上 下
4 / 51

不意打ちにキス

しおりを挟む
放課後の屋上には誰もいない。
9月も下旬に入り、夕方の風はやっと秋になってきたなあ、と思わせる。

「どうした、颯太。こんなとこまで来るなんて、内緒話ですかー?」
「……絶対、誰にも言うなよ、深月」
「マジで内緒話かよ」

ビックリした。
颯太からこんな風に呼び出し食らうなんて長い付き合いで初めてだ。

「驚かないで聞いてくれ」
「分かった。どうぞ」
「いいか? 言うぞ」
「どうぞ」
「心の準備はできてんのか」
「うっざ。どんな爆弾落とす気よ」

ここまで念押しされると期待してしまう。

「俺……もしかしたら。もしかしてだけど」

もしかしてだけど~♪
口に出したら殺されそうなピンと張りつめた空気。

「一条のことが好きなのかもしれない」
「知ってる」
「ええ?!」

えー、何それ、何に驚いてんの?

「むしろ颯太、一条が好きって分かってなかったの? うわー、引くわー。惚れっぽいくせに認めないのが続いて好きセンサーとち狂ってんじゃねーの」

ギャグではなさそうだ。
颯太ギャグかとも一瞬思ったが、ちゃんと颯太は驚愕している。

「なんで急に気付いたの? きっかけがあったの?」
「昨日、一条の家に見舞いに行ったんだ」
「うん。で?」
「手ぶらじゃ何だから、いつもの卵酒を作って持って行った」
「うまいよね。で?」

颯太の卵酒はマジで効く。
俺も飲んだことがある。たぶん結構酒入ってて、体の内側からカーッとなってほてりが冷める頃には風邪なんか吹っ飛んでる。
だが、酒のせいか元気になったら記憶も吹っ飛ぶ。

「卵酒飲ませて、ベッドに寝かせて洗い物してたら、一条が起きてきて」
「すげー即効性あったんだな」
「それで、その……いきなりキスされた」
「は?!」
「一条、酒超弱いっぽい」
「そっちか!」
「めっちゃくちゃ甘えてきて、死ぬかと思ったくらいかわいかった」

酒に酔った一条がめちゃくちゃ甘えるとか……。

「クッソうらやましい!」
「俺が愛する女は一生涯にひとりと決めている。問答無用で一条に決定だ」
「おめでとーござーまーす」
「ただ、一条は普通の女子じゃない」
「颯太、男装してても女は女だ派じゃん。何も問題ないんじゃねーの?」

明翔にしても、クラスの男子が「明翔ならいける」と沸く中、颯太ひとりだけは「どんなにかわいくても男は男」と興味ゼロ。

一条はちょっとした重病により、戸籍上は女子ながら男子の制服を選択している。
真っ平な胸もあり、明翔そっくりの中性的な美形の一条は男子として違和感なくクラスになじんでいる。だが、明翔に出会うよりも先に一条を見つめ続けていた俺だけは一条が女に見えるのだ。

「深月、BLって何だ。BLするにはどうしたらいい」
「は?」
「だって一条、男になって男とBLしたくて男として転校して来たんだろ。一条の望みを叶えてやりたい」

……ややこしいことを……。

「そもそも女の一条が男としてBLて俺にはワケ分からんのよ」
「一条の望みを叶えてやるにはどうすればいい?! 明翔と付き合ってる深月なら分かんだろ!」

うわ、暴論。めんどくさ。
しょうがない、俺が迷った時、行き詰った時、金言を与えたもう神の御言葉を教えてやるか。

「颯太、BLとはファンタジーだ」
「ファンタジー?」
「そう。次々と起こるイベントをただ楽しめばいいんだよ」
「俺、任侠ゲームしかやったことねえよ」
「今日からファンタジーやれ。任侠映画じゃなく、ファンタジーを観ろ」
「そうか、深月もファンタジーアニメにはまってるもんな」
「そう」
「分かった! 俺、今日からファンタジック!」

大きな瞳でうなずいた颯太が屋上を出て行く。

……悪いな、颯太。これが俺に言える精一杯なんだ。
俺にも分からん。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の調教監禁生活。

まぐろ
BL
ごく普通の中学生、鈴谷悠佳(すずやはるか)。 ある日、見ず知らずのお兄さんに誘拐されてしまう! ※♡喘ぎ注意です 若干気持ち悪い描写(痛々しい?)あるかもです。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

処理中です...