16 / 51
お悩み黒岩くん
しおりを挟む
明翔は本当によく食うな。
学校を出る前に購買でパン買って食って、今たこ焼きを笑顔で受け取っている。
「熱い! うまい! うまい!」
「2対1でうまいの勝ち~」
「勝者にはたこ焼きが贈られます~」
「あっぢいぃぃぃ」
「あはは!」
不意打ちで口に入れられたたこ焼きをとっさに思いっきりかんだら中から出てきたトローっとしたもんに殺意が湧く熱さ。
「はい、水ー」
「うがああぁ、サンキュー」
「元凶俺だけどねー」
そういやそうだ。
この気分屋め、俺が猫舌なのを知ってて……。
「ごちそうさまでした」
「明翔、さすがに食いすぎじゃね?」
通りすがりの公園のゴミ箱に走っていた明翔についに苦言を呈する。
うまそうに食うから見てて気分いいんだけど、さすがにどうかと思う。
注意されてムッとするかと思いきや、明翔はニコッと笑って腕に絡んでくる。
「俺幸せだからだと思う。いくら食っても腹いっぱいになんないの」
「それ幸せ関係あるか?」
「だってこんな幸せなんだよ? 絶対関係ある!」
「理由んなってないなあ」
ただ、とっても気分がいい。ちょっと仕返ししたくなる。
明翔を腕から追っ払うと、悲しそうににらんでくる。
かわい……。
明翔の手を握ると、嬉しそうにパッと笑う。
かわいい!
「俺で遊ぶのやめてくれる?」
「遊ばれてると分かっててそのリアクションかよ」
かわいいがすぎる。
「あ、黒岩くんだ」
「あれ? 黒岩くんひとりなんだ。黒岩くーん!」
明翔が手を振ると、黒岩くんが振り返った。
元気ないながら笑顔で黒岩くんも手を振り、俺と明翔の繋がれた手を見て顔を曇らせる。
「仲が良さそうで何よりだね」
「黒岩くんも分かりやすいな。柳と何かあった?」
「ああ! それで黒岩くんひとりなの?」
明翔は頭はいいのにこういうの鈍くてかわいい。
「僕は高崎くんみたいに綺麗な顔じゃないし、呂久村くんみたいに背が高くないし佐藤くんみたいにかわいらしくもない。僕が柳くんのそばにいる資格なんてないんだ」
繊細ってかただのネガティブじゃねーか。めんどくさ。
そんなことないよ、お似合いだよって言ってほしいんかもしらんが、実際お似合いかと問われれば正直な俺はノーと言える人間になる。
「なんで全部みたいに、なの?」
「え?」
明翔は優しいな。
こんなしょうもないメガネの話も真剣に聞いている。
「柳が黒岩くんに綺麗で背が高くてかわいらしくいてほしいって言ったの?」
「柳くんは気にするなって言ってくれるけど……」
「けど?」
「きっと、気を使ってくれてるんだと思うんだ」
「黒岩くん、柳を美化しすぎ。あいつ人に気遣いなんかまるでできねえよ」
自分大好き変態王子なんだから。
「そんなことないよ。柳くんはいっつも僕に安全な建物側を歩かせてくれるし、僕が猫舌だから冷ましてから食べさせてくれるし、エスカレーターでは僕の後ろに立つんだ」
エスカレーターで彼氏が後ろに立つのって彼女のスカートからパンツ見えるの防止のためじゃないのか。黒岩くんには不必要な優しさ。
「俺さっき熱々のたこ焼きを猫舌の深月の口にほり込んでやったけど、深月のこと大好きだよ」
「なんで好きなのにそんなことするの」
「逆。好きだからするの」
分かんねえヤツだな、まったく。
でも、気まぐれなところも明翔らしくてかわいい。
「深月は俺の気まぐれなとこ好きだから深月が喜ぶって分かってるもん」
めちゃくちゃ分かられてた!!
