親友彼氏―親友と付き合う俺らの話。

はちみつ電車

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不意打ちにキス

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放課後の屋上には誰もいない。
9月も下旬に入り、夕方の風はやっと秋になってきたなあ、と思わせる。

「どうした、颯太。こんなとこまで来るなんて、内緒話ですかー?」
「……絶対、誰にも言うなよ、深月」
「マジで内緒話かよ」

ビックリした。
颯太からこんな風に呼び出し食らうなんて長い付き合いで初めてだ。

「驚かないで聞いてくれ」
「分かった。どうぞ」
「いいか? 言うぞ」
「どうぞ」
「心の準備はできてんのか」
「うっざ。どんな爆弾落とす気よ」

ここまで念押しされると期待してしまう。

「俺……もしかしたら。もしかしてだけど」

もしかしてだけど~♪
口に出したら殺されそうなピンと張りつめた空気。

「一条のことが好きなのかもしれない」
「知ってる」
「ええ?!」

えー、何それ、何に驚いてんの?

「むしろ颯太、一条が好きって分かってなかったの? うわー、引くわー。惚れっぽいくせに認めないのが続いて好きセンサーとち狂ってんじゃねーの」

ギャグではなさそうだ。
颯太ギャグかとも一瞬思ったが、ちゃんと颯太は驚愕している。

「なんで急に気付いたの? きっかけがあったの?」
「昨日、一条の家に見舞いに行ったんだ」
「うん。で?」
「手ぶらじゃ何だから、いつもの卵酒を作って持って行った」
「うまいよね。で?」

颯太の卵酒はマジで効く。
俺も飲んだことがある。たぶん結構酒入ってて、体の内側からカーッとなってほてりが冷める頃には風邪なんか吹っ飛んでる。
だが、酒のせいか元気になったら記憶も吹っ飛ぶ。

「卵酒飲ませて、ベッドに寝かせて洗い物してたら、一条が起きてきて」
「すげー即効性あったんだな」
「それで、その……いきなりキスされた」
「は?!」
「一条、酒超弱いっぽい」
「そっちか!」
「めっちゃくちゃ甘えてきて、死ぬかと思ったくらいかわいかった」

酒に酔った一条がめちゃくちゃ甘えるとか……。

「クッソうらやましい!」
「俺が愛する女は一生涯にひとりと決めている。問答無用で一条に決定だ」
「おめでとーござーまーす」
「ただ、一条は普通の女子じゃない」
「颯太、男装してても女は女だ派じゃん。何も問題ないんじゃねーの?」

明翔にしても、クラスの男子が「明翔ならいける」と沸く中、颯太ひとりだけは「どんなにかわいくても男は男」と興味ゼロ。

一条はちょっとした重病により、戸籍上は女子ながら男子の制服を選択している。
真っ平な胸もあり、明翔そっくりの中性的な美形の一条は男子として違和感なくクラスになじんでいる。だが、明翔に出会うよりも先に一条を見つめ続けていた俺だけは一条が女に見えるのだ。

「深月、BLって何だ。BLするにはどうしたらいい」
「は?」
「だって一条、男になって男とBLしたくて男として転校して来たんだろ。一条の望みを叶えてやりたい」

……ややこしいことを……。

「そもそも女の一条が男としてBLて俺にはワケ分からんのよ」
「一条の望みを叶えてやるにはどうすればいい?! 明翔と付き合ってる深月なら分かんだろ!」

うわ、暴論。めんどくさ。
しょうがない、俺が迷った時、行き詰った時、金言を与えたもう神の御言葉を教えてやるか。

「颯太、BLとはファンタジーだ」
「ファンタジー?」
「そう。次々と起こるイベントをただ楽しめばいいんだよ」
「俺、任侠ゲームしかやったことねえよ」
「今日からファンタジーやれ。任侠映画じゃなく、ファンタジーを観ろ」
「そうか、深月もファンタジーアニメにはまってるもんな」
「そう」
「分かった! 俺、今日からファンタジック!」

大きな瞳でうなずいた颯太が屋上を出て行く。

……悪いな、颯太。これが俺に言える精一杯なんだ。
俺にも分からん。
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