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高崎明翔のボーダーライン

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 照り焼きチキンが超うまくて、レタスもたくさん食べられた。米食って肉食って野菜食うって、健康的だな、俺。
「片付け完了~。おー、全然時間あるじゃん」
「俺ら食うの早いしな」

 ドラマの最終回は9時からだから、まだ30分近くも時間がある。
 にも関わらず、テレビの前のソファにはやる気持ちを抑えきれずに並んで座ると、ツンとデレもやってきた。デレは俺がソファに座るとひざへと乗って来ることも多いけど、ツンはいつもマイペースだ。

 まあ、ツンが乗ったのは明翔のひざだけどな。
 なでろ、と言わんばかりに明翔の手に鼻をこすりつけている。明翔が分かった分かった、と笑ってツンの頭をなでると気持ち良さそうに目を細める。

「かっわいいな、ツン~」
「ツンがこんなに甘えるなんて、やっぱり信じられねえわ。ツンが懐いてんのは明翔だけだから」
「俺にだけ懐くとか超かわいいじゃん」
「明翔とツンは同じなんだろうな」
「ん? 俺ネコなの?」

 明翔とツンが同時にこちらを見た。表情まで似てるように見えてくる。
「ぷっ。ネコだな」
 ええー、と笑いながらも明翔は不可解そうだ。

「ツンは明翔のことは認めてるんだと思う。だから、明翔にだけは甘えるんだよ」
「へえ、うれしいな。いくらでも甘えろよ、ツンー。好きなだけ甘やかしてやるぜ!」
 愛おしそうに優しく明翔がツンの全身をなでてやる。

 そう思うなら。お前にもそんな気持ちがあるんなら。
「お前も甘えろよ、明翔」
「え?」

 明翔が驚いて手が止まる。ナア、とツンが抗議の声を上げた。悪いが無視させてもらう。
「お前はがんばってるよ。ひとりで寂しくても笑って、周りに目を配って、ひとりのヤツがいたら仲間にして笑わせて。まるで自分の寂しさなんて周りの人間には気付かせない」

「何言ってんの? 深月。俺、別に寂しくなんかないよ?」
 困ったように笑いながら明るく言う。俺が言ってんのは、そういうとこ。

「明翔は亜衣ちゃんが一条を優先するって言ってたけど、明翔を優先してくれる人だっていたんだよな。父ちゃんとじいちゃん」

 明翔の顔色が変わった。笑顔がなくなって、代わりに不安の色が濃くなる。
「優に聞いたんだよね? 優に何言われたの? ねえ、深月」

「父ちゃんとじいちゃんは一条よりも明翔をかわいがってくれてたんだよな。でも、突然ふたりともいなくなっちゃって……寂しいんだろ、明翔」

 だから、いつ来るか分からないものを待つよりも、自分からふたりのいる世界に行きたくなってしまうんだろ、明翔。

「待って、深月。本当に何言われたの? 俺ともちゃんと話してよ」
 明翔の焦りが伝わる。これまで、強制的に一条と何でも分け合わされ、唯一の家族となってしまった母親をも一条に奪われたと感じている明翔の焦りが……。

 俺の気持ちも伝わるように、明翔の目を見て、ゆっくりと話す。
「父ちゃんもじいちゃんもいなくなっちゃったけど、俺がいる。だから、ひとりで抱えてひとりで我慢するのはもうやめろ。俺に甘えろ」

 その瞬間、明翔の顔が作画崩壊かのように情けない表情になった。

 あ……明翔はボーダーレスなわけじゃない。明翔に本当に近付かないと見えないくらい、ボーダーラインが明翔のごく中心近くにあるんだ。

 たぶん、俺は今、明翔のボーダーラインを越えたんだと思う。
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