恥ずかしくて顔を隠そうとするも、繋いだ手をギュ~ッと握られている。
仕方がないから片手でカバンで顔を隠す。
「俺は何も考えないで気まぐれな行動しちゃう自分がちょっと嫌なの。でも深月は好きでいてくれるから、これでいいんだって思ってる」
「明翔、嫌だったの?」
「うん。深月に出会うまでは自分でもなんでこんなイタズラしてんだろ? って嫌になってた」
そうだったんだ……明翔の意外な告白にますます愛おしくなる。
「ねえ、黒岩くんの顔も低身長もかわいげないとこも柳はきっと好きなんだと思うよ。柳、もっと黒岩くんにワガママ言ってほしいとかなんか忘れたけどいろいろ言ってたもん」
明翔よ、見事にほとんどを忘れておきながらよくその笑顔を保てるものだ。
「ワガママ? 僕、ママからワガママばっかり言わないのってよく怒られる。ワガママなんて言ったら柳くんに嫌われちゃうかと思ってた」
黒岩くんがディープなオタクだという前情報のせいだろうか。黒岩くんがマザコンに見えてきた。
「俺こないだ深月に言われたんだ。頭の中でグルグル考えてないで分けて、って。柳も分けてほしいって思ってんじゃないかな」
俺は神に言われた。
神の御言葉がリレーのバトンのように次々渡されて行く。
俺もこのオタクでもやしっ子のマザコンと同じなんだよな。
頭の中ですぐグルグルしちゃうネガティブ。情けない。
戸惑いであふれながら明翔と話している黒岩くん。ニキビとニキビ跡がたくさんあって、眉は太くて繋がりそうな勢い、メガネの奥には小さな一重。
……これと同じかあ……。
「ありがとう! 高崎くん! 呂久村くん! 僕、柳くんとちゃんと話してくる!」
「うん!」
笑顔で黒岩くんを見送った明翔が振り返った。
「友達が少ないと、たったひとりの友達にもあんなに考えこんじゃうもんなんだね」
「明翔、分かってないのによくあのアドバイスできたな」
まったく、この子は。
黒岩くんはすっかり元気を取り戻したけど、俺はガッツリへこんじゃったってのに。
「でも、いいよね。たったひとりをすごく大事にしてる感じ。俺、ああいう考えこんじゃう子好き」
「マジで? 情けなくね? 男らしくないってか」
「俺男らしい女らしいの基準がおかしいかもしんない。全然気にならないよ。好感しかない」
明翔……まったく、この子は。
俺まで救われちゃったじゃん。
「男になって男とBLしたい女と一緒に育ったんだもんな。基準も狂うわ」
「今日はどこのスーパー行く? 俺腹減ってきちゃった」
「だから、食いすぎだっての!」
「だから、幸せだからだっての!」
あははは! と笑いながら、今日は明翔が満足するまで食べてもらおう、と財布の中身を確認した。
学校を出る前に購買でパン買って食って、今たこ焼きを笑顔で受け取っている。
「熱い! うまい! うまい!」
「2対1でうまいの勝ち~」
「勝者にはたこ焼きが贈られます~」
「あっぢいぃぃぃ」
「あはは!」
不意打ちで口に入れられたたこ焼きをとっさに思いっきりかんだら中から出てきたトローっとしたもんに殺意が湧く熱さ。
「はい、水ー」
「うがああぁ、サンキュー」
「元凶俺だけどねー」
そういやそうだ。
この気分屋め、俺が猫舌なのを知ってて……。
「ごちそうさまでした」
「明翔、さすがに食いすぎじゃね?」
通りすがりの公園のゴミ箱に走っていた明翔についに苦言を呈する。
うまそうに食うから見てて気分いいんだけど、さすがにどうかと思う。
注意されてムッとするかと思いきや、明翔はニコッと笑って腕に絡んでくる。
「俺幸せだからだと思う。いくら食っても腹いっぱいになんないの」
「それ幸せ関係あるか?」
「だってこんな幸せなんだよ? 絶対関係ある!」
「理由んなってないなあ」
ただ、とっても気分がいい。ちょっと仕返ししたくなる。
明翔を腕から追っ払うと、悲しそうににらんでくる。
かわい……。
明翔の手を握ると、嬉しそうにパッと笑う。
かわいい!
