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side高崎明翔
一条優の前髪事変
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真衣ちゃんの元カレに接近禁止命令が出たからもう大丈夫、と、仮住まいのアパートから自宅に戻った。まずは、仏壇のじいちゃんと父ちゃんに手を合わせる。
優もやって来て、並んで手を合わせ始めた。
「あれ? 優、前髪切ったの?」
ざっくりと切られていた前髪が、眉上でそろえられてパッツンになってる。
「あ、まあ。気分転換だよ。全体に伸びてきたし、イメチェンしようと思って。変?」
「変ではない。けど、前髪だけでもだいぶ印象が変わるもんなんだな。伸びてきたのが気になるんなら美容院でも行けばいいのに」
「金がもったいない。散髪屋なんか行くよりも新刊を確実に手に入れる方が重要だ。今週はボク的神作家の新刊が出るんだ」
優らしいな。何よりもBLが優先。
でも、本当に印象が変わった。前髪をパッツンにするだけでずいぶん女子っぽくなるんだな。
「神と言えばさー、深月に見せてもらったBLブログが優と同じこと言ってたよ。大事なのは心のエロだって。他にもそんなん言う人いるんだと思って爆笑した」
「探せばもっといるはずだ! それが真理なんだから!」
「優的に真理なー」
あ、もしかして、優があのブログのカン・リニンの可能性ってないかな?
んー……ないな。あの管理人は自分のことを私と書いていた。男になりたい優がブログ内とは言え、私とは書かんだろ。
翌日、学校へと向かって優と歩いていたら、途中で深月と颯太に会った。
「おはよー」
「おはよー」
「おは……」
深月と颯太が優を見て目を見開いている。
「なんだ、人の顔をぶしつけにジロジロと失礼な」
「えー、かわいいじゃん。この週末に何があったんだ、一条」
「たっ……ただ前髪を切っただけだ」
「前髪切っただけでこんな変わるもん? かわいいよなあ、颯太」
「う……うん、びっくりした」
……へー。そんな驚くくらい優がかわいいんだ、深月。へー。
やっぱり、まだ優のことが好きなんじゃねえの、深月……。
「明翔! マジで一条どうしたの?」
「何が」
「なんか女子っぽくなってんじゃん」
「あーそう」
「え? どうしたの、明翔?」
「べーつにー。あ、黒岩くん、おはよー」
「ちょっ……明翔!」
黒岩くんがこちらを振り向く。
「あ、みんな、おはよー……」
やっぱり優を見て驚いている。そこまで変わったか?
「先に言っておく。ボクは前髪を切っただけだ」
「あ、そうなんだ。なんか、高崎くんと一条くんってそっくりだと思ってたけど、なんかちょっと違って見えたから驚いて」
「え?」
優も俺の顔を見ている。俺には、優の顔が特に今までと変わったようには見えない。
「違って見えるんじゃなくて、違うんだよ」
深月がいつものように言う。
「そうだよ、黒岩くん。俺と優は別人なんだから」
「そうそう。ボクはボク。明翔は明翔だ」
優と目を合わせて笑う。最近、優と一緒にいても苦しさはなくなり、楽しいと思えるようになってきた。
だから、俺と母親が自宅に戻るにあたり、アパートに留まると言う優と真衣ちゃんに一緒に行こうと素直に言えた。
「そういや、パッツン前髪って颯太が大好きなんだよなー。昔っからパッツンの子ばっかり好きになるの。ちーちゃんもそうだったじゃん?」
「へー、そんな分かりやすいツボがあったんだ、颯太」
「女装甲子園の準備中に好みの女子高生の話してた時にも言ってたよ、佐藤くん。特に好みはないけど、あえて言うなら前髪パッツンの黒髪ロングが好きかなあって」
「あえてじゃねーし! 完全に好きなくせに、ほんっと認めねえんだから」
「あの時、一条くんも話聞いてたと思うんだよね。ねえ、呂久村くん、もしかして、あのふたり……」
「やっぱり、だよなー。こりゃーこれから一条髪伸ばしだすな」
並んで歩く颯太と優を見ながら、深月と黒岩くんがニヤニヤしている。
「何? なんで笑ってんの?」
「べーつにー」
「何だよ、それー」
「仕返し」
「あ! だって、あれは……」
「何だったの、あれ」
「あれは……だって、深月が優ばっかりかわいいかわいい言うからさ」
「えっ」
「あーあー。そんなこと言ったの? 呂久村くん」
「いや、だって、特別な感情が何もないからこそ気安くかわいいとかって言えるもんじゃん」
「え? ないの? 優に特別な感情」
「キレーさっぱりなくなってんだなって、俺も今実感した」
「そうなんだ……」
「良かったね、高崎くん」
「うん!」
「高崎くんってかわいいよね、呂久村くん」
「うん。……あ」
ウンウンとうなずいていた深月の動きが止まった。手で口を覆ってみるみる赤くなる。
「いらんこと言ってんじゃねーよ! 黒岩くんのくせに!」
「あはは! 黒岩くん、逃げてー!」
ジャイアンみたいに黒岩くんを追いかけまわす深月を見ながら、うれしくて笑いが止まんなかった。
優もやって来て、並んで手を合わせ始めた。
「あれ? 優、前髪切ったの?」
ざっくりと切られていた前髪が、眉上でそろえられてパッツンになってる。
「あ、まあ。気分転換だよ。全体に伸びてきたし、イメチェンしようと思って。変?」
「変ではない。けど、前髪だけでもだいぶ印象が変わるもんなんだな。伸びてきたのが気になるんなら美容院でも行けばいいのに」
「金がもったいない。散髪屋なんか行くよりも新刊を確実に手に入れる方が重要だ。今週はボク的神作家の新刊が出るんだ」
優らしいな。何よりもBLが優先。
でも、本当に印象が変わった。前髪をパッツンにするだけでずいぶん女子っぽくなるんだな。
「神と言えばさー、深月に見せてもらったBLブログが優と同じこと言ってたよ。大事なのは心のエロだって。他にもそんなん言う人いるんだと思って爆笑した」
「探せばもっといるはずだ! それが真理なんだから!」
「優的に真理なー」
あ、もしかして、優があのブログのカン・リニンの可能性ってないかな?
