BLはファンタジーだって神が言うから

はちみつ電車

文字の大きさ
上 下
80 / 81
side高崎明翔

一条優の前髪事変

しおりを挟む
 真衣ちゃんの元カレに接近禁止命令が出たからもう大丈夫、と、仮住まいのアパートから自宅に戻った。まずは、仏壇のじいちゃんと父ちゃんに手を合わせる。
 優もやって来て、並んで手を合わせ始めた。

「あれ? 優、前髪切ったの?」

 ざっくりと切られていた前髪が、眉上でそろえられてパッツンになってる。

「あ、まあ。気分転換だよ。全体に伸びてきたし、イメチェンしようと思って。変?」
「変ではない。けど、前髪だけでもだいぶ印象が変わるもんなんだな。伸びてきたのが気になるんなら美容院でも行けばいいのに」
「金がもったいない。散髪屋なんか行くよりも新刊を確実に手に入れる方が重要だ。今週はボク的神作家の新刊が出るんだ」

 優らしいな。何よりもBLが優先。
 でも、本当に印象が変わった。前髪をパッツンにするだけでずいぶん女子っぽくなるんだな。

「神と言えばさー、深月に見せてもらったBLブログが優と同じこと言ってたよ。大事なのは心のエロだって。他にもそんなん言う人いるんだと思って爆笑した」
「探せばもっといるはずだ! それが真理なんだから!」
「優的に真理なー」

 あ、もしかして、優があのブログのカン・リニンの可能性ってないかな?
 んー……ないな。あの管理人は自分のことを私と書いていた。男になりたい優がブログ内とは言え、私とは書かんだろ。

 翌日、学校へと向かって優と歩いていたら、途中で深月と颯太に会った。
「おはよー」
「おはよー」
「おは……」

 深月と颯太が優を見て目を見開いている。
「なんだ、人の顔をぶしつけにジロジロと失礼な」
「えー、かわいいじゃん。この週末に何があったんだ、一条」
「たっ……ただ前髪を切っただけだ」
「前髪切っただけでこんな変わるもん? かわいいよなあ、颯太」
「う……うん、びっくりした」

 ……へー。そんな驚くくらい優がかわいいんだ、深月。へー。
 やっぱり、まだ優のことが好きなんじゃねえの、深月……。

「明翔! マジで一条どうしたの?」
「何が」
「なんか女子っぽくなってんじゃん」
「あーそう」
「え? どうしたの、明翔?」
「べーつにー。あ、黒岩くん、おはよー」
「ちょっ……明翔!」

 黒岩くんがこちらを振り向く。
「あ、みんな、おはよー……」

 やっぱり優を見て驚いている。そこまで変わったか?

「先に言っておく。ボクは前髪を切っただけだ」
「あ、そうなんだ。なんか、高崎くんと一条くんってそっくりだと思ってたけど、なんかちょっと違って見えたから驚いて」
「え?」

 優も俺の顔を見ている。俺には、優の顔が特に今までと変わったようには見えない。

「違って見えるんじゃなくて、違うんだよ」
 深月がいつものように言う。

「そうだよ、黒岩くん。俺と優は別人なんだから」
「そうそう。ボクはボク。明翔は明翔だ」

 優と目を合わせて笑う。最近、優と一緒にいても苦しさはなくなり、楽しいと思えるようになってきた。
 だから、俺と母親が自宅に戻るにあたり、アパートに留まると言う優と真衣ちゃんに一緒に行こうと素直に言えた。

「そういや、パッツン前髪って颯太が大好きなんだよなー。昔っからパッツンの子ばっかり好きになるの。ちーちゃんもそうだったじゃん?」
「へー、そんな分かりやすいツボがあったんだ、颯太」
「女装甲子園の準備中に好みの女子高生の話してた時にも言ってたよ、佐藤くん。特に好みはないけど、あえて言うなら前髪パッツンの黒髪ロングが好きかなあって」
「あえてじゃねーし! 完全に好きなくせに、ほんっと認めねえんだから」

「あの時、一条くんも話聞いてたと思うんだよね。ねえ、呂久村くん、もしかして、あのふたり……」
「やっぱり、だよなー。こりゃーこれから一条髪伸ばしだすな」

 並んで歩く颯太と優を見ながら、深月と黒岩くんがニヤニヤしている。

「何? なんで笑ってんの?」
「べーつにー」
「何だよ、それー」
「仕返し」
「あ! だって、あれは……」
「何だったの、あれ」
「あれは……だって、深月が優ばっかりかわいいかわいい言うからさ」
「えっ」

「あーあー。そんなこと言ったの? 呂久村くん」
「いや、だって、特別な感情が何もないからこそ気安くかわいいとかって言えるもんじゃん」
「え? ないの? 優に特別な感情」
「キレーさっぱりなくなってんだなって、俺も今実感した」
「そうなんだ……」

「良かったね、高崎くん」
「うん!」
「高崎くんってかわいいよね、呂久村くん」
「うん。……あ」

 ウンウンとうなずいていた深月の動きが止まった。手で口を覆ってみるみる赤くなる。
「いらんこと言ってんじゃねーよ! 黒岩くんのくせに!」
「あはは! 黒岩くん、逃げてー!」

 ジャイアンみたいに黒岩くんを追いかけまわす深月を見ながら、うれしくて笑いが止まんなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

処理中です...