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フルボッコ
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「どう?」
髪を切り墨汁で黒くした明翔は、完全に一条と瓜二つだ。
すげえ。すげえよ、明翔。普段はいがみ合ってても、いざとなれば何のためらいもなく一条のためにここまでやれる。漢だよ、明翔!
「かっこいい。さすがは本物の男だ」
「優とはちげーだろ」
「触んなよ。手に墨汁付くぞ」
「お、やべっ」
こっちの校舎はハズレだったか。一度1階まで下りて、向かいに建つもうひとつの校舎に入る。1階はやはり人の気配はない。
もしも、一条が連れて行かれた先がこの学校じゃなかったら……どうしたらいいのか分からなくなる最悪な可能性が頭をよぎりだす。
しかし、2階に上がってすぐだった。
「やめろおおお!」
「優!」
「上か?!」
更に上へと階段を駆け上がる。
「暴れるな! 大人しくしてろ!」
「嫌だ! その手を離せ!」
「これじゃ金になんねーんだよ! 言う通りにしろ!」
おっそろしい声が廊下にまで響いている。何されてんだ、一条……。
3つ目の教室に一条はいた。男子生徒4人に窓際に追い詰められしゃがみ込んでいる。
髪を切った明翔とは反対にロングヘアのウィッグをかぶり、エンジ基調のチェックのプリーツスカートを履いて、半袖のシャツはボタンがなくなっていて下に着ている白いキャミソールが見える。
いかにも悪そうなヤンキー風の男のひとりがスカートと同じエンジのブレザーを一条の肩に掛けようとするのを一条が振り払っている。ひとりの男は一眼レフカメラを一条に向けている。
一条の周りには、点々と血痕のような赤いものがある。
それを見た瞬間、頭の中でブチンと何かが切れた音が聞こえた気がした。
「優に何してやがる!」
「一条を離しやがれえ!」
明翔と同時に教室に乗り込んだ。
男たちがギョッとしたようにそろってこちらを見る。
「明翔! 呂久村! コイツらひどいんだ! ボクにこんな服を着せようとして!」
一条の言葉がまるで耳に入らない。まず、何が撮られているのか分からないが闇に葬るためにカメラにつかみかかり持ってた男の頭に叩きつける。ものすごい音がして、男が頭を抱えてうずくまる。その上からかかと落としを入れる。
また別の男子生徒が何か言いながらつかみかかってくる。ケンカなんかしたことないのに思いっきり男子生徒の顔を殴り、腹を蹴る。すごい衝撃を感じるけど、痛みは感じない。感覚がない。
床に転がった男どもをさらに蹴る。激しい怒りだけがあって、頭は真っ白だった。
「大丈夫か! 一条!」
颯太の声だ。颯太が来たらケンカには負けない。安心感から少し冷静さを取り戻す。
「颯太! 優を頼んだ! 逃げろ、優!」
明翔の声で、一条が立ち上がってドアの方へと走る。
「ショタ!」
「一条! ケガは?!」
「ない! コイツらひどいんだ! ボクにこんな服を着せようとして!」
「服? この服を着せられただけ?」
「だけとは何だ! このボクに女子の制服を着せようとしたんだぞ! ブレザーを着せられたら完成してしまうところだった!」
「え? それだけ?」
「それだけ」
ピタリと俺と明翔の動きが止まる。
「うわ! この惨状はどうしたんだい?!」
右腕を白い三角巾に吊るされた柳も教室に入って来た。
足元を見ると、意識のない男が4人も転がっている。
……え、マジで?
「優、女子の制服を着せられた後は? 何かされただろ?」
「されてない。ボクが脱いだらまた着せてきて、脱いで着せられて脱いで着せられてのくり返し」
「あの、こう、俺らが暴れた分くらいは何かされたんだろ? 一条」
「もう着せられるくらいなら全部脱いでやるってボタンちぎってシャツも脱ごうとしたらそれも着せてきた」
「触られたりは? ちょっと足触られたくらいでもいいから」
「ちょっと触れただけで鼻血出してた」
「ピュアか!」
あの血痕は鼻血かよ! まぎらわしい血出してんじゃねーよ!
さっきまで真っ赤だったのに一気に真っ青になった。
「これ……深月たちの方が暴行罪とかで捕まるんじゃねーの」
「やれやれ。罪人が3人に増えてしまったか」
「やれやれじゃねーんだよ、1号!」
「ヤバいかも。やり過ぎたかも」
「完全にやり過ぎたね、君たち」
「他人事ヅラすんな、1号!」
「それにしても、一条くんそっくりだね、高崎くん」
「あ! 俺器物損壊罪もやってる! 書道室のカーテン墨汁まみれにした!」
「やれやれ、罪状まで増えてしまったか」
いや……てゆーか、マジ……どうしよう?
てかコイツら、人さらいのヤンキーのくせに一般市民にこんなあっさりやられんなよ!
髪を切り墨汁で黒くした明翔は、完全に一条と瓜二つだ。
すげえ。すげえよ、明翔。普段はいがみ合ってても、いざとなれば何のためらいもなく一条のためにここまでやれる。漢だよ、明翔!
「かっこいい。さすがは本物の男だ」
「優とはちげーだろ」
「触んなよ。手に墨汁付くぞ」
「お、やべっ」
こっちの校舎はハズレだったか。一度1階まで下りて、向かいに建つもうひとつの校舎に入る。1階はやはり人の気配はない。
もしも、一条が連れて行かれた先がこの学校じゃなかったら……どうしたらいいのか分からなくなる最悪な可能性が頭をよぎりだす。
しかし、2階に上がってすぐだった。
「やめろおおお!」
「優!」
「上か?!」
更に上へと階段を駆け上がる。
「暴れるな! 大人しくしてろ!」
「嫌だ! その手を離せ!」
「これじゃ金になんねーんだよ! 言う通りにしろ!」
おっそろしい声が廊下にまで響いている。何されてんだ、一条……。
3つ目の教室に一条はいた。男子生徒4人に窓際に追い詰められしゃがみ込んでいる。
髪を切った明翔とは反対にロングヘアのウィッグをかぶり、エンジ基調のチェックのプリーツスカートを履いて、半袖のシャツはボタンがなくなっていて下に着ている白いキャミソールが見える。
いかにも悪そうなヤンキー風の男のひとりがスカートと同じエンジのブレザーを一条の肩に掛けようとするのを一条が振り払っている。ひとりの男は一眼レフカメラを一条に向けている。
一条の周りには、点々と血痕のような赤いものがある。
それを見た瞬間、頭の中でブチンと何かが切れた音が聞こえた気がした。
「優に何してやがる!」
「一条を離しやがれえ!」
明翔と同時に教室に乗り込んだ。
男たちがギョッとしたようにそろってこちらを見る。
「明翔! 呂久村! コイツらひどいんだ! ボクにこんな服を着せようとして!」
一条の言葉がまるで耳に入らない。まず、何が撮られているのか分からないが闇に葬るためにカメラにつかみかかり持ってた男の頭に叩きつける。ものすごい音がして、男が頭を抱えてうずくまる。その上からかかと落としを入れる。
また別の男子生徒が何か言いながらつかみかかってくる。ケンカなんかしたことないのに思いっきり男子生徒の顔を殴り、腹を蹴る。すごい衝撃を感じるけど、痛みは感じない。感覚がない。
床に転がった男どもをさらに蹴る。激しい怒りだけがあって、頭は真っ白だった。
「大丈夫か! 一条!」
颯太の声だ。颯太が来たらケンカには負けない。安心感から少し冷静さを取り戻す。
「颯太! 優を頼んだ! 逃げろ、優!」
明翔の声で、一条が立ち上がってドアの方へと走る。
「ショタ!」
「一条! ケガは?!」
「ない! コイツらひどいんだ! ボクにこんな服を着せようとして!」
「服? この服を着せられただけ?」
「だけとは何だ! このボクに女子の制服を着せようとしたんだぞ! ブレザーを着せられたら完成してしまうところだった!」
「え? それだけ?」
「それだけ」
ピタリと俺と明翔の動きが止まる。
「うわ! この惨状はどうしたんだい?!」
右腕を白い三角巾に吊るされた柳も教室に入って来た。
足元を見ると、意識のない男が4人も転がっている。
……え、マジで?
「優、女子の制服を着せられた後は? 何かされただろ?」
「されてない。ボクが脱いだらまた着せてきて、脱いで着せられて脱いで着せられてのくり返し」
「あの、こう、俺らが暴れた分くらいは何かされたんだろ? 一条」
「もう着せられるくらいなら全部脱いでやるってボタンちぎってシャツも脱ごうとしたらそれも着せてきた」
「触られたりは? ちょっと足触られたくらいでもいいから」
「ちょっと触れただけで鼻血出してた」
「ピュアか!」
あの血痕は鼻血かよ! まぎらわしい血出してんじゃねーよ!
さっきまで真っ赤だったのに一気に真っ青になった。
「これ……深月たちの方が暴行罪とかで捕まるんじゃねーの」
「やれやれ。罪人が3人に増えてしまったか」
「やれやれじゃねーんだよ、1号!」
「ヤバいかも。やり過ぎたかも」
「完全にやり過ぎたね、君たち」
「他人事ヅラすんな、1号!」
「それにしても、一条くんそっくりだね、高崎くん」
「あ! 俺器物損壊罪もやってる! 書道室のカーテン墨汁まみれにした!」
「やれやれ、罪状まで増えてしまったか」
いや……てゆーか、マジ……どうしよう?
てかコイツら、人さらいのヤンキーのくせに一般市民にこんなあっさりやられんなよ!
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