んー……ないな。あの管理人は自分のことを私と書いていた。男になりたい優がブログ内とは言え、私とは書かんだろ。
翌日、学校へと向かって優と歩いていたら、途中で深月と颯太に会った。
「おはよー」
「おはよー」
「おは……」
深月と颯太が優を見て目を見開いている。
「なんだ、人の顔をぶしつけにジロジロと失礼な」
「えー、かわいいじゃん。この週末に何があったんだ、一条」
「たっ……ただ前髪を切っただけだ」
「前髪切っただけでこんな変わるもん? かわいいよなあ、颯太」
「う……うん、びっくりした」
……へー。そんな驚くくらい優がかわいいんだ、深月。へー。
やっぱり、まだ優のことが好きなんじゃねえの、深月……。
「明翔! マジで一条どうしたの?」
「何が」
「なんか女子っぽくなってんじゃん」
「あーそう」
「え? どうしたの、明翔?」
「べーつにー。あ、黒岩くん、おはよー」
「ちょっ……明翔!」
黒岩くんがこちらを振り向く。
「あ、みんな、おはよー……」
やっぱり優を見て驚いている。そこまで変わったか?
「先に言っておく。ボクは前髪を切っただけだ」
「あ、そうなんだ。なんか、高崎くんと一条くんってそっくりだと思ってたけど、なんかちょっと違って見えたから驚いて」
「え?」
優も俺の顔を見ている。俺には、優の顔が特に今までと変わったようには見えない。
「違って見えるんじゃなくて、違うんだよ」
深月がいつものように言う。
「そうだよ、黒岩くん。俺と優は別人なんだから」
「そうそう。ボクはボク。明翔は明翔だ」
優と目を合わせて笑う。最近、優と一緒にいても苦しさはなくなり、楽しいと思えるようになってきた。
だから、俺と母親が自宅に戻るにあたり、アパートに留まると言う優と真衣ちゃんに一緒に行こうと素直に言えた。
「そういや、パッツン前髪って颯太が大好きなんだよなー。昔っからパッツンの子ばっかり好きになるの。ちーちゃんもそうだったじゃん?」
「へー、そんな分かりやすいツボがあったんだ、颯太」
「女装甲子園の準備中に好みの女子高生の話してた時にも言ってたよ、佐藤くん。特に好みはないけど、あえて言うなら前髪パッツンの黒髪ロングが好きかなあって」
「あえてじゃねーし! 完全に好きなくせに、ほんっと認めねえんだから」
「あの時、一条くんも話聞いてたと思うんだよね。ねえ、呂久村くん、もしかして、あのふたり……」
「やっぱり、だよなー。こりゃーこれから一条髪伸ばしだすな」
並んで歩く颯太と優を見ながら、深月と黒岩くんがニヤニヤしている。
「何? なんで笑ってんの?」
「べーつにー」
「何だよ、それー」
「仕返し」
「あ! だって、あれは……」
「何だったの、あれ」
「あれは……だって、深月が優ばっかりかわいいかわいい言うからさ」
「えっ」
「あーあー。そんなこと言ったの? 呂久村くん」
「いや、だって、特別な感情が何もないからこそ気安くかわいいとかって言えるもんじゃん」
「え? ないの? 優に特別な感情」
「キレーさっぱりなくなってんだなって、俺も今実感した」
「そうなんだ……」
「良かったね、高崎くん」
「うん!」
「高崎くんってかわいいよね、呂久村くん」
「うん。……あ」
ウンウンとうなずいていた深月の動きが止まった。手で口を覆ってみるみる赤くなる。
「いらんこと言ってんじゃねーよ! 黒岩くんのくせに!」
「あはは! 黒岩くん、逃げてー!」
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