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佐藤颯太の初恋

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「小学3年生と中学生じゃ全然違って見えてさあ。なんかキラッキラしてんの。まあ、今思えばちーちゃんは芳樹くんのことが好きで芳樹くんと一緒にいるとこしか俺らは見ないわけだから、そらキラッキラしてるか、って感じではあるんだけどさ」

 そんな恋するちーちゃんに、颯太は恋をした。

「5歳違いだと、颯太は小学校低学年くらいか」
「今も好きなのかい? 佐藤くん」
「だから、好きじゃない。ちょっとかわいくて優しくて一緒に遊ぶのが楽しいなって思ってただけで」
「ちーちゃんが帰るって言ったら毎日帰らないで~って泣いてたじゃん、颯太」
「かわいい~。全部泣いてるショタが持って行ったよ」
「ショタって何だ」
「正太郎だ! 気にするな」

「ちーちゃんは頭良かったんだ。聖天坂高校に行った。芳樹兄ちゃんは頭悪かったから下山手高校に行ったんだよ」
「お! それで颯太も聖天坂高校に来たってことはちーちゃん絡みだな?!」
「でも、5歳も離れていたら同じ高校でも意味なくないかい?」

「芳樹兄ちゃんとちーちゃんは結婚しようって約束していた。もちろん、学生の口約束だけど、俺はきっとこのふたりは結婚するもんだと思った」
「それから勉強がんばったら成績メキメキ上がって、颯太も余裕で聖天坂高校に合格できるくらい頭良くなっていったんだよ」
「聖天坂高校に行けば、芳樹兄ちゃんには分からない、俺とちーちゃんだけの共通の話題ができると思ったんだ」
「健気~。いいよー、いいショタ持ってるよー」
「いちいちショタ言うな、一条」

「でも、ふたりは結婚することなく、去年別れた。せっかく合格したのに、ちーちゃんと聖天坂高校の話なんか全然してない」

 どよ~んとした空気に包まれる。打ち破ったのは、ミスターポジティブ明翔だった。
「でも、がんばって来た甲斐あったじゃん。平先生が教育実習に来たのって、卒業生だからだろ? 颯太が努力したから再会できたんじゃん」
 平先生じゃなくて、浪川先生な。

「今さら再会したって何もないよっ」
「なんで? むしろチャンスじゃん。兄ちゃんとはもう別れてんだから、颯太がもらっちゃえば?」
「えっ」

 かわいらしい颯太が今一瞬オスの顔になった。だが、すぐかわいいに全振りした笑顔を見せる。
「いやいや、芳樹兄ちゃんと気まずくなっちゃうよ。兄ちゃんがフラれた元カノなんて」
「気まずくなったって構うことはない。愛はすべてを上回るものだよ、ショタ」
「僕は反対だな。お兄さんがフラれたということは、平先生が交際を続けられなかった理由がお兄さんにあるということだ。原因が家の事情だったりしたら、佐藤くんにも勝ち目はないよ。他に目を向けるべきだと思う」

「あー、たしかに。さすが頭いいな、学級委員長。颯太、なんで兄ちゃんがフラれたか聞いてる?」
「聞いてない。俺も何回も聞いたけど、一向に教えてくれなくて」
「なんか訳アリっぽいな」
「颯太の兄ちゃんが教えてくれないんなら、平先生に聞いてみようよ。生徒として、人生の先輩に突撃インタビューしよーぜ!」
「いいねー。行こう行こう!」
「小学校からずっと思い続けていたとか、颯太、マジで一途だよなー」
「そこは素直にすごい。さすが佐藤くんだ」
「純粋純情なショタとか最高」

「だから、違うよっ。もう、やめてよお」
「かわいい……」
 みんながフードをすっぽりかぶった颯太を見てほっこりしているが、実は本当に違う。

 たしかに小学校低学年からずっとちーちゃんを好きだった颯太だが、惚れっぽいので他にも何人も同時進行で好きになっている。
 でも、これを言うと颯太の逆鱗に触れそうなので黙っておくとしよう。
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