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仕掛けられたイベント

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 明翔は逃げる素振りはない。いよいよ俺も覚悟を決めた。

「優!」
 明翔の声とカーテンがシャッと開けられる音にびっくりして振り返った。鬼の形相の明翔が立っている。
「え? 明翔?!」

 びっくりして明翔の頭に添えていた手がベッドを思いっきり叩いてしまった。手に明翔の髪の毛がびっしり絡みついている。
「うわ! なんっじゃこれ!」
 パニックになって手をブンブン振り回すと、真上にポーンと飛んだ。

「……え……ヅラ?」
 ベッドに起き上がった一条が明翔の髪と同じ色のヅラに手を伸ばす。
「ウィッグだよ。ソウルメイトに明翔の写真を10カットくらい送って作ってもらったんだ」
「なんで俺のコスプレグッズなんか作ってんだよ! 深月と何してたんだ、そのヅラ被って!」

 一条だったの?! あの一条が俺とチューしようとしてたのかよ?! てか、相手が一条だったんなら明翔のフリしてない普通の一条がいいわ!

「さっさと勝負の決着をつけようと思ってね」
「入れ替わりとか古典的なマネして!」
「呂久村、明翔にはあんなに優しい声であんなに優しい笑顔を見せるんだね」
「えっ?!」

 ニヤリと笑う一条に、俺と明翔が同時に戸惑いの声を上げてしまった。いらんこと言うな、一条!
 俺は単に、明翔がダークサイドに行ってしまわないように優しくしただけだ!

「あんなにって何? どんな笑顔したの? 深月。俺、分かんないんだけど」
「いや、あの、普通だよ!」
「あんまり優しい笑顔するものだから、ボクついつい」
「ついつい?!」

 一条がまたウィッグを被ると、本当によく明翔に似ている。
「だいたい、ヅラ被ったくらいで俺か優か分かんねえのかよ」
 あからさまに明翔の機嫌が悪くなる。

「ずっと何か違う、とは思ってたけど、まさか本当に別人だなんて思わねえじゃん。一条ずっと布団で顔隠してたし」
「隠さなくてもバレないだろうと思ってたけど、声バレを防ぐためにも一応ね」
「明翔と一条はよく似てるけど、まったく同じ顔ではないからな。見分けはつくよ」

「え?」
 よく似た顔のいとこ同士がよく似た髪型で同じように驚いて俺を見る。もはや異次元空間に迷い込んだ錯覚を覚える。

「本当に見分けられるの? 深月」
「うん。そんなびっくりするか? 別人なんだから当然だろ。お前たちだっていくらふたごでも自分の母ちゃん見分けられるだろ」

 明翔と一条が顔を見合わせる。
「そうだな、頭見たら一発で分かる」
「ボクのママは白髪染めてるけど、亜衣ちゃんはそのままだもんね」
「君らは自分の母親と叔母を白髪で見分けてるのか」
「顔はマジでそっくりなんだもん」

 明翔が一条の頭からウィッグを取り上げた。
「これは俺が没収する。2度と作るなよ!」
「せっかくのソウルメイトの力作なのに! なんで明翔ここに来たの?」
「西郷が教室に俺がいるのを見てめちゃくちゃびっくりして保健室がどうこう言いだしたからだよ」
「ちょうど保健室の前にいたから頼んだけど、彼をメッセンジャーにしたのが失敗だったか」
「何がしたかったんだ、一条は」

「ボクの望みはただひとつ。ボクの理想のBLをこの目で見ることだよ。攻めを優しい笑顔で見つめる受け、そして最後は自分でキメようと男気を見せる受け、いただきました!」
「イベントだったの?!」

 これが、神の言ってたファンタジーなイベント?!
 楽しめねえ! こんなもん、楽しめねえよ!

「最後はキメようって何? 深月、何をキメようとしたの?」
「頼むから聞くな、明翔!」
「ボクが教えてあげようか?」
「教えるな、一条!」

 てか、マジでキスしなくて良かった……。危ねえ。一条が賭けの勝負に勝つところだった。
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