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お悩み黒岩くん

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明翔は本当によく食うな。
学校を出る前に購買でパン買って食って、今たこ焼きを笑顔で受け取っている。

「熱い! うまい! うまい!」
「2対1でうまいの勝ち~」
「勝者にはたこ焼きが贈られます~」
「あっぢいぃぃぃ」
「あはは!」

不意打ちで口に入れられたたこ焼きをとっさに思いっきりかんだら中から出てきたトローっとしたもんに殺意が湧く熱さ。

「はい、水ー」
「うがああぁ、サンキュー」
「元凶俺だけどねー」

そういやそうだ。
この気分屋め、俺が猫舌なのを知ってて……。

「ごちそうさまでした」
「明翔、さすがに食いすぎじゃね?」

通りすがりの公園のゴミ箱に走っていた明翔についに苦言を呈する。
うまそうに食うから見てて気分いいんだけど、さすがにどうかと思う。

注意されてムッとするかと思いきや、明翔はニコッと笑って腕に絡んでくる。

「俺幸せだからだと思う。いくら食っても腹いっぱいになんないの」
「それ幸せ関係あるか?」
「だってこんな幸せなんだよ? 絶対関係ある!」
「理由んなってないなあ」

ただ、とっても気分がいい。ちょっと仕返ししたくなる。

明翔を腕から追っ払うと、悲しそうににらんでくる。
かわい……。

明翔の手を握ると、嬉しそうにパッと笑う。
かわいい!

「俺で遊ぶのやめてくれる?」
「遊ばれてると分かっててそのリアクションかよ」

かわいいがすぎる。

「あ、黒岩くんだ」
「あれ? 黒岩くんひとりなんだ。黒岩くーん!」

明翔が手を振ると、黒岩くんが振り返った。
元気ないながら笑顔で黒岩くんも手を振り、俺と明翔の繋がれた手を見て顔を曇らせる。

「仲が良さそうで何よりだね」
「黒岩くんも分かりやすいな。柳と何かあった?」
「ああ! それで黒岩くんひとりなの?」

明翔は頭はいいのにこういうの鈍くてかわいい。

「僕は高崎くんみたいに綺麗な顔じゃないし、呂久村くんみたいに背が高くないし佐藤くんみたいにかわいらしくもない。僕が柳くんのそばにいる資格なんてないんだ」

繊細ってかただのネガティブじゃねーか。めんどくさ。
そんなことないよ、お似合いだよって言ってほしいんかもしらんが、実際お似合いかと問われれば正直な俺はノーと言える人間になる。

「なんで全部みたいに、なの?」
「え?」

明翔は優しいな。
こんなしょうもないメガネの話も真剣に聞いている。

「柳が黒岩くんに綺麗で背が高くてかわいらしくいてほしいって言ったの?」
「柳くんは気にするなって言ってくれるけど……」
「けど?」
「きっと、気を使ってくれてるんだと思うんだ」
「黒岩くん、柳を美化しすぎ。あいつ人に気遣いなんかまるでできねえよ」

自分大好き変態王子なんだから。

「そんなことないよ。柳くんはいっつも僕に安全な建物側を歩かせてくれるし、僕が猫舌だから冷ましてから食べさせてくれるし、エスカレーターでは僕の後ろに立つんだ」

エスカレーターで彼氏が後ろに立つのって彼女のスカートからパンツ見えるの防止のためじゃないのか。黒岩くんには不必要な優しさ。

「俺さっき熱々のたこ焼きを猫舌の深月の口にほり込んでやったけど、深月のこと大好きだよ」
「なんで好きなのにそんなことするの」
「逆。好きだからするの」

分かんねえヤツだな、まったく。
でも、気まぐれなところも明翔らしくてかわいい。

「深月は俺の気まぐれなとこ好きだから深月が喜ぶって分かってるもん」

めちゃくちゃ分かられてた!!
恥ずかしくて顔を隠そうとするも、繋いだ手をギュ~ッと握られている。

仕方がないから片手でカバンで顔を隠す。

「俺は何も考えないで気まぐれな行動しちゃう自分がちょっと嫌なの。でも深月は好きでいてくれるから、これでいいんだって思ってる」
「明翔、嫌だったの?」
「うん。深月に出会うまでは自分でもなんでこんなイタズラしてんだろ? って嫌になってた」

そうだったんだ……明翔の意外な告白にますます愛おしくなる。

「ねえ、黒岩くんの顔も低身長もかわいげないとこも柳はきっと好きなんだと思うよ。柳、もっと黒岩くんにワガママ言ってほしいとかなんか忘れたけどいろいろ言ってたもん」

明翔よ、見事にほとんどを忘れておきながらよくその笑顔を保てるものだ。

「ワガママ? 僕、ママからワガママばっかり言わないのってよく怒られる。ワガママなんて言ったら柳くんに嫌われちゃうかと思ってた」

黒岩くんがディープなオタクだという前情報のせいだろうか。黒岩くんがマザコンに見えてきた。

「俺こないだ深月に言われたんだ。頭の中でグルグル考えてないで分けて、って。柳も分けてほしいって思ってんじゃないかな」

俺は神に言われた。
神の御言葉がリレーのバトンのように次々渡されて行く。

俺もこのオタクでもやしっ子のマザコンと同じなんだよな。
頭の中ですぐグルグルしちゃうネガティブ。情けない。

戸惑いであふれながら明翔と話している黒岩くん。ニキビとニキビ跡がたくさんあって、眉は太くて繋がりそうな勢い、メガネの奥には小さな一重。
……これと同じかあ……。

「ありがとう! 高崎くん! 呂久村くん! 僕、柳くんとちゃんと話してくる!」
「うん!」

笑顔で黒岩くんを見送った明翔が振り返った。

「友達が少ないと、たったひとりの友達にもあんなに考えこんじゃうもんなんだね」
「明翔、分かってないのによくあのアドバイスできたな」

まったく、この子は。
黒岩くんはすっかり元気を取り戻したけど、俺はガッツリへこんじゃったってのに。

「でも、いいよね。たったひとりをすごく大事にしてる感じ。俺、ああいう考えこんじゃう子好き」
「マジで? 情けなくね? 男らしくないってか」
「俺男らしい女らしいの基準がおかしいかもしんない。全然気にならないよ。好感しかない」

明翔……まったく、この子は。
俺まで救われちゃったじゃん。

「男になって男とBLしたい女と一緒に育ったんだもんな。基準も狂うわ」
「今日はどこのスーパー行く? 俺腹減ってきちゃった」
「だから、食いすぎだっての!」
「だから、幸せだからだっての!」

あははは! と笑いながら、今日は明翔が満足するまで食べてもらおう、と財布の中身を確認した。
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