「俺で遊ぶのやめてくれる?」
「遊ばれてると分かっててそのリアクションかよ」
かわいいがすぎる。
「あ、黒岩くんだ」
「あれ? 黒岩くんひとりなんだ。黒岩くーん!」
明翔が手を振ると、黒岩くんが振り返った。
元気ないながら笑顔で黒岩くんも手を振り、俺と明翔の繋がれた手を見て顔を曇らせる。
「仲が良さそうで何よりだね」
「黒岩くんも分かりやすいな。柳と何かあった?」
「ああ! それで黒岩くんひとりなの?」
明翔は頭はいいのにこういうの鈍くてかわいい。
「僕は高崎くんみたいに綺麗な顔じゃないし、呂久村くんみたいに背が高くないし佐藤くんみたいにかわいらしくもない。僕が柳くんのそばにいる資格なんてないんだ」
繊細ってかただのネガティブじゃねーか。めんどくさ。
そんなことないよ、お似合いだよって言ってほしいんかもしらんが、実際お似合いかと問われれば正直な俺はノーと言える人間になる。
「なんで全部みたいに、なの?」
「え?」
明翔は優しいな。
こんなしょうもないメガネの話も真剣に聞いている。
「柳が黒岩くんに綺麗で背が高くてかわいらしくいてほしいって言ったの?」
「柳くんは気にするなって言ってくれるけど……」
「けど?」
「きっと、気を使ってくれてるんだと思うんだ」
「黒岩くん、柳を美化しすぎ。あいつ人に気遣いなんかまるでできねえよ」
自分大好き変態王子なんだから。
「そんなことないよ。柳くんはいっつも僕に安全な建物側を歩かせてくれるし、僕が猫舌だから冷ましてから食べさせてくれるし、エスカレーターでは僕の後ろに立つんだ」
エスカレーターで彼氏が後ろに立つのって彼女のスカートからパンツ見えるの防止のためじゃないのか。黒岩くんには不必要な優しさ。
「俺さっき熱々のたこ焼きを猫舌の深月の口にほり込んでやったけど、深月のこと大好きだよ」
「なんで好きなのにそんなことするの」
「逆。好きだからするの」
分かんねえヤツだな、まったく。
でも、気まぐれなところも明翔らしくてかわいい。
「深月は俺の気まぐれなとこ好きだから深月が喜ぶって分かってるもん」
めちゃくちゃ分かられてた!!
恥ずかしくて顔を隠そうとするも、繋いだ手をギュ~ッと握られている。
仕方がないから片手でカバンで顔を隠す。
「俺は何も考えないで気まぐれな行動しちゃう自分がちょっと嫌なの。でも深月は好きでいてくれるから、これでいいんだって思ってる」
「明翔、嫌だったの?」
「うん。深月に出会うまでは自分でもなんでこんなイタズラしてんだろ? って嫌になってた」
そうだったんだ……明翔の意外な告白にますます愛おしくなる。
「ねえ、黒岩くんの顔も低身長もかわいげないとこも柳はきっと好きなんだと思うよ。柳、もっと黒岩くんにワガママ言ってほしいとかなんか忘れたけどいろいろ言ってたもん」
明翔よ、見事にほとんどを忘れておきながらよくその笑顔を保てるものだ。
「ワガママ? 僕、ママからワガママばっかり言わないのってよく怒られる。ワガママなんて言ったら柳くんに嫌われちゃうかと思ってた」
黒岩くんがディープなオタクだという前情報のせいだろうか。黒岩くんがマザコンに見えてきた。
「俺こないだ深月に言われたんだ。頭の中でグルグル考えてないで分けて、って。柳も分けてほしいって思ってんじゃないかな」
俺は神に言われた。
神の御言葉がリレーのバトンのように次々渡されて行く。
俺もこのオタクでもやしっ子のマザコンと同じなんだよな。
頭の中ですぐグルグルしちゃうネガティブ。情けない。
戸惑いであふれながら明翔と話している黒岩くん。ニキビとニキビ跡がたくさんあって、眉は太くて繋がりそうな勢い、メガネの奥には小さな一重。
……これと同じかあ……。
「ありがとう! 高崎くん! 呂久村くん! 僕、柳くんとちゃんと話してくる!」
「うん!」
笑顔で黒岩くんを見送った明翔が振り返った。
「友達が少ないと、たったひとりの友達にもあんなに考えこんじゃうもんなんだね」
「明翔、分かってないのによくあのアドバイスできたな」
まったく、この子は。
黒岩くんはすっかり元気を取り戻したけど、俺はガッツリへこんじゃったってのに。
「でも、いいよね。たったひとりをすごく大事にしてる感じ。俺、ああいう考えこんじゃう子好き」
「マジで? 情けなくね? 男らしくないってか」
「俺男らしい女らしいの基準がおかしいかもしんない。全然気にならないよ。好感しかない」
明翔……まったく、この子は。
俺まで救われちゃったじゃん。
「男になって男とBLしたい女と一緒に育ったんだもんな。基準も狂うわ」
「今日はどこのスーパー行く? 俺腹減ってきちゃった」
「だから、食いすぎだっての!」
「だから、幸せだからだっての!」
あははは! と笑いながら、今日は明翔が満足するまで食べてもらおう、と財布の中身を確認した。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる