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一条優をさらえ!
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とにもかくにもケガをしている柳を病院へ連れて行く。もう昼の12時を回って病院は診療時間外だが、颯太含め頻繁に兄弟がお世話になるいつもの病院に颯太が電話し、診てもらえることとなった。
「すげー名医だから1時間もしたら全力疾走できるくらいに痛みはなくなると思う」
「本当? もうすでに麻痺しきってて痛みはないんだけどね」
「よくひとりで骨折の痛みに耐えたもんだよ。がんばったな、柳」
「ありがとう……佐藤くん」
颯太……かっこいいけど、もう今日からかわいいに全振りするのは無理になったぞ。
「一条は任せた。さらわれんなよ」
「任せてくれ。こっちはふたりいるから大丈夫」
「ふっ。ボクはひとりでも大丈夫だがな」
コンビニで昼メシを買って、一条も居候している明翔の家へと向かう。2階建ての素朴なアパートの2階の角部屋で、部屋は2つ。ひとつはドアを開けたらすぐの部屋で、入って真正面に台所があり、四角いちゃぶ台の置かれたリビング的な部屋だ。もうひと部屋には4人分の布団が畳んで置かれている。
片付いているが、無駄な物のない質素な部屋だ。
せっかくじいちゃんが建ててくれた家があるのに、そちらは真衣ちゃんの元彼に知られているから今はこの、平成生まれなのになぜか見たこともない昭和を感じる部屋に仮住まいである。
「しっかし、優なんかさらってどうするつもりなんだろ?」
「そらーお前、男子校の生徒が女子をさらうっつーんだから、そらーお前」
「でも考えてもみろよ、深月。性別が女なだけで体型俺らと変わんねえよ? 筋肉のない男と同じだよ」
「男装するにはうってつけの真っ平な体型してるもんな、一条」
「てことは体目当てではない、と」
「いやーでも、真っ平が好みの男もいるんじゃね?」
「小さいのが好みな男はいても、真っ平が好みの男はもうマニアだろ」
「マニアがいるのかもしんねーじゃん。男子校だよ? きっとマニアックな男がいるんだよ」
「メシがまずくなる。黙って食え、君たち」
仏頂面の一条に素直に従い、黙ってメシを食う。明翔はすぐさま食べ終わった。
「目的はともかく、油断せずに俺らと常に行動しろよ、優」
「ふんっ、君たちなんかに守ってもらわなくて結構。ボクは自分の身くらい自分で守れる」
「バカ言ってんじゃねえよ。相手が何人で来るのかも分かんねえのに」
「何人来たってボクが易々と連れ去られるとでも?」
「あのな。自分がどれだけやれるつもりかしらんが連れ去ろうと思えば俺と深月のふたりでもさらえるぞ、優くらい」
一条が眉をしかめた強い目で俺と明翔を見る。
「うん、明翔の言う通りだ。フカシじゃねーよ。一条くらいなら男ふたりもいれば十分」
一条が分かりやすくムッとする。このいとこ同士は感情が表に出やすい。
「人間ひとりをふたりいればさらえるってだけの話だろ」
「俺と優で深月をさらえると思うか?」
「思う!」
はー、とため息をつきながら明翔が俺を見る。うん、実技といこう。
「はいどうぞ。俺をさらってください」
ちょうど食べ終わったし、天井の低い部屋に直立する。
明翔と一条が脇の下から持ち上げようとしたり腰に腕を回して浮かせようとしたりいろいろしてくるが、ドキドキするだけで俺の体はビクともしない。
一条はもとより、力の強い明翔も体格差をひっくり返すことはできない。
うん、このイベントは楽しい。同じような顔の美少年と美少女が俺の体に悩みながら力を加える。
うーん、とあごに手をやり考えだした一条を改めて見る。うん、これひとりでもいけるな。
明翔にアイコンタクトでやっていい? と合図をすると、OKが出た。
一条の横から低く懐に入って安全のために足を押さえて固定しそのまま立ち上がる。
想像以上に軽い。こんなもん、ひとりで軽々連れ去れる。
「うわ! 何するんだ! 放せ!」
「放さねえぜ、がははー」
一条を肩に担ぎながら、ひょいひょいと部屋の中を軽く走る。
「逃げてみろよ、優」
「そりゃあ……」
さっきから一条は逃げようとしている。力を入れているのは感じるが、俺の腕を動かすほどの力ではない。
「分かっただろ、優。お前じゃ男に敵わない」
そう言われた一条がどんな顔をしたのか、見えていない俺には分からない。ただ、返事はない。
俺は明翔の言葉を聞いて、明翔には男も女も関係ないもんだと思ってたけど、男か女かで分けないだけで、明翔にも区別はあったんだな、と思った。
「すげー名医だから1時間もしたら全力疾走できるくらいに痛みはなくなると思う」
「本当? もうすでに麻痺しきってて痛みはないんだけどね」
「よくひとりで骨折の痛みに耐えたもんだよ。がんばったな、柳」
「ありがとう……佐藤くん」
颯太……かっこいいけど、もう今日からかわいいに全振りするのは無理になったぞ。
「一条は任せた。さらわれんなよ」
「任せてくれ。こっちはふたりいるから大丈夫」
「ふっ。ボクはひとりでも大丈夫だがな」
コンビニで昼メシを買って、一条も居候している明翔の家へと向かう。2階建ての素朴なアパートの2階の角部屋で、部屋は2つ。ひとつはドアを開けたらすぐの部屋で、入って真正面に台所があり、四角いちゃぶ台の置かれたリビング的な部屋だ。もうひと部屋には4人分の布団が畳んで置かれている。
片付いているが、無駄な物のない質素な部屋だ。
せっかくじいちゃんが建ててくれた家があるのに、そちらは真衣ちゃんの元彼に知られているから今はこの、平成生まれなのになぜか見たこともない昭和を感じる部屋に仮住まいである。
「しっかし、優なんかさらってどうするつもりなんだろ?」
「そらーお前、男子校の生徒が女子をさらうっつーんだから、そらーお前」
「でも考えてもみろよ、深月。性別が女なだけで体型俺らと変わんねえよ? 筋肉のない男と同じだよ」
「男装するにはうってつけの真っ平な体型してるもんな、一条」
「てことは体目当てではない、と」
「いやーでも、真っ平が好みの男もいるんじゃね?」
「小さいのが好みな男はいても、真っ平が好みの男はもうマニアだろ」
「マニアがいるのかもしんねーじゃん。男子校だよ? きっとマニアックな男がいるんだよ」
「メシがまずくなる。黙って食え、君たち」
仏頂面の一条に素直に従い、黙ってメシを食う。明翔はすぐさま食べ終わった。
「目的はともかく、油断せずに俺らと常に行動しろよ、優」
「ふんっ、君たちなんかに守ってもらわなくて結構。ボクは自分の身くらい自分で守れる」
「バカ言ってんじゃねえよ。相手が何人で来るのかも分かんねえのに」
「何人来たってボクが易々と連れ去られるとでも?」
「あのな。自分がどれだけやれるつもりかしらんが連れ去ろうと思えば俺と深月のふたりでもさらえるぞ、優くらい」
一条が眉をしかめた強い目で俺と明翔を見る。
「うん、明翔の言う通りだ。フカシじゃねーよ。一条くらいなら男ふたりもいれば十分」
一条が分かりやすくムッとする。このいとこ同士は感情が表に出やすい。
「人間ひとりをふたりいればさらえるってだけの話だろ」
「俺と優で深月をさらえると思うか?」
「思う!」
はー、とため息をつきながら明翔が俺を見る。うん、実技といこう。
「はいどうぞ。俺をさらってください」
ちょうど食べ終わったし、天井の低い部屋に直立する。
明翔と一条が脇の下から持ち上げようとしたり腰に腕を回して浮かせようとしたりいろいろしてくるが、ドキドキするだけで俺の体はビクともしない。
一条はもとより、力の強い明翔も体格差をひっくり返すことはできない。
うん、このイベントは楽しい。同じような顔の美少年と美少女が俺の体に悩みながら力を加える。
うーん、とあごに手をやり考えだした一条を改めて見る。うん、これひとりでもいけるな。
明翔にアイコンタクトでやっていい? と合図をすると、OKが出た。
一条の横から低く懐に入って安全のために足を押さえて固定しそのまま立ち上がる。
想像以上に軽い。こんなもん、ひとりで軽々連れ去れる。
「うわ! 何するんだ! 放せ!」
「放さねえぜ、がははー」
一条を肩に担ぎながら、ひょいひょいと部屋の中を軽く走る。
「逃げてみろよ、優」
「そりゃあ……」
さっきから一条は逃げようとしている。力を入れているのは感じるが、俺の腕を動かすほどの力ではない。
「分かっただろ、優。お前じゃ男に敵わない」
そう言われた一条がどんな顔をしたのか、見えていない俺には分からない。ただ、返事はない。
俺は明翔の言葉を聞いて、明翔には男も女も関係ないもんだと思ってたけど、男か女かで分けないだけで、明翔にも区別はあったんだな、と思った。
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