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はちみつ電車

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一条優の要求

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「高校で転校生なんて珍しいよねっ。なんで転校することになったの? 親の転勤とか?」
「ほんとかわいいね、君。ずっと見てたいマスコット感だ」
「いや、質問完全に無視すんな?」
 佐藤颯太が内心のイライラを必死に隠しているのが見て取れる。一条優はニコニコと意に介していないようだ。

「親が原因ではあるけど、転勤じゃなくてDV被害による逃避だよ」
「え? DV?」
 急に出た重いワードに雰囲気がガラリと変わる。背中を向けていた明翔もこちらをチラリと見る。

「ボクが中学校に入学するのに合わせて母親が彼氏と暮らすって言いだして、遠くに引っ越して事実婚状態だったんだけど、その男がふたを開けたらDV虐待野郎で、4年経ってこれは危険だってなって、逃げて来た」
 DV虐待……DVは一条の母親に向けてだろう、そして、虐待は……。

 もしかして、元からボーイッシュだった一条がこうまで髪を短くして男になりきろうとしていることと関係あるんだろうか?

 しかし、明翔といい、重い話をサラッと軽く話すな、このいとこ同士は。

「強いな、一条」
「強い?」
「いっぱい心に傷負ってるんだろうに、とてもそんな風に見えない。すげえ軽いことみたいに話してるから、すげえなって。男らしいよ、一条」

 しかし、俺もっとまともななぐさめ方ができないもんじゃろか。男らしいよって、この場合一条の傷に寄り添える言葉なんだろうか。
 下手打ったかもしんない、とちょっとドキドキしながら一条を見つめる。

 一条が破顔一笑するのを見て、胸をなでおろす。

「ありがとう、うれしいよ」

 ……一条優に、お礼を言われる日が来るなんて……感無量。
 それに、明翔と同じで、礼の言葉がストレートでいい。俺も思わず笑顔になる。

「何、笑い合ってんだよ! 深月は俺のだから! 横取りすんじゃねーよ、優!」
 突然立ち上がった明翔が俺の背中から覆いかぶさってきて、一条をにらみつけた。

「あ。しまった、つい我慢できなくて」
 明翔が何やら後悔しているが、急に抱きつかれた俺は心臓のドキドキが激しくて何も言えない。

「深月? 深月って、そのモブのこと?」
「誰がモブじゃい」
「モブじゃない。呂久村深月だよ」

 なんだか一条の目がキラキラと光る。
「明翔、呂久村のことが好きなんだ?」
「ぶっ」
 ちょ……ちょっと、そんなストレートさはやめてくれる?!

「うー……。そうだよ」
 ちょっと迷っていたが、明翔は腹を決めたように言い切った。それを聞いて、一条が微笑む。

「ねえ、明翔。ボクたち赤ちゃんの頃から兄弟みたいに一緒に育ってさ、何でも分け合ってきたよね。ボクにも呂久村分けてよ」
「はあ?!」

 驚いた様子の明翔が俺から離れ、一条へと近付く。受けて立つ、とでも言わんばかりに一条も立ち上がった。
「ふざけんなよ、優。深月は物じゃねーんだよ。分け合えるワケないだろ」
「ボク、明翔が好きになった呂久村なら好きだ」
「ぶっ」
 何回吹き出させる気だ、一条!

「分けるか! 帰ろう、深月!」
 一喝した明翔が怖いほど怒りに満ちた顔でこちらに戻って来て俺の腕をつかむ。キレイな顔で怒るとこんなに迫力あるんだ。こわ。

「一緒に帰ろうよ、明翔。ボクまだ明翔の家まで帰り道覚えてないんだよ。迷子になっちゃうよ」
「えっ? 明翔と一条、一緒に住んでんの?!」
 聞いてねーぞ、それ!

「明翔がこの高校への転校を提案してくれてね。だったら一緒に暮らせばいいって明翔のママがボクたちをかくまってくれてるんだ」
 笑顔で説明する一条を明翔は苦々しく見てる。

 男装ボクっ娘とは言え、こんな美少女とひとつ屋根の下とか、うらやましっ……じゃない!

「ちょっと来い、明翔」
 ちょうど腕がつかまれていたから都合がいい。そのまま明翔を廊下に連れ出した。
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