをレポートにしよう。フラットに見ると事故だが、視点をアイドルに据えると自殺が濃厚になる。多角的に物語を見る楽しさを学びました。と」
「急にレポートっぽくなった!」
「教師がレポートに何を求めているかを考えればいい。今回は芸術的な気付きだ。求められているものを返してやれば高評価を得られる」
キリッと柳は言い切るが、なんだコイツ、教師相手にも上から目線。
「柳ってこずるい評価の取り方すんのな」
「呂久村くん、知性派、理知的、聡明、さとい、など僕を表すもっと適切な言葉はたくさんあるんだよ」
「いや、こずるいが一番適切」
ははは、とタカトゥーもみんなと同じように笑ってる。
けど、コイツ……。
明翔は俺とタカトゥーに似てるところがあるって言ってたけど、むしろコイツ、明翔に似てるとこあんじゃないのか。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる